『それなり女と魔法使い』より、ジーノとユイナ。
「ユイナ、もう一度……」
さきほど果てたばかりだというのに早くも復活し、ジーノの手が結菜を這いはじめた。余韻に浸っていた結菜もそれから逃れることが出来ず、思わず、うはん……と息を吐く。ジーノは一見淡白そうに見えるのに、全然そんなことは無い。最初の時もそうだったけれど、はっきりいってしつこい。ただ、合間に挟まれる適度な休憩……ジーノがやんわりと結菜を抱いたり、腕枕をしたり、頭を抱えたりする……時間があんまり気持ちがいいものだから、ついつい結菜も流されてしまうのだ。
淡々とした無表情のくせに、手つきと体温がすごく優しくてそれに甘えてしまう。
それでも、なし崩しに抱き合って、これでいいのだっけ……?と、ふわふわと考えていると、結菜ははっとした。一気に覚醒する。
「ユイ……」
「ジ、ジーノ!!おふ、おふろっ!」
「……ユイナ?」
「お風呂、は、入りたい、お風呂!」
「お風呂?」
「合コン帰りだしっ、き、禁煙だったけど、絶対なんかご飯の匂い付いてる!」
近づいてきたジーノをぐいぐいと押しやりながら、結菜は寝台の端に移動した。ジーノは僅かに眉をひそめると、サイドテーブルに置いていた眼鏡を掛けて結菜をじっと見つめる。
「ゴウコン?」
「あ、いや」
ついつい合コンと言ってしまって、なぜか結菜は挙動不審になった。まるで彼氏に黙って合コンに参加してしまったような後ろめたさを覚えてしまう。ジーノは無表情のクセに、そういう結菜の反応にだけは目ざとい。身体を起こして馬乗りになると、結菜の黒い髪を手でかき上げる様にしながら瞳を細める。
「ゴウコンとは何ですか?」
「なんでもない」
ジーノはふるふると頭を振る結菜をじぃ……と見つめていたが、しばらくして、ゆっくりと首筋めがけて顔が下りてきた。
「ってまって、まってまって!」
「ユイナ……」
ジーノの声に不満そうな感情が混じる。だがさすがに結菜はジーノを近づけたくなかった。合コンから帰ってお風呂に入ってないではないか。これでセックスしたなんて、とんでもない。とんでもない!私のバカ!こうなったら一時もジーノのそばに居たくない。せめてお風呂に入るまでは。
「だ、ダメ、ジーノ、ダメ!」
「何がですか」
「お風呂に入るまで次はダメ!」
押しのけられてしぶしぶ身体を起こしたジーノは無表情のまま結菜を見下ろし、眼鏡をついと直した。
「……つまり、風呂に入れば次もよい、と」
****
「……で、なんで一緒に入ってるの」
「これは私の家の浴室ですよ?私が入って悪いのですか、ユイナ」
「う……でも、一緒じゃなくても」
「一緒に入った方が合理的でしょう?一度に済むではありませんか」
合理的に済ませようとしている割には、お湯の中でジーノの動きは大変にいやらしい。
ジーノの家の浴室は、びっくりするほど広いというわけではなかったが、結菜の世界で一般的に見かける家庭の浴室などよりは遥かに立派だった。身体を洗う時は、立ってシャワーを使う。湯船も設えられていて、広さは優に2人入れるほどはあった。温泉施設を小さくしたような形だ。魔法を使って湯を沸かしているらしい。こちらの世界では、魔法を使ったこうした施設は、都会では普通なのだそうだ。
シャワーの下で結菜が身体を洗っていると、当然のようにジーノが入ってきた。
そうして呆気に取られた結菜を引っ張って、一緒に湯船に浸かったのである。
「以前も一緒に入ったでしょう」
「あ、あれは……」
最初に会った時もお風呂は貸してくれた。だが、こちらの水周りの使い方がよく分からず、結局ジーノの手を借りてしまったのだ。説明だけでよかったのに、なぜか最後まで一緒にいた。
そりゃあ、もうすでに裸なんて散々見らられたけど、こんな風に一緒にお風呂は恥ずかしい。結菜はジーノに後ろから抱えられながら、気まずげにちゃぷんと顎をお湯に付けた。
「ところで」
ジーノが結菜の頭を撫でる手を止めて、その手を胸の膨らみに下ろした。
やんわりとそこを揉みながら、いつもと変わらぬトーンで問う。
「ゴウコンとは、何ですか?」
「まだそれ?」
「マダソレ?」
「あ、ちがくて」
一体どういう勘が働いているのだろうか。ジーノは先ほどからしつこく「合コン」とは何かを聞いてくる。
ジーノの指が、くい……と結菜の胸の頂に触れた。あふん……と色めいた吐息を零してしまい、慌ててジーノを振り向く。
「ちょっと、ジーノ、ここお風呂場」
「分かっています。それより、ユイナ、ゴウコンとは何ですか、と聞いているのです」
ジーノはあっさりと結菜の抗議をかわして自分の方に向かせると、浴槽の向かいの縁にゆっくりと押し倒した。今度は正面からジーノが結菜に迫る。今は眼鏡を掛けていないジーノの灰色の瞳。その瞳は遠慮なく結菜を覗き込む。なぜかその瞳に見つめられると、結菜はちっとも誤魔化すことができない。
「あ、あー……いろんな人とお酒を飲んだりご飯を食べたりする会、かな」
「いろんな人と、お酒?宴のようなものですか?」
「あ、まあ、似たようなものだけど、ほら、ええと、」
「夜会のようなものですか?」
「夜会っていうのが、どういうのか分からないけど……」
「招待された男女が、酒や食事や会話をたしなむ集まりですね。主に夜」
「あ、ああ、ああ、なんか似てる!そんな感じ」
「ほう」
眼鏡を掛けていたら、ツツウと直しそうな低い声でジーノが半眼になった。
「夜会はこちらでは、男女の出会いの場でもあるのですが、そのゴウコンというのも同様なのですか?」
「ど、どどど、同様ですかって……」
「そうした男女が多くきますから、当然そうしたアプローチも多い場所です、が」
「はい?」
「ゴウコンもそのような場所なのですか?」
「……はい」
なぜか、うしろめたさMAXになって結菜はしょんぼりとしたが、よくよく考えてみると、そのときはジーノは結菜の彼氏でも何でもなく、そもそも、忘れられない一晩の相手だったというだけではないか。
それなのに、こんな風に追い詰められるのは納得がいかない。
「で、でもでも、別にジーノとはその時なんともなかったじゃない。なんでそんなに怒るの!」
「ユイナ、私は別に怒ってはいませんよ?……それとも、」
信じられないことに、くす……とジーノが笑った気がした。
「ユイナは、私がそうしたことに怒ってもよい……と思ってくれているのですか?」
「……」
3秒待ってその意味が分かった結菜は、盛大に顔を赤くした。笑顔らしきものをすぐに消したジーノは、結菜の肩を両手で押さえ、ぐ……と近づく。
「光栄ですね。ユイナ。私も男ですから、嫉妬くらいします。それを分かってくれているとは」
「ちょ、ちょっと、ジーノ」
「そんなに思ってくれているなら、遠慮なくお願いしましょう。これからは、そうした会合には出席しないでくださいね?」
ジーノの唇が結菜の胸元に触れた。ちくんと痛みが走って、何をするのと抗議する前に、身体が湯船から引き上げられる。
「あっ」
「ユイナ……」
ジーノが結菜の胸の膨らみを下から持ち上げるように掴んで、上向きになったその先端を、かぽりと口に含む。湯が立てる音とはまた別の水音を響かせながら、ジーノはしつこくそこを食べ始めた。満足いくまで結菜の胸を堪能したときには、当然のように象牙色の肌に赤い痕が散らされていたのだが……ジーノの無表情は、結菜の抗議など当然受け付けないのだった。
【後書き】
『それなり女の魔法使いと眼鏡』の最終話でお風呂に入ってるシーンがありますが、その顛末です。
ジーノって、ユイナの胸が大好きだと思うんですよね。別にそういう描写したわけではないんですけど、なんとなく。
私の作品では珍しい非筋肉キャラです。無表情で丁寧言葉ってなんか萌えるんです。いちいち眼鏡の描写を入れるのってウザくないかなーって思いながらも、つい入れてしまいます。魔王様~ではあまり眼鏡を活かしきれなかったので、ジーノの眼鏡は強調していきたい所存。……その割りに今回の話はお風呂に入ってるので、眼鏡外してますけど。
そういえば、お風呂で眼鏡が曇っちゃってから外すっていうのも可愛いですよね。あ、私だけですか。そうですか。