『ピウニー卿の冒険!』より、ピウニー卿とサティ。
[1]
ピウニー卿の広い背中に裸のサティが抱きついた。厚い筋肉に柔らかなサティの胸のふくらみが潰され、その感触に否が応でもピウニー卿の身体が反応する。
「ピウニー」
「サティ」
「ねえ、ピウ、まだ怒ってるの?」
「……」
肩甲骨にサティの頬が摺り寄せられる。ちゅ……と音がして、唇が触れた。吸い付かれる感触は一瞬で、あまりにもつつましいその一瞬にピウニー卿は盛大に煽られ、熱っぽいため息を吐く。それを聞いたサティが、ピウニー卿の背中を抱いたまま、覗き込むように顔を向ける。
「怒ってない?」
「別に俺は怒ってない」
「本当?」
「……本当」
腹に回されているサティの手に自分の手を重ねて、ピウニー卿はゆっくりと労わるように撫でた。その優しい手付きから怒っていない様子が知れたサティは、ほっとしたように、うふんと息を吐いてもう一度背中に顔を埋める。唇に触れた肌に、もう一度小さく口付けた。
「じゃあ、さわってい?」
「……ああ」
咎められないのをいいことに、早速ピウニー卿のお腹に後ろからぺたぺたと触れてみる。無駄な贅肉など1つもついていない割れた腹筋、引き締まった腰、鋭い鳩尾。
「ん、全然大丈夫」
「……当たり前だ!あれはネズミになっているからそう見えるだけであってだな、そもそもネズミなのだからああいう体型になるのは仕方が無いだろう!」
「うんうん」
「それを腹がふとましいだの、ちょっと胴回りが柔らかくなったんじゃないのかだの……全く……」
「うふん」
「サティ、聞いてるのか?」
「ピウニー、怒ってる?」
「……」
僅かの沈黙。そして。
「怒ってない」
その声を聞いてもう一度、サティは大好きな男の背中に口付けた。
****
[2]
うとうとと心地よいまどろみの中、ピウニー卿の喉元が妙にあったかい。あったかいというか、熱い。それに、グルグルグルグル……と小さな音が聞こえる。覚えのあるこの音はピウニー卿の大好きな音なのだが、今の気分で聞くのは物足りない。
ピウニー卿は喉元で丸くなっているふかふかの毛皮を引き寄せて、その毛皮の小さな口元ととがった耳をこちょこちょとくすぐった。
「サティ」
ふわりとした耳元でそう囁くと、三角の耳がぴるんと震える。くすぐっていた口元が、くあああと開いて欠伸をしたのが分かった。
「うあん。……ピウニ、もうちょっと……」
ふかふかのかたまり……腕の中のセピア色の小さな猫が、そんな風な色っぽい声を出した。ピウニー卿は猫のしなやかな背中に顔を埋め、そのままつう……と耳元まで頬を寄せる。猫の背筋が、にゅ……と逸れて、四肢をぴんと張って伸びをした。
「人間に戻らないのか、サティ」
「ううん」
再び猫の四肢が丸くなって、グルグルと喉を鳴らしながらピウニー卿の胸元に擦り寄った。
「やれやれ」
つまらないが、仕方が無い。目が覚めたらうんと可愛がろう。そう思って、ピウニー卿も諦めた。柔らかな猫の毛皮を潰さないように抱きかかえ、その背をゆっくりと撫でながら、もう一眠りするために瞳を閉じる。
****
[3]
岩の上にちょこんと金色の毛皮のネズミが座っている。腰に立派な剣を差し、その剣の柄に前足を掛けて、Yの字の口元をふんふんと引くつかせながら、きょろきょろと周囲を見渡している。
その後ろには、セピア色の毛皮が美しい小柄な猫がお座りをしていた。猫のグリーンの瞳がじぃ……とネズミの動きを見つめ、尻尾をぱたんぱたんと揺らしている。何も知らない者が見ると、まるで猫がネズミを狙っているように見えた。
不意に何を思ったか、猫がネズミの丸っこい背中を、舌でぺろん……とつついた。
「ふおお!」
ころん、とネズミが前方に転がる。金色の背中はまんまるだ。
「……なんかおまんじゅうみたい」
ぼそ……と言った言葉に、ネズミの毛皮がぽふんと膨れた。
「な、なななな、なんだと、まんじゅう!?まんじゅうだと!?」
「あ、背中が。まるくて」
「ネズミだ!ネズミだからだ!断じて、無駄な肉はついていない!」
「うん、知ってる」
「サティ、聞いてるのか!」
「聞いてる」
起き上がったネズミは身体を伸ばして、ぶんぶんと前足を振り、後ろ足で地団太を踏みながら何事かを訴えている。
「だから、サティ、聞いてるのか!」
「うん、聞いてる」
猫は、前足で顔を洗い始めた。
【後書き】
話の脈絡や行間は、みなさまの妄想で埋めてください。
2回目の登場、ピウニー卿とサティでは、ハム×猫バージョンもおまけで付属。
多分最後の話のあと、最初の話に継続するんだと思う。
ハムスターの後姿って、おまんじゅうみたいに見えますよね。
んで、確認って。サティってば、何を確認してるんだか。
裸同士で背中に抱きつかれて、ちゅ、ってされたらさすがのピウニー卿もがっつり反応することでしょう。べつにそんなことしなくたって反応しそうですが、それはそれで。
ちなみに、サティはピウニー卿の背中が大好きです。あ、ハムのときも人間のときも、どっちも。