やさしい悪魔と召喚主

ご褒美

2日も怠惰に過ごしてしまった。

フラウ・ウァレンスの実験で魔力を奪われたウィーネは、どうやら何事も無く……いや正確には何事も無くはなかったのだろうが、アシュマに助けられて自分の部屋に戻されたようだった。何度か目が覚めて、側にいるアシュマに状況を確認して、寝台を降りようとしては止められる。

それでも何とか動いてトイレにいったりシャワーに行ったりして寝台に戻ると、すぐにアシュマが抱き付いて来る。ちなみにシャワーに行ったときは、当然のようにアシュマも入ってきたが、身体のだるいウィーネに抵抗は難しく為されるがままになったのは言うまでも無い。

最初に目が覚めたのはアシュマの腕の中。次に目が覚めたのはアシュマの腕枕。そして今はアシュマの身体の上で目が覚めた。いつの間にか、寝たときとは別のワンピース型の夜着を着せられていた。

身体はもう随分楽になっている。魔力も満ちていた。ただ、満ちている魔力は自分のものではない。力強くて熱い存在感は、アシュマのものだろう。……ということは、ウィーネが気を失っている間に注ぎ込んだに違いない。どうやって……など言わずもがなだ。

ただ、ひとつ解せないことがある。

いつもウィーネの魔力を啜って、無理やり注いでいく強い悪魔の力。……だが、あの時ウィーネの身体には魔力が無かったはずだ。ということは、アシュマは何の見返りも得ずに、ウィーネを助けたのだろうか。考えたけれど答えは出ずに、ウィーネはサイドテーブルに置いてある日時を示す水晶を手に取ろうと身体を動かした。

「ウィーネ」

目が覚めたら必ず、この重くて低い声がウィーネを呼ぶ。

「ウィーネ。……どこも痛くはないか」

そして必ずこう聞いて、ゆっくりと背中や髪を撫でて、熱い吐息を掛けてくる。水晶に手を伸ばそうと動かした身体を引き戻されて、肩と腰に腕が巻きついた。

「ねえ、今、何日? いい加減授業に行かないと」

「言ったろう。ドルシスがしばらく休んでいていいと言った……と」

「けど、勉強遅れちゃうし……ん……」

アシュマはウィーネを引き寄せて、ぬるりとした息ごと飲み込むように口付けた。熱くて息が詰まりそうなアシュマの魔力が、ぐ……と喉の奥を流れるのが分かる。

魔力だけではない。やがてねっとりとした音が響いて、ウィーネの舌に触手のようなアシュマの舌が乗せられた。乗せられたと思った次の瞬間には、ひっくり返され、吸い上げられ、開放されたと思ったら、くつ……と甘く噛まれる。濡れた舌同士が触れ合う独特の感触に、下腹が重く疼いた。

つぅと糸を引いて、唇が離れる。

「……気にするな。お前ならばすぐに取り返すだろう」

意識を奪われたようにウィーネがアシュマを見上げると、ウィーネの顔をそっと撫で、うっとりとした表情で自分を眺める漆黒の悪魔の顔があった。……うっとり……? 本性を露にしているアシュマに……悪魔に、そんなジャンルの表情なんてあったかしら……と、ぼんやり見つめていると、悪魔がゆるりと口を開く。

「ウィーネ。……もう十分に回復したな」

「ん……」

終わった口付けにほっとすると同時に、もう少し触れ合いたい……という気持ちが沸いて動揺する。その気持ちを隠すように、アシュマの腹の上で身体を起こした。

「うん、もう平気。起きても平気。だから……」

ちょっと退いてください。……と、要求する前にアシュマが身体を起こした。ころんとアシュマの腕の中でバランスを崩し、横抱きにされて硬い太腿の上に座らされる。大きな手のひらがウィーネの髪を払って、指が頬に沈みこんだ。弾力を確認するように何度かふにふにとつつかれて、満足そうに頷く。

「お前が無事でよかった」

「は……はあ?」

アシュマの指の下で、ウィーネの頬が熱を持った。何を言っているのか。……突然、悪魔の姿でまるで人間の恋人に言うような言葉を吐いたアシュマに、ウィーネが瞳を丸くした。そうしたウィーネの反応など気に留めることなくアシュマは細い身体を引き寄せて、ばさりと羽をウィーネの背に回す。漆黒の身体に包み込まれたその中は温かくてやさしい感じがして、なぜだか鼓動が早くなった。

「ウィーネ・シエナ」

重低音の悪魔の声に呼ばれると、さらに心臓が跳ね上がった。鼓動を聞かれたくなくてあたふたしていたウィーネが、誤魔化すように身体を離す。手をアシュマの胸について、つっぱった。

「ああああ、あのっ、あの、アシュマっ……!」

「なんだ」

ウィーネの身体が腕の長さ分離れてしまったが、その腕を取られてアシュマの背に回される。

「あ、」

「ウィーネ、こうしていろ」

「いや、だから、その、……アシュマ!」

「ウィーネ、なんだ」

抱きついたような格好になったまま、ウィーネがアシュマを見ようと顔を上げる。

「あの、あ……ありがと」

アシュマが首をかしげた。

「ウァレンス先生のところから……助けてくれて、その……」

もごもごと言い訳をしながら顔を赤くするウィーネを、アシュマが黙って見下ろしている。

アシュマはウィーネを助けた。恐らくフラウの元から連れ出してくれて、魔力を与えてくれたのだ。ウィーネから魔力を求めずに。……そのことに気づいてから、ずっとウィーネの胸は落ち着かない。何の見返りも求めずにアシュマがウィーネを助ける。そんなことがあるのだろうか。……あるとしたら、どういう理由で?

「ま……りょくも、元に戻ってる、し……」

「……」

「だから……ありがとう」

「ほう」

アシュマがニヤリと口元を笑みの形に歪め、満足そうに瞳を細めた。「ああ」と、大きく頷くと、耳元に唇を寄せて甘くささやく。

「ウィーネ……褒美はもらえぬのか?」

「……は、褒美!?」

身体をこわばらせるウィーネを逃さぬように強く引き寄せて、アシュマがウィーネの顔を自分に向かせた。やっぱり糧が欲しいのか。しかし、その行為に糧とは別の欲望を感じて、あわてたように目を逸らす。

「魔力ならこの間、ショコラトルを作ってあげたじゃな……」

「魔力は要らぬ」

「え……?」

アシュマはウィーネの唇を指で拭うように押さえた。

「お前の」

「な、に?」

衝撃的な一言を放った。

 

「お前のここで、我のを咥えて欲しい」

 

「は?」

……。
……。
…………。
…………。

「ウィーネ?」

ウィーネが瞳を丸くする。やっと収まっていた顔色が、今度は耳まで赤くなった。

「な。なんですと?」

「お前の口で」

「はい」

「我のを、咥えよ」

「はい?」

はたと気がつくと、自分の下でアシュマのものが怒張していた。……常に無く張りつめていて、まったく別の生き物がそこに居るかのようだ。恐る恐る覗き込んでみる。どくどくと脈打っていて……いつも見ているはずなのに、いやに生々しい。

アシュマが横抱きにしているウィーネの手を掴み、自分のものに触れさせた。

悪魔のそれは圧倒的に大きい。もちろん、ウィーネには比較対象となるものがないのだが……よくこれが自分の中に入るものだとつくづく思うほど大きい。アシュマはウィーネの手を握りこませたまま、ゆっくりと上下させた。ウィーネの指が恐る恐る大きなつるりとした位置に触れると、は……と息を吐く。

「そう……これを、お前の口で、咥えるのだ」

「む、無理っ、絶対無理!」

思わずまじまじとアシュマのものを見ていたウィーネは、はっとした顔でぶんぶんと頭を振った。いったい何を言い出すのかアシュマは。悪魔の悪魔とも思えぬ発言にウィーネの黒い瞳が潤む。

「だって、アシュ、アシュマの大きいし……」

「お前の中に入るのだ。口とて無理ではなかろう」

「やったこと、ないからわかんないしっ……」

「我が、やって欲しいように導く」

「で、でも、やっぱり私の口じゃ……」

アシュマがウィーネの顎を取り、親指をその小さな唇の中に入れた。ずっと静かに笑っているが、決してやさしくない……むしろえげつない。

「何も全部挿れろとは言っていない」

「け、けど……」

「上を舐め、横を舐め、ついでの根元に舌を這わせればよい」

「ななななななに」

「褒美だろう」

「まってまってまって、魔力とかなら、……ほら、いつものように……」

「ほう、いつもは嫌がっているのに……?」

「だって、そんな、口とかでするよりも……」

「安心しろ。ウィーネ・シエナ」

ウィーネの指に自分の指を絡ませて、再び己の禊に手を触れさせる。上体をウィーネに近づけて、耳を咥えて吐息を含めて名前を呼んだ。人間のときの中低音の甘い声と異なり、低く重く掠れたような声はぞくぞくと身体の奥に響くようで、ウィーネは……この声に弱い。

「魔力は要らぬ」

 

魔力は要らぬ。お前からの褒美が欲しい。

 

その内容からはまったく想像のつかない恐ろしい声で、アシュマがなまのウィーネを求めた。背筋に戦慄が走る。その戦慄が、果たしてどういう類のものなのかウィーネには分からない。アシュマはウィーネの身体を自分の横に下ろすと、片方の手を掴んだ。

「我慢できぬ。お前が自らやらぬ……というなら、無理やりしてもかまわぬか……?」

「いや、そ……それはっ……」

「ほら、早く。……ウィーネ、待ちきれない」

「まって、ま……」

「ウィーネ……」

「ほ……ほんとにやるの……?」

「我は嘘や偽りなど求めぬ」

「……」

長い葛藤の後、ウィーネの身体がずりずりと……ためらいがちにアシュマの下半身へと降りていった。自分の腕ほどありそうなそれを手に持って、おそるおそる……唇で触れてみる。

「ああ……そうだ。そのまま舌を出せ……」

言われるがままに、ぺろり……と先端を舐めた。

****

「ん……」

少女が悪魔の黒い身体の下半身に張り付いて、懸命にそそり立った禊を舐めている。大きすぎて口の中には入らないのだろう。ごつごつとした形の側面に、ちろ……と舌を這わせて、吸い付くように唇で触れる。ちゅ……と音を立てて唇を離すと、大きく舐め上げた。

「は……ウィーネ。そうだ……」

こんなに大きいのに、自分が舐めたくらいで気持ちいいのだろうか。……というか、悪魔にそういう感覚があるのだろうか。そんな風に考えながら始めた行為だったが、舐め上げるたびにびくびくと動くアシュマと、どこか余裕の無い声を聞いていると、自分は何もされていないのに下腹部が熱くなった。

上までぞろりと舐め上げて、境目の大きく段になっているところに舌先で触れてみる。その段差をなぞるようにぐるりと舌を動かすと、熱いため息を吐いたアシュマがウィーネの耳に横髪を掛けた。ウィーネの身体は今どこも敏感になっているようで、時々アシュマが髪を撫でたり耳元に触れるだけで、下腹がぞくぞくとして思わずアシュマから唇を離してしまう。

「ウィーネ。もう一度咥えるのだ……」

「う……ん……」

かぽ……とウィーネがアシュマの先端を口に含んだ。ウィーネがちらりと視線を上げてみると、その様子を楽しげに意地悪く眺めているアシュマの赤い瞳が見え、あわてて視線をそらす。

「どうした。こちらを見ろ」

「……う……っ」

その言葉には従わない様子だ。……くっ……とアシュマが小さく笑う。

それは戯れに要求してみた「褒美」だった。もとよりアシュマがウィーネを助けるなど、己の心に従った「当然のこと」。それでも顔を真っ赤にして自分に礼を言ってきたウィーネは愛くるしかった。そのふっくらとした唇を蹂躙してみたらどうなるのだろう。そう考えると、もはや我慢が出来ない。

そうしてウィーネは今、自分の唇でアシュマに奉仕している。

入らないといいながら懸命に口に含み、どうすればいいのか分からないといいながら、拙くもアシュマの導きに従っている。ウィーネの口の中は温かく、這う舌は濡れていて心地よい。ウィーネの中に入れて存分に動かすときと異なり、もどかしいことこの上無い動きだったが、そんなことは関係なかった。ウィーネがこうして自分のものを咥えているところを見ているだけで、何故か興奮する。

「んっ……ん……」

アシュマが自分を掴んでいるウィーネの手の上から自分の手を重ね、ゆっくりと上下に動かすように指導する。

「んんっ……!」

くぷ、こぷ……と音がして、ウィーネの口の中から唾液が零れる。それが潤滑剤になって、動かす手に引っ掛かりがなくなり滑らかになった。動かしながら、ウィーネの舌が先端を這う。欲望を吐く箇所を見つけたのか、確認するようにそっと舌で突いて、包みこみ、ちゅる……と舐め上げた。教えてもいないのに、これはなんとも心地がいい。

「……は、あ……そうだ、ウィーネ。ああ……」

びく……とアシュマが反応したのが伝わったのか、ウィーネがその部分を執拗に攻め始めた。

我慢出来ない。

「ウィーネ。……少し我慢しろ」

「ん……ふっ……!?」

アシュマはウィーネの頭を押さえて、そのまま、ぐ……と腰を動かした。ウィーネの無理になるぎりぎりのところにまで進んで、引き抜き、また進む。激しくは無いが、そうやってウィーネの口で抽動する。動きに合わせてウィーネが入り込む側面を舌で受け入れた。

「あ、あふっ……はぅ……」

突然動き始めたアシュマにウィーネが戸惑ったように唇を緩めた。だが、ウィーネは離さなかった。何をしようとしているかも分かったけれど、なぜかその動きに合わせて舌を動かしてしまう。出来ないと思っていたのに、身体がついていく。嫌だと思っていたのに、最後までこうしていたい。自分の心境に混乱したまま、アシュマの動きを受け入れる。

「出すぞっ……くっ」

「……っ……んぅ……!」

口の中でアシュマの猛りがびくびくと脈動し一瞬膨らんだかと思うと、どくりと何かが吐き出された。とぷ、とぷ……と何度か大きく口の中に放たれ、口を離すことも出来ずにウィーネはそれを受け止めた。精が吐かれている間中、アシュマの手がずっとウィーネを撫でていて、少ししてそれが収まるとゆっくりと口が解放された。

「は、あ……」

引き出されるときに、とろん……と白濁が唇から零れ、それを見たアシュマがウィーネの顎をくい……と持ち上げる。

「んっ……!」

顎を持ち上げられた拍子に、口腔内の精がウィーネの喉に流し込まれた。思わずこくん……と咀嚼した様子に、アシュマが満足げに笑んでいる。

「よくがんばったな、ウィーネ」

「は……あ、……も、中に出す、とか。ひど……」

ひどいじゃない……と言おうとして、ウィーネの身体がアシュマの腕の中に囲われた。上を向かされ、水の入ったグラスを唇に当てられる。

「大丈夫か」

静かに流しいれられる水をおとなしく受け取って、残りは自分でこくこくと飲むと、喉に絡み付いた粘着質の液は流れ落ちてだいぶ楽になった。

「大丈夫じゃない……!」

唇を拭いながらアシュマを見上げると、熱のこもった赤い瞳が思いのほか近いところにあってどきりとする。グラスを取り上げられ、手首を掴まれると寝台の上にひっくり返された。いつのまにかアシュマが馬乗りになって、首筋に吸い付こうとしている。

「我の味がしたか……?」

「……そ、ん、なの、わかんないわよっ……!」

味、味……?
そんなの、無我夢中で分からなかった。もっとこう、不味いものかと思っていたけれど、悪魔のものだからなのか……思ったよりも平気だった。そもそも味とかを認識する前に、喉を通っていってしまった。ただ、喉がぎゅ……と熱くなったのは、あれに魔力が絡んでいたからだろう。

「お前のは、お前の味がする」

「え……あ……!」

ウィーネの太腿が抱えられ、足の間にアシュマの身体が降りてきた。今度は、アシュマの舌がウィーネに触れ始める。

「ああ、……もう濡れている。どうした。我のを咥えていただけなのに」

「ちが、う、ちがうし、ん……あ……」

否定しても溢れてくる蜜液を、アシュマがとろりと舐め取った。
魔力を絡めぬそれは、ウィーネの味がする。

****

悪魔らしくない……なんていうのはそもそも間違いだ。やさしい……なんて思ったのも間違い。やっぱりアシュマは悪魔だった。あれからアシュマはずっとウィーネを離してくれなかったのだ。

明日は学校に行くと言ったら、分かった激しくしない……と言って、ゆっくりゆっくり長い時間を掛けてウィーネを揺らすという悪魔っぷり。その間に何度もじっくりとした濃厚な重さで高みへと連れて行かれ、やっとアシュマが離れた……と思ったら、やんわりと抱き寄せられて、それからは覚えていない。どうやら朝までウィーネはぐっすりと眠ってしまっていたようだった。

いずれにしても、ウィーネの使い魔、アーシュムデウ・アクィナス・ラクシュリアスは、召喚主からの「ご褒美」にすっかり満足をして味を占めた様子だ。そうして、アシュマはウィーネが自分の魔力取り戻してからも、度々、魔力を伴わない「褒美」を欲しがった。

ウィーネの悩みに「顎の筋肉痛」が加わった。