018.嫌って言っても止めないで

だが、沈黙はすぐに……山科の声で破られた。

「あやの」

思ったよりも近くで山科の声が聞こえ、耳元に吐息がかかる。同時に、山科の腕が彩乃の身体に回り、抱き寄せられた。彩乃の背中に、山科の筋肉質の身体を感じる。

「あの、かおるさ……」

「彩乃」

抱き寄せる腕が、強くなる。

「触れてもいいか」

「あの、は……」

はい、と答えると同時に、軽々と彩乃の身体が山科の方に向かされた。彩乃の顔は山科の鎖骨に埋められて、つむじのあたりに山科の息を感じる。

どくどくと心臓の音がうるさい。

はあ……と山科らしくない荒い息が聞こえ、手が大きく彩乃の背中を撫でた。途端に彩乃の身体がびくりと強張り、山科の手が止まった。背中を色めいた動きで這っていた手が、急に子供をあやすような手つきに変わって、彩乃の髪を解き始めた。そうして、やんわりと彩乃から離れ、ようとする。

だが、彩乃は、今度こそ、ぎゅっと大きな身体にしがみ付いた。

「彩乃?」

「か、かおるさん……あの」

しがみついたまま、次の言葉が継げない。けれど、離せない。額を山科の胸板にぎゅっと押し付けて、今言えるだけの精一杯を口にする。

「あの……離れないで」

「彩乃」

「嫌じゃ、ないです」

山科の手が、そ……と彩乃を引き寄せる。もう一度「彩乃」と読んだ時、声の雰囲気トーンが変わった。

「彩乃、怖かったり、嫌だったりしたら……言ってくれ」

「嫌だって言わないです」

「……怖くないか」

「怖いですよ、初めてなんだから」

「……そうだな」

彩乃の顔が持ち上げられて、山科の唇がやや強引に重なった。ちゅ……と音を立て、何度か角度を変えながら唇が重なり合う。

嫌だと言っても止めないで。

身体が震えても離れないで。

互いを離したくなくて、求める指先がせわしなくなる。山科の手が彩乃の上着の中に入り、背中の肌に直接触れた。ぞくりと身体が震えたが、ようやく彩乃はその正体に気がついた。恐怖でも緊張でもない、甘い感覚に身体が揺れたのだ。

再び唇が重なる。

今度は今までとは全く違う動きで、とろりと山科の舌が唇を割って入った。濡れた舌同士が、ぬめりと共に触れ合い、彩乃が拙い動きでそれを追いかけた。少しでも山科を感じたい、触れて欲しいという一心で、懸命にそれを絡ませる。

言葉もないのに、彩乃の気持ちを感じ取るように山科の手が深くなった。

背中を這う手がいつの間にか彩乃の下着のホックを探っていて、プツンとそれを解く。胸の柔らかみが締め付けから解放されて解け、それを受け止めるように山科の大きな手が前に回った。

柔らかさを確認するように数度撫でて、山科の身体が離れる。

しかしすぐに山科の身体が今度は彩乃に覆いかぶさり、着ているパジャマのボタンを外し始めた。

「かおるさん……」

「大丈夫か?」

「大丈夫、です……でも、恥ずかしい」

「暗くしているから、見えない。今日は」

「今日、は?」

「次するときは、灯りをつけるから、彩乃を見せてくれ」

「えっ」

抗議する前に、前が全て外された。山科の唇が今度は彩乃の唇に軽く重なり、そのまま耳元へ滑る。先ほどまで彩乃の舌と絡まっていた粘膜が、耳朶を舐めてくすぐっている。

「んっ……」

声がこぼれてしまう。

キスした時とよく似た、うっとりとした甘い愉悦。しかしそれとは格段に違う強い刺激を耳元に感じたかと思うと、胸を探っていた指先が、尖った頂を捉えて弾く。

「……っあ、は」

声を上げているのは彩乃ばかりだが、どうしようもなかった。彩乃が小さく声をあげ、身体を震わせるほど、山科の舌と指先は、執拗にそこを責め立てた。甘噛みされているのか、時々耳元に歯先が当たるのを感じる。歯が当たったまま、つ……と耳を扱かれた。歯が耳元を滑っていく荒い感触に、彩乃が思わず山科の身体にしがみつく。

ぐ、と感じたことのない硬さの「何か」が彩乃の足と足の間に押し付けられ、すぐに離れる。

それが何か彩乃の意識が追いかける前に、山科の顔が一度離れ、今度は彩乃の胸元に降りてきた。慌ただしく下着を取り上げ、脱がされる。

ペロリと胸が舐められた。

あ、と思う暇もなく、やんわりと吸われる。他のどんな感覚とも違う、しびれるような、いや、それとも少し違うような感触に、今まで出したこともない甘い声が溢れる。胸に触れられているのに、身体の奥から何かが湧き出すように感じる。下腹から何かが甘く響き、胸ではなくて腰が震える。

片方の胸の膨らみが山科の唇に覆われて、その中で舌がゆっくりと上下に動いている。その度に舌先で乳房の先端が転がされ、声が上がるのが止められない。もう片方の胸は、ざらついた指先がしつこく撫でていて、いつもとは少し違う固さにそこが膨らみ、熱を持っているのが彩乃にもわかった。

「硬くなって……」

「ん……あっ、」

「かわいい、彩乃……」

さまよう彩乃の手を、山科が押さえ込むように、身体全体を抱きしめる。首筋に山科の顔が埋められて、脈を確認するようにそっとそこを舐めながら、今度は大きな掌が、彩乃の下半身に触れた。

「や……っ」

しかし、山科はもちろん止めない。下着の中に手のひらが入ったかと思うと、下腹の曲線をなぞり茂みの奥に指先を滑らせる。

秘部に触れられる驚きに一瞬身構えたが、思ったような感触は来なかった。

「濡れているな」

「んんっ……」

山科の指先の、何の引っかかりもない動きに、彩乃もそこが濡れているのだと分かる。ぬるりと濡れた箇所を的確に触れ、蜜を丁寧に掻き出す。皮膚に触るような感触を想像していたのに、そこははるかに粘着質で、もっと閉じられていると思っていたのに、すんなりと解けている。

「あっ……!」

そうして、山科の指を飲み込んだ。

彩乃が思わず声を上げると、山科が首筋を愛しむように口付ける。挿れた指を一度ゆっくりと出して、秘裂に沿わせて花芽を擦る。チカチカとした刺激は一瞬で、指先がぐるりとそこを撫ぜると、下腹の奥……子宮があるだろうあたりが、ぎゅっと狭くなるように感じた。

「……あ、あ……」

「ああ、彩乃……濡れて……」

指先がふっと離れると、山科が彩乃の服を強引に下ろした。上も脱がされ、何も身に着けていない身体になる。山科の体が離れた時間を持て余したのは一瞬で、衣擦れの音がした後、すぐにぎゅ……と抱きしめられた。

山科も何も身に着けていなかった。

素肌同士が触れ合って、山科の硬い身体に彩乃の柔らかい胸が押しつぶされる。ぐ……と太ももに、明らかに感触の違うものが触れ、足が絡まり、腰の丸みに手が這わされた。

色を匂わせるような動きで、数度、山科が腰を押し付ける。身体全体で抱きしめられ、彩乃も山科の身体を確かめたくて、ぎゅとしがみついた。

「柔らかいな、彩乃」

「あんまり見ないで」

「見えてない」

小さく笑う山科だったが、まるで身体で触れ合わせて彩乃の身体を確認するように、素肌を合わせて撫でられる。見えていないのは間違いないと思うが、山科はまるで見えているように彩乃の身体を撫で、愛でているように感じられた。

「かおる、さ、ん……っ?」

不意に山科の身体が下がり、彩乃の下腹部に顔を寄せた。太ももを持ち上げられ、足を開かされる。

「かっ、かおっ、かおるさん、ちょっと、あっ……!」

そのまま、先ほど指先を埋めていた箇所に唇を寄せ、舌でペロリと舐めた。

指で与えられた刺激より、もっと柔らかくもっとしびれるような感触が背中を這う。やめてと言いたかったが、唇から出たのは甘い喘ぎ声だった。思わず口を押さえたが、山科の手が伸びて、その腕を掴まれる。

「こ、声、が」

「出していい、今くらいの大きさなら」

山科がそう言って、もう一度秘部に食らいついた。指で押し広げられ、柔らかい部分をゆっくりと、なぞるように舌が這う。

ピチャ……と水を舐めるような音がした。

押し広げている指が時々、深いところに侵入し、入れ替わりに舌は花芽を探る。いつの間にか指が2本に増えていて、身体が愉悦を追いかけるようになっていった。

びく、と腰が震える。

持って行き場のない手の片方を、山科が掴んでくれた。ぐ……と力を入れられると、まるで誘導されるように、背筋に何かが……今までと同じベクトルなのに、全く違う風にも感じる何かが這い登る。

「あ……あ、や、だ、かお、る、さん……っ」

「イケそうか? 彩乃、そのまま……」

「や、わかんな……っ……い……っう」

山科の舌が強く吸い上げると同時に、彩乃は昇りつめて、落とされた。腰が幾度もビクビクと震え、息がうまく吸えない。逹した身体はすぐさま山科に抱き寄せられた。初めての感覚をどう受け止めればいいのかまだ分からない初心な彩乃の身体を、興奮に熱を持った山科の筋肉が包み込む。

「彩乃、好きだ」

「か、かおるさ、ん」

「好きだ」

ちゅ……ちゅ……と、山科の唇や頬が彩乃の首筋に触れる。ふと意識を向けてみると、それほど動いたわけでもないのに山科の息も荒く、その吐息を聞いていると愛しくてたまらない。

ぎゅ、とすがりつくと、もう一度まぶたに唇で触れて、山科が彩乃を片方の腕に抱き寄せたままサイドテーブルに手を伸ばした。

カサ……と音がして、山科の身体が離れる。

「少し、痛いかもしれない」

「ん……だいじょうぶ、です」

山科が彩乃の唇と、首筋と、そして足の付け根に小さく口づけを落とす。そんな微かな触れ合いにも、彩乃の身体は触れられる悦びに敏感に反応し、小さく震える太ももを、山科が掴んで大きく広げた。

何かが秘部に触れる。

それが山科のものだというのに気付いたと同時に、入り込んできた。

「いっ……ぅ」

「は……あや、の」

こんな大きなものはいらない。だって指だけできつかったのに。そう思ったが、彩乃のその部分は少しずつ押し広げられた。先端がくぷりと飲み込まれ、腰をつかむ山科の指に力が入る。ヒリヒリと引き攣るような痛みを感じるが、山科の指先が彩乃の胸に触れた時、下半身はこんなに痛いのに、ひどく甘い愉悦が走った。

「っ、締まって……彩乃、力を抜け」

「で、も、」

「こら……ちゃんと、息をするんだ」

言われて自分が息を止めていたことに気がつく。いつの間にか近づいた山科の唇が、彩乃の唇のそばに触れた。その触れ合いにホッとした瞬間、ぐつ……と子宮の奥が押し上げられた、気がした。

「あっ、あ……!」

「入った……ああ、彩乃……」

そう言って、山科が愛おしそうに彩乃を抱きしめる。山科とつながっている箇所が、ジンジンと熱く痛むが、奥に彼が居るのも感じる。痛いのに、それ以上の幸せも感じる。恥ずかしさも痛みもあるのに、心のどこかが満たされる心地よさがあった。

「かおるさん、好き」

「あやの」

「好き……っ、あっ……あぅ……っ」

山科が苦しげに呻くと、腰が引かれ、ゆっくりと押し戻ってきた。擦られ、めくり上げられるような感触に、開かれたばかりの膣内がひりつくように痛む。だが、押し戻ってきた山科の熱が、ぎゅ……と子宮にぶつかると同時に、再びとろりと何かが湧き上がるような愉悦が蘇った。

少しずつ、山科の動きがスムーズになっていく。

つながっている箇所の奥が、温かい何かに満たされるような、そんなぬめるような感触を覚える。時折、山科が彩乃の腰を持ち上げるように角度を変えて突くと、先ほど指でされた時のような、だがもっともどかしくてもっと大きな何かが、彩乃の下腹を撫でていくようだ。

山科が抽動を繰り返す。

痛みはもう入り口だけで、その痛みを忘れさせるような、とろみのある重い愉悦が沸き起こった。

何かを感じ取ったのか、山科がつながり、触れ合ってる箇所に指を伸ばす。付け根で赤く膨らんでいる肉芽をこねるように押しつぶすと、追いかけきれなかった快楽が突然彩乃の背中を這い上った。

甘い嬌声とともに、膣内が収縮する。

柔らかくとろけるようになったそこに、山科もまた欲望をぶつけた。

幾度か激しく揺さぶられると、荒い息とともに、密着するように抱きしめられる。

自分の膣内がヒクヒクと脈動しているのを感じるが、それに合わせて挿入されている山科の熱もまた、ドクリと何かを吐き出していた。生々しい感触さえも愛おしく、体重をかけてくる山科の身体にすがりつくように腕を回す。

まだ下半身は痛むのに、ずるりと出て行く山科の身体が、なぜかひどく名残惜しかった。