「聞いてない!」
「何がですか」
「な、なんなのその身体、なんなの!!」
シャルロークはいとも簡単にアレクシスを裸に剥くと、自分も服を取り払った。月夜に浮かぶその姿を見たアレクシスは、我が目を疑った。ひょろひょろだと思っていた身体は、確かに細身ではあるが、キレッキレの筋肉が付いていて腹はしっかり六つに割れていた。二の腕もウェストも太腿も、かっちり堅そうで、白い肌に浮いた筋が艶めかしい。
「常に陛下をお守りする立場にあるのですから、鍛えるのは当然でしょう」
「聞いてないってば!」
「見せておりませんからね」
四六時中一緒にいるのに鍛えているところなんて見たことなかった。一体何をしたらそんな筋肉になるのだ。それに、それに……、見ないようにしても見えてしまうシャルロークの下半身は、何にもしていないのに滾っていた。
アレクシスの視線に気がついたのか、シャルロークはニヤリとあくどい笑みを浮かべる。
「これを使うのはまだですよ」
「なっ」
「陛下のお身体を解さねば、入らないでしょう」
そう言うやいなや、アレクシスの身体を抱き寄せて、唇を重ね合わせた。
寝台の上でもつれ合うように互いを抱き寄せる。シャルロークの舌はまるで別の生き物のような動きで、アレクシスの口腔内を蹂躙した。思わずアレクシスの舌が動くと、歓喜するようにそれをしゃぶり尽くす。少しでもアレクシスが反応すると、決して逃さぬと言わんばかりにきつく抱き寄せられ、愛撫が激しくなった。
「ん……あ、あ、シャルロ、ク」
「陛下……ああ、ずっと触れたかった。誰にも触れさせたことのない、私が初めて触れる、陛下」
うっとりとつぶやきながら、シャルロークの唇がアレクシスの身体を辿っていく。張りのある、それでいてぷるりとやわらかな胸の膨らみに吸い付くと、時折ジュルリと水音を立てながら、舌で何度も揺らし始めた。
もう片方の胸は、細く長い指先が先端を確認するように動いている。
指先と舌先が乳房を揺らす度に感じたことのない感覚が身体を溶かし、思わず甘い声が上がる。その声を聞いたシャルロークが、胸を口に含ませながら、アレクシスに視線を向けた。
じっとアレクシスの顔を見ながら、見せつけるように舌を出してべろりと胸を揺らす。そのいやらしさに頬を染めると、さらに楽しそうに吸い付き、軽く引っ張っては音を立てて離した。その度にアレクシスの白い胸はたぷたぷと揺れて、シャルロークを楽しませる。
「も、……や、……あ」
「嫌? 刺激が足りませんか?」
「な、ちが……うっ……んっ」
シャルロークが胸から顔を離し、さらに下へ下へと下りていく。太ももを抱えるように持ち上げると、雫をこぼす裂け目に顔を近づけた。
「ああ、こんなに零して」
「なっ、待ってよ、そこまで、しなっ……やっ」
愛おしそうに濡れたそこを舐めとると、大きく口を開いて食らいつく。
「ひ……うっ」
秘部の周囲を唾液で濡らした後、出来る限り舌を奥に差し入れる。敏感な皮膚を擦るように歯が触れて、その感触に肌が粟立った。
「濡れていますね、もっと垂らしてくださっていいのですよ。私が全て受け止めます」
「……ん、っ、あ……も、や……シャルローク……」
「ええ。大丈夫ですよ、力を抜いてくださって」
「やぁ……変にな、あ、それ、やっ」
唇が離れれば指先が花芽をいじる。桃色に濡れた真珠の粒のようなそれを剥き出しにすると、舌で何度も転がした。最初は細く強く感じた刺激が、言われるままに力を抜くと、どろりと重い快楽に変わる。思わずそれを追いかけた瞬間、子宮からお腹に這い上がるような感覚が走り抜けた。
「いや、いやっ……ああぁ……っ!!」
初めて味わった絶頂に、甘い嬌声を上げて背中を反らす。満足そうなシャルロークはアレクシスの太ももを下ろすと、余韻を楽しむようにアレクシスの秘所へと指を入れた。
「……んっ」
「愛らしい、私の陛下。今だけはお行儀の悪い声を上げてもかまいませんよ」
感じているアレクシスの顔を見ているだけで興奮する風情のシャルロークは、達したばかりで敏感になっている膣内を、挿入した指で小刻みに擦る。ヒクヒクとまだそこは震えていて、指に纏わりつく粘液が増した。
一度達して柔らかくなったのを見て取ると、シャルロークは指を抜き、アレクシスの愛液で糸を引く様を眺めた後、味わうように口に含む。
「もうそろそろですね、陛下」
「も、入れ、入れる、の?」
「はい。私もそろそろ限界です」
「あっ」
最初からずっと張り詰めていたシャルロークの熱を、アレクシスの蕩けた箇所へと押し付ける。ちらりと視界に入ったそれは、アレクシスが想像するよりも大きくて、……なんというか、長くて、シャルロークの指一本ですら隙間のなかったように感じた自分の膣内に、あれが本当に入るのかと慄いた。
「いや、それ」
「少し痛いかと思いますが」
「ヤダ、無理だよ、そんな大きいのっ、あっ」
「大きい? 誰かと比べているのですか?」
「違うっ、なんか、思ってたよりおおき、あああっ!」
「少しお黙りなさい、陛下」
アレクシスを抱えるように抱きしめると、押し付けていた塊が、グツリと膣内に入っていった。
「い、った」
「ああ……陛下……」
やっぱりすごく長いのではないだろうか。奥に届いて、まだなお、子宮を押し上げてくるようだ。子宮にぶつかると同時くらいに、皮膚が裂けるような痛みが走ったが、痛みとは別にアレクシスの身体は確かに歓喜で震えていて、シャルロークが少し腰を動かすたびに、甘い感情と快楽が混ざったような感覚を覚えた。
「痛いですか、陛下」
「い、たい。いたいよぅ、馬鹿! 馬鹿シャル!」
「今日は我慢してください、陛下」
「ね、シャ、ルロー、ク」
「はい」
「こんなとき、くらい、」
「陛下?」
「名前、呼んで、陛下はイヤ」
「……」
結合した愛しみに瞬いていた瞳が驚愕に見開かれ、同時に再びギラギラと燃え始めた。笑みすら浮かべず、溺れるようにアレクシスの唇を奪う。
重なり合った身体がさらに深く繋がり合い、シャルロークの腰が動き始める。
「アレクシス」
「あ」
シャルロークのものが膣内を往復するたびに、絡みつく滑りが増えていく。
「アレクシス、アレクシス……私の、アレク……」
「あっ、あっ、や……やあ、激し、あ、そんなっ」
動きはだんだんと速くなり、結合部からぐちゅぐちゅと泡立ったような音が響いた。いつもは冷静で不遜な悪い笑みを浮かべているシャルロークが、全く余裕のない顔で息を上げてアレクシスに縋り付いている。
「は、あ……。アレク、……いい、もう……っ」
「あ、ああ、シャルローク、シャル、私、あっ、う」
お互い何を言っているのか分からないまま、ただ、意味をなす言葉は自分たちの名前だけ。激しい息を交わしながら、二人は身体を絡ませた。激しく揺らし、高まり合う愉悦に同調するように、どちらからともなくきつく抱きしめあう。
呻くようにシャルロークが喉を鳴らし、アレクシスが小鳥のような啼き声を上げた。
繋がりあった部分がどちらも達して、どちらもどくどくと脈打っている。
痛いのに、終わったのに、初めてなのに、なぜだか離れたくなくてアレクシスはシャルロークに腰を押し付ける。吐精の気怠さから徐々に立ち直り、瞳を開いたシャルロークは、「仕方のない方ですね」と囁きながら、絹のような白金色の髪に無骨な指を通した。
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それから当然のようにアレクシスを浴室に運び清めた後、「風邪をひかぬように」とシャルロークは隣に添い寝をした。慣れぬ風にごそごそと位置取りをしているアレクシスの身体を抱き寄せて、まろやかな肌触りを堪能する。
アレクシスの身体をあやすように撫でていると、事後の疲れからかすぐに眠ってしまったようだ。シャルロークは手に入れた愛する女王のことを思って口元が緩んだ。アレクシスが見ていたら「悪い顔になってる」と言われそうだ。
シャルロークが王配に名乗りをあげることは、アレクシスが知らないだけで宰相のウルドラなど、主要なものたちに話は既に通している。アレクシス本人の許可は自ら取ると言って、シャルロークが黙っておくよう手配したのだ。
もちろん、最初からアレクシスを囲い込もうとしていたわけではない。
王配候補たちがアレクシスにふさわしい男であるならば、あるいは、アレクシスがあれらの誰かを選んだのならば、シャルロークは己の想いは押さえたまま、侍従長という地位で彼女を見守り続けようと思っていた。
しかしアレクシスが十八になった時、異世界から「メイコ」という女が迷い込み、すべての流れが変わった。
シャルロークは今でもはっきりと覚えている。
アレクシスが開いた夜会、確かメイコとやらも伯爵令嬢として出席していた。シャルロークは新しい貴族の顔ぶれが増えたら、アレクシスの害にならない者かどうか必ず観察する。だから気がついた。
メイコは、あの女は、壇上から下りてきたアレクシスを見て唇を動かした。「どうして生きているの?」と言ったのだ。
他の者たちに聞こえていなかったようだが、隣に並んでいた伯爵には聞こえていたのだろう。ぎょっとして、慌てて黙らせていたのをシャルロークは見逃さなかった。
どんな女か見極める必要があり、シャルロークは一度メイコと面談する機会を持った。
その時、彼女はシャルロークに対して「女王様がもし死んだら、後継はどうするの?」などという質問をしでかしたのだ。
アレクシスの「十八で死んでしまうかもしれない」……という言動と、メイコの発言は奇妙に一致している。もしかするとメイコという人間は、アレクシスと何か関わりがあるのかもしれない。しかし、どのような関わりがあるにしろ、シャルロークにとってメイコは不吉な不穏分子でしかなかった。
王配候補の一人に協力を得て、シャルロークはメイコのサロンを探らせた。メイコは「女王の生死」と「跡継ぎ」そして、「世界の歪みがなぜ正されたのか」ということについて、並々ならぬ関心を寄せ、不穏な発言を繰り返しているらしい。さらに「女王フラグ回避しなきゃ」という頭のおかしいとしか思えない言動も報告されている。さらにメイコはアレクシスと二人きりで会いたいと周囲に吹聴し、会わせてくれないのをシャルロークやウルドラの陰謀だと悪し様に言っているようだ。女王に対して不穏な発言をしているのは自分だというのに。
最終的に、シャルロークはメイコの一連の発言について王配候補に意見を求めた。王配候補たちはメイコが「女王暗殺」の疑惑を持たれているのだと、ようやく気がついたらしい。王配候補の一人、将来は騎士団長と目されていた男は夢から覚めたようにうなだれたが、もう一人の王配候補、公爵子息はメイコはそんな人間ではないはずだから、一生をかけて矯正すると言っていた。
手飼いのものを使いメイコと公爵子息の仲を深くさせたのはシャルロークの仕業だったが、恋をした公爵子息の夢見がちな発言にシャルロークは苦笑するしかなかった。まあ、自分がアレクシスに対して抱いている思いも人のことは言えないのだが。
いずれにせよ公爵子息の愛が一生メイコを見張るのならばそれでも構わないだろう。裏切ればすぐに始末出来る。
公爵子息には、そのうち戦略的要素の何一つない田舎の小さな領地にでも行ってもらおうと考えている。本当に愛し合っているふたりであれば、空気の良い田舎での暮らしも楽しめるはずだ。
「陛下。陛下の身は私がお守りしますよ」
ようやく夜も、アレクシスのそばに居られるようになった。
シャルロークはアレクシスの温かい身体を抱き寄せる。
ううん……と小さな吐息をこぼした我が女王陛下の寝返りを受け止めて、シャルロークはその至福に笑みを浮かべたのだった。
****
翌朝、目覚めたアレクシスの隣には見知らぬ美形の男が寝ていた。
誰だこれ? 髭がない。
「陛下? おはようございます」
「えええええ、誰!? 誰なの、シャルロークは!? シャルロークどこ!?」
「陛下、シャルロークはここにおりますが」
「うそおおおおおお!」
朝からうるさいアレクシスにシャルロークが気怠げに身体を起こした。朝日に照らされた裸の上半身は色白で、おまけにキレキレの鋼のような細身の筋肉が眩しい。
そして青灰色の髪が縁取る顔には髭がなかった。
「髭は!? シャルローク、悪役ヒゲは!?」
「陛下が悪役ヒゲだの、笑うと悪い顔になるなどとおっしゃるので、陛下がお休みになっている間に剃りました」
「ええええええ」
口元を撫でるシャルロークをまじまじと見つめる。シャルロークは陰気であくどい顔をしているが、鋭い瞳と造作の良い鼻筋を持っていて、悪役ヒゲを取るとただの。
「ただのイケメン悪役顔じゃん!」
「……なんですか、イケメン、とは」
そして悪役ヒゲを取ったからといって善人顔にはならないらしい。それでもこの顔だと、もしかしたら宮廷の女の人にモテるかもしれない。そう思うとアレクシスは急にムカムカして、枕をシャルロークの顔に押し付けた。
「ヒゲ剃らないで、悪役ヒゲのままでいて、そのまま夜会とかに出ないで!」
「陛下。そもそも悪役ヒゲとは一体何なのですか」
「いいから! シャルロークは今までのヒゲの方がいいの!」
シャルロークはアレクシスがなぜ急に機嫌を損ねたのか全く分からず首をひねった。
その日、アレクシスが十九になった祝いの宴の席にて、ディロス侯シャルロークが王配となることが発表された。すでに根回しが終わっている宮廷からは当然のように受け入れられたが、ヒゲを剃って正装をしたシャルロークにアレクシスだけが不機嫌だった。
シャルロークが王配になったことにより、侍従長の仕事を誰が勤めるのか……という声も上がったが、それについては特に問題にはならなかった。シャルロークは侍従長を辞したものの、今度は王配として側に侍り、アレクシスの秘書的な仕事、守護の仕事、毒見、熱いスープをフーフーする役、庭の散策のエスコート、夜会のドレスの相談まで、今まで通りこなしている。もちろん、シャルローク自らが進んでそれを行なっている。
なお、シャルロークはせっかく落としたヒゲを再び作り、あくどい笑みを浮かべるたびにアレクシスに「悪役ヒゲ」と呼ばれている。
女王は歴史に残る賢王として生涯国に尽くし、その傍らには常にシャルロークという名の男があったということだ。
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「十九になったらって言ってたのに」
「何がですかな」
「王配を選ぶの」
「何も問題なかったと思いますが」
「問題ありよ! 私まだ十九になってなかったわ」
「なっておりましたよ」
「え?」
「陛下が、名前を呼んでとおっしゃったあたりで、十九になっておりました。ちょうどいいでしょう」
「ちょ、ちょうどいいってどういう意味よ」
「意味を言って欲しいのですか?」
「言わないで!」
「陛下がちょうど純潔を失った……」
「言わないでって言ってるでしょ!」
アレクシスの機嫌が斜めになったにもかかわらず、シャルロークは勝ち誇ったような笑みを浮かべて顎を撫でた。