付録

あるサラリーマンの元旦

年末の仕事も全て終わり、俺は休憩室でココアを飲みながらぐったりと伸びをした。部署ではささやかな納会を行った。同じフロアに課を構える上司達のおごりで、お寿司が振舞われたのだ。それらをメンバーで遠慮なく平らげ、ついでに新婚の課長と先輩を冷やかして、俺の今年の仕事は全て終了だ。

課長の下で仕事を始めてから、いろいろなことがあったなあ。憧れの先輩と一緒のチームになったり、その憧れの先輩が課長と結婚したり。…で。

「あら、まだ帰ってなかったの? 山下クン」

「…芹沢さん!!」

はつらつとした声が聞こえて、俺はゆるまっていた背筋を伸ばした。

芹沢さんは、俺が新人の時の教育担当で、なにかと気に掛けてくれる人だ。とてもアクティブに仕事をこなす立ち姿のキレイな人。そんな姿はバリバリ仕事が出来るかっこいいキャリアウーマンって感じなんだけど、表情が豊かでくるくる変わる瞳を見ていると話しているこちらが楽しくなってくる。3歳しか歳、違わないんだけどなんだか敵わない。そういう真っ直ぐな感じはなんていうか、見てるととても元気が出る。

新人教育の時からだったけど、このはつらつとした声で「山下クン」って呼ばれると、条件反射で背筋を伸ばしてしまうんだよな。

だけど、芹沢さんが仕事モードって感じではなくて、仕事終わったって感じの雰囲気だったので、俺もつられてすぐに力をゆるめた。

「はー、今年も終わりかあ。仕事納めっすね」

「そうね。山下クンとこは、ちゃんと納まった?」

「納まりましたよ、なんとか」

「なんとか?」

芹沢さんもすぐそばの自販機で飲み物を買って、手を温めながら俺の前に座った。少し首を傾げて、言葉を待ってくれてる。そんな芹沢さんに、ちょっと愚痴る感じで言ってみる。

「クリスマス前に、課長が怒濤の勢いで仕事押し込んできたんですよ、お前らクリスマスはちゃんと過ごせよって。そのおかげで年末は無事でした」

「あら、課長らしい」

「…新婚っすからねー」

そう。課長は新婚だ。俺のもう1人の教育担当だった坂野さん……今は結婚して苗字が変わったけれど、社内では坂野さんで通っている……と、つい先日結婚した。課長と結婚するまでは、坂野さんと俺は同じチームだった。職場結婚になるから、同じ課は不味いだろう…ということで、今は同じフロアの別の課に異動になって働いている。ちなみに芹沢さんと同じ課になったので、同期の芹沢さんは嬉しそうだ。

それにしたって課長の坂野さんへのメロメロっぷりは誰が見ても明らかで、今までよく隠し通せてこれたものだと思う。…って言っても、俺はなんとなく気付いていたんだけど。

課長はイケメンだし、仕事も出来る。女子社員の憧れの的だったから、坂野さんと突然結婚した時にはかなりの騒ぎになったそうだ。表立って何も無かったのは、課長と坂野さんが課が違うと言えど同じフロアに居たからだろう。

芹沢さんと坂野さん、俺が新入社員だったころの教育担当だった2人はとても仲がいい。教育期間が外れてからも何かと気に掛けててくれている。それに俺が坂野さんと同じチームになってから、芹沢さんと坂野さんが飲みに行く時に、俺も誘ってくれるようになった。女性の先輩2人に囲まれるのは悪い気はしない。芹沢さんは気さくだし、坂野さんは静かに話を聞いてくれる。けれど、いつからかその3人から坂野さんが抜けた。今思えば、あれは多分課長のところに行ってたんだな。

坂野さんが抜けても、芹沢さんは俺と一緒に飲みに行って、変わらず仕事の相談とかに乗ってくれた。時々芹沢さんの愚痴も聞く。段々、そういう風に飲みに行くのが楽しみになって、彼女はいないけど気にならなかった。芹沢さん時々かわいいんだ。いつも表情がはっきりしてて快活だと思ってるのに、ふっと曖昧に笑う表情を見せたりして、…それが女っぽくてドキドキする。

この気持ち。

重症だ。うん。自覚してる。そのクセ、クリスマスには誘えなかったんだ。我ながらヘタレだなーっていうのも、自覚してるんだけど。

「なら、クリスマスはちゃんと休めたんだ。よかったじゃない」

「休んだって、別にいいこと無いっすよ」

「なんで? 予定無かったの?」

だから、この質問は痛いところを突いてくるって思った。今年のクリスマスイブは休日で、合わせて3連休という大盤振る舞いだった。クリスマスを本気で祝った人たちはさぞ楽しい時間を過ごしたんだろうと思う。課長とか課長とか課長とか。

「そういう芹沢さんは、クリスマス、どこか行きましたか?」

声がちょっと不機嫌になってしまった。でも、芹沢さんはくすくす笑って肩を竦めただけだ。

「行ったわよ。買い物に」

もしかして、彼氏とか? …言い掛けて、なんだかそこまで踏み込んだ質問をするのもどうかと思って、言葉を飲み込んだ。そもそも「もしかして」って何だよ俺、失礼だろ。飲み込んだ言葉を誤魔化すように、「自分は別にどこにも行ってないです」と言うと、拗ねたみたいな響きになったのが自分で分かった。

ガキっぽいな…と後悔していると、芹沢さんも少し驚いたようだった。まじまじと俺のことを見て、ちょっと困ったように笑う。

「あらそう。じゃあ、飲みに行けばよかったかしら」

「誰とですか」

「秘密よ」

「ちぇ」

子供扱いされたようで、むっとしてココアを飲み干した。それ以上はなんとなく会話が続かず、思わず時計を見ると、もう終業時間はだいぶ過ぎている。フロアは静かで、みんな帰ってしまったのだろう。芹沢さんはどうするのかなと思って、ちらりと視線を向けた。

思いがけず、ばっちり目が合う。緊張して、声を荒くしてしまった。

「せ、芹沢さんっ」

「ん、何?」

芹沢さん、以外と目が大きい。…しっかりメイクしてるから、っていうのもあるかもしれないけど、顔を上げてしっかりこっちを見るから余計にそう思う。目力、強い。

「え、えっと、まだ帰らないんっすか?」

「んー、山下クンは?」

「あ、俺、もう、帰ります」

「そう」

帰ります…と言ったからには席を立とうと思うのだが、なんだかそういう雰囲気にもならなくて、俺はずっと座ったままだった。冬休み…年末年始休暇か。芹沢さんは誰かと過ごすんだろうか。そんな俺の考えを見透かしたように、芹沢さんが一口カフェオレを飲んだ。

「山下クンは、年末年始、実家に帰るの? 1人暮らしだったよね」

「え? あ、いや。帰りますけど、近いんで1日にちょっと顔出すくらいですよ」

「そうなんだ」

「…芹沢さんは?」

「私も、同じ」

「そうなんですか」

「うん。去年までは葉月と一緒に初詣行ってたんだけど、今年はさすがに邪魔できないからどうしようかなって思ってね」

困ったように笑う顔。なんでだろう。…これ、チャンスなんじゃないか? いや、だから何のチャンスだよ! …って俺の中で2人の俺が会話する。一瞬の葛藤、チャンスに賭けた俺が言った。

「…じゃあ、」

「一緒に行かない?」

「え?」

「初詣」

「あ」

だけど、先越された。呆然としてる俺に、芹沢さんがきょとんとする。

「…ん、何か用事がある? 他に先約があるとか」

「や、ないです、無いです! 行きます、行きます!」

思い切りぶんぶん頭を振って、がたんと席を立った。押されたように目の前の芹沢さんが、微妙に身体を仰け反らせた。…その様子を確認して、俺はテーブルに手を突いて前のめりになってる自分に気付いた。うわなにやってんの俺。

それからはもう、自分の必死な様子を隠すのにさらに必死になって、なんとか初詣の約束を取り付けた。って言っても、誘ってくれたのは芹沢さんだけど。自分が誘えなかったことが妙に悔しくて、どうやって挽回すればいいか。俺、年末の休みはそればっかり考えてた。

****

元旦は深夜の1時に俺が芹沢さんを迎えに行った。どうせなら年越し番組一緒に見ませんかとか、どっかのカウントダウンパーティー行きませんかとか誘いたかったけれど、結局そんな勇気までは出せずに、でもせめて車は俺が出しますって言って、迎えに来る事は許してもらった。

さすがに元旦だからこの時間でもかなりの混雑で、本殿からはずいぶん離れた広場に停めることになってしまった。

参道に近付いてくると参詣客が徐々に増えてくる。

「うわー、やっぱり人多いっすね」

「うん。でも、深夜の参拝って1年に1回しか出来ないし、なんだかワクワクしない?」

「あは、分かります。俺、いっつも普通の時間に参拝する派だったんで」

「私も私も」

なんとなく分かる。正月は寝坊して、実家に帰ってからいつもの時間に参拝するってパターンばっかりだった。正月を迎えたばかりの夜中に初詣…なんて、付き合ってる彼女が居た時くらいじゃないだろうか。それくらいは俺にとって特別だ。そう思って、寒い深夜に隣に芹沢さんがいることを、妙に意識してしまう。

参道は人が一杯で、両脇にはいろんな屋台が出ていた。たこ焼き、ベビーカステラ、りんご飴、わたがし。最近ではなんとかグルメが流行らしくて、ホルモンだとか餃子とか、変り種でインドカレーに付けるナンだとか、屋台のラインナップも珍しいものが多くなった。…それを見ながら、帰りにあれを食べようとか、こんな屋台が出来たんだとか、ベビーカステラって東京ケーキって言わない? とか、そんな話をしながら歩いた。

「あ!」

隣の芹沢さんが急にびっくりしたような声を上げて、大きく手を振った。誰か知り合いでもいたのか…と、妙に緊張して芹沢さんの視線を追いかけると、見覚えのある2人が居た。2人の内、片方が小さく笑って人ごみから離れるように参道の脇に寄る。俺と芹沢さんもそちらに移動し、2人に向きあった。

「亜紀? それに山下クンも」

「葉月、今の時間やっぱり来てたんだね。…課長も、お疲れ様です」

「山下、それに芹沢か。…2人も来ていたのか」

坂野さんと課長だった。2人とも着物で、見違えるようにいつもと雰囲気が違う。坂野さんは薄桃色が地色の着物に臙脂色のコートを着ていて、課長は濃紺の着物を合わせていた。他にも着物のカップルは居るが、課長は眼鏡のイケメンっぷりが相当目立つ。隣の坂野さんも黒い髪に着物の組み合わせが淑やかで、なんともお似合いの2人だ。よくよく見ると、課長はベビーカステラの包み紙を持っていて、坂野さんは大切そうにキャラクターの袋に入った綿菓子を抱えている。そんなギャップに、仲睦まじそうなプライベートの2人を感じる。

「あ、2人とも、あけましておめでとうございます」

「そういえばそうだわ。あけましておめでとうございます、今年もよろしくおねがいします」

2人の着物姿にあてられていると、坂野さんがお辞儀をして芹沢さんがそれに返していた。そういえば年始の挨拶をしていなかったことに気付いて、俺も慌てて頭を下げる。

「か、課長も、坂野さんも、あけましておめでとうございます!」

「ああ」

隣に坂野さんがいるからだろうか。課長はいつもの仕事向きの声ではなくて、少し柔らかいトーンで頷いた。女の人が2人揃ったからか、早速芹沢さんは坂野さんとおしゃべりに興じている。いっつも綿菓子買うよねとか、今年はどういう屋台が出ていたとか、お正月のセールに一緒に行こうとか。

そんな2人のきゃっきゃした姿はすごく可愛くて、ぼーっと見ていたら、課長が坂野さんに寄り添った。

「…葉月、そろそろ行くぞ」

「あ、はい」

「わ、ごめんなさい私ったら、ついおしゃべりしてしまって」

課長は、「いや」と頭を振って坂野さんを引き寄せた。入り込めない2人の姿に、芹沢さんが一歩退いて苦笑する。坂野さんも困ったような顔で、「2人ともまたね」と言って小さく手を振った。

「じゃあ、またな、2人とも。会社で」

「はい、課長も坂野さんも!」

俺、全然話してなかったことに気付いて、踵を返す2人に向かって声を張って挨拶をした。

課長が坂野さんの背中を守るように抱き寄せて人ごみに消えていく様子を見送って、はあ…と芹沢さんと2人ため息を吐いた。…何のため息だろう。

「ふわー、まさかこんなところで会うなんてね」

「ですねー」

「相変わらず、課長が葉月にメロメロじゃない? もう早く2人きりになりたいから邪魔するな!ってオーラ、すっごく出てたもの」

「はは。坂野さん、綺麗でしたもんね。綿菓子抱えちゃったりして」

俺は坂野さんの凛とした着物姿と、綿菓子を抱えたギャップを思い出して頷いた。言いながら参道に戻ると、つん…と俺の上着が引っ張られる。何? と思って振り返ると、面白くなさそうな顔でついてくる芹沢さんだ。あれ、なんか機嫌を損ねてしまったかな…と思って、立ち止まる。けれど変わらず芹沢さんは歩くので、俺もまた歩き始めた。

「…山下クンってさー」

「はい?」

声も不機嫌で、どこか拗ねたような色が混じっていた。

「坂野さんの事、好きだった?」

「ぐふっ」

何も飲んで無いのに思わずむせた。何それ、なんだそれ。そんな風に見えてたのか? あわてて、首が飛ぶかと思うくらい振った。

「んなことないです。全然違います、なんっすかそれ!」

「あ、違うんだ」

「違いますよ、なんでそんなこと言うんですか」

「ご、ごめん、そんなムキになって否定しなくても」

「別にムキになんてなってないっすよ」

いや、ムキになってる。自分でも分かる。…だって、芹沢さんにそんな誤解されるとか思ってもみなかったから。

「坂野さんは憧れでしたけど、それを言うなら芹沢さんだって俺の憧れっすよ」

「山下クン?」

それからは2人ともなんとなく無口になった。俺、今、すげー微妙な事口走ったような気がするけど、言った言葉は戻せない。どうしよう、この気まずい雰囲気どうしようって思ってると、どんどん人が増えてきたのに気付いた。

本殿に近付いたからだ。どちらを向いても人ばっかりで、ぎゅうぎゅうと押されてしまう。ふと隣を見ると芹沢さんが押し流されそうで、俺は思わず手を掴んだ。

「芹沢さん、ちょっとこっちです」

「え、ちょっと、山下クン?」

「危ないし、はぐれるから」

手を掴んでから気付いた。…手ぇつないでる状態だよな、コレ。咄嗟の行動だったけど、今は人ごみに感謝したい。手をつなぐ立派な言い訳になる。芹沢さんが何か言おうとしたみたいだけど、手は振り払われなかった。人ごみがきつくなってきて、ぎゅう…と手に少し力を込めたら、芹沢さんが応えるみたいに握り直してきた。やばい、これ、顔見られない。

なんとか本殿に着いて、なんていうんだか、鐘を鳴らすところまでやってきた。作法なんて知らないから、ガラゴロと鐘を鳴らしてお賽銭を入れて、両手を合わせる。当然俺と芹沢さんの手は離れてしまった。神様にお願い事どころではなくて、ちくしょう、次いつ手ぇつかめばいいんだよ、なんていうやつあたりをしかけた。

あわてて今年の目標と、ささやかな願い事を心に浮かべる。

「ねえ山下クン、なんてお願いした?」

芹沢さんが、さっきまでの俺の気まずい雰囲気を打ち消すような、明るくて悪戯げな声で俺の顔を覗き込んできた。なんだかよく分からないけれど、今だって思って、俺は芹沢さんの手を握る。

「秘密です」

「え?」

「…おみくじ引きましょうよ、芹沢さん」

芹沢さんが瞳を丸くして俺を見てる。…それから、ぱあっと…音がしそうなほど、可愛く笑った。

「いいよ。おみくじ引こう。その後、りんご飴食べたいな」

「俺、たこ焼き食べたいです」

「私も半分食べたい」

「じゃあ、半分こで」

それから、俺と芹沢さんはおみくじを引いた。芹沢さんは中吉で中途半端だと拗ねていたけど、俺は凶だった。初詣で凶のおみくじ入れんなよ!…ってがっかりしてたけど、芹沢さんがくすくすと楽しそうに笑うのでまあいいかって気分になる。

参道はますます人が多くなってきたけれど、俺と芹沢さんは目的通りりんご飴とたこ焼きを買って人ごみを抜けた。荷物が出来たので手が離れてしまって残念に思っていると、腕に少しだけ重みが乗った。…どうやら芹沢さんが俺と腕を組んでるみたいだ。もうガチガチにそこばっか意識してんだけど、気付かれて手を離されるのも嫌なので平静を装った。混雑してたから少し遠くの駐車場に停めた車は、今になればこの距離にだって感謝だ。寒さは厳しいけど、少しでも一緒に歩く時間が長くなる。たこ焼きを食べながら、熱いとかたこが大きいとか、そういうおしゃべりするのは楽しかった。

駐車場が近付く。

人が多いからって手なんかつないで、おみくじ引いて笑って、腕組んで、たこ焼き熱いっていいながらほうばって、りんご飴交互にかじって照れたりして、なんだこれ、まるで。

「デートみたいっすね」

「えっ?」

芹沢さんが小さな声で、でも驚いて聞き返す。その言葉に我に返って、俺は慌てて頭を振った。やばい、何を口走ってんだ俺は。デートなら俺が誘うべきなのに、誘ってくれたのは芹沢さんで、何調子に乗ってんだ! テンパって、俺はぷるぷると震えるみたいに頭を振った。

「す、す、すみませんっ、俺何言ってうわほんとバカ」

慌てる俺を見て、芹沢さんが、「あは」と笑った。それは女の先輩って風ではなくて、女の子、っていう感じでとても可愛い笑みだった。

「ふーん、デートか」

「…すみません」

「デートねぇ」

だけど、それも呆れたような声に変わっていって、…ああ呆れられてる、恥かいたかもなんて思えてきた。車の中でどんな顔すりゃいいんだ…いろんなことをぐるぐると悩んでいると、芹沢さんがいよいよ、ふう…とため息を吐いた。どんな言葉で止めが刺されるのかを俺は待っていた。

そんな気分の俺の腕に、本当にちょっとだけ、芹沢さんが体重を掛ける。

「私、最初からそのつもりだったんだけど」

「え?」

くすくすと笑いながら、芹沢さんはすぐに寄り添った身体を離した。俺の持ってるたこ焼きの1つに爪楊枝を刺して、「ほら」と差し出す。俺は思わずそれにぱくりと食いついた。

「ちょっと冷たくなってる?」

「いやっ、まだ全然大丈夫、あったかいです!!」

実のところたこ焼きの表面は少し冷たかったみたいだけど、俺は全く別の熱でそれが本当に気にならなかったのだ。もぐもぐ食べて慌てて飲み込んで、「芹沢さん、もう1個食べたい」って言ったら「贅沢言うな」ってぺちんとおでこを叩かれた。言いながらも、しょうがないなあって、芹沢さんはもう1度たこ焼きに爪楊枝を刺して、差し出してくれた。

やばい俺、凶のくせに!
今年はなんか運気が向いてきたかもしれない。
絶対、ぜーーーったい、次の『デート』は俺が誘う。

俺の今年の願い事、叶いますように。神様、お願いします!