【閑話】

悪魔と悪魔の召喚主

「おねだり悪魔と召喚主」とは別の、甘い2人のサーウィン祭の後の夜を、少しだけ。


「もうやだ」

「我はいやではないと言うのに」

サーウィン祭りで賑わう放課後の騒ぎを早々に引き上げたウィーネの自室で、アシュマはウィーネの身体を己からゆっくりと離した。離した……と言っても、もちろん「離した」だけで、抱き寄せたままであることには変りない。

背中が大きく開いたワンピースは脱がせていない。背中の編み上げ部分が少し解けてしまっているだけだ。今日しか着ないという愛らしい服を楽しまないのはもったいなかった。今年のウィーネの衣装は「黒い悪魔」……そう、アシュマと同じ「悪魔」である。黒いワンピース、肩に羽織った短めのマント。背中には作り物の悪魔の羽がふわりと下がり、先ほどまで真黒のブーツを履いていた。これを着たウィーネは、絶対に外に出ないと図書室で勉強ばかりしていたのはもったいないことだ。

一方アシュマの今年の衣装は白い聖騎士の制服で、マント部分が白い羽になっている、むろん作り物だ。本物には羽など付いていない。ちなみに騎士の制服の装いは今年の流行らしい。

大胆な悪魔ウィーネの短いスカートとストイックな天使アシュマの組み合わせは今年もやはり注目を浴びたが、何かを言われる前にウィーネはさっさと図書室に退散してしまった。もっともウィーネの短いスカートから覗く太ももも、剥き出しの肩も背中も、誰の目にも触れさせたくなかったから都合がいい。

早く帰りたいならば帰ればいい。そう言ってアシュマはウィーネを攫って、寝台の中でポティロ……という橙色の大きな野菜を使った卵菓子(クレムリュレ)を食べた。このクレムリュレはウィーネが作ったものだ。ポティロでサーウィン祭用のランタンを作り、余った身で薬を作るという勉強会に出席したらしい。

それから本を読むというウィーネを抱き寄せ、「何もしないで」というウィーネに「今は何もしない」という約束をして。

その約束が時効になったであろう頃を見計らって、ウィーネの首筋を鼻先で探る。

それからはいつもの通り。サーウィン祭りの衣装はマントだけ脱がせてそのままに、アシュマ自身は大方を脱いで……なぜか、いつもより少し素直で甘いウィーネを人間の姿で愛でたあと、アシュマはその身体をウィーネの寝床にするために、黒い異形に変じた。

「ウィーネ、ウィーネ・シエナ。トリックオアトリート?」

「はいはい……シー・オール・ハロウ……もう、あっちいって」

そんなことを言われて、離れるはずもない。黒い羽を広げて少女の身体を黒い鋼の腕の中で転がしながら、毛布に包んでやった。

「眠いのか」

「眠い」

人間はひどく疲れやすく、わずかに動かしただけで、しかも動いていたのはほとんどアシュマだけだというのに、ウィーネはすぐに動けなくなってしまう。だがそれを知っているアシュマは、今は眠くて動けないウィーネを堪能することに決めていた。

こういう時、人間は何と言ったか。

ああ。

「おやすみ」

「え?」

ウィーネが眠そうな目をぱちりと開く。長い睫毛を瞬きに揺らしながら、ゆっくりと首を傾げる。

「アシュマ?」

「人間は眠るときにそのように言うのだろう」

途端に忙しなくなったウィーネの瞼に唇を近付ける。触れる直前、きゅっと閉ざされたそこを繊細に舌で触れ、サーウィンの夜に化けた小さな悪魔の少女を……本物の悪魔が腕の中に閉じ込めた。