003.愛でねばならぬ

ウォルフは本格的に優月の胸に指を沈み込ませた。指の間に膨らみの頂を挟んで揺らしながら、時々親指で弾く。繊細なウォルフの指先の動きに合わせて、そこは少し硬く弾力をもってくる。

吐息交じりの優月の声が聞こえ始めた。

逸れる背中に近づいた首筋を、確かめるように小さく噛み付く。甘噛みの感触は胸から与える愉悦と同じに、優月の身体を反応させるようだ。感じやすい身体は実にいい。それが他ならぬウォルフの手から与えるものなのだから、なおさら。

もうこれ以上焦らせないし、焦れることはできない。ウォルフは手のひらを下へ下へと下し、腰をなぞって、足と足の間に触れた。指先を秘烈に這わせて、その形をゆっくりと確かめる。もう一本指を使って解きほぐし、開くように動かすと、優月が「あ」と声をあげて身体が震えた。

先ほど少し、いやかなりしつこく触れていたからだろう。

「もう少し触れていたかったが、濡れて入りそうだな」

「や、変なこと、言わないで」

先ほどの発言のどの辺が「変」なのかよく分からなかったが、優月の抗議には今度は返事をせず、触れていた指を沈み込ませた。とろりととろけたそこに、ウォルフの指は少しばかり締め付けを感じながら入っていく。根元まで挿入すると、膣壁を撫でるようにゆっくりと指の腹を動かした。

指が動くたびにぬめりが増え、優月のしがみつく力が強くなる。抱き寄せ、首筋に歯を立てると、膣内そこはキュ、と指を締め付けた。同時に熱い吐息が溢れ、互いの身体が興奮する。

快楽を追いかけてしまい、どうしても逃げ腰になる優月の身体にウォルフはわざと体重をかけ、足を絡ませ、指の動きを少し激しくする。

「ひ、あ」

膣奥をひっかいた指先に、優月の身体がビクビクと大きく跳ねた。感じる優月を見ているだけで、ウォルフの身体もまた、熱を持つ。

「一度達しておけ、優月」

「あ。ぁっ、は……っ」

裸の腕がウォルフの背中に回り、まるで助けを求めてすがりついてくるかのようだ。それを受け止めてやりながら、なお指を細やかに動かす。こくんと喉を嚥下する動きを感じて、ウォルフが強く抱きしめると、優月の甘い声が響いて身体が強張り、次の瞬間、弛緩した。指に触れる粘液がひくひくと脈打っていて、優月がウォルフの指で達したことを感じ取る。

達した余韻を味わうように、やさしく何度か指を出し入れする。

ウォルフは枕の下に置いておいた避妊具とやらを取り出した。本来、ヴァルキュイウルスの者たちは、このような道具を使わなくても避妊の調整は可能だ。説明しておけばよかったが、だが今はその説明の時間がもったいない。とはいえ装着せずにしてやったら、優月の方が抵抗する可能性もある。ウォルフは少し身体を起こして封を噛みちぎった。優月の耳元に舌を這わせながら腰を少し浮かし、手早くそれを着ける。

達した後の少しのインターバルに、荒い息を吐きながら優月がウォルフを見上げる。その表情を出来るだけ優しい、労わるような心持ちで見下ろして、そっと頭を撫でた。たった今、ウォルフは急いている。一気に奥まで貫いて、自分の唯一の女を貪り尽くしたい欲望に駆られているが、そのような自分は優月の目にどのように写っているだろう。

出来る限り怖がらせたくはない。そう思って理性を総動員する。頭を撫でながら身体を近付け、先端を押し付ける。

「ん」

くぷ、と先端の引っ掛かりが包み込まれると、優月が甘い声をあげた。

「ゆ……」

「ウォルフぅ……」

大丈夫かとかけようとした声を遮って、己の名前が呼ばれる。耳を心地よくくすぐる優月の声が、自分の名前を発音して空気を震わせている。それだけで、ぞくぞくと背筋に痺れが走るようだ。身体の全てが熱く、硬くなるような感覚に襲われる。

一息に貫いてしまいたいが、膣壁の心地も楽しみたい。ウォルフはゆっくりと丁寧に奥へと進んだ。

粘膜がウォルフの欲望に絡みつき、密着しすぎてほとんど音など立てていないのに、粘着質な感触だ。温かく、柔らかい。纏わりつく感触も、締め付ける具合も全てが心地よく、どこにも過不足が無かった。

奥まで穏やかに入り込み、普通の「奥」よりも少し先、子宮の入り口に吸い付かれるような感触を覚えるまで押し付ける。優月を見下ろすと、思いの外まっすぐにウォルフを見つめていた。

「動くぞ」

「……ん、あ、まり激しくしな、で」

「努力したいが、自信はないな」

そう言って、力を緩めて引き抜くと、力を込めて押し上げる。たった一往復しただけなのに、引き摺られ擦り上げられる感触がたまらなく、好い。

「は、あ、とても好いな」

「い、い?」

「余のものに絡み付いて、……たまらない」

抽動を始める。

優月の身体を揺らしながら率直に言うと、抱きついてきた耳元で、「私も」と囁いてきた。その途端、ギュ、とウォルフのものがちょうどよく締め付けられ、とくんと脈打った。

「……っく……、ああ、優月……」

優月は自分を殺す気か。

精神的にも肉体的にも心地がよくて、下腹の奥が疼くような競り上がってくる愉悦に、思わず動かす角度も強さも大きくする。肌と肌が触れ合う度に、溢れた優月の蜜がぴちゃりと音を立てた。ギシギシと激しくベッドが軋み、しかしベッドの狭さなどどうでもよくなるほど、互いの身体に溺れる。

「ひ、あ、ああっ、ウォル、フっ……あっ、あ、あ……」

抱き寄せている優月の身体が、一度大きく強張り、次の瞬間飲み込まれそうなほど繋がった箇所が収縮する。こちらを飲み込もうとする動きにも似た達した膣内を味わいながら、ウォルフも愉悦を解放するために一層動きを大きくした。

達した優月の胎内は痙攣を繰り返していて、膜越しに己を解放する。優月の不安を取り除くために避妊具をつけてやったが、これは邪魔だな。今日のところは我慢するが、いずれ時間をかけて不要であることを説明しなければ。そしていずれは直接注ぎ込んで、直接味わって、直接、味あわせてやらねば。

優月は今の所それどころではないらしい。はあはあと息を吐きながらぐったりと身体の緊張を解き、その肉体はとろけるように柔らかくなった。自分の腕の中で緊張を解かす様子にウォルフは笑みを浮かべ、息が整うまで待ってやる。

しかし

「足りぬな」

「……ウォルフ、ちょっと、……え?」

「足りぬ、優月、もう一度だ」

「もう一度って、えっ、ええっ?」

ウォルフは体勢を整えると、優月の上に四つん這いになる。

まだ夜は長い。優月と会えなかった1ヶ月分の愛情を埋めなければ。そう言って、ニヤリと笑って。……あとは、避妊具の数を頭の中で確認して。

もう一度、いや、もう何度か、優月を味わうために身体を近付けた。

****

「しつこい、んもー、しつこい、ウォルフ」

もう一度、と強請るウォルフを少し遠ざけようとするも、狭い寝台の上では簡単に捕まえられて、抱き寄せられる。平日はさすがに1回でご遠慮してもらっているが、休みの日になるとかなりしつこく身体を重ねてくるウォルフは、見た目の年齢に反して本当に体力が底無しだ。だが、裸の身体が触れ合うのはとても心地がいいし、ウォルフの鍛えた身体に抱き寄せられると非常にしっくりくる。鍛えた筋肉ってこんなに心地いいものなの?

「わかったわかった何か着ろ、風邪をひくぞ」

そう言われて、何かで身体を包み込まれた。だいぶ大きな寝間着はウォルフが着ていたものだ。なぜかウォルフは事が終わった後、自分の服を優月に着せるのがお好みらしく、しかも上だけ着せられて、抱きつかれる。

今日もそうやって優月を抱き締めると、ほう、と満足げなため息を吐いた。

「狭いな」

「狭いなら、退いてよ」

「お前をこうしていれば、寝れんこともない」

ウォルフの足が、優月の足を挟むように絡みついてきた。狭い寝台で体格のいいウォルフが、優月と一緒に心地よく寝るための、それはちょうどいい格好スタイルらしい。正直変な格好で翌朝身体がバッキバキになるのではないかと思っていたがそんなことはなく、むしろ目覚めもよければ身体の調子も良くなるため、あまり強く「やめて」とは言えないのが悔しい。

それ以上に、やはりウォルフに抱き寄せられるのは安心するのだけれど……。

だがそれを言うのも悔しいから言わない。

「狭い狭いというならば、広い寝台を用意するか」

「え? でも前にネット通販で見てた寝台ベッドは部屋に入らないって……」

「ああ。だから広い寝台が入るような部屋に引っ越せばいい。容易いことだ」

「それ、って、」

「もちろん、お前と余の二人で暮らす部屋だぞ?」

この流れで優月一人この部屋に置いていかれるということはないだろうと思っていたが、しかしまっすぐに言われるとそれはそれでドキリと心臓が跳ねる。

「まあ、もう少しこの狭い寝台と狭い部屋を堪能してやっても良い」

「せ、狭い部屋で悪かったわね!」

「悪いとは言っていない。手の届くところにお前がいるのは気分がいい。余の至宝は、余が愛でねばならぬ」

く、と悪い笑みを浮かべながらウォルフが優月の首筋に顔を寄せてきた。ふんふんと動物か何かのように匂いを確かめ、ペロリと舐めて味を確かめる。ウォルフは見た目は洗練された紳士なのに、時々野生的で無邪気な行為をしてくるのだ。例えば、夜、身体を重ねるときとか。

すっかりウォルフに流されてしまっているくせに、完全に流されるのはちょっと悔しい。そんな優月がウォルフとともに部屋を移るのはもう少し後のこと。

地球の、日本の慣習に従って完全にウォルフが優月をものにするのは、時間の問題である。