獅子は宵闇の月にその鬣を休める

019.獅子の寝所を脅かす

紺色の髪に鳶色の瞳。刃のような雰囲気を纏った黒衣の男が、仲間の1人に結界破りの護符を渡していた。

「これを使えば、結界が無効化される……と」

「そうだ」

「何故、私に渡す」

「言われたんだよ、渡せと」

「……」

「失敗は許されない、ってことだろうなあ?」

黒衣の男はクッ……と笑って、瞳を鋭く細めた。早く行け、と掌を振ると、護符を渡された方の人物が、闇に溶けるように気配を消す。

その消えた気配の方向を見ながら、黒衣の男は楽しげな笑みを浮かべた。確かに結界は無効になる。だが消えるだけだ。そうなれば術者は気づくだろうに。さて、アレは成功するのやら。

もっとも、早い段階で失敗されても困る。黒衣の男の目的は別のところにあるのだ。あの護符には、結界無効化の術の他に遠視の術をかけてある。あれがそこにある限り、自分の目となってその場の様子を視認出来るはずだ。

黒衣の男が月の宮を覗こうと思ったのは気まぐれだ。あの男が、獅子王が、唯一愛する女。その鬣を休める身体。どんな女なのだろう。見てみたい。そんな好奇心だった。

作戦によると、仲間はどうやら寝所に侵入するらしい。狙いはなんと獅子王本人だそうだ。馬鹿馬鹿しい。思慮の浅い、あのハゲ狸の考えそうな作戦だ。寝所で睦みあっているところならば簡単に狙えるだろうと踏んだらしい。それほど、獅子王は月宮妃の身体に溺れていると思っているようだ。今まで、獅子王は女を抱いても一回ヤったらすぐに部屋を出て、朝まで女の部屋で過ごすということが無かった。その例外が破られた女はよほど具合のいい女なのだろう。

獅子王は、夜毎月宮妃の元に通っては朝まで過ごす。それだけではない。中庭を連れ立って歩いたり、執務室に呼び寄せたりしているらしい。よほどご執心の様子だ。

今回の作戦は、自分の雇い主も多少噛んでいる。わざと何事かをあのハゲ狸に吹き込んでけしかけたのだ。黒衣の男は裏の世界に通じている。その縁で、ハゲ狸に自身の仲間を雇わせた。そして月の宮への侵入の手助けを行い、獅子王の結界を破る護符を与えたのだ。まあ、護符を与えようが与えまいが、どのような手を使おうが、当の間者……侵入者は無事では済まないだろう。だからこそ、侵入者に持たせる護符に2重の術をかけてまで、とっとと夜の月の宮を覗いて退散するつもりだった。獅子王の閨を覗く機会なぞ、この一度きりなのだから。

そして、男は、見てしまったのだ。

夜の黒に解ける髪。象牙のような不思議な色の肌。そして、潤んだ黒曜石のような、あの、瞳を。

****

それはまるで何かの儀式のように静かで厳かな空気だった。

控えめな月夜に微かに浮かぶ、寝台の上で絡み合う2人の影。荒い呼吸音と、衣擦れの音。粘着を伴った水音。肌同士が触れ合う、独特の掠れた響きが混ざり合って、それが沈黙を引き立たせていた。

寝台の上に2人抱き合うようにして座り、獅子のような男が黒い髪の女の象牙色の肌を貪っている。獅子の舌が女の象牙に触れるたびに、短い黒髪が揺れてその細い指が獅子の背をなぞった。既に挿入しているのだろう。男が身体を揺さぶれば、結合していることを表す淫靡な水音が響いてくる。

「……あ、アルハザード……」

鈴の響くような声は女からだ。そこで初めて気が付いた。あれほど淫靡に抱き合っている2人から、女の嬌声が聞こえない。その代わり、相手の名を呼ぶ声と、そして呼吸の音だけが聞こえている。その音の中、夜闇に蕩けるような黒い髪が男の動きに合わせてゆらゆらと揺れ、愛おしげに獅子がその首筋を味わっているのだ。

不意に獅子が動いて女の名前を呼ぶ。「リューン……」

2人の影が倒れ、女の身体が寝台に沈み込む。いったん身体を離して、彼女をうつぶせにしたらしい。その背にぴったりと男の厚い胸板を沿わせて重なり合うと、女の身体を一度大きく揺らした。再度挿入したのだろう。「……くっ……」と、男の苦しげな声が漏れる。獅子があんな声を零すとは、よほど女の内がいいのか。それとも、愛し合っているからなのか。あるいは、そのどちらもなのか。

女を後ろから密着して攻め立て、寝台が大きく揺れてぎしぎしと軋む。「……リューン……っ……」獅子の声が荒くなっていく。

そろそろ潮時か。侵入者がゆっくりと背後から寝台に近寄り、抜き身のショートソードの焦点を獅子の背中に定めた。彼はこちらに背を向け、女をうつぶせにして、その黒い髪を顔を枕に押し付けている。ショートソードが獅子の背を狙って振り上げられる……!

****

「舐められたものだな」

冷たい声が響いて、振り上げられた一刀は起き上がった獅子によって当然のように容易く受け止められていた。だが、獅子王の瞳は侵入者ではなく、その胸に下がっている護符を見つめていた。護符を通して室内を見ている視線……、女を見るという目的は達成した。もう術を解いてもよいはずだ。だが、獅子の魔力に捉われたか、術を解くことができない。

獅子は護符の視線を見据えたまま、女を抑えていた手を外した。

一瞬視線が外れ、獅子は受け止めたショートソードの刃を、短剣でまわすように受け流し、バランスを崩した侵入者の手首をもう片方の手でねじ上げて、一気に力を込めた。絶対に曲がらない方向へ侵入者の腕の間接をまわすと、それに抵抗しようとしたためだろう、バキリ……と、骨の外れる嫌な音と男のうめき声が聞こえた。

同時に、ショートソードの柄の部分を取り上げ床に放る。護符の視線に天井が見えた。侵入者が投げられたのだ。獅子が寝台から飛び降り、そのまま侵入者の首筋を捉えたようだ。

ドンドン!……と扉が叩かれる音がして、「陛下!」という声が聞こえる。恐らく外にいる護衛騎士が、刃同士が擦過したときの金属音や床に人間が投げられた音を捉えたのだろう。だが、アルハザードはそちらに向かって「まだ入るな!」と声を張る。もちろん、リューンが寝台にいるからだ。

チャンスだ。護符の視線は術を解こうと再度試みる。

「アルハザード……っ!」

不意に視界の端に黒が揺れた。

シーツを身体に纏い象牙色を黒で縁取った女が、起き上がってこちらを見たのだ。

今度は、魔力ではなくその瞳に捉われた。なんという黒。もっと見ていたい。そんな思いに支配されたのは一瞬。振り払うように術を解いた最後の瞬間、濡れたような黒は確かにこちらを見ていた。

****

アルハザードは侵入者の首筋を強く押さえて失神させると、その首にかかっていた護符を手に取った。既に魔力は無くなっている。術式も消えているようだった。

「逃がしたか」

「……え?」

「遠視の術かかっていた。恐らく別の人間がこの護符からこちらを見ていたんだろう」

「……何の為に」

「さあな」

襲撃者の存在には最初から気が付いていた。リューンの部屋に居るときは、いつも侵入者が入れば気づくように結界を張っている。だが、今日は途中でその結界が消えたのだ。浅はかな。結界を消すのではなく、透過せねば意味がないだろうに。まあいい。侵入者はどこから入ってきたのか。浴室の方か、リューンの自室か。

その目的は分かりやすいほど分かっていたから、アルハザードは放っておいた。その代わり、侵入者を討つときにその様子がリューンの目に入らないように、リューンをうつ伏せにさせた。行為を止めれば気づかれるだろうから、背を密着させてリューンを後ろから貫く。動かしながら、枕の下に手を差し入れ、そこに忍ばせている短剣を掴んだ。リューンの耳元に、「こちらを向くな」と小さく囁くと、リューンは身体を強張らせて、小さく頷いた。ゆっくりと、彼女の身体から自分を抜く。

そして、侵入者の刃を止めたのだ。

男の他に、魔力を通した視線が存在していることはすぐに分かった。リューンには言わなかったが、その目的も最後に分かった。あの視線はリューンを見ていた。魔力を完全に捉えてやろうとした瞬間、リューンの瞳を明らかに見つめていたのだ。間一髪のところで逃してしまったが、腹立たしい。いっそ自分を殺すことだけが目的であればよかったのに。

アルハザードは傍らに脱いでいた自分の下穿きを身に付ける。リューンも頭から夜着を被り、肩にショールを掛けた。

「リューン、それだけではダメだ。寝台の中に潜り込んでおけ。顔を出すなよ」

顔を出そうとしたリューンに顔を顰め、その身体を隠すように掛け布を被せる。リューンが外から完全に見えなくなったことを確認して、アルハザードは寝室の扉に向かって声を掛けた。

「ルーク、カイル!」

「……陛下! 先ほどの音は……!」

「入ってきても構わん。この男を連行しろ」

扉が開き、鎧音を響かせて二人の護衛騎士が入ってきた。当然、床に倒れている男に気付き、距離を詰めた。1人はしゃがんで検分し、1人はアルハザードの前に控える。

「これは……っ、陛下とリューン様には、何事も」

「当たり前だ」

「この男は……」

「侵入者だ。気絶させた。死なせぬように牢に入れておけ」

「はっ」

「朝一番にギルバートに執務室へ来るように伝えておけ。この男の処遇について話す」

手に入れた獲物を決して逃すな。これまでの襲撃者の妙な動きに何か手がかりがつかめるかもしれない。言われなくても、護衛騎士達はこの獲物を逃さないだろう。

アルハザードはいくつかの指示をすると、騎士2名に侵入者の処分を任せて、部屋を下がらせた。

****

侵入者を護衛騎士に引き渡し、しばらくして戻ってきたアルハザードは、一度浴室へと向かって水音をさせていた。襲撃者に触れたところを洗い流しているのだろう。

「リューン」

「アルハザード」

浴室からタオル1枚で戻ってきたアルハザードは寝台に上ると、すぐにリューンの腰を抱き寄せた。その手で頬を触れようとすると、リューンがその手を掴んで止めた。「リューン……?」アルハザードの抗議の声を聞かぬうちに、リューンはアルハザードの大きな手のひらに自分の手の指を絡ませた。ピリとした痛みが走り、どうやら剣の柄を握ったときに刃がわずかに触れて皮膚が切れていたらしい。

されるがままにしていると、癒しの魔力が少し流れてきた。やはり、癒しの呪文を使わずにその癒しを自在に使いこなすか。これはアルハザードにすらできないことだ。アルハザードの身のうちにある主な魔力は、攻撃や防御、身体能力の強化といったいわゆる黒魔法で、呪文や術式を必要としない。だが、白魔法……癒しの力は別系統で、彼も使えないわけではないが、呪文を使わなければ安定しなかった。

怪我は一瞬で直り、アルハザードはリューンの身体を自分の上に引き寄せる。

「怖い思いをさせたか?」

ふるふると頭を振る。怖くはなかった、という意思表示をしたものの、アルハザードの胸に頭を預けたまま目を伏せた。正直に言うと、怖くないわけがなかった。だが、実際の出来事ほど衝撃を受けても居なかった。アルハザード自身が、ひどく落ち着いていたからかもしれなかった。

「さすがに、すこし。でも、貴方が居たから思ったよりは大丈夫」

「……リューン……お前」

「ん」

「眠いか?」

「んー……」

アルハザードは「貴方が居たから」という言葉に柄にもなく心が浮ついた。先ほどの昂ぶりを思い出すが、身体を摺り寄せてくるリューンの声はまどろんでいる。張り詰めていた神経が途切れて安心したのかもしれない。

リューンを眠らせてやりたい、という気持ちと、眠らせたくない、という気持ちで葛藤した。湯を使って気持ちを鎮めたものの、先ほど中断されていた行為と、一瞬でも敵を払い落とした昂ぶりは抑え切れていないのだ。アルハザードがその肩に手を滑らせようとすると、リューンは縋りつくように自分の手をアルハザードの胸に置いた。

……と、その淑やかな手が、身体ごとゆっくりとアルハザードの腹を下がっていく。

「……リューン……っ……!」

やがて、リューンの手がアルハザードの昂ぶった中心を捉えて、びくんとアルハザードの身体が震えた。

触れるのか、触れないのかを、躊躇っているのだろうか。慎ましいその手の動きは、あまりに遠慮がち過ぎる。これはどんな拷問なんだ! アルハザードは思わず身体を起こそうとしたが、リューンのもう片方の手が腹を撫でてそれを押さえる。やがて、ずりずりとリューンの身体がさらに下に下がっていって、まさか、と思った瞬間、愛らしいその唇がアルハザードの先端に、くちゅ……と口付け、ぺろりと舐めた。

「リューン……っ、くっ……おい、こら……、待てっ……」

アルハザードは思わず身を引いて身体を起こし、リューンの唇から彼のものが離れた。

女からこういうことするのは、やっぱり嫌だったのだろうか。リューンはアルハザードを見上げた。彼は頭の上で息を荒くしている。

襲撃の直後にさすがに不謹慎だっただろうか。しかしリューンは、冷静な顔をしてみせてはいたが、自分で思っているよりもずっと不安で、このまま終わりたくなかったのだ。どうしてもアルハザードに深く触れていたくて、自分から彼のぬくもりを求めてしまった。リューン自身、自分でもよく分からない感情だった。

今これが、安心を得る唯一の方法だと思ったのだ。後に引こうとも思わなかった。もちろんアルハザードが嫌がられなければ、の話だが。

「……ごめん。眠い? 嫌だった……?」

「……ち、違うっ」

そんな黒い瞳で切なげに見上げるなど、……反則だ。嫌な訳が無い。今までにもそういう類が得意な女も居るには居たが、面倒くさい以外の何者でもなかった。だが、リューンがするとなると全く意味が異なる。今までに無い、下腹が詰まるような欲望が沸き起こった。アルハザードは心配そうに見上げるリューンの黒い髪を優しく撫でて、自身の気持ちを落ち着かせる。それでも落ち着くはずが無い。心の中は、飢えた獣のように今にも襲い掛かりそうだ。

「……嫌じゃない?」

「嫌ではない」

リューンはアルハザードの回答に頬を染めてうつむくと、横髪を邪魔にならないように耳にかけ、もう一度彼のものに口付けた。口に挿れるには大きすぎるのだろう。大事そうに両手で持ち、長い側面に舌を這わせ始めた。

大切なものを抱えるように、愛しげに自分のものを舐めている。その姿があまりにも可愛らしくて、じっと見つめていると我慢できない。その身体をひっくり返して一晩中貪り合いたい。

そんなアルハザードの気持ちを知ってか知らずか、リューンの舌は徐々に大胆になってくる。笛を吹くように、上下に舌を這わせて側面を舐め上げる。何度も何度も舐め上げて、やがて段差の部分に、つつ……と舌を沿わせるように動かした。気持ちいい。……だが、意識を集中していないと、突如変化する彼女の舌の動きに翻弄されてしまう。そう思った矢先、リューンは、もっとも高い位置にある滑らかなところを、ちゅるりと大きく舌で舐めた。

「……くっ……」

アルハザードは思わず腰が引けてしまう……が、リューンは追撃してきた。引いたアルハザードの逞しい腰を華奢な手で捕まえて、何度も何度も舐める。手で支えて、顔を揺らし、舌でその先全体を包み込んでは舐め上げるのだ。徐々にアルハザードの息が上がってくる。舐めているリューンの表情を見るだけでも煽られる。だが簡単には、手出しができない。さらに、掴んでいる手がそっと上下に動き始めた。

「……く、うっ……リュー、ン……」

「……い、痛く、な、い……?」

アルハザードの声にリューンが心配そうに顔を上げた。アルハザードは自分を握りこんでいるリューンの手の上から、自分の手を重ねて少し強めに握りこませる。その強さに慌てたようなリューンの声が聞こえた。

「……こ、こんなに握っても……」

「お前の中はもっときつい」

これは本当だ。ニヤリと笑って答えたアルハザードにリューンは赤面して、強めに掴んだ手をもう一度上下に動かし始めた。アルハザードにも余裕は無い。それくらい、リューンの手も舌も堪らない。やがて、もう一度彼の先端に舌が這い、そして、そのまま口の中に彼の先端を咥え込んだ。

「……っ……!」

「……んっ、ふ……」

再びアルハザードの腰が引ける。油断していた。だが、リューンは、引いたアルハザードの陽根を追いかけて、かぽりと口の中に先端を収めた。彼女の手は上下に刺激を与えてくる。同時にアルハザードの先端は、くちゅくちゅと音を立てるリューンの口の中で舌と唾液に塗れていた。彼女の口腔はたっぷりと唾液が溢れていて、温かい。必死で奉仕しているその顔もそそる。

思わずアルハザードは腰を動かした。ぷちゅ……とリューンの唇の端から唾液が溢れるのを見て、さらにもう一度腰を動かす。そのためだろう。「……ぅんっ……」リューンの喉から苦しげな声が聞こえた。必死でアルハザードの腰の動きに耐えている様子だ。口の中で懸命に舌を動かしながら、手の動きを早めてきた。

そうしたリューンを見つめながら、アルハザードは思い浮かべた。……彼女の口の中に放ちたい。その背徳的な思いに捕らわれた瞬間、アルハザードは腰を何度か強く動かしてリューンの頭を押さえた。

「……く、リューン……出すぞ……っ」

「……んっ……く」

びくんとリューンの肩が震えるのと、アルハザードの腰が大きく一度動くのは同時だった。リューンの喉の奥にどろりとした液体が放たれて、思いがけずそれをこくんと咀嚼した。途端に喉の奥に何か絡みついて、けほけほと咳き込む。

精を放った途端、リューンがそれを嚥下する喉の動きを見たアルハザードは、背の震えるような歓喜を覚えてしまった。……が、我に返り、慌てて咳き込むリューンの背中をさする。いつも置いているベッドの傍らの水を取ってリューンに飲ませ、口元を拭いてやる。よほど苦しかったのだろう。リューンは水を勢いよく飲んでいた。

「すまない、リューン。大丈夫か……?」

「けほっ、ごほっ……ん、だ、いじょうぶ」

「苦しかったか?」

「ちょっと苦しかったけど、少しびっくりしただけで。……アルハザードのだから……大丈夫だよ」

……また、何を……。「アルハザードのだから」というその言葉を、リューンは何気なく言ったに違いない。そういう言葉がどれほど男を悦ばせるか……どれほどアルハザードを昂ぶらせるか、知らないのだろう。時折、率直なリューンの言葉を聞くたびに、アルハザードは身体の芯がぎくりとするのだ。

「リューン……」

アルハザードは、リューンを自分の胸に引き寄せた。リューンは嫌がることなく、まるで猫が懐くように擦り寄ってくる。あの一度が呼び水になってしまった。ゆっくりとでいい。リューンの中に、もう一度自分を埋めたい。

****

後悔は別にしていないが、想像以上だった。
主として、恥ずかしレベルが。

しかも、あれからあとが大変だった。確かに、ゆっくりと……だったが、確実にアレで……うぐぅっ!

何が腹立たしいって、アルハザードがなんか妙にご満悦なのが……。

その日、満足気な獅子王を差し置いて、月宮妃はなにやらぶつぶつとひとり悶絶しながら朝を迎えたのだった。