002.もう離れてしまうの?

ピウニー卿の唇が探るようにサティの耳元や首筋、顔の輪郭を辿っている。荒い息遣いに何故かサティの鼓動も高鳴り、ピウニー卿の触れている箇所から、背筋がぞくぞくとするような感覚が染み込んでいく。最初はゆっくりとした仕草だったが、徐々に激しいものになってきた。

「サティ……」

「っ……ぁ、ピウ、やっ……」

「ああ……」

今までに無く激しく、サティの唇の中にピウニー卿の舌が入りこんだ。掻き混ぜるように侵食してきて、2人の唾液が混ざり合い、それが溢れる。その動きにサティが翻弄されていると、急に身体全体が甘く痺れた。

「……んんっ……!」

ざり…と、ピウニー卿の手がサティの胸の膨らみを擦り上げたのだ。いつの間に取られたのか、下着が剥がされ露になった胸元にピウニー卿が触れていた。その片方を指先でざりざりと弾き、柔らかく揉みながらピウニー卿はため息を零す。唇を離し、サティの耳元に寄せる。

「柔らかいなサティ……」

「……あっ……、ピウ、へ、んっ……ふぁ……」

「でもここは硬くなって……」

「変な風に、言わ、いわないで……っ」

「変な風には言っておらん。サティが……」

その先は言葉にならず、ピウニー卿はサティの胸の膨らみを口に含んだ。サティが思わず声を上げて身体を跳ねさせたのを、両腕で身体を抱きしめて押さえつけ、そのまましつこく胸に吸い付いたまま離さない。指で触れていた部分が、今度は舌で転がされている。初めて感じるぞくぞくとする、何にも例えようのない感覚と羞恥に、サティは身をよじって逃げようとするが、当然ピウニー卿はそれを許さなかった。

「サティ、逃がさない」

「に、逃げてな……」

ピウニー卿は時折吸い付く場所を変える。その度に、ちく…とした感触が走り、その度に、舌が這って濡らされる。ピウニー卿の身体を感じるたびに、下腹の奥がうずうずと疼き、胸が詰まる。身体の中を何かが這いずり回っているようで、甘いとしか言いようの無い陶酔感があった。それらが全て、ピウニー卿の手からもたらされていると思うと不思議でたまらない。

やがてピウニー卿の節張った指が、サティの太腿をまさぐり、下着の中へと入ってきた。そのままゆっくりとそこを探り、表面を掻き分けている。あまりの恥ずかしさにサティがピウニー卿の二の腕を掴んだ。ぬるりとした濡れた感触を確認したピウニー卿は、一度身体を離す。

サティの下着に指を掛けて足を持ち上げ、その格好に何かを言われる前に足を抜かせる。完全に裸になってしまい、身体を隠すように転がるサティに跨り、こちらを向かせた。押さえつけるように上半身を重ねると、そこでやっと自分も脱いだ。重ねた身体が温かい。ピウニー卿はサティの太腿を開かせると、その間に自分の身を置いた。

少し身体を起こしてサティを見下ろすと、その表情は不安げに揺れている。だが、それがまた可愛くてたまらなかった。唇を重ね合わせて、ちゅ…と小さく音を立てる。軽く触れ合ったまま、ピウニー卿はサティの深いところへ指を持っていった。

「う、あ……ちょっと、……ま……」

「大丈夫だ。あまり力を入れるな」

「いれてな、い……」

「濡れている」

「は…ぅ」

「分かるか?」

「ん……わ、かる……んんっ……」

ぬる…と、サティの中に何かが入ってきた。サティには未知の感覚だ。はあ…と息を吐いて、思わずピウニー卿に抱きつく。抱きつく…というよりも、すがりついた。それに合わせて、ピウニー卿も片腕をサティと寝台の間に入れて抱き寄せる。胸と胸が触れあい、ピウニー卿の顔がサティの首筋と肩に触れ合う。

ピウニー卿の指にサティの溶けたような蜜液が纏わりついた。既に溢れているほどだった。自分との情交にこれほど反応する、サティの身体もそれに繋がる心も今すぐ欲しくてたまらない。

「もう1本だ」

「ふ……ぁ」

「痛いか?」

「へ、いき……。でもこれいじょ、は、無理……」

「無理ではない」

「え……。あ……っ!」

呼吸と共に上がってしまう自分の声が恥ずかしい。

ぐい…と中を抉るように、ピウニー卿の指が奥へと捻じ込まれた。指が折られ、内側をぬるぬると擦られているのがはっきり分かる。その度に中が濡れ、意図していないのに自分の内奥が動いているのがサティにも感じられた。

背筋を這うような感覚はずっと続いている。それはピウニー卿の指があるよりももっともっと奥から、湧き上がるようにサティの全身に伝わっているのに、確かにピウニー卿の指から与えられているのだ。その手を意識すると、その中がぎゅ…と締まり、ピウニー卿が「ああ…」と声を上げた。

ピウニー卿の指の動きがゆっくりと、重いものに変わる。小さく出したり挿れたりを繰り返しながら、時折内側を擦る。擦りながら、掻き混ぜるように奥へ入っては、入口にある膨らんだ箇所をなぞるように引き抜く。腕の中のサティの吐息が荒く激しくなってきて、それもまたピウニー卿を興奮させた。

「サティ……こっちを向くんだ」

ピウニー卿を見上げるグリーンの瞳は、うっとりと甘い。ピウニー卿が指を動かすたびに聞こえる水音も、サティの声も、何もかもがとろけるようだ。やがて、サティの中がきゅ…と反応した。

「は……あ、ピウニ、何か……や……」

「サティ、それに……集中してみろ」

「そ……れ……?」

「感じているんだろう? 分かる」

「感……じ、……あっ……や、だ、……っ」

「サティ、大丈夫だ…おいで。」

「や……っ……あ……!」

優しい言葉とは裏腹に、ピウニー卿の指が激しくサティの中を掻き混ぜ、サティが反応した箇所を執拗に攻めた。甘い声とは全く異なる容赦の無い、逃げ道の無い手の動きだ。サティは今まで全く感じたことの無い、とろけるような、何かが解放される様な、切なく胸が疼くような感覚に襲われた。その感覚が昇るように身体を駆け上がり、声を出す間もなく力が抜ける。

……今の感覚は何だったんだろう。なんて切なくて、激しくて……なんて気持ちがいいのだろう。身体にいまだ残る熱を持て余して、サティはピウニー卿を抱く腕に力をこめた。余りの余韻に自分の中がくつくつと震えているのが分かる。その震えにあわせる様に、ピウニー卿の手がいまだに中でゆっくりと動いていた。

「今の……い、まの……」

「達したんだサティ」

「……え、あ……」

「俺の手で……お前が……まだ中が震えている。もう無理だ……」

「む、り?」

「我慢できない。……入りたい、サティの中に」

「なか、に……」

「ああ……」

ピウニー卿が探るたびにサティの中が震えて締まり、自分の手で確かに快感を味わっていると伝えてくる。サティの切なげな吐息と声。舌に触れる甘い肌。指に纏わりつく粘膜。限界だ。自分がこんなにも堪え性の無い男だとは思わなかった。サティの身体に触れているだけでじくじくと身体の中心が疼き、声を聞くと欲望のままに熱く硬くなっていく。指だけでなく、自身でサティの身体の奥に触れたい。

ピウニー卿はサティの手を掴むと、自分自身に触れさせた。経験が無くても、これでどういうことをするのかサティにも分かる。サティは思わず首を振った。

「……え、いや、だって、今のでも、きつくて……」

「そうだな……少し無理をさせるかもしれん」

「待って……ぁっ!」

ピウニー卿はサティの手を離させて寝台に沈ませた。自身をサティの秘裂に当て、ゆっくりと動かす。最初は濡れた入り口に沿うようにぬるぬると動いていた。少し上にあるふくらみにそれが触れると、弾かれるようにサティの背が反り、膝を立てる。その膝をピウニー卿が押さえて足を開かせると、サティは大変な格好になった(気がした)。その格好の恥ずかしさに、サティが何かを言おうとする前に、ぬるぬると動かされていたピウニー卿の楔に力が込められ、くぷ…と先端が入る。

「……ぁああ……!」

「ああ……サティ…これは……」

たったこれだけで気持ちいいのに、これ以上進めると自分は理性で動けるだろうか。それでも、もう戻すつもりは無い。急いているつもりはないのだが、早く自分の、自分だけのサティにしてしまいたかった。独占欲と愛欲と愛情は、どこでどうつながっているのか。

「サティ……! 少し、力を抜け……っ」

「……ふ、あ……っ」

ピウニー卿はゆっくりと自分を進めていった。徐々に包まれていく感覚は己の理性を一気に奪っていく。堪えるように理性を引き戻し、それとは逆に膣内へと進めていく。サティの足と足の間に割り込んだ自分の身体は、サティの胸に重ねるように倒した。サティは恐らく怖くて足を閉じようとしているのだろう。だが余計に、サティの足が自分の腰に絡まり、中がきつくなる。

ピウニー卿はサティの身体を抱え込み、その身体の上を自分の身体を滑らせるように動いた。既に密着していたそこも動き、ピウニー卿は自然と奥へと侵入する。自然と…とは言いながらも、当然そこは非常にきつい。きついくせに、やわらかい。入っていくたびに、恐らく痛みで…だろう。力を抜けといっているのにも関わらず、ピウニー卿の腕の中でサティの身体が強張り息が荒くなっている。

「サティ……すまない、痛いか……?」

「ん……、いた……い、けど、大丈夫、だから」

「ああ、声が震えている……」

「だって、いた……っ」

「もう少しだ。少し足を開け」

「……ん……」

「息を止めるな」

ピウニー卿は一度小さくサティに口付けた。首筋に、耳元に、頬に、顎に……ちゅ……と小さな口付けを何度も落とし、身体を起こして頬に手を添える。

「俺を見ろ、サティ」

「……ぁ」

サティのグリーンの瞳がピウニー卿のこげ茶色の瞳と重なった。ピウニー卿の表情には自分を求める熱い感情が見て取れて、サティの心臓がどきりと跳ねた。サティがピウニー卿の顔を見て、少しだけ安堵の息を吐く。その瞬間。

「……あああっ……!」

ぐ…と、一気にピウニー卿が入り込む。奥までしっかりと入り込み、互いの腰が密着した。ピウニー卿はすっかり汗ばんでしまったサティの身体のラインに沿うように手を滑らせ、苦しげなサティの顔に触れる。その手の動きに呼応するように、サティがピウニー卿を見上げて、うっすらと、微笑んだ。

「はい、った?」

その表情に愛しさが込み上げる。ピウニー卿も静かに笑って、サティの頬を両手で包み込みそっと口付ける。

「入った」

「ん……」

近付いてきたピウニー卿の背中にサティの腕が回され、さらに奥へと近付いていく。ピウニー卿は身体を下ろしたままサティの膝を自分の腕に掛けて、ゆっくりと…動かした。角度を変えると、その度にサティの奥から蜜液が絡み付いてくる。少し深く挿れるとそれが水音を立てた。

「ピウ……、だいじょ、うぶ?」

「ああ……俺は大丈夫だ。とても気持ちがよくて……」

サティを壊してしまいそうなほどだ。

「あ、あ……奥……入って……」

「そうだ、サティ……」

身体の奥に、確かにピウニー卿が入っているのが分かる。自分の大好きな、愛している男が中に入っている。痛いけれど、それを上回る幸福な気持ち。古の神話に、男と女は足りない部分を埋めるためにこうして交わったのが最初…という話があるけれど、その意味が何故かはっきりと分かる。そして、何故だろう。サティにとってはこの行為は初めてで、あれほど痛かったのに…今は、動かして欲しくてもどかしかった。もっと奥に入ってきて欲しい、探って触れて欲しい。そんな欲求を持て余す。

そして、なぜだか今、ピウニー卿にとても伝えたいことがあった。

「ピウニー……好きよ。愛してるの……」

ピウニー卿の動きが、止まる。

「愛してるの……一緒に居て……」

どれだけこの言葉が、ピウニー卿を落としたか。

「くっ、あ、サ、ティ……」

「ん……」

「ああ……、俺もだ。……俺も、愛して、る。サティ……」

ピウニー卿は優しく耳元で囁く。

「あ、ああっ……ちょ、ピウ、あっ、やっ……」

激しい抽送が始まった。

奥を抉るように腰を打ちつけ、その度にサティの身体が揺れる。サティはピウニー卿にしがみつき、ピウニー卿はサティをきつく抱きしめた。苦しいほどに互いを抱きしめあって、男が女の身体を幾度も貫く。

「や、……あ、あああっ……!」

「く……サティ……!」

サティの身体から徐々に痛みが遠のいて、代わりの感覚が急に背筋を這う。あ…と思う間もなく、繋がっている箇所から喉元までそれは迫って、突き抜けるように弾けた。ピウニー卿の動きも細かくなり、サティの頭が真っ白になると同時に腰を震わせる。

中に入っているピウニー卿のものが、大きく脈打っている。そして、脈打つたびに中に何かが注ぎ込まれているのがはっきりと分かった。精を吐く時間が終わると、荒く息を付きながら、ピウニー卿がサティの足を下ろした。力を抜いたピウニー卿が、サティを優しく抱きしめるように上に重なり、体重を掛けてきた。

いつもはサティがもたれているのに、今は逆だ。なぜかそれが、とても嬉しかった。思わずピウニー卿の頭をサティは撫でる。その手の感覚にピウニー卿が顔を上げた。瞳があって、気恥ずかしかったが、その表情にふ…と笑って、ピウニー卿も真似するように、サティの頭を静かに撫でた。

「痛かったろう」

「……ん、大丈夫……」

「少し動きすぎた。すまない」

ふるふると頭を振るサティがやはりとても可愛くて、ピウニー卿は、ほう…とため息を付いた。少し身体をずらして、自分を引き抜く。

「……ん……あ。ピウニー」

「どうした?」

「え…と、もう離れてしまうの?」

「……」

ピウニー卿の瞳が大きく見開かれて、じっとサティを見つめた。

あれ?
何か変なことを言っただろうか。

引き抜かれて、自分の中から離れてしまった感覚が切なくて思わず言ってしまった。そもそも、どのタイミングで離れるか…なんて、師匠の恋愛小説には書いていなかった。だから別段おかしなことを言ってしまった、という気持ちはなかったのだが…。動きを止めて、自分を見下ろしているピウニー卿との間が、気まずくて…少しずつサティは恥ずかしくなってきた。

「ごめ、変なこと言っ……」

サティの身体がピウニー卿の身体に覆い隠された。

「サティ……お前というやつは……」

愛する女からそんなことを言われて、興奮しない男がいるだろうか。ピウニー卿は、今度は激しく唇を重ねた。遠慮なく舌を挿れ、絡みつくように貪る。身体中をまさぐるように両手を這わせながら、再び猛々しくなった己をサティの腰に触れさせて揺らす。

既に濡れているサティのそこは、数度沿わせて揺らしただけで、ぬぷりと苦も無くピウニー卿を受け入れた。

「ふ、あ……っ……!」

「サティ……ああ、触れただけなのに入って……」

再びピウニー卿がサティの中を味わい始めた。

****

サティの身体とお風呂まで堪能したピウニー卿は、寝台に戻ってからもサティの身体を幾度も抱いた。ピウニー卿自身、これほどサティを求めてしまうとは思わなかった。初めてだ…というくせに、なんとか答えようとするサティの健気な様子や、ピウニー卿の手を覚えて反応する身体が愛おしくて離すことが出来なかったのだ。

そして、もう1つ。

離すことができなかった言い訳があった。

共に抱き合っては果て、当たり前のように疲れたのだろう。サティはピウニー卿の腕の中で、とろとろと眠っている。ピウニー卿もそれに誘われうとうととするが、すぐに目を覚ましてしまう。そして腕の中のサティを確認するのだ。口元に手を沿えて温かい吐息を感じ、首筋に触れて脈を確認し、自分の胸にサティの柔らかな胸を触れさせ伝わる鼓動を聴く。

サティは息をしているだろうか。
心臓の音は聞こえるだろうか。
胸は上下しているだろうか。

この温度は、本物だろうか。

この瞳は開くだろうか。

あれから、2週間。猫とネズミの姿で共に眠っているときも、何度か思い出した。自分の半身がもがれたような、あのときの衝撃。自分の目の前で動かなくなってしまった愛しい猫のことを。

だから、幾度も確認してしまうのだ。

動いていれば安心する。
抱いていれば声が聞こえる。
揺らしていれば感じる。

生きて、愛し合っているという実感を。

「サティ……」

ピウニー卿はサティを起こさないようにそっと呼んだ。

「ん……」

もぞもぞとピウニー卿にすりよるサティの身体に、安堵と幸福を覚えて、ピウニー卿はサティを抱き寄せる腕に力をこめた。

自分の腕の中でサティの瞳が開くとき、ピウニー卿を見つめて照れたように微笑む笑顔。その笑顔にいつもほっとしてしまうピウニー卿が、ネズミの姿に戻ってしまう…のを知るのは、あとほんの少し、先のこと。