執事な悪魔と召喚主

あなたは4時間以内に3RTされたら、執事と主人の関係でほのぼの休日デートなアシュマ&ウィーネの、漫画または小説を書きます。


「あ、ちょっとアシュマ返してよ」

ウィーネとアシュマが通う魔術学校の談話室にて、ウィーネが女子向け雑誌を読んでいる。あまりに熱心に記事を読み漁っている様子にアシュマが興味を持ち、さらに言えば、雑誌ばかり見ているウィーネに苛立って、それを取り上げた。

ウィーネが見ていたページを読んでみると、そこには「おかえりなさいませお嬢様。憧れの執事カフェで、麗しの執事との会話を楽しみたい。執事の元に帰宅するための、お嬢様のマナー10か条」という、アシュマには何ひとつ意味の理解できないタイトルが掲載されていた。

「ウィーネ、執事カフェというのは何だ」

「べつに! 何でもないし! 返して」

「ウィーネ、執事カフェとは何だと聞いている」

「あ、あ、憧れの執事のおじさまとお話できるカフェのこと、流行ってるの!」

「行きたいのか」

「べっつに、行きたいとか思ってないし!」

「なるほど」

今、ちょっと流行してて、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ憧れていただけだ。だが流石に1人で行くのは敷居が高いし、気が退ける。もちろんアシュマを連れて行くなどとんでもない。

ウィーネはアシュマから雑誌を奪い取ると、なぜかぷりぷりしながら談話室を出て行った。その背を見送りながら、アシュマは、ふむ……と思案する。

****

「お帰りなさいませ、ウィーネお嬢様」

「……はあ?」

寮の自室に戻ってきたウィーネは、そんな声に出迎えられて目を丸くした。一度扉を閉める。部屋の番号と名札ネームプレートを確認する。一度息を吐く。息を吸う。扉に手を掛ける。

ガチャリ。

「お嬢様、今日は街にお買い物のご予定だったかと。さあ、お手を。いくつかよい店を見繕っておきました」

褐色の肌に真赤な髪のアシュマール・アグリアが、漆黒の燕尾服に身を包んでいる。白いカッターシャツに濃灰色のウエストコート、細身のタイを掛けていた。

度肝を抜かれる。

ふざけた格好としか思えないが、アシュマの細くて引き締まった身体とすらりとした手足に、執事の服装はちょっとおかしいほど似合っている。ウィーネが思わず頬を染めてしまうほどだ。

呆気に取られて、ぽかんとしてしまったウィーネに、執事アシュマは笑みを浮かべた。その笑顔を見てウィーネは我に返る。格好は執事風であっても、笑みはいつものアシュマの笑みだ。つまり、どす黒い。あやうく騙されるところだった。

「お嬢様?」

「アシュマ」

「はい」

「何やってるの?」

慎重にウィーネがアシュマを睨むと、く……と悪そうに瞳を細くする。執事アシュマは顔を低くしてウィーネの横髪に唇を潜り込ませて、耳元に近付いた。

「さっさと手を取らぬかウィーネ」

「うひっ」

呼気と共に囁かれて、ぞわわわと背が粟立つ。

お嬢様らしからぬ声をあげてしまったウィーネは、有無を言わさずアシュマに手を取られて、ついでに尻を撫で回された。

****

執事アシュマとウィーネは、何故か街中を歩いている。

アシュマは白い手袋を嵌めた手でウィーネの腰を支え、というよりも腰を時々さわさわと撫でまわしていた。

「あ、アシュマ、ちょっと、腰! 腰に手、ちょっと!」

「お嬢様はすぐに妙な声を上げるし、こうして支えておかねば転ぶでしょう。さ、参りますよ」

「変な台詞言わないで!」

「失礼な」

ふん……と笑う鼻息は、絶対にアシュマのものだ。言葉も口調も丁寧なのに、表情だけはいつものアシュマで、ニヤリと悪い……そして実に楽しそうな笑みを浮かべたまま、街中をエスコートされて歩く。正確に言うと、歩かされる。

「さあ、お嬢様、ここです」

「はあ!?」

勝手知ったる風に連れてこられたのは、ゴスロリ風のドレスが多く置いてある店だ。執事アシュマが店員に頷くと、既に連絡を受けていたのか、奥から1着の黒いドレスを持って来た。胸元にはギャザーをたっぷりと取ったフリルのネクタイが飾られている。きっちりウェストの位置にリボンベルトを締めていて、そこからふっくらと大きく裾が広がるスカートは膝丈よりも少し上だ。フロントのスリットから、これまたたくさんのフリルを取った真っ白のペチコートが覗き、それはスカートの裾からもくしゅくしゅと愛らしく見え隠れしている。

ウィーネは無理矢理執事アシュマと共に試着室に押し込まれ、無理矢理そのドレスに着替えさせられた。最後の仕上げに白いニーハイソックスと黒いショートブーツを履かされて、執事アシュマと共に外に出てくると、店員が笑顔で「よくお似合いですよ」と言った。

アシュマがうっとりと瞳を細める。

「ああ、ウィーネ……我の見立て通り……、よくお似合いですよ、お嬢様」

前半は、舌なめずりをしたかのような悪魔の低音が混ざり、すぐに我に返ったように執事アシュマを取り戻した。

ひぃぃぃぃ。

それを聞いたウィーネは思わず喉から声をあげそうになるのを押さえた。周辺の空気が絡み付くように重くなる。

へとへとになりながら店を出た。

しかし、まだ終わりでは無いようだ。

次に手を引かれて連れていかれた場所は、今流行のビオシュというお菓子を売っている店だ。柔らかいパン生地の中に、これまた柔らかいクリームがたっぷりと入っていて、イチゴ味を食べてみたいと常々思っていた。

「こちらでお待ちください、お嬢様。買って来ますので」

「え、ちょっとアシュマ」

店先のベンチに座らされた。それにしても一体いつまでこんな遊びに付きあわなければならないのか。こんな格好をするのはサーウィン祭以来だし、はっきり言って恥ずかしい。……道行く人がじろじろ見ている気がする。

もじもじと困った顔をしつつウィーネがアシュマを待っていると、「あの」と声を掛けられた。

「その服、今流行のお店ですよね」

「えっ」

「あ、首都で流行ってて、まだこっちにはお店が出来たばっかりで名前が知られてないかもしれないんですけど」

「あ、あの、連れて行って貰ったんでよく分からなくて」

「魔術学校の生徒さん? もしよかったら記録させてもらってもいいですか? 私実は雑誌の編集をしていて……」

どうやら女子向け雑誌の仕事をしている男らしい。愛らしい着こなしをしている魔術学校の生徒として、掲載させてくれないかなどという意味のことを言っている。

そんな声を掛けられたのは初めてで困っていると、空気が一気に冷えた。

「ウィーネ……」

さらうように脇腹に腕が挿し込まれて、抱き上げられるように立たされる。執事アシュマがお嬢様に近付くよからぬ輩をぎろりと睨み付けた。

「ウィーネは忙しい。お前に付きあっている暇などない」

男はぎょっとして動きを止めてしまった。ウィーネの意図など関係なく、アシュマはウィーネを抱えて歩き出す。

不機嫌な声でアシュマがつぶやいた。

「よくお似合いですが……よからぬ輩が(グルル……)…目を光らせて居りますな」

言うなり路地裏へ、くるりと身を翻した。

****

次の瞬間、ウィーネの身体は自室の寝台の上にあった。

「ちょっと、アシュマ……! 急に何す……」

言葉を失うほど、アシュマがぎらぎらとした雰囲気を纏っている。アシュマはゴスロリドレスのウィーネの上に馬乗りになると、片方の手で窮屈そうに自身の首に巻いているタイをぐいぐいと緩める。

引きちぎるようにそれを首から離すと、タイを見て、ウィーネを見た。

ニヤリと嗤う。

アシュマはタイをウィーネの手首にくるりと巻き付けて拘束すると、そのまま万歳をするように押さえつけた。両手の自由が利かなくなる。

どうやらアシュマは別の遊びを思い付いたようだ。

ウィーネは足をばたつかせて抵抗する。羽で両手を拘束されるのはいつものことだが、手首にタイを結ばれて自由を奪われるのは初めてだ。

「何してるの、何考えてるの、縛るの止めてよ、外してよ! ちょっと、アシュマ、執事なら私の命令に……あ」

執事はお嬢様の言葉を遮ると、イチゴ味のふっくら菓子ビオシュを手に持って、悪魔の如き笑みを浮かべた。

「命令なさりたいならば糧が必要ですよ、お嬢様」