【閑話】

深夜の駅で

アシュマとウィーネさんは、「深夜の駅」で登場人物が「ひっぱたく」、「傷」という単語を使ったお話を考えて下さい。 #rendai
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深夜の駅、実家に帰る夜行列車を待ちながら、ウィーネは荷物を持とうとする使い魔と押し問答を繰り広げている。

「我が持つと言っている」

「大丈夫よ、なんで着いてくるのよ!」

「使い魔だからな」

「なによそれ、ちょっと離してってば、荷物、自分で持つって!」

そういって、ウィーネが荷物を引っ張った途端、手がアシュマの頬に当たった。綺麗に揃えていた爪が、今は人の姿を取っていたアシュマの頬に当たったのだろう。血は流れないまでも、少しだけ赤く引っ掻き傷になってしまった。

「あ……」

ギクリとしてウィーネが手を引っ込めたが、アシュマはニヤリと笑うだけだ。こんな傷、痛くもなんともなく、むしろウィーネの手が自分に痕でも付けたかと思うと気分がいい。

「ウィーネ?」

それなのに、なぜかウィーネが泣きそうな顔をしている。悪魔は首を傾げて、そっとウィーネの髪に触れた。おろおろとアシュマを見上げているウィーネの黒い瞳が、アシュマの方を伺っている。そうしてこれまでに感じた事の無い心地よい魔力が、自分に流れて来ていた。

「あの、あの、ひっぱたくつもりじゃなくて」

「ああ、知っている」

もちろん知っている。ウィーネはアシュマの手から荷物を取り戻そうと思って、強く引いただけだ。勢い余って宛の外れた指先が、アシュマの頬に当たった、それだけだった。ウィーネは少しも悪くない、それなのに、先ほどまで怒っていたくせに、今はなぜか眉をへの字にして、アシュマの頬の引っ掻き痕に手を伸ばそうとしていた。もちろん、アシュマの手とは違い、ウィーネが呪文も無しに触れてその傷が治るはずもない。それなのになぜ、触れようとしているのだろう。不思議に思ったが、同時に胸もざわついた。触れさせぬはずもない。

「あの、自分で治せるよね」

「治さない」

もちろん治せるが。

不適に笑ったアシュマに、ウィーネが顔を上げる。ゴオと風が吹いて、駅に列車が入って来た。2人が乗るはずの夜行列車だ。

アシュマがウィーネの耳元に唇を近付ける。

「治さない、お前が付けた傷だから」

それに、我もお前に傷をつけた事があるのだから、これで……同じだろう。そう囁いたアシュマの声は、電車が駅に入って来た音に掻き消された。果たして召喚主の少女の耳に、それは届いたのだろうか。