『獅子は~』より、アルハザードとリューン。
力強い温もりに包まれて、リューンは目を覚ました。頭の下には逞しい腕が腕枕をしていて、もう片方の腕が自分の腰にまわされている。腕枕は上手い具合に形を作らないと翌日首が痛いのだが、昨晩はリューンが太い腕を枕の下に押し込んだので幾分楽だった。
ぱちぱちと瞬きをして、視線を上げるとすぐそばにアルハザードの寝顔がある。起こさないように呼吸をひそめ、じ……と見つめる。いつも先に起きるのはアルハザードで、自分の目が覚めたときは必ず有無を言わさず抱き寄せてくるから、こうやって寝顔を見るのは珍しい。夜中に目が覚めてしまったときだけ、こうして眺める時間がリューンは好きだ。外は明るくなってきて、夜が明けかけているのが分かる。でも、起きるにはまだ大分時間があるはずだ。
少し肌寒い。何も着ていないから当然か。
リューンは身体を起こすと枕元に放りだされている夜着を頭から被った。被る途中、そっと胸元を覗き込む。
くっきりと、赤い印が刻まれていた。全てリューンの覚えのないものだ。
……アルハザードめ……。夜会用の衣装を作るから何もしないでって言ったのに、どうやらリューンが先に眠ってしまった後、思う様付けたようだ。以前にも衣装合わせをしたときに針子に思い切り見られてしまった。中には若い女の子もいて、サイズを測るときに見るからにうろたえていたではないか。
男というのはどうしてこう、女の身体に所有印を付けたがるのだろうか。マーキングなどしなくとも、リューンはアルハザードのものであることは承知しているだろうに。リューンは音を立てないようにため息を吐いた。
傍らには暢気に寝ているアルハザードがいる。
全く人の気も知らないで……。
リューンは再びアルハザードの腕の上にころんと横になった。目の前の胸板に手を触れるか触れないかのところまで指を添えてみる。直ってはいるものの傷だらけで、怖くは無いけれど、いつ見てもなぜか緊張してしまう。む……と眉根を寄せてリューンは考え込み、今度は寝返りを打ってアルハザードの手の平の方へと顔を向けた。
仕返しを思いついた。
アルハザードが自分に印をつけるのであれば、自分がアルハザードにつけたってかまわないよね。アルハザードはきっちり軍服っぽいものを着ていて隙が無いから、いつも外目に晒されている場所で、そのくせパッと見分からないところがいい。
リューンは腕枕してくれている腕をそっとなぞり、手首の少し下に狙いを定めると、ちゅ……と小さく口付けて、彼女としては目一杯きつく吸ってみた。
「ぅ……ん」
くぐもった音がリューンの喉から零れて、しばらくした後、ぷはっ……とリューンが唇を離す。自分が吸い付いたところを見てみると、虫にでも刺されたかのような赤い痕がちょんと付いている。ここならば丁度いいだろう。アルハザードは気付くだろうか、気付かないだろうか。
自分の仕掛けた悪戯にうきうきしていると、唐突にリューンの身体が抱き寄せられた。
「うひゃう」
腕枕の腕に居たリューンはひとたまりもなく、すっぽりとアルハザードの胸の中に収まってしまう。
「あ、アル?」
返答は無い。寝ぼけて抱きついたのだろうか。
「アルー?アルハザードさーん、むぐぅ」
リューンの口が大きなアルハザードの手に覆われてふさがれた。そのまま常に無い激しさで耳を吸われる。
え、えええ?えええええ?と、リューンが若干慌てふためいていると、アルハザードの舌がぬるんと耳の中を這い、その感触に身体の力が一気に抜けてしまった。その隙を見計らって、リューンの夜着にもう片方の手がするりと滑り込み、問答無用でリューンの感じる箇所を弄び始める。
かなり長いこと無言の……そして激しい蹂躙が続いた。その間にリューンの息はすっかり上がり、アルハザードから聞こえる吐息も荒々しいものになってくる。やがて、不埒な手が下へ下へと降りてきた。
どこを触ろうとしているか当然分かってリューンはもごもごと抗議しながら足を閉じるが、格闘技よろしくアルハザードが片方の足をリューンの足に引っ掛けているのでそれも許されない。いつのまにか腰の辺りに押し付けられているアルハザード自身は硬くなっていて、侵入する隙を狙っている。
アルハザードの指が舐めるように一掬い動き、そのままとぷんと入ってしまった。すっかり濡れていたその奥を掻き混ぜられ、じっくりと中の具合を確かめられる。
「リュー。お仕置きだな」
低く意地悪に囁かれ、指が抜かれると入れ替わりに先が宛がわれた。指などと比べ物にならないその質量と熱が、ぐい……と押し上げてくる。片方の足を抱えられ、アルハザードの先端が少し入ると入り口がとろりとまくれ上がったような気がした。これが奥に入り、リューンのいいところを攻め立てるのだ。……そう思うと、怖いような嬉しいような、そんな不可思議な感情がリューンに湧き上る。これまで数え切れないほど、つながりあったのにも関わらず。
焦らすように何度か出し入れを繰り返し、何回目かに一気に奥まで挿入された。
擦り上げられ、互いの脈動がいやにはっきりと感じられる。つながった感覚を堪えるように、忙しなさが一瞬収まった。後ろでアルハザードが呼吸を整えているのが分かる。リューン自身が落ち着くのも待っている様子だ。一気に突いた激しさが嘘のように、密着した身体がやんわりと揺らされて、奥の奥で止まる。
ここでやっと、口を解放される。
「ちょっと今、今のは反則……っ……」
「余裕だな、リュー」
笑みを含んだ声でアルハザードが耳元をくすぐり、いやらしい音を立てながら腰を動かし始める。
一定のリズムで身体を揺さぶりながら、アルハザードは自分の手首を見た。くっきりと赤い痕が付いているのを認めて、ふふん……と笑う。あんなことをされて戦士であるアルハザードが起きないはずがないのに、なんとまあ可愛らしい悪戯を考え付いたものだ。余裕を奪われたのはアルハザードの方だった。
「痕を付けたかったのか?」
「や、だって、あ、いっつも。アル、アルハザードばっか、り」
「俺ばっかり?」
「つ、付けてるから。今日、ドレス、作るの、にっ」
「ああ。それは悪かったな」
「悪いと思って、な、ないでしょっ……あ、は……」
もちろん、アルハザードは悪いなどと思っていない。いくらでも見せてやればいいのだ。それが針子だろうと侍女だろうと。宮廷には邪な獣も多く居る。本当は首筋にだって付けて見せ付けたいところを、我慢しているのである。それに今更リューンの身体にこうした痕が付いていたところで、けしからんと訴えてくる輩などいないだろう。
突然手首に軽い痛みが走った。リューンがかぷりと噛んでいる。その程度、痛みというほどのものでもないが、外してみてみるとくっきりと歯型が付いていた。アルハザードが楽しげに笑う。
「やってくれたな」
「……んんっ……!」
まだ2人は繋がっているのだ。アルハザードがいよいよ、リューンの身体を連れて行くために揺らし始めた。途中でリューンの手首を取り、そこを強く吸い上げる。リューンにそれを咎める余裕は無く、ただアルハザードの与えてくる感覚に身を委ねるしかない。
ぐ……とアルハザードがリューンの身体を一際きつく抱き締めた。アルハザードが吐き出す瞬間にあわせて、リューンの身体の中も外も震える。相変わらずの心地よさに、アルハザードが満足げにリューンの黒髪に顔を埋めた。一方、返り討ちにされたリューンは、くったりとアルハザードの胸板に自分の身体を預けるのだった。
そもそも、リューンが寝台の上でアルハザードに叶うはずもなく、その日一日、獅子王は何故か手首を振りながらいたく上機嫌で、月宮妃は針子や侍女にからかわれて大層ご機嫌斜めだったとか。
【後書き】
相変わらず何の脈絡もなくてすみません。
リューンから仕掛けてもアルハザードから仕掛けても、どうしてもこうなってしまうんですよこの人達。