誘う悪魔と召喚主

016.だって、アシュマは

年が明け、魔術学校に戻る日が来た。

シエナ家での日常は思ったよりも普通に流れていった。アシュマはどうやっているのか、人外の魔力を感じさせることなく過ごしている。2人が一緒に過ごす時は、どうやらウィーネの魔力を使って結界やら何やらを構築しているようで、……最後まで父親のウィウスにはバレていないようだと、ウィーネはホッとした。

1人で荷物をまとめていると、母親のファティネがウィーネの部屋にやってきた。手作りのお菓子を始め、あれやこれやとお土産を持たせながら楽しげにウィーネを見遣る。

「ウィーネ、あのアシュマール君って子、とってもいい子ね」

「はあ? どこが?」

「どこが? ってウィーネったら。……だって、あの子、ウィーネの用事を全部先回りしてやってしまうのだもの。よくウィーネを見ているのだと思うわ」

「私の? 用事?」

「そうよ。私がウィーネに用事を頼もうかなってあなたを探していると、すぐにやってきて用事を取り上げてしまうの」

「で、でもそのあと、私を呼び出すじゃない」

「もともとあなたへの仕事だもの。一緒にやってくれたのでしょう」

「そ……それは……」

「いつもあなたにべったりで。ほんっと、かわいい」

「か、か、かわいいっ!?」

くすくすとファティネが笑った。アシュマは休みの間中、ウィーネと一緒に居た。……よく考えてみれば、ウィーネへの用事はなぜかアシュマ伝手に言いつけられたし、……まさか、それはアシュマが先回りしていたのだろうか。それにしても、アシュマの様子をファティネから見れば「かわいい」……になるらしい。家の中で一番怖い人は父のウィウスだったが、一番恐るべきなのは母のファティネだと思った。

「ちゃんと、素直に、お礼を言うのよ」

「えっ」

「女の子はちょっとくらいわがままな方がいいけど」

荷物を詰め終わり立ち上がったウィーネの首に、新しいふかふかのマフラーを掛けてくれた。

「女の子はちゃんと笑わないとダメなのよ」

もふっ……! とマフラーの形を整えて、ファティネはウィーネの頭を撫でた。

****

「……別にっ、また来たら一緒に勉強してやってもいーぜ!!」

「また来い」

「てめー!! とりあえずウィーネに変な虫寄りつかせんじゃねーぞ、お前含めて!!」

……などと兄弟達に言われながら、アシュマはウィーネと共にシエナ家を後にした。最初の2つはなんとなく分かるが、最後の「変な虫」の意味がよく分からなかった。ウィーネは虫が嫌いだから、夏は気をつけろという意味だろうか。アシュマが真顔で頷いていると、母親のファティネがにこやかに笑って「ウィーネはちょっと分かり難い子だけどよろしくね」……と、これまたよく分からないことを言っていた。数日共に過ごして気付いたが、ファティネはウィーネによく似ている。

最後にウィウス・シエナがアシュマを呼び止めた。ウィウスは相変わらず人の良さそうな笑顔で、顎を撫でながら言った。

「君は闇の魔力の持ち主なんだな」

「……そうですが、何か」

「娘もなんだよ。珍しいだろう」

「……知っています」

アシュマは瞳を鋭く細めた。ウィウスもにこにこと笑いながらも、油断ならない気配を纏う。

シエナ家で一番よく分からなかったのがファティネだったが、一番油断ならなかったのがウィウスだった。田舎のこじんまりとした屋敷には、魔術学校でもこれほどは……というほど上質の魔法装置が設置されていた。魔力の計測から始まり、探知、捕捉、捕獲、攻撃、それも全て緻密で、家のどこにも死角が無い。それら全てが、ウィウスの手に寄るものだ。無論、アシュマにとってそれらをただ誤魔化すことは容易なことだった。しかし、全ての魔法措置を止めるとか、魔法を書き変えるとか……そういったことをすれば、己の存在が知られてしまうだろう。だから、闇の魔力の全てを内側に抑えて、魔力を一切感じられないようにしていたのだ。

それでも欲望に任せて本性を現した時は、常よりもふんだんに取り込んだウィーネの魔力を使った。離れ全体にウィーネの魔力で結界を張り巡らせ、ウィーネの部屋にもウィーネの魔力を残す。それだけの仕事をウィーネの魔力だけで施した。結界の内側でアシュマの魔力を存分に注いだが、さぞかしウィーネは疲れたはずだ。

一応気を使ったが、アシュマの魔力がウィーネに残留し、それがウィウスに知られてしまった可能性はある。

だからと言って、いまさらどうこうするつもりは無かった。ウィーネをどうにかしようとしたところで、絶対にアシュマの手から彼女は奪えないのだから。

そう思っていたが、ウィウスはまったく関係ないことを言った。

「純粋な魔力というのは、よくも悪しくも利用されやすいものでね」

「……」

「そうしたこともあって、自らの力の使い方を知っておくべき、と……魔術学校を許したのだが」

「……どういう意味でしょう」

「ウィーネのことを、これからもよろしく頼むよ」

何を?

……そう思ったが、アシュマは頷いた。もしウィーネが危険に晒されないようにというのならば当然のことだ。人間ごときに命じられるまでもない。世話をしろという意味ならば、ウィーネは嫌がるだろうがいくらでもするだろう。……ただし、褒美や糧は要求する。

アシュマは丁寧に微笑んだ。

「こちらこそ」

しかし悪魔がそばに居る以上に危険があるというならば、一体何が危険なのだろうか。

****

街の外れ、丁度転送装置の施設があるすぐ近くに、古い聖堂があった。

建造物としての歴史だけはあるが、凝った意匠や特別な建築様式というわけではない。聖人に祈る習慣を持っている人々が通う、どこにでもある祈りの建物だ。この建物にはシンボルになる2つの塔があり、1つは景色を楽しむために民に解放されていた。ただ、階段も古く魔法の昇降機が付いている訳ではないその塔に登る者は少なく、小さな街ではこうした名所もどことなく廃れてしまっている。

その塔の最上階に、少女と青年がふわりと姿を現した。

「な、に、ここ。さむっ……!」

少女がきょろきょろと周囲を見渡して、自分の身体を抱き締めるようにした。共に居た褐色の肌の青年が、少女を後ろから引き寄せる。

「ここ、……聖堂の一番上!?」

「そうらしいな」

吹き付ける風は冷たかったが、アシュマは周囲に結界を張らずにウィーネを抱き寄せるに留めた。他に誰もいないこともあり、離れると寒いからかウィーネはアシュマに囲われていても文句を言わない。それよりも目の前に広がる眺望に瞳を輝かせ、アシュマの腕の中で「うわぁ」と感嘆の声を上げた。

ウィーネとアシュマは結局マクセンの営む菓子屋に寄った。そこでマクセンと、マクセンの妻レリアと、2人の間に生まれた赤ん坊に会ったのだ。ウィーネは思ったよりも全然平気で、気構えてた自分が馬鹿みたいだった。赤ん坊のほっぺたをふにふにと突いてみたら「んあ」と笑った顔がとても可愛い。でも一番おかしかったのは、アシュマがひょいと覗き込んだら、その顔を見た赤ん坊が大泣きしたことだ。赤ん坊にはちょっとかわいそうだったけれど、アシュマの憮然とした顔が見られたのが新鮮だった。

その帰り道……というよりも、転送装置の施設へと向かう途中でアシュマに路地裏に引っ張り込まれたのだ。何するの!……と抗議する前に、魔力を感じる。転送の魔力だと理解した次の瞬間には、塔の上に居た。

思わず目の前の景色に眼を奪われた。魔術学校のバルコニーの方がよほど高いし立派だが、こじんまりとした街が一望できる眺めは素晴らしくて……懐かしい。

一度だけ、兄2人とマクセンに連れてきてもらったことがある。一生懸命階段を登ったが男の子3人の体力にはとても叶わず、途中で何度も休んでしまった。フィンティは帰るかおんぶかと騒いでいて、マグネティは心配そうにおろおろしていた。マクセンはがんばっていこう……と手を引いてくれて、最後まで登りきった思い出の場所だ。あれから1度も来ていない。

「でも、どうして?」

アシュマが自分をここに連れてきたのだろう。

ウィーネはアシュマを振り返って首を傾げた。その丸くなった瞳を見下ろしながら、アシュマはウィーネのマフラーを直してやる。

―――― もし時間があるなら、ウィーネと一緒に聖堂のバルコニーまで登ってごらん。

菓子屋に寄ったとき、赤ん坊を構っているウィーネを少し離れたところで見ていた。その時、マクセンに耳打ちされたのだ。どういう意味だと思ったが、不機嫌そうな視線を気にする様子もなく、マクセンは無邪気に笑った。

―――― 階段が長いからウィーネは少し疲れてしまうかもしれないけど、彼氏と一緒なら頑張るだろう?

階段が長ければアシュマが一気に連れて行けばいい。そう思ったがもちろん口にはしなかった。代わりに「登ったら何かあるのか?」と聞いたら「恋人たちが登るものだって言われているんだよ」……と返される。自分達も結婚する前は登ったんだと続ける言葉を聞き流しながら、アシュマは窓の外に見える聖堂の塔を眺めた

―――― 寒いからあったかくして行くんだよ。

そう言って、マクセンはウィーネとアシュマを見送った。

ウィーネはアシュマとマクセンの会話を知らない。だから、なぜアシュマがこの場所を知っているのか不思議に思うのだろう。いつも生意気なことを言ってはアシュマに抵抗しているくせに、今はきょとんとした無防備な表情で体重を預けてくる。今一緒にいるのがアシュマだからよかったが、他の男とは一緒にさせられない。アシュマはなぜかそんなことを思った。

「ねえ、どうしてここ知ってるの? 登れるって」

「気になるか」

「べ、つにっ」

アシュマが耳元で囁くと、ウィーネは顔を赤らめて視線を逸らした。くすぐったそうに身じろぎをして避ける。逃げる様子もまた楽しいのでわざと腕を緩めると、案の定ウィーネはアシュマの手を逃れて手すりまで走って行った。アシュマは風を避けるようにウィーネの背中に寄りそう。

「ウィーネ」

「な、なにっ……」

「あれを見ろ。転送装置が光っている」

「あ、ほんとだ」

時折、ひらりと転送の装置が光っている。魔法を帯びて誰かを運んでいる証拠だ。こうした小さな田舎町に不似合いな華やかさで転送装置が光る。色が付いているのは、装置を使っている人の魔力の色だ。水なら青、炎なら赤……。その様子を上から見たのは初めてで、ウィーネは思わず身を乗り出した。

「見て、今度は色が混じった」

「あまり身を乗り出すな」

「ねえ、やっぱり連れてきてくれてありがと。すごく綺麗ね」

ウィーネはアシュマの話を聞いておらず、景色に魅せられて声を弾ませた。振り向いて、ぱっ……と笑う。

「……」

その顔を見て、アシュマの動きが止まった。しばしの間にこりともせずにウィーネを見つめていて、不自然な沈黙が流れる。

「アシュマ?」

自分が思いきり笑ってお礼を言ったことは意識していないのか、途端にうさんくさそうなものを見る目つきでウィーネがアシュマを見上げると、持ち上がった顎と唇がぱくりと食まれた。すぐに離れる。

「何するのよ!」

真っ赤になったウィーネを楽しげに見やり、意地悪な声でアシュマが言い聞かせる。

「あの時は、自分からこうしてきただろう」

「あ、あれは……」

「覚えているのか」

「おぼえて、ない」

嘘だな……とアシュマにはすぐに分かったが、恥らう様子が愛らしく追求はしなかった。

ウィーネはアシュマの視線から逃れるようにそっぽを向く。

あの時、こうした……というのは、ウィーネからアシュマに対してキスしたことに違いない。ウィーネは「覚えていない」と言ってみたものの、実のところ、覚えていた。あの時はアシュマが足りない足りないというから、何が足りないのだろうとぼんやり考えて、魔力をあげたつもりだった。眠くて仕方が無く、その後のことは覚えていない。それをこんな風に甘く追い掛けられると、極めて恥ずかしいことをしでかしてしまったような気持ちになる。

ウィーネがアシュマを少しずつ押しのけて離れようとしたが許されず、耳元を熱い吐息が追いかけて、もう一撃投げかけられた。

「ここには恋人同士が来るのだろう。マクセンが言っていた」

「は?」

「ウィーネ、お前は我と一緒にここに来ているな」

「な、なな」

「恋人とやらになってやろうか、ウィーネ」

はあああああぁぁぁぁぁ!?

ウィーネは耳まで赤くなり、顔から湯気が出そうなほどだ。心なしか鼻息も荒くなってしまい、口がぱくぱくと開く。

「な、な、何言ってんのよ……!!」

ばっ! と腕を突っ張ってアシュマから離れたが、その腕を掴んでアシュマは自分に引き寄せた。ウィーネの身体がアシュマの胸に飛び込み、腕が背中に誘導される。今は人の肌のアシュマの首筋が目の前で、悪魔の仮初の姿と知っていてもウィーネの心臓は激しく音を鳴らす。

なんでこんな悪魔相手に自分の心臓はドキドキするのか。

それを隠すようにウィーネはまくし立てた。

「だ、て。だって、だって、アシュマは」

「ん?」

「アシュマは私の使い魔でしょう!」

アシュマは自分の使い魔なのだ。誰がなんと言ってもそうなのだ。いつも「お前は我の召喚主」だって言うくせに、ウィーネが困った顔をするのが面白がって意地悪なことばっかり言うくせに、それなのに「恋人」なんて言うの止めて欲しい。声を荒げたウィーネに、アシュマはくく……と喉を鳴らして笑った。

「そうだ、ウィーネ。お前は我が召喚主だ」

その言葉に微妙な表情を見せたウィーネの頬に、アシュマはやさしく触れる。

そう。ウィーネは自分の召喚主なのだ。人間どものよく言う「恋人」などというあやふやで、曖昧な関係ではない。どちらかの身が滅びるまで関わりあう「使い魔と召喚主」という関係だ。例えウィーネが離れたいと思っても、アシュマは離すつもりなどないし、離れる事は許されない。そうして、共にいる限り求め合う。それは恋人などよりももっと深く、もっと甘い関係ではないか。

アシュマはウィーネが抗えないように、そうっと緩めに腕を回した。思った通り身体の力が抜けてしまったウィーネの顎を掴んで上を向かせる。

まるで恋人同士のように唇が重なった。





冬休みが明けて一日目は授業は無く、午後の早い時間にアシュマとウィーネは図書室の一番奥の書庫に居た。もちろん本を選びに来たウィーネが、アシュマに邪魔されているのである。

本棚を見ていたウィーネは、いつものようにアシュマに後ろから抱き寄せられ、いつものように暴れていた。

「もう、離して! 本を読むのだから邪魔しないでよ!」

「ここは書庫だぞウィーネ、静かにしたらどうだ」

「……アシュマが触ってくるからでしょう!」

「我がお前に触れて何が悪い」

いつものようにふんぞり返ってウィーネに主張し、いつものように抱き寄せる腕を少しだけ緩めた。強張っていたウィーネの肩から力が抜け、む……としながらも諦めて、アシュマを背中に下げたまま本棚を再び見上げる。

「大体休暇の間もずっと勉強していたではないか。今更何を読むというのだ」

「別に何を読んだっていいでしょう」

「ならば、別に我がお前にどうこうしようといいだろう」

よくない、同列に考えないで!……と言おうとしたが、出てきた休暇の話題にふと疑問に思っていたことを口にする。

「アシュマって」

「何だ」

「アシュマの実家って、……あの、闇の界、なの?」

ウィーネの質問に、にやりと笑っていたアシュマの表情が消えた。どことなく変な生き物を見るような目つきでウィーネを見下ろし、そうしたいつもとは異なる視線にウィーネがきょとんと首を傾げる。

「どうしたの?」

「我にそうした質問をするのはお前くらいのものだ」

「なにそれ」

からかわれたと思ったのか、ウィーネは唇を尖らせて頬を膨らませた。アシュマはちょんとその頬をつつくと、ウィーネを離して腕を組む。

「闇の界に行ってみたいか?」

「え?」

「我の力であれば、お前を闇の界に連れて行くことができる」

「……そ、そんなの」

闇の界に行く。……魔術学校の生徒で魔法使いで闇の力の持ち主のウィーネに、それはとても魅力的なことのように思えた。召喚によって闇の界の生き物をこちらに呼び寄せることは可能だが、人間の力で闇の界に出向く事は不可能であるとされている。死んで魂だけの状態になれば自由に界を渡ることが出来るというが、死んでしまった後の事が生きている人間に分かるはずも無い。闇の力の源たる界……行きましたと大手を振って報告する事はできないけれど、ウィーネの知識欲を満たす事はできそうだ。

「どうする」

「無事に戻ってこられるの?」

「お前が望めば」

行ってみたい。アシュマは上位2位の魔だというから、そばにいれば安全だろうか。……と考えて、ならばもし上位1位の魔に出会ってしまったらどうなるのだろうと思い至った。

「ねえ、アシュマは上位2位の魔なのでしょう?」

「そうだ」

「ならば、上位1位の魔もいるの?」

ニヤニヤ笑っていたアシュマが、途端に顔をしかめた。なぜか不機嫌そうな顔になる。

「会いたいのか」

「いや、会うのは怖いけど、……いるのか、って聞いただけで。っていうかなんでそんなに怒っているのよ」

「別に怒ってはいない」

ふん……とアシュマは唸った。

「やっぱり連れて行くのは止めた」

「えっ?」

面白くなさそうに言われて、面白くないのはウィーネだ。連れて行かないと言われると、行きたくなるのが心情というものだ。「えー」……と不服そうにウィーネがアシュマに視線を向けた。

「何だ」

「ねえ、行ってみたい」

「……」

「連れてってくれるって言ったじゃない」

むむぅ……と可愛らしく拗ねた顔を見せるウィーネの顔を、眉間に皺を寄せたアシュマが見つめる。しばしの間無言の睨み合いが続いたが、やがて、悪魔が低い声で応じた。

「……まあ、よかろう」

「本当に?」

期待に満ちたウィーネの声には答えは返って来ない。代わりに背中を抱き寄せられる。背後からみしみしと軋むような音が聞こえ始め、本棚に映る影から羽が伸びた。自分の身体にまわされている腕を見ると、そこは制服の袖ではなく鋼のような黒い肌で、血色の文様が走っている。背中に感じる胸板は常よりも厚く、今まで髪の側にあった吐息が上に離れた。

悪魔の本性を現した使い魔は、召喚主の身体を軽々と抱えて自分の腕に乗せた。

紅の筋を残す鋭い眼光がウィーネの顔を覗き込み、黒い瞳に好奇心と不安が混じり合っていることを確認する。

「何も怖い事は無いウィーネ」

重く掠れるように響く悪魔の声で囁くと、アシュマはウィーネの頬に口付けて、ばさりと羽を震わせた。

闇の魔力が膨らんだのは一瞬で、誰にも気付かれること無く、書庫から2人の生徒の影が消えた。