足の甲:隷属(『やさしい悪魔と召喚主』)

『やさしい悪魔と召喚主』より、アシュマとウィーネ。


昼間だというのに、部屋の中は射干玉ぬばたまの漆黒が占めている。今は本性を現している悪魔の……アシュマのその体躯は寝台を占めるほど大きく、コウモリのような羽の下に白い身体が見える。アシュマの黒い鋼の皮膚に走る血の色の文様がぎらぎらと脈打っていて、羽の先端に付いた鍵爪でウィーネの両手を拘束していた。空いた両手の片方はウィーネの背中に回し、もう片方は柔らかな胸を揺らしている。

やがてアシュマの顔がずるずると下に這い下りて、空いている片方の胸にしゃぶりついた。太く厚い舌が硬くなった先端を包み込み、そのままずるんと舐める。つぅ……と舌の先から糸を引き、それを舐め取るようにまた吸い付く。くち……と唇で咥えて、再び大きく舐める。その間も胸を弄っていた手は意地の悪い動きを繰り返し、同時に与えられる疼きに翻弄されるようにウィーネが甘い息を吐いた。

「ん……あ、アシュマ……」

声を上げたそのウィーネの白い身体から唇を離して、紅い双眸が見下ろす。

「ウィーネ」

重く低い、掠れるようなアシュマの声が腕に抱く少女の名を呼んだ。それは染み渡るように響いたが、聞いているものは誰もいない。だが、別段聞く者が欲しいわけではない。

アシュマは身体を離してさらに下に下りた。ウィーネの太腿を押さえつけて足を開かせ、そこに唇を這わせる。その様子にウィーネの身体が激しく動いた。

「やっ……アシュマ、それやだっ……」

「なぜ」

「や、やなの……」

アシュマの手の変わりに今度は鍵爪がウィーネの足を押さえる。アシュマはウィーネの言葉を無視した。ひくひくとひくつき、既に溢れるほど塗れているそこに、つぷりと指を入れる。途端に「やあ……」とウィーネの声が上がった。

そうした声に誘われる事はあっても手を止めるはずがなく、アシュマはゆっくりと指を出し入れし始める。いやらしい音をたてながら指に粘膜がまとわりついた。引き抜くたびに、ぬらぬらとアシュマの指を濡らす蜜の量が増えていく。同時にウィーネの「やめて」が、ため息に変わった。

「……あっ……は……あ……」

くつ……と中で指を曲げ、ウィーネの気に入っている場所をぐつぐつ引っかく。その途端に、今度は激しい声がウィーネから上がって腰が浮いた。それを押さえつけるように、アシュマが指を入れているすぐ上に食い付く。

「んっ……あ、やっ……アシュ、アシュマ……っ」

「ウィーネ……今日はいっそう甘い。なぜだ」

硬く紅く膨らんだ小さな花芽のようなそこに吸い付き、先ほど胸を虐めたように舌を這わせる。指に伝わる内奥の絡み付きが、途端にねっとりと脈打ち始めた。それを見計らったようにアシュマは指を引き抜き、指と舌を交代させる。蕾を親指で弾くように捏ね回し、蜜を溢れさせている入り口には舌を入れた。中から溢れるものを楽しむよう舐めとり、人間よりも長く厚いそれが触手のように、ずる……と奥へ入り込む。

「だからっ……それ、や……、」

「何が」

「変にっ……なる……も……」

「なればいい」

「……あっ」

「まだだ……」

達しそうになる奥から、舌を引き抜いた。唇を拭い、塗れた指を舐め取る。甘い魔力は絡んでいる。だがそんなことよりも、目の前のウィーネがアシュマの手や舌で翻弄されて、乱れた姿を見せていることのほうが興奮した。

アシュマはウィーネの足を抱えて腰を引き寄せ、もう限界かと思われるほどになっている己を宛がった。

「……あ、アシュマ……」

自分に宛てられたものに気付いて、ウィーネが期待と混乱の混じった瞳でアシュマを見る。その表情にアシュマはニヤリと口元を歪め、一気に貫いた。

挿れた瞬間のあまりの良さに、は……と息を吐き、ウィーネを見下ろすアシュマの笑みが深くなる。今にも達しそうなほどの脈動を感じ取る。動かさずにいると、ウィーネの中が心臓が動くように引き締まったり解けたりしていた。心地よい。異形の悪魔を受け入れる、ウィーネの膣内なかだ。

……ウィーネがこくんと喉を鳴らし、濡れた瞳で動かそうとしないアシュマを見る。

こうして身体を重ねる事が嫌なのか、嫌ではないのか、ウィーネには分からない。はっきりさせることも怖くて出来なかった。だが今は、動かさないアシュマがもどかしい。でも動かして欲しいとはいえない。

「ウィーネ、もっと欲しいか」

言いながら、アシュマは一度だけ己をゆっくりと動かした。まとわりつく蜜液から魔力を啜ろうとはせず、ウィーネの粘膜の心地よさだけを感じ取る。そのもどかしくもやさしい刺激にウィーネが甘いため息を吐き、それを聞いたアシュマが荒々しく息を付く。

「我にすがりつけ。……そばにいろと、命じろ」

「な、に、それ」

「お前はそう言っていた」

「いって、ないもん」

ぷるぷるとウィーネが頭を振るが、その確信が弱々しいことをアシュマは知っている。アシュマはウィーネの背を羽でそっと掬い取って、身体を起こさせた。大きな手でウィーネの胸を包み込んで捏ねまわす。時々、親指が桃色に色づいて硬くなった部分に触れ、そのたびにウィーネがアシュマから逃れようと身をよじった。そのくせ、下半身はアシュマを咥え込んだまま離さない。その様子に、アシュマはウィーネの腰をゆっくりと動かし始めた。

アシュマが欲しいのはウィーネの言葉だ。あの時、ウィーネが「そばにいて」と言った懇願。ウィーネはそれを覚えていないという。ならば思い出させてやろう。アシュマはそう言って、言葉の強引さからは想像も付かないほど甘く、だが逃れることを許さないように容赦なくウィーネを掻きまわす。

「ウィーネ。我は離れぬ」

「あ、あ……あれは、ゆめ、で」

ねっとりと揺らしていた動きが止まり、悪魔が舌なめずりをした。

「ほう、夢?……夢で、何を?」

うく……とウィーネの喉が鳴る。

「だって、あれ、夢。怖くて……」

「ああ」

「怖いって、言った、ら、アシュマが、……離れないって」

「それだけか。……お前は?ウィーネ」

「私、は……あっ……アシュマ、もう……」

「だめだ。言え、ウィーネ」

「何も言ってな、い。……ただ、安心して……」

ウィーネは夢で、アシュマが「離れない」と言ったその言葉に、ただ、ほっとした。……魔力が無くなったらそばにいてくれなくなると思ったのに、「離れない」と言われて、安心したのだ。一言一言、アシュマに訴えると、その度にアシュマが色めいた息を吐いて、ウィーネに幾度も口付けた。

自重で深く突き刺さったアシュマの欲望は、どこに届いているのか分からない位置にある気がして、苦しいほどにウィーネを持ち上げようとする。達する直前のぎりぎりで、ウィーネはおかしくなりそうだった。自分が悪魔に染まってしまいそうで、怖い。

「……ね、アシュマ……ぬ、いて……ゆらさ、ないで……」

「なぜ。もうすぐ達しそうなのだろう」

「……も……む、り……こわい、の……」

「……怖い?何が」

「おかしく、なりそ……う……あっ」

ウィーネの告白に、アシュマがその細い身体を抱き締めた。

「……なればいい」

「や……」

「お前がどのようになったとて、我がそばにいてやるから、何も怖いことはない」

「アシュマ……もうこれいじょ……」

「ウィーネ、さあ」

安堵と混乱と愉悦が混ざり合って、そこにアシュマの重く低い……そして優しい声が追い討ちをかけた。堪えきれなくなったウィーネがアシュマにきゅ……と抱きつく。それが無意識の行動であろうとも、ウィーネに抱きつかれると、「離れないで」と言われたときと同種の悦びを感じて、悪魔は狂おしく嗤うのだ。ウィーネの身体を愛しい何かのように抱えた。途端に激しく動かし始める。「ああ……!」とウィーネの声が上がり、腰が浮いてなお一層アシュマに強く腕を回す。

「夢で、望んだのか」

まあいい。今は、まだ、それで。

「ああ……ウィーネ……ウィーネ・シエナ。怖くない。……こちらに来い」

「あ……っ、あ……っ……」

「……っ……ウィー、ネ……そう吸い付くな……」

少女が達して嬌声を上げる。同時に悪魔がその中に吐き出した。こぽりと音を立てて白濁が零れ、互いが繋がっている部分が精と蜜の混ざり合った液で濡れる。少女と悪魔は互いを固く抱きしめて、震える余韻に身を委ねた。

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それほど激しくしないようにと気を付けていたのに、アシュマは我を忘れた。魔力を啜っていたわけでもなく望む言葉が得られたわけでもなく、ただウィーネの身体を味わっていただけなのに、何処からか湧き出した甘さに酔ったようだ。

ウィーネは思い出したわけではなさそうだったが、それでもまあいいだろう。濃く交わるたびに、ウィーネから何かを引き出せばそれでいい。

アシュマは眠ってしまったウィーネの身体を寝台に横たえ、その白い肌を愛でた。長い黒髪を丁寧に梳くと、アシュマの漆黒の指の間をすべらかな黒髪がさらさらと零れていく。その極上の手触りを楽しむように、何度もアシュマの手が往復した。

しばらくしてアシュマの手が止まり、そうっとウィーネの首筋をなぞる。髪を払うと少女らしい細身のうなじが見え、そこに指を這わせ、耳元を辿る。

「ぅ……ん……」

くすぐったいのだろう。ウィーネがもぞもぞと身じろぎをして、アシュマの腕にすがりついて肩を震わせる。その様子に、アシュマの緋色の双眸が細まった。獲物を狙う獣のような瞳にも見えるし、愛しげなものを見守る瞳にも見えた。

アシュマの手が、ウィーネの身体を下りていく。折れそうな首筋、胸の膨らみを辿る。アシュマは本格的に身体を起こすと、ウィーネの足を持ち上げた。

長い舌がウィーネの細い足を舐めはじめる。ずるりと赤い舌が這い、濡らす場所が下へ下へと落ちていった。

足の甲を掴み、そこに口付けて頬を寄せる。

ウィーネ・シエナ。唯一、アシュマを使役することのできる、アシュマの召喚主。

その召喚主の甘い麗しい魔力だけではない、もっともっと甘いものが、アシュマの前にある。

甘い声、甘い息、甘い肌、甘い蜜、甘い願望、甘い感情。
……その味わいに気付いた悪魔がそれを求めぬはずがない。

欲しくてたまらない。誰にもやりたくない。

「ウィーネ。……我が召喚主。早く命じよ」

早く命じるといい。……そばにいて。離れないで。
それがウィーネの望みならば、アシュマは決して離れないのだから。


【後書き】

「安心したのかウィーネ」「だからあれ夢だってば」「夢の中でも安心したのだろうウィーネ」「夢の中だから関係ないもん」「ほほう」「……なによ」「だが、我のことを夢で見たのは間違いあるまい」「うるさいアシュマ」「夢でみるほど我を……」「あーあーあー聞こえ無ーい!」

……みたいな台詞の応酬がこのあと繰り広げられました(妄想)

さて、隷属……となるとこの2人。強引に見えながら、どちらがどちらに属しているのか分からないあやふやな関係って好きです。「そばにいて」って言ってるのは、一体誰なんだか。

アシュマはいつも寝ているウィーネに悪戯してます。男子生徒の姿にみなさん騙されてますけど(?)、黒い本性はリアルに怖いおっさん悪魔なんですよ。全身黒いし赤い模様入ってるし角生えてるし!。……そんな姿でウィーネを眺めながら、怪我とかしてないかなーとか、どこに痕付けようかなーとか、どこ吸おうかなーとか、そういうことを企んでいるんだと思います。足の甲を確認するのもその一環です。というか、アシュマだったら1人で普通にキス22箇所やりそうですけどね。というか、ヒーロー全員やりそうだわ、1人キス22箇所。