こうして、スレンは行儀見習いとしてオルディナの宮で過ごす事になった。オルディナは宮から出られないが、王の配慮によって王城に居た時と変わらない教育を受けている。家庭教師のレイクによる一般教養や行儀作法、歴史や語学、それに剣や護身の授業だ。剣の習いはフレクが勤めている。老人に見えるが、成年にも少年にも姿を変えるあれは、剣の腕も確かで知識も豊富だ。そうしたオルディナの勉強に、スレンも加わる事になった。オルディナの勉強の時間は一緒に勉強をして過ごし、休憩時間は一緒におやつを食べ、馬の世話をするといえば見送るふりをして、愛馬となって側にいた。
手をつないで庭を散歩するのは楽しかった。手をつなごうとすると、オルディナは子供みたいと渋るが、スレンが無理矢理つなげば嫌がらない。どうやらスレンの行動はオルディナからは子供っぽいと思われているようだが、スレンフィディナでいればオルディナの方が甘えん坊なのだから、スレンの中では五分五分だ。
背の低い身体は面白く、オルディナとの時間は何をやっても飽きなかった。ただ、オルディナの涙を拭いたくて人間の姿になったはずなのに、その機会は全く無い。オルディナはスレンの前では年上ぶりたがって、何故か強がった。
「スレン、葉っぱがついてる」
「ん」
乗馬の練習から戻ってきたときは大忙しだ。森をぽくぽくと散歩したあと、スレンフィディナを宮に戻して、オルディナはすぐにスレンはどこかしらときょろきょろし始める。急いで少年の姿に戻ってオルディナのところに駆けていくと、きまって髪に枝やら葉っぱやらが引っかかっているようなのだ。どこで遊んでいたのと笑いながら、オルディナがそれを取るのが日課だ。
葉っぱを取った後、オルディナがスレンの髪を解くように、するすると撫でてくれるのが好きだった。
「スレンの髪、きれいな金色でいいなあ」
「ディナの髪の方がきれいだよ」
「そうかな。スレンフィディナみたいでうらやましい。スレンフィディナもね、とってもきれいな金色なのよ。スレンも見られたらいいのに」
「馬は別に見なくていい」
むっとして断った。
スレンとスレンフィディナを邂逅させることはさすがに出来ないので、時折すれ違いそうになるときは幻影を見せている。だが基本的には、スレンは馬の側に行くと蕁麻疹が出る……という風にしてある。まさか人と神が一体になっているとは思わないのだろう。オルディナは素直で、全く疑っていないようだ。
オルディナがスレンフィディナのことばかり話すのは気に食わなかった。いや、結局は自分が褒められているのだから悪くはないが、何か違うような気がするのだ。オルディナはスレンフィディナには涙を見せるが、スレンの前では涙を見せない。弱音を吐くのも、甘えたりするのも、我侭を言ってみたりするのも、全てスレンフィディナの前だけで、スレンの前ではいつも賢いオルディナだ。それがなんだか面白くない。
「ね、スレンの髪、邪魔にならないように編んであげる」
「うん」
最近のオルディナの流行は、スレンの髪を編む事のようだ。隣同士ソファに座ってオルディナに軽く背中を向けると、細い指先がそっと金色の髪を梳いていく。
櫛が通るときにもつれた髪が引っかかるのは少し痛いが、オルディナの細い手が髪を撫でるのは心地がよくて、スレンはもちろんおとなしくしている。
「いたっ」
「あ! ごめんなさい」
「ん、大丈夫。平気だよ」
しかし肩よりも少し長い程度の髪は編むには難しいのか、それともオルディナがあまり器用ではないのか、出来上がる三つ編みはかなり不格好であちこち引き連れて少し痛い。よくよく見てみると、髪がきれいに三等分できていない上に、片方が緩むと片方が引っ張られるのだ。しかも編む数を欲張ってしまうから、あちこちから毛先が飛び跳ねている。それでもオルディナが編んでくれた様子にスレンはご満悦だ。いまだオルディナは出来映えに満足しないようで、むんむんと悩んでいる姿を見るのも愛らしかった。
そんな風に髪を結わえて遊んでいると、家令のフレクがやってくる。
「姫、陛下からお手紙です」
「お父様から? きっとこの間のお手紙のお返事ね!」
オルディナは先日父親の国王に手紙を出していた。オルディナの兄ウィスリールは黒泥の魔と戦い命を落としたのだが、その功績を称え、国誕祭では英霊として祀られる事になったのだ。特に今回の国誕祭は、ウィスリールが亡くなってから一番最初の祭事となる。だからどうしても墓地に参り祈りを捧げたい……という内容を、オルディナは懸命に綴って国王に出したのだ。その返事が来たのだろう。
ひりひりする頭をさすりながら、スレンは手紙を読むオルディナを伺う。
「ディナ……?」
読んでいるオルディナの顔がみるみる内に強張り、何かを堪えるように唇を噛み締めた。思わず名前を呼んで黒い髪に手を伸ばしたが、スレンの指先が触れた途端、ぷるぷると頭を振った。
「姫?」
拒まれたように感じて手を引っ込めてしまったスレンに代わり、フレクが遠慮がちに問い質す。オルディナは手紙を持ったままうつむいていたが、2人の視線を感じて顔を上げた。
「えっと……あの、あの……国誕祭、出なくていいって」
「姫……」
「お父様からの言いつけだから……しょうがないね……」
言いかけて、堪えきれなくなったように顔が歪む。誰が見てもオルディナは泣きそうなのに、それでもオルディナは笑おうとがんばって、うまくいかなかった。
スレンがオルディナの頬に手を伸ばしてみる。そこに涙が流れているかと思ったからだ。
だがオルディナは咄嗟にそれを避けた。オルディナはスレンのことをもう見ていない。そわそわと胸元に下げた金色のペンダントに触れていて、口許をもごもごと動かしていた。多分、何か言おうとしているのだろう。笑おうとしているのかもしれない。しかしそれは結局言葉にならず、しょんぼりと沈黙しただけだった。
なぜスレンの手ではオルディナの涙を受け止められないのだろう。
折角人の姿になってオルディナの側に居るのに、どうすればいいのかスレンには分からなかった。
****
いつものように振る舞ったつもりだけれど、上手くいっていないのは明らかだった。夕食はいつもよりもオルディナの好きなものばかり並んでいたが、どれも美味しいと感じられなかったし、お茶菓子はいらないと断ってしまった。常ならば食後にスレンと遊んだり本を読んだりするのだが、今日はおしゃべりもそこそこに寝室に引き上げ、寝る支度をして床に就く。
心の何処かで、国誕祭には出られないのだろうとは思っていた。けれどあの祭事は国で一番大事なものだ。家族揃って正式に参加することも、王族としての大事な務めだと聞いていた。それに出席させてもらえないということは、オルディナはもはや王の娘では無いのだろうか。
「……」
灯りを落としてしまったら、部屋の中は月の明かりだけだ。寂しい心は不安を呼び起こし、部屋の隅の暗闇に目を向けるのが怖い。どうしよう、暗くするんじゃなかった。もう少しスレンと一緒に起きていればよかった。そんな風に思って、また知らず知らずの内にペンダントをぎゅっと握った。
スレンが来てから夜はぐっすり眠るようになって、ここのところスレンフィディナのところに行く回数は減っていた。そのはずなのに……。
「スレンフィディナ……」
スレンフィディナに会いたい。でも今はまだ少し早い時間だから、廊下に出れば起きている家令や侍女に鉢合わせてしまうかもしれない。スレンもきっと起きているはずだ。スレンの部屋はとても近いから、扉を開けると気付かれてしまうかも。
だけど不安で、寂しくて、心細くて、オルディナはまたいつもの癖で寝台を降りる。上掛けを被って部屋のを外を伺っていると、コンコン……とノックする音が聞こえた。
部屋を抜け出そうとしたことに気付かれてしまったのだろうか。気付かれたとしても、侍女や家令はきっとオルディナには何も言わないだろうけれど、実際に見つかってしまうのとは全く別だ。どうしよう……と息を潜めて足を止めると、扉の向こうから声が聞こえた。
「ディナ、ディーナ。起きてる?」
その声の主に少し驚いて、オルディナは思わず扉を開けた。そっと覗き込むと、同じようにそっと覗き込んでいるスレンと目が合う。スレンは片方の手に灯り、もう片方の手に籠を持っている。オルディナの姿ににっこりと笑うと、手に持っている籠を持ち上げた。
「スレン?」
「ディナ、おやつにしよう」
「え?」
でももう寝る準備をしてしまったのに。そう言い返そうとしたが、先にスレンが扉の中に身体を滑り込ませて部屋に入ってきた。とことことオルディナの寝ていた寝台までやってくると、灯りをサイドテーブルに置いて、籠を持ったままひょいと飛び乗った。
食べ物を持ったまま寝台に登るなんて、と呆気に取られていると、なんでもないことのようにスレンがぽふぽふと寝台を叩く。
「ディナ、何してるの? おいでよ」
「スレン、スレンこそ何してるの」
扉を閉めてオルディナが寝台のところまで戻ると、スレンはすっかりくつろいでいた。枕を大胆に退けてクロスを広げ、その上に籠を置く。中から侍女お手製の柑橘水が入った水筒を取り出して、サイドテーブルに置いた。そうしてお行儀悪くうつ伏せに寝転がると、早く早くとオルディナのために場所を空ける。
「広いから大丈夫だよ、ディナが乗っても」
「そういうことじゃなくって」
もちろん宮の主人であるオルディナが眠る寝台は、大人が3人乗っても眠れる位広いものだ。子供が2人並んだくらいでは転がり落ちたりはしない。だが寝台の上で何か食べたりするなんて、オルディナはやったことがない。そんなこと、お行儀の悪い子供がすることだ。
そう思ったのだが。
「ディナ? 食べないの?」
そんな風に、きょとんとスレンが聞くものだから、オルディナは上掛けを握りしめたまま寝台に登った。うつ伏せになって頬杖をついたスレンが、そんなオルディナを見て嬉しそうに笑う。上掛けを丸めて抱き締めて座り込んだオルディナに、スレンががさごそと籠から何かを取り出した。
「ほら、これ」
ビスケットだ。オルディナは目を丸くする。
「どうしたの、これ」
「ん。調理場から持ってきた。フレクが作ったんだ」
「まあ、ダメじゃない、持ってきちゃ……」
「いいんだよ、たくさんある中のちょっとだけだからさ。ほら、はやく!」
スレンが父親であるフレクのことを「フレク」と呼び捨てにするのも信じられないし、寝台に寝転がってビスケットを食べようなんていう行動もひどく子供っぽい。けれどスレンのにこにことした可愛い笑顔を見ていると、お行儀なんてものにこだわっている自分がとてもつまらないように思えた。
オルディナもスレンの隣に同じ姿勢でころんと転がる。
「はい、ディナの分だよ」
うつ伏せのまま、スレンが渡してくれたビスケットを受け取った。だが、やはり寝台で寝転がったままビスケットを食べるなんて……と躊躇っていると、スレンが首を傾げた。
「食べないの?」
「ええと……」
言いながら、スレンが自分の持っているビスケットをかしっとかじる。オルディナも自分の手に持っているビスケットをじっと見つめて、かぷりとかじった。
口の中に優しい甘さが広がる。香ばしい香りと素朴な味に、身体のあちこちがほっとする。思わず「おいしいね」と小さく笑ってスレンを見ると、当のスレンは神妙な顔つきでビスケットを見つめていた。
「スレン?」
「フレクめ、あいつ、ニンジンいれてる」
「え?」
「ニンジンきらい」
どうやらスレンが食べたビスケットにはニンジンが入っていたようで、うええ、という顔をしていた。その顔がおかしくて、オルディナは思わず声に出して笑う。スレンはニンジンが大嫌いなのだ。だが、オルディナの前ではスレンなりに一生懸命食べているようで、もぐもぐと噛んで真顔で飲み込む様子にまた笑った。
「こっちはニンジン入ってないわ。ナッツ味」
「いいよ、これ食べる」
「でも私もニンジンビスケット食べたい。半分こしよう」
「半分こ?」
「うん」
「それじゃあ、半分こする」
大嫌いなニンジンだったが、スレンはがんばってもうひとかじりして半分の大きさにすると、オルディナに渡した。オルディナも自分のビスケットをすこしかじって同じように半分の大きさにしてスレンに渡す。
お互いにビスケットを交換して、もう一度かじる。スレンから貰ったビスケットはほんのり甘いが、それほどニンジンの味が目立つわけではない。ちょうどよい優しい味で、とても美味しい。
「美味しい」
「ん」
足をじたばたさせながら、ビスケットをかじるスレンはいつものように子供っぽいのに、オルディナを見つめる瞳はどこか不思議に大人びていた。スレンを見ていると、スレンフィディナの賢くて優しい表情を思い出す。そういえば金色の毛並みも翡翠色の瞳も同じで、やっぱり羨ましいなあと飽きずに眺めた。
「お水も飲む?」
「飲むわ」
こうして2人は起き上がって柑橘水を飲んで、それからまたごろんと転がってもう1枚だけビスケットを食べた。最後に1口だけお水を飲んで、また寝転がって、明日は何をしようか、フレクに怒られたらどうしようか、ニンジンきらい、ニンジンおいしいのに、そんなことを楽しく話し合う。
オルディナの心の中から、いつのまにか黒い泥のような寂しい闇は無くなっていた。
****
健やかな吐息で眠るオルディナの髪を、スレンはそっと撫でた。さらさらと、まるで水か何かのように滑らかに指に通っていく。頬に触れてみるとふにふにと柔らかい。馬の時に触れ合う時とは全く異なる感触は、人間特有の繊細さのように思われた。
まだスレンの前で泣いてくれないけれど、スレンは知っている。オルディナはとても泣き虫だ。そしてとても弱い。しかし本当に弱いのはスレンの方だ。スレンは神としての力も知識も持っているが、何の力も持っていないオルディナがいなくなったら、たったそれだけでダメになってしまうだろう。
大切な大切な存在。何者からも傷つけられないように守らなければ。
「ディナは、ワタシが守るよ」
「……ん、スレン……」
今、オルディナが寝ぼけて呼んだのはスレンだろうか、それともスレンフィディナだろうか。スレンはオルディナの片方の手をそっと握る。
オルディナの寝顔を見ていると、聖苑で過ごした長い孤独は忘れてしまう。そして忘れれば忘れるほど、強く恐怖を感じた。もうオルディナの居ない孤独など考えられない。そんなことになれば、寂しくて狂ってしまう。
「ディナ、ワタシがそばにいるから。だから、ワタシのことも、1人にしないで……そばにいて」
どれくらいそうしていただろう。
灯りが消えた頃にはもう夜の帳はすっかりと下りていた。そうしてオルディナの寝室の扉が静かに開き、1人の老紳士が部屋に入ってくる。家令のフレク……メーア・ヴェンターナの従神、ウサギのフュレクゲーリは、灯りも持たずにひたひたと寝台に近付いた。
「やれやれ、よく眠っておられる」
老紳士の頭の上にはひょこひょことウサギの耳が揺れ、片眼鏡の下の黒い瞳が優しく2人の小さな主人を見下ろしている。
寝台の上には金色の髪の少年と黒い髪の少女が、手を取り合って心地好さそうに眠っていた。枕も敷かずに、辺りにはお菓子をいれた籠が置かれたまま。よくよく見ればビスケットの欠片も落ちているかもしれないが、忠実な家令は、主達の悪戯を今晩だけは大目に見る事にする。
「おやすみなさいませ、姫、スレン」
そうして、2人の身体が冷えないように丁寧に上掛けを掛けて、中身が空になった籠を取り上げ、柑橘水はサイドテーブルに置いたまま寝台を離れた。
泣き虫の王女は今夜はきっと泣かないだろう。寂しがり屋の少年は今夜はきっと寂しくないはずだ。
2人が心地の良い夢を見ますようにと挨拶をして、フレクは寝室の扉をぱたりと閉めた。
****
気持ちのよい日差しが差し込む宮の居間で、スレンがオルディナに背中を向けて座り、オルディナがスレンの髪を一房取って丁寧に梳っていた。
オルディナは、スレンの金色の髪の束をきれいに分けてすこし緩めに、編む数も欲張らずにちょうどよい具合に三つ編みにして毛先を留める。
「出来た」
「上手だね」
「でしょう?」
おとなしくしていたスレンの顔を後ろから覗き込んで、オルディナが自慢げに笑った。スレンが片方の腕でオルディナの顔を引き寄せて、軽く唇を触れ合わせる。不意打ちに驚いたような表情を浮かべるオルディナを、してやったり顔で見返して、スレンも楽しく笑った。
「昔は痛かったんだ、あちこち引っ張ってさ」
「あの時はコツが分からなかったの!」
「知ってる。ねえ、こんどはディナの髪を編んだげるよ。おいで」
スレンがオルディナの方を振り向いて、胸に凭れるように抱きついた。……が、残念な事に、オルディナは「こら」と嗜めながら、スレンの肩を引き離す。
聖苑の守護の任を得たオルディナだったが、小さな館が建つまでの間は、これまで通り宮に住んでいる。少し護衛が増やされ、館に連れていく使用人を仕事に慣れさせるため忙しくなった。そんな中、スレンは嫌々ながらもフレクの仕事を手伝わされるようになり、さらに増える護衛の訓練も引き受けている。弱いやつらにオルディナの護衛を任せていられない、とぶつぶつ言っていたが、オルディナを見る全てに嫉妬を向けていた頃に比べると随分と成長した……とはフレク談。
今ではすっかり2人に漂う雰囲気は甘いものになった。スレンが身じろぎするオルディナをようやく捕まえて、黒い髪に指を通し、本格的に唇を重ねようと顔を近付けた時……。
「姫! 焼けたよ、ビスケット!」
「……フレク様、その子供言葉をお止めになっていただけませんか?」
「え? だって、僕ゲーリだし!」
「全く、ややこしい。……こんがらがりますわ」
賑やかな声と落ち着いた声が交互にやり取りしながら、居間の扉が開いた。少年ゲーリ……もちろん家令フレクの別の姿である……が大きな籠を抱えて部屋に入ってきて、その後ろからミーニアがワゴンに乗せた茶器を押して付いて来る。
今日はミーニアとフレクとでビスケットを作り、それをオルディナの宮に新しく就いた護衛に振る舞っていたのだ。
「……」
「わ、いい匂い」
恥じらって慌てて離れたオルディナに、スレンは気付かれないように顔をしかめた。しまった、という顔のゲーリと、わざとらしい澄まし顔を浮かべるミーニアを睨みつける。
「ニンジンビスケットもあるかしら」
くすくすと楽しそうに笑うオルディナに、スレンがむっとした。
「ニンジンきらい」
「なら半分ずつにする?」
「それなら食べるよ」
言って、すぐに機嫌を良くしてスレンが微笑む。ソファで2人並んで、スレンは恋人の腰を抱き寄せた。オルディナがそっとスレンの胸板に凭れ掛かり、そんな2人の前にビスケットとお茶が並べられる。
泣き虫の王女を守るのは、寂しがり屋で少し我儘な護衛だ。護衛は涙を受け止めて、王女は孤独を慰めるように寄り添う。
泣きたい夜も寂しい夜も、2人が寄り添う限り大丈夫だ。
もうきっと、怖い夢は見ないだろう。