登場人物
リューン、アルマ、お針子たち、アルハザード
※誰がどの台詞か、というのはご想像にお任せします。
みんな結構やりおるね、という話。
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「まあ。リューン様、見事なお髪ですわ」
「少し短いですけれど、付け毛をお付けになれば問題ありませんわね」
「でも、このような見事な黒い髪の付け毛があるでしょうか」
「問題ありません。お切りになられた時に取っておいたものがあります」
「……なっ! いつの間にそんなもの取ってたのアルマ」
「まあ、アルマ様。抜かりのない!」
「侍女として当然です」
「では、これを御髪の途中から付けて、境目に飾れば……」
「髪は下ろしになりますか?」
「最近の姫君の流行は、髪の毛を上げてうなじを見せるのが流行ですけれど、そこを敢えて下ろして、美しい黒髪を見せ付けるのがお似合いになるかと」
「そうですわね。それでしたら、髪を切ったなどと口喧しい者たちも黙るでしょう」
「お花の色はいかがいたしますか?」
「その前にドレスの色を決めなければなりませんわ」
「では、考えながら採寸をいたしましょう。リューン様、失礼いたします」
「え、ちょ、脱ぐの、ここで脱ぐの?」
「服の上からでは正しく計れませんでしょう?」
「……いやいやいや、待って、ちょ、うわ」
「……まあ、珍しい、お美しい肌の色でございますわ。さすが月宮妃様。……あら、これは」
「おわっ、これはあの」
「うふふ。恥ずかしがることはございませんわ、本当に皇帝陛下に愛されておいでですのね?」
「○▽□×!※☆◎×¥!!」
「まあ、ここにも。うふふ」
「………………あの変態やろう」
「何かおっしゃいまして?」
「いえなにも」
「ドレスの色は黒髪に似合うように……このようなサーモンピンクはいかがでしょう」
「もう少し大人っぽい雰囲気がよいのではないかしら?」
「では、陛下の瞳の色に合わせて群青?」
「まあ! それはお肌の色にもとてもお似合いでお美しいけれど、ちょっとあからさますぎませんか?」
「では、このアイボリー?」
「白に近くて美しいわね。ですが、お肌の色に近すぎやしませんこと?」
「それでは、この青灰色などはいかが?」
「あー、その系統の色いいね。もう少し薄い色だといいかも」
「まあ、リューン様。地味すぎやしませんか?」
「いや、地味だって笑われるのは困るけど、あんまり目立ちたくもない。黒髪だけでも目立つし」
「地味だと笑われるようなものにするはずがございません!」
「はあ、どうもすみません」
「ならば、この薄青灰色にしましょう」
「光沢のある布地で同系色の刺繍を入れれば、慎ましやかなのに豪華なものができますわね」
「どのような形にいたしましょう」
「それなんですけど、コルセットなしでお願いします」
「コルセット無し!……たしかに、リューン様は細くていらっしゃいますが」
「リューン様はいつもコルセットはつけておりません。慣れぬものを身に着けて調子が悪くなっては困りますわ」
「そうね……アルマ様もそう仰られるのであれば……」
「あのー、私の意見は無視ですか……」
「ウェストで切り返るタイプのものではなく、お腰の曲線を出しながら、裾を広げるようにいたしましょうか」
「布地を何枚か重ねると素敵ですわね」
「お胸元の形はいかがいたしましょうね」
「リューン様は鎖骨がお美しいですから、それを見せたいですわね」
「でも、あまりお胸を強調するのは上品ではありませんわ」
「でしたら、首元をこのようにちらりとお見せするのはどうでしょう」
「あ、このデザインかわいいね」
「でしたら、このようにいたしましょう」
「あと、できればこのネックレスしたいんですけど」
「あら……少し小さくはありませんか?月宮妃ともあろうお方が」
「もとより華美な石をつけるつもりはありませんから、問題ありませんわ」
「まあ、そうでしたのね。確かにリューン様に過度な装飾は、却ってお美しさを損ないます」
「首元はリボンやレースを退けて、ネックレスが控えめに見えるようにいたしましょう」
「さすがアルマ様は、リューン様に何がお似合いかご存知ですわね」
「侍女として当然です」
「やっぱり私の意見は無視ですか……」
「次はお化粧ですわね?」
「お靴も決めなければ」
「手袋はやっぱり同じ色?白にいたします?」
「扇子もお持ちにならなければ……」
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「どうした? 今日はずいぶん疲れているな」
「……寄ってたかって脱がされたり計られたりネタにされた」
「……なんだと……?」
「ちょっと待って待って、何に怒りの矛先向けてるの急に身体起こさないでドレス作ったのよ」
「ああ。できたのか」
「デザインとか色とかは決まったわ」
「どのような」
「秘密です」
「ほう。まあよい」
「……ちょっと」
「なんだ」
「…………ちょ、待って、待ちなさ」
「何を」
「……待って、タイム、ターーーーイム!」
「タイムとはなんだ」
「痕付けないでよ!しかもどこに付けてるのよ!」
「いつも付けているだろう」
「いつも……って、今はダメです」
「お前が怒るから、見えないところに付けている」
「あら、それは気を使ってくださってどうも。ってちがうわ!見えないところでもダメ」
「なぜ」
「なぜって。だから普通に素で聞かないでって。ドレス作るときに見られるんだってば……」
「見せておけばよかろう」
「よくない」
「……見られたのか」
「は?」
「今日。……見られたのか」
「……見られたわよ。……って、ちょっと、なにニヤニヤしてるのよ」
「見せておけばよい」
「よ・く・な・い!」
「見られない場所ならいいのか」
「はいぃ?……え、ちょ、や、ま、待っ、て……」
「……」
「……どこに付けて、……待っ……アル、っ……」
「……」
「……」
「夜会まではこれで我慢してやろう」
「我慢、我慢って何を」
「お前は、入浴のときは侍女を使っていないだろう。そこならば見られることはあるまい?」
「……そうじゃなくて、」
「一緒に風呂に入りたいのか」
「どこをどう聞いたらそんな質問が出るんですか」
「ところで」
「何」
「お前、さっき『今は』ダメだと言ったな」
「……」
「ということは、夜会が終わればかまわないということだな」
「……男の癖に細かいな」
「何か言ったか」
「いーえなにも」
「こっちを向け。リューン……」
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注目のキーワード: ナチュラルに「一緒に風呂」発言。