アシュマは自分の胸に寄りかかってきたウィーネの背中を抱き寄せる。人外の魔であるはずなのに抱き寄せる腕は優しく、ウィーネの中を探る指の動きは丁寧だった。やがて、ゆっくりともう一本の指がそこに入ってきた。押し広げるようにウィーネに入っていく2本目の指は、多少きついようだ。だがぬるぬると奥へ誘われていく。
中をかき回す音はくちくちと粘着質で、下腹を押さえつけるように、指を入れたまま手の平が密着した。2本の指は完全に入り込み、中で巧みに折り曲げられる。手の平は擦り付けるように動かされ、下腹部がゆっくりと揉まれた。
「……っ……ああ……!」
中のざらりとした箇所を擦られると、中からさらに熱い液が沸きあがってくるのを感じる。
「堪らぬな……想像以上の甘やかさだ」
気が付けば、アシュマの息も僅かに上がり、興奮しているようだ。黒い肌に刻まれた赤い文様が、今はどくどくと脈動している。感じる度に揺れて離れそうになるウィーネの身体をきつく抱き寄せると、中を弄る指が激しく動き始めた。急速なその動きは、今までの丁寧で濃い……快楽、ウィーネは認めたくは無かったが、確かにそれは快楽だった、それを抗えない激しいものにして、腹の中を這っていく。何かが登りつめていくような感覚に襲われた。
「さあ……来るんだ、ウィーネ・シエナ。我に身を任せよ……」
「うっ……ん……や、いや……」
「抗う感情など、不要だ」
「……あ……ん……んぁ……ああああああっ……!」
零れ落ちたウィーネの小さな悲鳴は、彼女が絶頂を迎えたことを伝える。アシュマはその啼き声と指を伝う蜜液と引き締まる中の感覚に、満足気に笑った。ウィーネは一度びくんと大きく身体を揺らして、さらに小刻みにびくびくと震えている。その余韻を味わうように、内側をゆっくりと優しく摩りながら指を抜いた。アシュマは指に纏わり付いたウィーネの液を舐め取る。
「ウィーネ……」
アシュマの唇が召喚主の名前を呼ぶ。ウィーネの身体は床に下ろされ、蝙蝠羽がその両脇を囲む。アシュマはウィーネの太腿を抱えて両足を広げさせ、抗う言葉が発せられるよりも前に、そこに顔を落とした。
「……ひぁっ……や……」
先ほどとは比べものにならない、未経験の刺激だった。先ほどまで指が入っていた箇所に、今度は明らかに、アシュマの舌が入り込んでいる。人とは違い、厚く熱く長いそれは、触手のように蠢きながら中を探っている。……いや、味わっている。溢れてくる蜜液を吸い上げるように、時々大きな音を立て、少し顔を上げては、入り口を彩る一枚一枚を丁寧に舐め取っていくのだ。
「ぁぁあ……ん……っ……うぁ……」
やがて舌の動きが少し緩くなりウィーネが息を整えようとした瞬間、
「きゃっ……ああ、あっ!」
アシュマの唇がウィーネの秘所のすぐ上の、小さな蕾に宛がわれた。包み込み、音を立ててそこを吸うと、舌でぺろりと舐めた。その感覚だけでぞくりと背筋が震え、意図せず身体が逸れる。自然、アシュマの唇にウィーネの身体が押し付けられるようになり、煽られるようにアシュマの舌の動きが速くなった。
2度目の何かがウィーネの背を上ってくる。下腹から這い上がってくる、喉が詰まるようなその感覚の波に、ウィーネはアシュマの羽の上部を掴んだ。アシュマは特にそれを咎めず、ぐ……と舌を蕾に押し付け、力を込めた。途端に、ウィーネは背を大きく逸らせた。
「………っ!」
今度は声にならなかった。余韻に震える彼女の身体をなだめるようにアシュマは、ウィーネを抱き寄せる。
「……ウィーネ、次は我の番だ」
「……ん、無理だって……ば……」
「無理ではない、あれほど感じていれば……」
アシュマの両腕がウィーネの腰を引き寄せた。当然のように固く大きく猛り立った陽根を秘所に宛がい、何かを探るように入り口を擦る。先端だけでもその大きさを感じるのに、これを全て飲み込むなど……絶対に無理だ。ウィーネはあまりの恐ろしさに、頭を振った。
「アシュマ……お願い、無理……」
「力を抜け」
「……ぁ……」
人外の魔はゆっくりとウィーネの中に自分を押し込んでいく。既に充分濡れていたとはいえ、男を初めて受け入れるそこはあまりにもきつく、埋めていくほどにウィーネの顔を苦しげなものにさせる。だが、その苦しみすら魔力を伴い、アシュマに糧となり注ぎ込むのだ。愉悦に身を震わせる魔力も魅力的だが、純潔を奪う瞬間は一度しか味わえない極上の甘みがある。
「……い、た……い、……お願い、痛い……ほんとうに、」
「は……、欲望のままに動かしたくなるな……我をこのようにさせるとは……」
身体を割られるような下腹部の痛みは、徐々に強く重くなっていく。それに相反するように、アシュマの息が段々と余裕無く、上がり始めた。
「……も、だめ……それ、いじょ……無理っ……ぁっ」
まるで火がともっているようにじくじくと熱い。痛みに悲鳴が上がりそうになる。堪えきれない。
「……うっ……くっ……」
だが、悲鳴だけは上げたくない、その一心で、ウィーネはアシュマの身体を強く掴んだ。いくら強く掴まれたとて、人の子の力程度ではアシュマの硬い皮膚は傷つけられることなど無い。アシュマはウィーネに自分の身体を掴ませたまま、一気に陽根を押し込んだ。
「ひっ……ああああ!」
ウィーネのもっとも奥まで、はっきりと入り込んでいるのが分かる。
「もう少し奥まで挿れたいところだが……、我の本性であれば、これまでか。……よく我慢したなウィーネ」
アシュマの身体がウィーネに重なるように近づき、大きな手が汗で張り付いた髪をそっと掻き分けた。魔であるくせに優しいその手付きは、ウィーネに奇妙な錯覚を起こさせる。視界を覆うアシュマの肌の黒が、赤い文様が、今はほとんど怖くなく、そう感じる自分の意識に混乱を覚えた。髪に触れていたアシュマの手はウィーネの身体に降り、柔らかな胸を左右から捏ねるように揉み、親指で硬くなった頂を弾く。
「ふあ……ん……」
その刺激にウィーネから零れる声が、まるで甘えるような蕩ける色を帯びた。それを訊いたからか、ウィーネの内部を占める質量が増す。
「ん……ぁ……」
抽送が始まった。
相手が魔であるからなのか、アシュマの身体から魔力が流れ込んでくるのを感じ、それと同時に先ほどまでの痛みが全く別のものに上書きされていく。幾度か揺らされる内にウィーネの身体から痛みが消え、アシュマが中を探る度に、2度達したときと同種の、だがそれとはまったく規模の異なる何かが蓄積されていった。
ことん……とアシュマの角度が変わり、その瞬間、頭の中が白く焼ける様な衝撃に襲われた。
「ひああ……っ!」
「ウィーネ」
その反応に、アシュマの顔が愉悦に笑んだようだ。羽がばさりと広がり、ウィーネの背を掬い取る。アシュマと向き合うように身体を起こされ、これ以上入らないと思っていた魔が、より深く突き刺さった。
「……ああ……。ウィーネ、お前の全てを感じるぞ……。もっと我に与えてくれ。お前を……」
アシュマの声から余裕が消え、感嘆の溜息となる。ウィーネの身体が後ろに倒れないように羽で支え、両の手は腰を掴んで再び動かし始めた。今度は遠慮なく抽送を激しくし、先ほど衝撃を受けた部分を執拗に刺激する。その度に快感が身体を満たし、ウィーネの頭からは抵抗しようなどという考えは吹き飛び、ただ離れないようにアシュマの大きな体躯に抱きついた。
「ア……シュマ……わた、し……」
完全に密着し重なった秘所の蕾が、アシュマの肌で刺激される。そのために、ウィーネの身体を襲う感覚はいや増していく。早く登り詰めたいもどかしさに、唇の側にあったアシュマの喉元に口付けし、そこを味わうように吸い上げた。アシュマの腕がウィーネの頭を抱え、なお一層動きが激しくなる。元来、魔とは欲望に忠実な生き物だ。アシュマは、ウィーネから与えられる全てを零さぬように、欲望のままに己を突き動かした。
「あ……や、ん……もう……!」
「……くっ……ウィーネ……」
2人は互いを求めるように抱きしめあうと、最後の瞬間に向かって動きを速めていく。
「ふっ……あ………っ!」
再びウィーネの叫び声は声にならず、アシュマの魔力を無意識に吸い尽くすように身体に力が入り、それは一瞬で解けた。それに誘われるように、アシュマがぐ……とウィーネの身体に己を叩きつける。子宮を小突くように陽根が突き動き、同時に中で激しく脈打った。
「……ちょ、と、……ああん……っ……!」
それは勢いよくウィーネの中に熱い精を吐き出した。いや、魔という存在の彼が吐き出すそれが、人と同じ精かどうかは分からない。だが、滾るような濁流が自分の中に放り込まれるのをウィーネは確かに感じた。今まででもっとも強い魔力をそこに感じ、彼女の中にそれが息づく様に一気に浸み込んでいく。ウィーネを抱き寄せたまま精を吐き出し、長い時間をかけてそれが収まると、こぽ……という音を立てて引き抜かれた。
「……なんという精緻な魔力よ……ウィーネ、我をこれほどにさせるとは」
「……あ、アシュマ……」
「ウィーネ……我が召喚主……」
くく……と邪な笑いと、それとは矛盾するほどに愛しさの籠もった甘い声が聞こえたような気がするが、ウィーネの意識はそこで途切れた。
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「……で、『召喚』の課題は出来ていない……、と」
「はあ」
「珍しいな、ウィーネ・シエナ。術式に問題が?」
「いえ」
「……まあいい、レポートと再課題とどっちがいい?」
「レポートで……」
意外な言葉に、魔術学校の教員は首を傾げた。
「……使い魔は不要なのか?」
「必要になったらまた挑戦します」
「……そうか。……ならば、『月光と夕明かり』の詩を呪文構築に使う際の注意点と、韻文にしたときの効果についてレポートを」
「はい」
はあ……と溜息をついて、ウィーネは職員室を辞した。
あのあと、気が付けば、ウィーネは学園寮の自室で眠っていた。夢か何かだったのかと思ったが、身体に残る疼くような感覚はあれが現実であったことを認識させられた。……そして、何よりも、杖に刻まれた契約の証。今までに無い脈動するような強い力が杖に宿っている。そして、それは自分の中にも宿っていた。
「気分悪い……」
最悪だ。恐らく呼べばアシュマとやらは、自分の下にやってくるだろう。だが、そんな恐ろしいことできるものか。立っているだけですごい存在感だった。今まで召喚したことのあるどんな存在よりも、アレは桁違いだ。桁違いというよりも、人間に認識できる全てを超越している。
自分に一体どんな魔力があるかは分からないが、最下位の魔を召喚するつもりの術式で、上位2位の悪魔が召喚されるとか……再課題なんて出来るものか。バカ教師め。完全にお門違いの八つ当たりを心の中で呟きながら、ウィーネは次の授業がある教室へと戻った。
同級生と当たり障りの無い挨拶を交わしながら、一番後ろの一番端の席に座る。ほどなくして、担当教員がやってきた。
……見たことのない、一人の生徒を伴って。
その生徒は線の細い男が多い魔術学校の中にあって、珍しくがっしりとした体躯だった。どうやら転入生らしい。
ウィーネは別段興味が無かったが、女生徒達のひそひそとした浮き足立つような話し声にちらりと顔を上げた。浅黒い肌に端整な顔、神秘的な赤い髪。その生徒は、真っ直ぐにウィーネを見て、……ニヤリと笑った。
……おい。
……こら。
……まて。
ウィーネの背がぞっとする。
「はいはい、静かに。……今日から転入してきた、アシュマール・アグリア君だ。アグリア、どこでも好きなところに座りたまえ」
アシュマールと呼ばれたその生徒は不敵に笑い、……自分達の近くに座ってくれないかと期待する女生徒の視線を無視して、まっすぐにウィーネの許にやってきた。
「アシュマール・アグリアだ。ここに座っても?」
ウィーネに未来は読めない。だが確実にこれだけは分かった。
当分、……ていうか、多分卒業するまで平和な学校生活は望めそうにない。
人の姿に化けた自分の使い魔に、青筋が浮かびそうになりながら、ウィーネはにっこりと笑った。
「折角の授業ですし、前の方に座ってはいかが?」
「そうか、親切にありがとう。ではここに座らせてもらおう」
アシュマールはウィーネの隣に腰掛けた。やがて始まった授業など目もくれず、アシュマールはじっとりとウィーネを見つめている。一言、ウィーネにだけ聞こえる声でこういった。
「我から逃れられると思うなよ、ウィーネ」
ウィーネは大きく舌打ちした。