エピローグ

010.エピローグ

こうしてキラキラマンとアクノテイオーンの戦いは幕を閉じる。

いずれの勝利だったかについては、記録に残されていない。ただ、「宇宙の至宝」は守られた……とのみ、記載があるだけである。

ただし、地球上においてはささやかではあるが、一片の変化が起こった。

地球・日本にて、ウォルフ・ウルスという男が社長を勤めるとある会社に、ライエ・ルーディという男が入社。太陽系外惑星とヴァルキュイウルスの交易の、太陽系におけるハブとして地球を拠点にしているこの会社で、日々、地道に働いている。

ウォルフ・ウルスはその地位にもかかわらず、なぜかしばらく日本の小さなアパートメントに住まっていた。近くのコンビニには、しばしば、ウォルフと彼が連れている女性とが仲良く買い物にくるのだという。

「今日は忙しくてなんにも作ってないから、冷凍ピラフよ」

「かまわぬ。好きにするがいい。何なら別の店で食べるか?」

「いいよ。今日は家でのんびりしたい。ビールは?」

「これを」

「またたっかいの飲むー」

「他に欲しいものはあるか?」

仕事の帰り、いつものように優月を駅まで迎えに来たウォルフと、肩を並べてコンビニに品物を物色する。数多の星々を従える闇の惑星の帝王……元・帝王は、以前と変わらぬリズムで相変わらず、優月と共にあのアパートに暮らしている。暮らしのリズムは何も変わらない。

……はずだ。

いつものように「何か欲しいものはあるか」と問うウォルフに、いつもは「別に何もいらない」と答える優月が、この日は気が変わった。

「……プレミアムメンチカツ」

ブフ……と店員が吹き出した。

****

ありがとうございましたー、という店員の声を背中に聞きながら、二人並んで店を出る。腕時計を見た優月の腰を引き寄せて、ウォルフの歩く速さはいつものように、早くもなく、遅くもない。

「優月」

「何?」

「……先日注文した寝台だが、やはりあの部屋には狭いようだ」

「……は? このあいだネットで見てたあの訳のわからない大きいやつ!? 私注文してなんて言ってないわよ!?」

「寝台が狭いと言ったのはお前だぞ」

「それは、あなたが勝手に入ってくるからっ……!」

優月の部屋の隣に引っ越してきたウォルフは、相変わらず部下に謎の扉を設置させた。二人は以前と同じように、ほぼ同居に近い形で暮らしている。……しかし、以前と少し変わったのは、ウォルフの部屋の広々とした寝台が撤去され、なぜか優月の寝台を使っていることだ。

優月の寝台はもちろん大きさを変えていない。以前と同じ少し広めのシングルサイズ。そこにがっしり体型のウォルフが潜り込んでくるのだ。ウォルフのようなガタイの男がシングルサイズのベッドに潜り込み、気持ち良さげに寝ている様子があまりにシュールで「もう、このベッド狭い(んだから退いて)……」と言ってしまったのは事実である。

そして、なぜか優月はその大きな身体を叩き出すこともできなかった。むしろ、自分を支えるたくましい腕が、……好ましい。

が、そんなことを改めて口にするのも恥ずかしいので、優月はウォルフの手を逃れるように早足になった。その優月を追いかけるように、楽しげなウォルフの声が聞こえる。

「広い方がよいのだろう? それとも狭い方がよいか? 狭ければお前を腕に抱かねば寝られぬからな」

「もう! 早く帰らなきゃメンチカツが冷めちゃう!」

「それはよくない」

さほど早足になったようにも見えないのに、滑らかにウォルフが優月の早足に並ぶ。どうせ逃げてもウォルフは追いつくのだ。この宇宙で一番お金持ちの惑星の、元・帝王は、レンチンしただけの冷凍ピラフにも時短で作った煮豚にもコンビニのプレミアムメンチカツにもからあげ串にも文句は言わないくせに、優月でないとダメだと言う。現実ではちょっとありえない設定プロフィールと、それが許される包容力で、優月をうまく受け止める。

隣に並んだウォルフが、優月の手を取り、やんわりと握った。

そしてそれは、二人の部屋に着くまで解かれることなく、ずっとつながれたままだった。