部屋に戻ってくるなりアシュマはウィーネの身体に覆いかぶさった。代価や糧などは関係ない。たった今、この召喚主の甘い魔力を我が物にしたい。もどかしげに喉を鳴らし、スカートをまさぐり下着に指をかけ、両の紐を解いて外す。
「……あっ、……ま、待ってよ、アシュ……んっ……!」
アシュマはウィーネの唇を食らうように奪う。何の遠慮もなく、長い舌が口の中に侵入してウィーネに言葉を紡がせなかった。アシュマの服は乱れていて、いつの間に取り出したのか、すでに硬いものがウィーネの足と足の間に充てられている。入り口を愛撫するように、小さくそこを動かしていたが、堪え切れぬとばかりに侵入してきた。
「……ああっ!……や……あ……」
貫かれた衝撃に一瞬声が高くなったが、じっくりと揺らされるとウィーネの声が甘い色を帯び始める。唇を重ねていただけなのにそこは充分すぎるほど濡れていた。
「……なんという芳醇な香りだ。ウィーネ……」
一度顔を離し、甘く囁くアシュマの言葉。その言葉からは全く想像が出来ないほどに、再び激しい口付けに襲われた。アシュマはウィーネの顔を両手で抱き寄せて押さえると、口付けたまま抽送する。魔の姿ではなく人の姿で交わると、体格の差があまりないために身体中の全てを同時に貪られるのだ。部屋に戻ってきた途端に始まった激しい行為に、ウィーネの身体は快楽というよりも背徳的な感覚に襲われた。すぐに昇らされてしまう……その兆候ともいえる疼きが下腹部を走った瞬間、アシュマが口付けを止め、己を抜いた。
「……あ、……アシュ……?」
「ウィーネ。この姿では足りぬ……」
アシュマはウィーネの身体を返すと、うつ伏せに寝台に押さえつけた。獣のように背後から覆いかぶさると、ウィーネの背でみしみしと骨の軋むような音が発せられている。本性に戻り、当然何も身に着けていないのだろう、ウィーネの視界に入る太く筋肉質の腕は黒く鋼のようで、赤い血色の文様が脈打つように浮かんでいる。寝台が陰り、仮初の羽ではなく、本性を表す蝙蝠羽が広がったのが分かる。アシュマの手ではない……羽の切っ先に付いた鍵爪がウィーネの手を掴み、後ろから寝台に縫い付けた。
ウィーネの秘裂を確認するように、アシュマの長く熱い指が触れる。
「……っふ……ぁ……」
「先ほどはすぐに我を飲み込んだ。……もはや指も舌も不要だったな、ウィーネ」
人の形を全て取り去り、声も本性に戻したアシュマの重く低い笑い声がウィーネの首筋から耳朶へと注がれる。そう言いながらも、アシュマは躊躇いなく指を侵入させた。無論、そこは容易くそれを飲み込み、指を動かしてもいないのに収縮して、もっと奥へと誘う。アシュマは空いている手をウィーネの身体の下に入れ、後ろから少女の柔らかな胸に触れた。服が邪魔だがじっくり触れると、はっきりと屹立した頂の形が分かる。戯れるように引っかきながら、今度は下の指を2本に増やす。
蜜の溢れた秘所をかき回す指が、出し挿れを始めた。
「……い、や、アシュマ……」
「お前はいつも嫌というが、嫌ではあるまい。分からぬと思っているのか?……我の快楽も伝わっておるだろうに」
「……ぁ……ん……」
羽の鍵爪でうつ伏せに押さえつけられ、アシュマの好きなように嬲られている拘束感がウィーネをさらに濡らしていく。そこから伝わる魔力は、確かに彼がウィーネを求め、互いの愉楽を貪りあい、悦んでいることを伝えてくるのだ。
くぷ……といやらしい音を立てて、アシュマの指の方向が変わった。再び激しく動き始め、響く音もそれに合わせて高くなる。それでもウィーネはそれを貪るのを堪えた。しかし、どんなに抗っても声を抑える事ができず、内奥が直接疼き、胸が詰まる。堪えれば堪えるほど魔を煽り、魔の興を誘い、アシュマから思い知らされる快楽は増すが、ウィーネはまだそれに気付いていない。
アシュマの動きが、ウィーネを高鳴らせていく。
「……やっ……もうっ……!」
「ダメだ、ウィーネ」
「ぅあん……」
だが、ウィーネが達する直前に、音を立ててアシュマの指が引き抜かれた。激しく息をする少女の身体をひっくり返して仰向けにさせると、再びその手を羽で押さえつける。ウィーネの表情をじっくりと眺めながら、アシュマは制服を剥ぎ始めた。ウィーネが自分を見上げる熱く潤んだような瞳はそれだけで、狂おしい魔力を発しているがまだだ……まだ、足りない。
全ての衣服を取り去り、アシュマは満足げにウィーネを肢体を見下ろした。そんな感情があるはずもないのに、愛しげにウィーネの乱れた髪を指で払っている。
ウィーネの視界に入る黒は射干玉。見下ろす赤い瞳は血の色で、それは今、使役や糧などに関係なくウィーネを欲していた。その瞳を見つめているのは怖い。怖い……が、
だが、ウィーネの瞳にはなぜかそれが甘く映るのだ。
そして、思う。……悪魔の赤い瞳の、その奥を……。
探りたい。
そう思った瞬間、アシュマが嗤う。
人の心とはまことに面白いもの。
アシュマの求めた香りが今まさに、ウィーネから自分に糧として与えられているというのに、ウィーネはそれを認めない。
精緻で豊かな闇に横たわる、甘く苦い愛おしさすら感じるこの心の動き。
アシュマはウィーネの太腿を羽で掴み、大きく広げて持ち上げた。ウィーネの身体は腰から折れて返され、足の付け根がアシュマの目の前だ。
「……ぁ、いやっ……」
この格好が嫌だ……という意味だろう。だが、そんな贅沢を言わせるほどアシュマは優しくはない。目の前まで持ち上げたウィーネの秘所を両の指で押し広げると、そこに長い舌を割り込ませた。その舌は濡れた花弁を一枚一枚丁寧に拭っていく。その度にウィーネの身体が暴れるのは、その背に走る痺れるような感覚からだ。触れた箇所から、啼き声から、それを感じ取るアシュマは、身に注がれるウィーネの魔力に興奮が抑えきれない。もっと啜りたい。もっと浸りたい。アシュマの舌が触手のように、ウィーネの内奥へと入っていく。
「……ぅぁっ……は……」
この感触にそんな奥までなぞられたのは初めてだ。アシュマの猛々しい楔に激しく貫かれているのとはまた別種の、ぬめぬめした何かに内壁を突かれるゆるやかさはウィーネを激しく乱れさせた。動いてしまう腰をアシュマの羽が押さえつけ、押し広げている指が膨れた箇所を擦り上げる。しかし、再び……ウィーネの身体が昇り詰める直前に、アシュマの舌が抜かれて指の動きが止まった。
達することの出来ないもどかしさに息が乱れ、戸惑ったようにこちらを見上げるウィーネの表情は扇情的だ。アシュマはウィーネの身体を寝台に下ろすと、後ろからぎゅう……と、包み込むように抱擁する。ウィーネのしなやかな背がアシュマの力強い割れた腹に重なり、猛々しく待ちわびている硬い陽根がウィーネの裂け目を後ろから撫で始めた。それ以上は進まないものの、動きは段々と激しくなり、それが再びウィーネを昇らせようとする。
「ん……んっ……ああ……」
「ウィーネ……堪え切れぬぞ……お前だけだ、我をこうさせるのは……」
体格の差があるからだろう。ウィーネよりふた周りほど大きな悪魔の身体に後ろから抱きしめられていると、ウィーネの頭は悪魔の胸の辺りだ。それが悪魔が少女を弄ぶには丁度よい。人の形で抱き合うのも悪くはない……と最近知ったが、それでもウィーネの蜜壷を自由に掻き回し、その裸体を身体ごと抱擁するのは本性に限る。どのような格好になっていても、悪魔が掴めば少女の身体は軽々と持ち上がり、片腕で支えただけで易々と揺らすことができる。アシュマは挿れずに己を沿わせたまま、楽しげにウィーネを揺さぶっていたが、ウィーネの身体に力が入りそうになった瞬間、再び動きを止めた。
頃合だ。
ウィーネは確かにアシュマを求めている。
早く昇り詰めたい。早くひとつに溶けたいと……、ウィーネの魔力がそう欲している。そして、それはアシュマも同じだ。
「アシュ……アシュマ……な、んで……」
「なぜ、だと?……ウィーネよ、止めて欲しいのではなかったか?それとも我が欲しいのか」
……欲しいと言うのを躊躇うウィーネに、アシュマの邪な笑みが一層深くなる。顔を首筋に近づけて、耳を舌で濡らしてやった。焦らすように時折胸の頂に触れれば、ほんの少し触れただけでも小さく声が零れ、身体がびくんと揺れる。達する直前で止められているウィーネの肌はどこも触れただけで敏感に震えて、何と愛らしいことか。そうして次の一撃を望み、誘っているのだ。ならば遠慮なく頂こう。召喚主の望むままに。
「よかろう。言葉など要らぬ。お前の望みは分かっている」
「……う……ん……」
アシュマは自分の指をウィーネの唇に咥えさせた。そのまま腰を己に引き付け、後ろから一息に貫く。
「……んんっ……!……ふ……う……!」
圧倒的な質量がウィーネの中に入ってきた。それはウィーネの最も感じるところをいきなり刺激し、内奥の壁を遠慮なく擦り上げ、一気に奥まで到達した。アシュマの身体の下で一度ウィーネの背が逸れる。アシュマが抱き寄せる腕を強くしてやると、腕の中で小動物のようにウィーネが身体を揺らし、息が乱れ、やがて力が抜けた。ウィーネの膣内は脈打っていて、挿入しただけで彼女が激しく達したのだとアシュマに伝える。
「達したか、ウィーネ。……だがまだまだだ、分かっておろうな……。次は我の番だ。お前を与えてくれ……お前の全てを……」
「……は……うぅ……」
アシュマの指を咥えているからだろう。その唇は言葉を紡ぐことが出来ず、喘ぐような息が零れるばかりだ。
達した直後の余韻を手繰り寄せるように、ウィーネの腰が動く。それに合わせるように、羽の鍵爪がウィーネの足を後ろから抱えて持ち上げた。足を広げられ、結合している箇所が大きく突き上げられる。なお一層、ウィーネの身体はアシュマに深く繋がれた。
アシュマは指を唇から離して、ウィーネの胸の頂に持っていった。ざらざらと胸を擦り上げながら、もう片方の手は秘所の膨らみを押さえつけて嬲る。羽の鍵爪が2本、両腕が2本、人間の男では決して与えられることはない拘束と刺激、そして何よりもアシュマという悪魔自身で貫かれているウィーネは、逃れられない快楽へと堕とされていく。
大きく引き抜かれると自分の感覚を持っていかれるようで、大きく突かれるとアシュマとの一体感が増す。激しくなっていく抽送に、ウィーネはとうとう自分からアシュマを手繰り寄せた。後ろ手にアシュマの腰を引き付けて、離れぬようにねっとりと動かし始める。
「あ……あ……、アシュマ……」
「ああ……ウィーネ……」
だが堕ちていくのはアシュマも同様だ。異なるのは、それが闇の界の悪魔の本質であるということか。ウィーネから零れ落ちる全てが、アシュマのもの。悪魔は少女の身体を欲望のままに突き上げながら、両腕できつく抱きしめる。
「やっ……あっ……!」
ウィーネが再び激しく震えた。達したその中が溶け、一瞬の内にきつく締まる。同時に貫いているアシュマの体積が増して、弾けるように熱い白濁が吐かれた。共に味わう絶頂。快楽が同時に交換される瞬間。アシュマから精が注ぎ込まれる時間はいつになく長く、その間ずっと脈打つアシュマ自身をウィーネの内奥は感じていた。異形の悪魔に抱かれているくせに、その部分だけが酷く生々しい。注がれる時間がやっと終わって、ウィーネが息を整えようと身じろぎをした。……だが。
「まだだ。ウィーネ」
「……ぇ、ちょっと……ぁっ」
アシュマはウィーネを後ろから抱き寄せたまま、身体を起こした。アシュマの身体の上に座らされているような格好だ。無論、挿入されたままである。悪魔は人とは異なる。精を吐いたからといって欲望が収まる……という種ではないのだ。
それに。
「明日は授業は休みだろう?」
「待って、ちょっと……っ」
「命じるなら糧が必要だが?」
「だから、それ押し売り……っああん……!」
アシュマの抽送が再び始まった。
「止めよと命じるなら、我の名を呼んでみよ、ウィーネ」
「……え?……アーシュムデウ・アクィナス・ラクシュリアス……ぁうっ……!」
「……ウィーネ・シエナ。やはり……お前の魔力が我の名を呼ぶと……、なんという……ああ……」
「ちょっと、名前とか関係な……あっ、待って、やめ……そこ、はっ……ぁぁ……!」
名前を呼んでも別に止めてくれるわけではなかった。
それよりも、なお一層動きが激しく粘着質になり、この後、名前を呼ばれて大興奮に陥った上位2位の悪魔アーシュムデウ・アクィナス・ラクシュリアスに、ウィーネ・シエナが責め抜かれたのは言うまでもない。
情交は、やはり週末の休日全てを使って続けられたという。
****
「っとに……あの悪魔め……」
折角の休みだったが、全く休めた気がしないウィーネ・シエナは、激しく不機嫌な顔で教室に入った。数人の生徒にいつも通り挨拶する。僅かにヒソヒソされているのは、告白の件があったからだろう。それでもまだ真面目で品行方正な生徒として通って……いてほしい。いや、本当に。
「……よう、ウィーネ。あれからどうよ、アグリアと、なんかあった?」
「ああ?」
「え?」
朝っぱらからハイテンションで話しかけてくるのは、ネルウァ・セルギアだ。しかも、一番訊きたくない名前を毎度毎度……。しかも、全開の笑顔だ。面白いことがあった……とでも言うように。
こいつ……何を知ってる。
ウィーネは、にっこりと、礼儀正しい笑みを浮かべ、首を傾げて見せた。
「……セルギア君。何かあった……、というのはどういう意味かしら?」
「どういう意味もこういう意味もさ、あれだろ?アグリアに口説かれてんだろ、ウィーネ」
へらへらしたネルウァの言葉に、青筋が浮かびそうになる。
「あの男がどうやって品行方正で礼儀正しいいい子ちゃんのウィーネを口説いたのかって思うと……」
「ネルウァ……」
ウィーネの声が低くなった。
「アシュマ……アグリア君と何か話したの……?」
「え、なに……あの、ウィーネさん?……何か怒ってらっしゃる……?」
「アグリア君と何か話したの……?」
目が笑っていない。ただならぬウィーネの笑顔に、何か触れてはいけないものに触れたような気がしてネルウァはもごもごと口篭った。
「え、いや、あの」
「ネルウァ……」
「ほら、男同士の、何、あれ?」
「ネルウァ、『魔力系統学』の授業ノートが欲しいとか言ってなかった?」
ウィーネが一冊のノートをネルウァの目の前にちらつかせた。ネルウァがそれに手を伸ばそうとしたが、さっと避けてウィーネはニッコリと笑う。
「……ウィーネさま! お願いします!」
「うんうん。で、何話したって?」
「……恋をさせたい女がいるから、どうすればいいのかって……あれさ、お前のことじゃね?」
ネルウァは、観念したようだ。自分を抱き寄せるような仕草で大げさに言ってみせた。
「いやー、クソ真面目女のウィーネさんを口説く男がアグリアだとは思わなかったけどな?……そっとやさしーく抱き寄せて、やさしーく触れて、耳元で『……付き合ってくれ……』とか『お前だけだ……』とか言えグフォッ……!」
ウィーネは手に持った『魔力系統学』の授業ノートの角で、ネルウァの額を思い切り突いた。
こいつか……っ!
こいつのせいか……っ!
ウィーネがもう一発ど突こうとノートの角で狙ったのと、ネルウァの顔がぎょっとしたのと、……そして……
背後の気配が、ウィーネの黒い髪を一筋すくったのは同時だった。
耳障りのよい少しだけ低い声が、ウィーネを呼ぶ。ウィーネはノートを下ろして舌打ちした。だが、あくまでも丁寧な態度は崩さない。
「おはよう、ウィーネ・シエナ。ここに座っても?」
「おはよう、アグリア君。折角の授業だし、前のほうに座ってはいかが?」
「いつも親切にありがとう。でも、俺は君の隣に座らせてもらおう」
ウィーネの隣に座ったアシュマール・アグリアが、ネルウァの視線に気付いて……なんと、笑った。笑っただけのはず……なのに、命を狩られそうなすさまじい気配がする。
「ああ、おはよう、セルギア」
「あ、ああ、よう、アグリア……。ってか、ウィーネ! あのさ、俺、用事思い出したし! 代返たの……」
「断る」
即答して、ウィーネはそっぽを向く。なんでだ! 上手くいってるように見えるのに、なんでこんなに機嫌損ねてんだよ……!
「えええええええ、マジでぇぇぇぇぇ?……じゃ、じゃあ……アグリア……」
ネルウァは、アシュマールを振り返った。
そこには、愛しげにウィーネの髪を梳いている手を中断させられたアシュマールが居て、……視線に気付いた彼は、ネルウァに冷たい一瞥を、くれた。
「いや……やっぱりいいです」
その日久々に、ネルウァ・セルギアは真面目に授業に出席した。ネルウァが一瞬見たアシュマールの瞳は、赤く揺れた気がしたのだ。
……人の恋路を邪魔する男は、すなわち悪魔に蹴り殺される……と。