【閑話】

寒がり悪魔と召喚主

冬の最後の寒さが堪える午後、教室から寮に戻ったウィーネの元に荷物が届いていた。

どうやら実家からのようだ。

「なんだろ」

水を入れたケトルを温熱の魔法陣の上に置き、ウィーネは荷物を抱えて寝台に座った。紐を解き、乾いた紙の匂いを嗅ぎながらガサゴソと包みを開くと、そこにはあたたかそうな毛糸の何かしらと、いくつかの素朴な焼菓子、お湯に溶かしたらスープや飲み物が出来る粉、そして小さな手紙が添えてあった。文字はどうやら、母親からのようだ。

 

首都で流行っている温かい飲み物と、それからマクセンが作った新作のお菓子を送るわね。
アグリア君と喧嘩しないように仲良く分けて食べなさい。
そちらは寒くない? こちらはとても寒いわよ。雪は全然溶けそうにありません。
お父様が自動編み物魔法機械を作ったので靴下を編んでみたの。
2足いれておくから、アグリア君に1足あげてもいいわよ。

 

見ると、薄黄色と薄桃色のもこもこ靴下が一緒に包まれていた。

靴下はもこもこに起毛した毛糸で編まれていて、案外綺麗な形をしている。売っている靴下と遜色無い程の出来映えで、あの父親が発明した道具で作ったにしては上手に出来てるなと感心した。

ウィーネは手紙を読みながら重い冬用のジャケットを脱ぎ、学校指定の靴下も脱いで、さっそくもこもこ靴下に履き替えてみた。

「わ、あったかい」

ふかふかしたものって、すごく安心するし、冬の冷たい空気にもこもことした靴下であたたまる身体は心地よい。1足はアシュマに……なんてとんでもない。薄い黄色も薄い桃色もどう考えても可愛い色で、そもそもこれがアシュマに似合うとは思えない。自分で履こ。ウィーネは1足を大切に仕舞うと、1足を履いたままマクセンの新作だというお菓子を開けてみた。

しゅんしゅんとお湯の沸く音が聞こえる。

魔法陣の上に置いていたケトルが水蒸気を噴いて、ちょうど良い頃合いにお湯が沸いたと伝えている。ウィーネは包み紙の中から香花ヤスミン茶の粉を取り出し、マグカップに入れた。上からお湯を注ぐと粉が溶けて、飲み物が楽しめるという仕掛けだ。手軽に本格的な飲み物を楽しめるこの粉は学校にも街にも売っているが、送ってきたものは、母親が兄に頼んで首都の有名な銘柄を大量買いしているものだった。

他にもミルクティーや珈琲の粉が入っている。珈琲はアシュマが飲むかな……と思わずもう一つのマグカップにあけてしまって、ウィーネは顔をしかめた。それでもあけてしまったものは仕方が無く、そちらにもお湯を注ぐ。アシュマは今は部屋には居ないけれど。

マクセンからの焼き菓子は卵ボーロだ。ウィーネはアシュマのマグカップを勉強机に置いたまま、自分は寝台に登って重ねている背もたれのクッションに背中を預けてくつろいだ。制服をまだ着替えていないが、急ぐことは無いだろう。お菓子の袋を開けて一個口に放り込む。色気の無い見た目とは正反対の繊細でしっとりとした歯ごたえに、ウィーネの顔が綻んだ。

「あ、おいし……」

「それは、あのマクセンとやらの男の作ったものか」

「ゲホッ……!!」

急に話しかけられてボーロが喉に飛び込んだ。寝台の横には勉強机にお行儀悪く腰を下ろして、ウィーネが入れた珈琲を飲んでいるアシュマがいる。アシュマは机から降りると寝台に移動し、咳をするウィーネの背中に手を回した。

「何をやっている」

「きゅ、急に話しかけるから……っ」

思わずアシュマの手を払い退けて、顔色を見られないようにぷいと横を向く。珈琲を勝手に飲まないでよと言いそうになったが、そもそもマグカップはアシュマのもので、アシュマのマグカップを部屋に置いていること自体に納得がいかなくて口を閉ざした。

アシュマはマグカップを寝台のサイドテーブルに置いて、ごそごそと隣にやってきた。ウィーネが狭いといっても無視し、一人シングルサイズの寝台の上で、ウィーネと無理矢理並ぶ。

「あの男の作ったものなど、軽々しく口にするな」

不機嫌そうにそう言って、アシュマはウィーネの持っているお菓子の袋を取り上げる。マクセンというのは、ウィーネの「ハツコイ」の相手だということを、アシュマは知っている。一度会ったとき、ウィーネがマクセンに向けるほろ甘い、アシュマに向けるものとは全く別種の魔力を感じ取り、苦々しく思ったものだ。

「ちょっと、手を出さないってやくそ、約束したじゃない」

そうしてこれもまた、苦々しいことに、ウィーネはマクセンのことを契約を利用して庇おうとしたのである。いつもは使役も糧も嫌がるくせに、悪魔が「マクセンには手を出さない」ということを約束させた。糧は狂おしく素晴らしいものだったが、そのようなつまらぬことのためにウィーネが糧の交換に応じたことは腹立たしい。

「そうだな、約束した」

糧として、ウィーネの魔力を味わうためにその身体を愛でた。

暗にその意味を含ませると、ウィーネの顔が赤くなる。ウィーネが黙って菓子の袋をアシュマの手から抜き取ったが特に咎めず、ふん……と息を吐き、ウィーネの手に移ったお菓子の袋から卵ボーロを一つ、奪い取った。ウィーネが「あ」と言う間に、ウィーネの口にそれを捻り込む。

「むぐ」

指を突っ込まれて慌てて引き離そうとしたが、ボーロが口の中にあって上手くいかない。なんとか先にそちらを咀嚼しようとすると、計らずもアシュマの指に舌を絡めてしまう。うぐうぐと言いながらお菓子を飲み込んでも、いまだ指を口に入れたままのアシュマの腕を掴んで、無理矢理引き離した。

「もう!何するのよ!」

「別に、何もしていないではないか」

アシュマはウィーネの口に入れた指先を舐めながら、そんな妖艶なことをしているにも関わらず、不機嫌な声だ。

アシュマの行動は不可解だが、今日はいつにもまして不可解だった。しかし悪魔自身にも自分がなぜここまで不可解な感情を抱えているのか説明がつかない。

「ウィーネ、怒ったのか」

そっぽを向いてしまったウィーネの手が持っている袋から、焼き菓子をもう一つ取り出す。今度はウィーネの口にではなく、アシュマは自分の口に入れた。別段美味くも不味くもなく、先ほどのウィーネの口に入れた指先の方が美味だと感じながら、テーブルに置いてあったウィーネの分のマグカップを渡してやる。

「別に、怒ってない」

ウィーネはおとなしくマグカップを受け取って、中に入っているお茶で手の平を温めた。アシュマが少し顔を寄せると、珍しい香花茶の香りの向こうに、ウィーネの魔力を感じる。確かにそれはさほど不機嫌でもなければ、怒ってもいない。いつものならば、ぷりぷりと怒るくせに。

少女がどんな時に怒り、どんな時に悲しみ、どんな時に機嫌がよくなるのか悪魔には分からない。

はふ、と隣に座っている少女が息を吐く。マグカップから唇を離した隙を狙って、ウィーネの顎に指で触れた。

「ウィーネ」

急に触れられ、驚いたウィーネの瞳が丸くなる。アシュマの紅茶色が近付いて、思わずぎゅっと目を閉じると、唇と唇が重なった。

一度、二度、上唇を噛まれて我に返る。しかし、手にマグカップを持っているから激しく抵抗も出来ないで、そして、まるで恋人同士がするみたいに不自然でない流れで触れて、ウィーネにはそれを避けることも出来なかった。どうしてだか分からない。いつもなら「やめて」と顔を背けるのに、そんな気持ちにならなかった。

アシュマの手がウィーネのマグカップを取り上げて、もう一度頬に触れる。

冬だからかもしれない。

触れるか触れないかほどに近付いた体温は温かく心地がよくて、触れ合った唇を受け入れてしまう。アシュマの手がウィーネの首筋を支え、ウィーネの手がアシュマの髪に触れた。なぜ手を伸ばしてしまったのかは分からない。抗おうとしたのかもしれないし、そうでないのかもしれない。ともかく、ウィーネの指先がアシュマの髪を梳いたとき、その指先の動きを受け取ったアシュマは一度唇を緩めると、再び手に力を込めた。

その途端、ウィーネが我に返るがもう遅い。

ウィーネの指先は細く何の力も無いのに、アシュマの赤い髪を梳き、その指の動きが耳を掠めただけで、アシュマの魔力を震えさせる。

それまで軽く重なっていただけの唇が少し開き、強引な舌がウィーネに触れる。まだ開いていないウィーネの唇をなぞり、優しくこじ開けようと動き始めた。

「ん」とウィーネの喉が鳴る。

強引ではあるが、緩慢な動きでアシュマの舌がウィーネの口腔内に到達した。

アシュマの大きな手がウィーネの頭を抱え、もう片方の手が喉元をそっとさする。思わずウィーネがこくんと咀嚼すると、その隙を逃さぬようにアシュマの逞しい指先がウィーネの顎のラインをくすぐり、唇を閉ざさぬようさらに口付けが深くなる。

探られているのはウィーネの口内なのに、なぜかアシュマの体温の中に居るように感じる。アシュマは今は人間で、触れ合うそれもまた人間の温もりに近い。そのアシュマの舌がウィーネの舌にぺたりと重なり、形を確かめるようにぐるりと動かされる。ウィーネがそれを避けようとしても逆効果で、逃げる動きに合わせてアシュマが絡み付いた。

「ふ、あ……」

少し唇を緩めると、出来た隙間から、つう……と銀糸が溢れた。溢れたそれはウィーネの顎を伝っていく。いつのまにか身体はクッションに埋もれるように沈み込み、気が付くとウィーネはアシュマの下に居た。

急にアシュマの体重を感じてウィーネが手を離す。だが、アシュマはその手を掴んで再び自分の頭に回させた。

「我に触れていろ」

そう言って、悪魔は少女の身体に手を伸ばす。

****

ウィーネに乗ったまま、身体の下にある邪魔なブラウスのボタンに手をかける。ひとつ、ふたつ、……みっつ外すと、下着が覗き、全て脱がせる時間が惜しくて唇を触れさせた。もったいぶることなく一番ウィーネが反応する先端を咥え、大きく舌で転がせば、途端にウィーネの身体がびくついて、アシュマの手に力がこもる。アシュマ自身が愉悦を感じているわけではないのに、ウィーネの反応を感じると、身体の中心が激しく疼く。

そのまま舐めていると徐々に立ち上がり、感触が変わっていくのを楽しみながら、残りのボタンを器用に外していく。ウィーネの小さな声が、アシュマの舌の動きに合わせて上がった。

アシュマの舌が触れる度、ウィーネの身体は痺れるような感覚に捕われる。きつくするどいようで、優しくやわい。ぞくぞくと下腹に何か甘いものが込み上げて、力が入るが身体が動かない。

いや、動くのだけれど……それは意図して動くのではない。びくびくと、まるで捕われた魚のように跳ねてしまう。

ブラウスのボタンが全て外され、下着の留め具がぷつんと離れた。胸の膨らみを支えていた窮屈さが外れ、今度こそ自由にアシュマの手の中に柔らかみが零れ落ちる。片方はアシュマの舌が、もう片方は指先が、少しずつ硬くなっていく桃色の先端を弾き、ウィーネの下腹をとくとくと疼かせた。

時折唇を離しては、アシュマはウィーネの胸の膨らみに歯を立てた。もちろん噛み付くというほどではない。しかし赤い痕を付けては、歯が微かに胸の柔らかみに沈み込む様子を確認する。魔力を味わうのではない、柔らかでウィーネ自身の香りと肌を感じ取る作業は悪魔を夢中にさせた。

「あ、あ……アシュマ、やめて、やめ……」

「もう、遅い」

もう遅い。ウィーネが抵抗する、もしくはそれと気が付くには遅過ぎた。冬の寒さと体温の温もりに、少しだけ油断をしてしまう。そう、少しだけ、ほんの少しの油断がこんな甘い結果を生んだ。だが、口付けを交わした時に激しく拒絶していたら、こんな風にはならなかったというのだろうか。そんなわけがなかった。悪魔は己の欲望を必ず果たし、人間の少女程度の力でそれは抗えない。

だが、これは悪魔が欲望を満たそうとしている行為であるはずなのに、それだけとは思えない何かを感じる。それが何かを両者が理解する前に、アシュマの行為はもっと深く、甘くなって溺れていく。

「やぅ、ま、まって、あ」

アシュマの手がウィーネの太ももに触れて、足と足の付け根に到達した。ゆっくりと下着越しに裂け目を探って確認すると、下着を少しずらして指を侵入させる。

それまで随分と熱心に胸に触れていたからか、ウィーネのその部分は既に潤んでいた。数度指を往復させてその潤みを確認すると、下着の紐を解く。スカートの中で全てを露わにし、アシュマの長い指がじわじわと沈み込み始めた。

「ああ、ウィーネ……あたたかく、濡れている」

「や、も、言わないで、やめて、はなし、離してよう……」

「離す訳がなかろう。我が、お前を」

出来ればずっと繋げていたいくらいなのに。……魔力を? いや、それだけではない……。

ひく、とウィーネの膣内なかが動く。

アシュマが指先を曲げて引っ掻くように動かすと、太ももをなんとか閉じようと力を込めた。しかし余計に中が狭くなり、擦れ合う面積が広くなる。いつのまにか指を2本挿れて、秘部を手で包み込むようにくちゃりくちゃりと動かし始めた。

アシュマの手が秘所の蕾を圧し潰して擦り、ウィーネの背中に力がこもる。アシュマはウィーネの背中に片方の腕を回してその身体を抱き締めた。腕の中でくしゃくしゃに乱れたブラウスが、動く度にウィーネの肌を露出させていく。

胸を触れられて蓄積されていた下腹の愉悦が、直接触れられて溢れるのはすぐだった。耐えようと力を入れれば奥が締まり、何も感じないよう力を抜こうとしても、何度も与えられている愉悦はウィーネの意図に反して身体が覚えてしまっている。

「ウィーネ、ほら」

「あっ、いや……っ」

「我慢など、やめてしまえ。……ウィーネ」

言ってそっと耳に噛み付くと、ウィーネの身体が大きく反応してアシュマの指を何度も締め付けた。収縮する中を感じながらアシュマは指を引き抜くと、スカートの留め具を外して引き下ろす。

「何するの、なにっ、……をっ、ま」

「いつもしていることを、してやろう」

「やだ、やっ」

アシュマはウィーネの太ももを開かせると、先ほどまで指を入れていた場所に今度は唇で触れた。雫を舐めとるようにゆっくりと舌を上下させ、悪魔の……長い舌を触手のように侵入させる。

太ももに髪が触れ、否応も無く、アシュマの頭がそこにあることを意識してしまう。指がウィーネの花弁を押し開き、少しずらすように小さな膨らみをゆっくりと撫で、舌は花弁の入り口を一枚一枚丁寧に捲っては不意に奥に差し込まれる。ウィーネからは抵抗の声が静まって、視界の端に寝台のシーツを握りしめて白くなった指先が映った。

ウィーネは高鳴っていく感覚を追い掛けないように目をぎゅっと閉じて堪えていたが、堪えるウィーネに焦れたようにアシュマが唇を離して再び指をねじ込んだ。

「い……あっ……」

焦れったい感触が急に指の硬さに変わり、ウィーネの感覚を後押しする。そうして、まるで愛おしい場所のようにアシュマの舌が、今度は花芽に触れ始めた。指と舌の場所が入れ変わり、感触も変わって激しさが増す。感じないようにと我慢していたということは、それだけの感覚をアシュマから与えられていたということで、ほんの僅かな動きで、再びそれが決壊した。

「あっ、……あ、……!」

びくん……とウィーネの身体が揺れて、再び達したことをアシュマに知らせる。達する瞬間の顔を見たいが、その瞬間の身体を抱き締めたい衝動にも、また、駆られた。

指を入れたまま、びくびくと震えるウィーネの身体をぎゅっと抱き締めて、その揺れが収まるのに合わせて指を抜く。

そんな時、ウィーネはアシュマに抵抗出来なくなる。

どうしようもなく、アシュマの身体を抱き締めたくなるのだ。

しかし、下半身に生々しい硬さを感じて、すぐにそんな甘い思いを振り払った。他の身体のどの部分とも全く異なるその硬さの正体を、ウィーネはいやになるほど知っている。いつもは悪魔の本性を現すくせに、アシュマはウィーネから身体を離してニヤリと笑うと、着ているシャツのボタンを窮屈そうに外してゆるめて、順に服を脱ぎ捨てた。

その隙に逃げたかったが、アシュマは人間の姿のままに蝙蝠羽だけを現して、ウィーネの肩を押さえつける。全てを脱いで褐色の身体でウィーネに重なる。ウィーネのブラウスも脱がせて下着も取り払って、肌と肌を触れ合わせる。人の肌が触れ合う感触は、いつもの悪魔の鋼の身体とは少し異なった。

リアルな弾力はウィーネの胸の膨らみを圧し潰し、太ももを開かせてその間に割り込んでくる。見なくても分かるアシュマの欲望は場所を確認するようにウィーネの足と足の間を確認していて、やがて狙いを定めるように強く押し付けられた。

「は……ウィーネ……これだけでも……」

「あ、……あ……」

アシュマがウィーネの身体を抱き直すと、それはじわじわと侵入してくる。指とも舌とも全く異なる圧倒的な質量は、今日は一気に貫かず、何度か出し入れを繰り返してウィーネの膣内なかを堪能しなが徐々に入ってきた。早く入って欲しいのか、それとも抵抗したいのか、ウィーネの腰が緊張する。

アシュマがウィーネの手を掴み、自分の腰にまわさせた。

「力をいれてみろ、ウィーネ」

「や、いや」

「入れねば終わらぬぞ」

「やだ……やあ……」

ウィーネがアシュマの腰を掴んで引いたのか、アシュマ自身がウィーネに押し付けたのか分からぬギリギリの頃合いに、2人の身体が最も奥でつながり合って止まった。アシュマの欲望のすべてが、ウィーネの柔肉に包み込まれる。

「ウィーネ……」

何度こうしてウィーネの身体を愛でただろう。

しかし行為の回数は悪魔に飽きを生まず、むしろ欲望を膨らませた。一度繋がると離れることなど考えられず、時折気まぐれのようにウィーネの指先がアシュマの身体に真剣に触れてくる、その動きを探りたくてたまらない。

ゆっくりと引き、ゆっくりと奥に入れる。その動きの繰り返しであるはずなのに、どうしてこれほど欲しいのか。魔力を味わうためだけではなく、ましてやアシュマの精を吐き出すためでもなく……もちろん行為の果てにそれらを得ることも至上の悦びではあるのだが……、ただ自分の欲望がウィーネに挿入され、それによってウィーネが甘い声を上げる姿が愛らしい。

もっと甘い声をあげればいい。

動かし、襞の動きを味わい、奥から溢れてくる蜜を感じていると、ウィーネの手がアシュマの背中にまわった。

「アシュマ、アシュマ……」

「ウィーネ?」

呼ばれるままに身体を近付け、ぴたりと抱き合う。しかしウィーネはアシュマの疑問符に答えること無く、「ん」と喉を鳴らしてアシュマに縋り付く。

「アシュマぁ……」

「ああ……ウィーネ」

そうか。……行為の最中、アシュマは何故か別段用も無いのにウィーネの名を呼びたくなることがあった。それは呪文や契約の行為に伴う名の詠唱ではなく、ただ「呼ぶ」というそれだけの行為だ。ウィーネの先ほどのそれも同じ、そこに魔力は一切絡まず、使い魔を使役のために呼ぶというわけではなく、ただ……。

「アシュ、アシュマ……」

「……ウィーネ」

疲れぬはずのアシュマの息が興奮で荒くなり、身体がしっとりと汗ばむ。ウィーネをもっと感じさせたいが、目が眩むような欲望……己の欲情を感じて、アシュマは動きを速くした。

ウィーネの声が動きに合わせて揺れ、膣内がひくりと柔らかくなる。急に忙しなくなった触れ合いに、ウィーネが必死にしがみつき、その様子もまた、アシュマの心と身体を騒がせる。

硬い欲望を包んだ柔らかみが、悪魔ですらかすかに痛みを覚えるほどきつく締まり、蕩けるように解けた。あまりに心地がよいその呼び水に引き寄せられるように、アシュマの欲望が一度大きく膨らみ、次の瞬間白濁を吐く。

「あ……う……」

達したばかりで弛緩したウィーネの下半身に、じわりとアシュマの吐いた熱が広がる。

「アシュ、……マ?」

ふ、……と溜め息を吐いてウィーネの首筋を優しくアシュマが舐める。この瞬間だけは上位二位の悪魔がひどく無防備に見えて、重くなった体重を受け止めた。

が。

普通の人間ならば萎えるだろう欲望は、少しも萎えることが無く、まだウィーネの身体に収まったままだ。一度、激しくガツリと奥を突かれて、「ひ」とウィーネが声をあげる。

「やだ、や、もう終わり……あっ……!」

「まだ、足りぬ」

「な、何が、よ、もう足りて……あっ……う」

「違う。……お前に、我が、足りぬ」

己が何か手に入れることだけが欲望を満たすことではない。もっともっと、この少女に悪魔を注ぎたい。少女が悪魔を感じる姿を見たい。アシュマはウィーネの背中を掬い上げ、もう一度揺らし始めた。

2人が繋がり合った場所からは、行き場を失った蜜と精が混ざり合ってこぽりこぽりと溢れ出す。

****

ウィーネから引き抜くと、白いのか透明なのか分からぬ液が糸を引いた。充分に混ぜ合わさったそれに悪魔は満足を覚え、だが、ウィーネ自身から離れることにはまだ満足を覚えぬまま、それでも致し方なくウィーネから離れる。

もちろん、ウィーネの身体は抱き寄せたままだ。

「なんだこれは」

そうして、裸のままで抱き合って、汗に冷えた身体を温めるように毛布を掛けようとして、いつもとは少し違う感触にアシュマは首を傾げた。ウィーネの足元が、なにやらもこもこしている。

人間の姿のアシュマは本性の時ほど、ウィーネと背の差が無い。ゆえに、普通にウィーネを抱き締めていると、普通に足同士が絡み合うのだ。

アシュマの足が、ウィーネの足をごそごそと触っているが、やがて好奇心に負けたように毛布を剥いだ。身体を起こし、足元を見ると、見たことの無いもこもことした靴下を履いている。

……ウィーネに夢中で、このような瑣末なことに気が付かなかったとは。

「さ、寒かったから履いてたら、アシュマが……」

「我がいるときは、我がお前を温めてやる」

「は、はあ!? 何その理屈、あ、ちょっとやめてよ!!」

アシュマはウィーネの靴下を脱がせると、ぽいと床に落として、再びウィーネの隣に滑り込む。ウィーネの裸に背中から己の裸を重ね合わせて腕を回し、胸の柔らかみに手を添えて、そうしてウィーネの小さな足に自分の足を重ねた。

ごそごそと、まるで手の平を合わせるように、足と足を絡ませ合う。

「ちょっと、ちょっとなにしてるのよ、意味分かんないことしないでよ、アシュマ、あ、ちょ」

「こうしておけば、寒くなかろう」

「そんなことしなくても寒くないから!!」

「ならば、お前が我を温めるがいい」

悪魔の身体で抱くのもいいが、人間の身体で触れ合うのも悪くない。ウィーネの身体は温かく、自分の体温もまた伝わっているのだと思うと心のどこかが心地よく疼く。一体どこが疼くのか。しかし、暴れる足を捕まえて二の腕や太ももの柔らかみを堪能していれば、そんなことはもはやどうでもよく、ただウィーネの身体を楽しく抱き締めた。

「ウィーネ」

どうしたことか、今日は優しく名前を呼んでやると、ウィーネは顔を隠すようにおとなしくうずくまる。

悪魔は俯いた少女の顔から唇の場所を探し当てる作業に専念することにした。