おほしさまがふるよる

「さむいねえ」

「寒いねえ」

晃太こうたくんはお母さんにお腹をかかえてもらって、てのひらをさすりながら真っ暗なお空を見上げました。空気はひんやりと冷たくかわいていて、すうっと息をすいこむと、いつもよりも胸がすっきりとします。

晃太くんは、お空を見上げるのが大好きな男の子です。

特にお星さまがキラキラしている夜のお空を見上げるのが、いっとう好きでした。

晃太くんの住んでいるお家は背のたかいたてもので、ベランダに出てお空をながめることができました。公園でおんなじふうにお空を見上げるのよりもだんぜんすてきな気がします。もっとも、ベランダに出るのはお父さんかお母さんがお腹をかかえてじゃないとダメですので、いつもはあまり見られないのですけれど。

今日は晃太くんの2歳になるおたんじょう日です。

冬のお空はとくにお星さまがたくさん見えるのだそうです。そんな冬の夜、とってもたくさんお星さまが出ているときに晃太くんは生まれてきたのよって、お母さんが教えてくれました。

「おほしさまいっぱいでてるねえ」

「そうね、いっぱい出てるねえ」

きっとこんな風にすてきな夜に、晃太くんは生まれてきたにちがいありません。

「おかあさん?」

「なあに?」

お母さんは、晃太くんよりもずっと熱心にお星さまを見上げていました。お母さんがあまりにもずうっとお星さまを眺めているものですから、晃太くんは少し甘えたくなってお母さんに抱きつきました。

「どうしたの、甘えん坊さんね」

そう言って、お母さんがぽんぽんと背中をたたいてくれました。とってもやさしい晃太くんが大好きなお母さんの手です。

「おかあさん、おなかささえててね」

「はい」

ぎゅっとしたあと、もう一度晃太くんはお母さんにお腹をかかえてもらったまま、お空をみあげました。

黒いお空に、白い点々がびっくりするくらいたくさんあって、目がちかちかしそうです。

そのときでした。

その白い点々が、ふわりふわりと揺れはじめたのです。

「あ」

お母さんが後ろで、小さく声をあげました。

晃太くんは、不思議な景色にぽかんと口を開けてしまいます。

いったいどうしたことだろうとお空をながめておりますと、なんと、白いお星さまがどんどん近付いてきて、晃太くんのほっぺたにぽたんと落ちたのです。

「つめた!」

お星さまはとっても冷たくて、晃太くんが思わずほっぺたに手をやると、そこにはお星さまはなくて、ひんやりとしたお水がついていました。

「あれ? おほしさまきえちゃった」

晃太くんがそう言うと、お母さんがなぜか後ろでクスクスと笑っています。

ふわふわ、ゆらゆら、お星さまがゆれながらいくつもいくつも晃太くんのところにやってきます。「わあ」といって晃太くんが手をのばすと、お星さまのひとつが舞い降りては少し残って消えていくのです。

「おほしさますごいねえ!」

「すごいねえ」

晃太くんが そう言うと、真似するようにお母さんがいいました。晃太くんはなぜだかとってもうれしくなって、「おほしさまがきてくれた!」とにっこり笑いました。

そうしていると、リビングの向こうから声が聞こえてきました。

「ただいまー」

「あ、おとうさんだー!」

お父さんはおやくそく通り、早く帰ってきてくれたようです。もちろん、晃太くんのお誕生日をお祝いするためですよ。晃太くんは、急いで玄関に走っていきます。

ベランダの窓を閉める音がして、お母さんも後ろからやってきました。

リビングの扉を開けて入ってきたお父さんの足下に晃太くんがタックルすると、お父さんの大きな手がぐしゃぐしゃと晃太くんの頭を撫でてくれました。頼りがいのある強くて大きな、晃太くんのだいすきな手です。

「おかえりなさい」

「ただいま」

お父さんは晃太くんの「おかえりなさい」に返事をして、晃太くんを持ち上げてくれました。

「おかえりなさい、誠司せいじくん」

「ただいま。なあかおる、外見た?」

「見た! 今年初めてね」

「ああ。見たか、晃太」

少しはしゃいだお母さんの声に答えながら、お父さんが晃太くんを抱き上げたまま、ベランダに連れて行ってくれました。お母さんとお星さまを見るのも好きなのですが、お父さんはとても背が高いので、だっこしてくれたら、もっともっとお星さまがたくさん見えるような気がしますね。

「ねえ、おとうさん、おほしさまがきてくれたんだよ」

「お星さま?」

「そうだよ。おほしさま。でもつめたくてね、すぐにきえちゃうんだ」

ちょっぴりつまらなさそうに言うと、お父さんはやさしく笑って、「そうか」と言いました。

「星が、来てくれたのか」

「お星さまが来てくれたのね」

お父さんとお母さんが、2人してしみじみとそんな風にいいました。なんだか晃太くんは、胸がふわふわとあったかくなったような気持ちになってお父さんにぎゅっと抱きつきました。

ベランダの窓をもういちど開けて、お父さんとお母さんと、お父さんにだっこされた晃太くんとでお空を見上げます。お空のお星さまはきらきらとたくさんゆれていて、それよりももっともっとたくさんのお星さまがお空から降ってきました。

「晃太は、お星さまが大好きだな」

「うん、ぼくおほしさまだいすき!」

そう言ってしばらくお星さまを眺めてから、晃太くんはお父さんとお母さんと、一緒にお家に入りました。

今日は晃太くんのお誕生日です。たくさんおいしいものがありますし、きっと素敵なプレゼントもあるでしょう。

お父さんとお母さんが、一度ベランダの外を振り返ります。

お空には晃太くんが生まれた日とおんなじふうに、たくさんのお星さまがきらきらと瞬いています。そうしてお空からはたくさんのお星さまが、きらきらと降り注いでおりました。