エイプリフールだからねこういうのをね、書いてみたいなって思ったの。

以下、「ピウニー卿の冒険」の多大なネタバレを含みます。


これでよいの。自分はこれで満足なの。

……そう言い聞かせながら、小さな身体を温かい胸元に擦り寄せる。自分にはちゃんと別の寝台を用意されているけれど、彼が眠っている時だけ、彼に気がつかれないように、そっと、その温もりに身を寄せる。

元に戻ってはいけない。なぜなら、この小さな身体は自分の罪だ。

自分が禁を侵して生と死の狭間を覗き込み、それを利用して彼は国のために国を裏切り、それが明るみに出て国を追い出された。

彼は追い出されたのではないという。彼が政を教えた病弱な王子の采配によって、自分は自分にふさわしい仕事を与えられたのだ、本望ではないかと穏やかに笑う。その病弱な王子を病弱たらしめていたのもまた、彼であり、しかし彼は彼自身の師匠である理の賢者にそれを託して国を出た。

自分は何も言えない。

自分が死霊術に手を出さなければ。
彼の妹弟子と張り合おうとしなければ。

彼が自分を弟子と認めてくれているのだと、そう、信じることができていれば、きっとこんなことにはならなかった。

この小さな、オコジョの体は自分の罪なのだ。

でも、でも、これ以上は望まないから。

彼が眠っている時だけ……。

オコジョは、こっそりと擦り寄っていた頭を持ち上げる。彼に気がつかれないように、

 

おやすみなさいの口元ぺろりをするために。

 

****

男は国の宰相だった。

しかし今は、大きな罪を問われてそれを追われた。

それを苦に思ったことはない。己が導いてきたと自負するあの国、あの、善き国が下した判断だ。命をかけたつもりで罪を犯した己に少々甘いとは思えるが、それが自分に下された命令である以上、残りの人生のすべてをかけてやり遂げねばならない。のちの歴史にて「東の国との貿易は、王子の英断だった」と言われるか、そうではないか、自分の働きにかかっているのだ。これほどの仕事はあるまい。

 

自分の喉元にきめ細やかで心地よい温もりが擦り寄ってきた気配に、男はかすかに意識を浮上させた。この温もりには眠りやすいようにと別の寝台を用意しているのだが、男が眠ったのを見計らって、こっそりこのように擦り寄ってくるのだ。男が目を覚ます気配を感じるとこの温もりは遠ざかってしまうので、男は慎重に眠ったふりをして、眠ったふりをしているといつの間にかまた寝てしまう。慣れぬ環境で眠れぬはずが、随分気持ちよく眠ることができるのは、この温もりのおかげだろう。

この小さな温もりは、男の弟子だ。男はわずかながら魔法を操ることができ、昔、賢そうな瞳の少女を一人、弟子に取った。

そして今、その弟子は呪いによって人の姿を失っている。

男は小さな獣に姿を変えた自分の弟子の毛皮を撫でようと腕をかすかに動かして、躊躇する。

もし、この温もりが、自分を慕う賢い瞳が、「人」であればどうだろう、そう思わなくもない。しかしそれは同時に恐ろしい想像でもある。弟子と男は、親と子ほども年が離れている。

 

ああ、とりとめもないことを考えていたからだろうか、いつもならばこの温もりで眠れるはずが、今日は随分と難しい。

 

居心地のいい場所を探しているのか、弟子の心地の良い毛皮の温もりが顎にスリスリと擦り寄ってきた。

誘惑に負けて男がその毛並みを撫でようと腕を持ち上げた。その時、


っていうお話を連載します!!!

っていう嘘をつきたかったエイプリルフール。
無情にも終わってしまったエイプリルフール。

はい。

唐突にオコジョが堅物の中年紳士に口元ペロリするという、ネタが降臨したので「ピウニー卿の冒険」のスピンオフ予告(嘘)にしようと思ったのですが、何分降臨した時間が夜の22時頃だったので、時間内に書けませんでした。すみませんでした。