これはあまり知られていないことだが、シェンスタドの本国ウィンドバルの王族は魔物の王を祖先としている。
魔物と人との間に子を為した王家は、それ以降も時折人では無い者と交わり、強大な魔力で国を支配していた。
しかし民にとっては王族などは雲の上の人と同じであるし、代々の王族は政も真っ当で憎まれるようなこともなかった。それゆえ、王族の血脈を知られることは滅多にない。
代々の王族はその心根こそ人間であったが、人間の情と魔性が混じり合っているからか、あるいはそもそもの性質か、たった1人の伴侶に異常に執着し、こだわる者が多かった。
第1王子は、とある貧乏貴族の娘を見初めた。当然婚姻を反対されると思った第一王子は、この娘に箔を付けさせるために、親切を装って王妃教育では名のある名家に養子縁組させる。厳しい養育で完璧な教養を身に付けさせ、さも舞踏会で見初めたかのような演出で、国民に王太子妃の算出を認めさせた。
第2王子は仲の悪かった隣国の王女と恋に落ちたが、その国のあくどい大臣は国を手に入れるために王女を眠りの呪いにかけてしまった。王子はその場に颯爽と現れ、大臣を手下もろとも打ち倒して呪いを解いたのだ。そのおかげで隣国とは友好な関係になり、無事に王女とも結ばれた。しかしこの裏には別の事情がある。隣国の大臣をそそのかしたのは、他ならぬ第2王子本人だ。
弟の第4王子は赤子の娘に一目惚れ。親元から引き離し、女に化けて娘を塔で育てているという性質の悪さだった。
ともかく王族はこのような者達ばかりで、ダンテもそんな性癖の血を引く半魔物だ。そして見初めたのがしらゆきだった。
ダンテは、シェンスタドのお菓子作りの娘しらゆきの笑顔に恋をした。
こう言っては何だが、ダンテは女には不自由していない。何しろ誰もが振り向く美しい顔立ちだ。精悍さは少ないが、男らしさが無いわけではない。整った眉も真っ直ぐに通った鼻梁も絶妙なバランスで、しかし、切れ長の瞳が僅かに下がって垂れ目に見える。その所為で、黙っていれば怜悧に見えがちな顔も、ほんの少し笑ってみせただけで情緒的な甘いものになった。それを向ければどのような女もうっとりとダンテを見つめ、そわそわと視線を逸らすか、そうでなければ打算的な表情で近付いてくる。
しかししらゆきの反応はどちらとも異なっていて、それがダンテの目を惹いた。
全く笑顔を見せないかと言えばそうではない。しらゆきは、ダンテが嬉しくなると笑顔になってくれる。
しらゆきは、ダンテがお菓子を食べて「美味しい」と感動して思わず顔をほころばせると、それにつられるように笑うのだ。まるでダンテの心を映す鏡のようで、喜びや嬉しさを分かち合う時間に満たされた。
大好きな彼女の笑顔を引き出すためにひどい真似は出来ないと悟ったが、それでも手に入れたい思いと喰らいたい衝動は日に日に募っていく。
そんな折に、しらゆきとダンテに悪意を向ける輩を見つけた。シェンスタドの領主ソルシエだ。どうやらソルシエは美しく若い男と結婚したいがゆえに、ダンテに目を付けたようだ。おまけに若くて美しいしらゆきに嫉妬しており、そんな嫉妬心を利用した。ダンテはソルシエの持っている魔法の鏡に細工して、このようにそそのかしたのだ。
――― シェンスタドで一番美しいのはしらゆき。魔の森へ追い払ってしまえ。
ダンテが手を下したわけでは決して無い。彼はほんの僅か、ソルシエの背中を押しただけだ。ダンテとしらゆきを見つけたソルシエは、遅かれ早かれ彼女に害を為していただろう。そうなる前に、ダンテが保護しやすいように軌道修正してやっただけのこと。
そうしてしらゆきは、ダンテが居を構えている魔の森へとやってきた。
しらゆきへの恋心も、シェンスタドを追い出されたしらゆきを憐れに思ったのも、若い娘が1人暮らしするのは危ないから助けてやりたいと思ったのも、全てダンテの本心だ。しらゆきとの生活は心地よく、愛を告げて思いを通じ合わせてから、本性を現そうとも思っていた。
それなのに。
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「どうして、しらゆき……戻りたいなんて言うの」
「……っ、ダンテ、や……」
ダンテの4本の触手がしらゆきの腕と足に巻き付き、四肢を持ち上げて仰向けにさせた。背中をダンテの胸板に引き寄せて、2本の腕で抱き締める。
柔らかい胸にも膨らみを強調させるかのようにぐるりと触手が絡まっている。筆が這うように1本の触手がぬるりとしらゆきの胸の膨らみを撫で、吸い付くように覆いかぶさった。先端を少し広げて張り付き、飲み込むようにどくどくと動いている。しらゆきの胸の先端は既に赤くぷくりと男を誘うように膨れていた。
「ふ、……う」
しらゆきの唇が空気を求めるように薄く開いて、途端に小さく啼き始める。
細い肢体は触手が蠢くたびにひくひくと動いているが、ダンテはその愉悦を逃がさないように抱く力を強くする。胸に触れていたもう1本の触手が、細い先端でちろちろと空いている方の胸を舐め始めた。見るからに硬くなった先端を何かの分泌液で濡らしながらやわやわと弾く。
「……っあ、……」
「しらゆき」
触れられているのは身体の表面だけのはずなのに、身体の奥深いところがくすぐられるようだ。しらゆきにとっては未知の感覚だった。身体をよじることも出来ず、ただただ触手とダンテの腕が与えてくる感覚にしらゆきは声をあげるしかなく、その様子がダンテをさらに煽る。しらゆきは嫌がる言葉すら口に出来ず、時折「ダンテ」と名前を呼んだ。助けを求めているようにも見える。だが、確かにダンテから快楽を感じているようにも見える。その姿が愛しくてならない。
欲しい、欲しい……。どうすれば。
しらゆき、君を、どうしても。
「……んっ、う」
2本の触手が、とうとうしらゆきの足と足の間に入り込んだ。左右それぞれ1本ずつ太ももを這い上がって、未通の箇所に触れる。まずは1本がぬるりと入った。しらゆきが小さく声をあげたが、痛みでは無いようだ。もう存分に濡れていて、それは何の引っかかりも無く入っていく。入っていった途端に、くちゅんと音がしてすぐに出て行った。しかしもう一度入ると、今度は中でぶるぶると先端を震わせながら奥へ奥へと潜り込み、また、くちゅりと音立てて出ていく。触手の先にはしらゆきから溢れた蜜がたっぷりと絡みついていて、銀糸を引いている。
触手が感じている感覚は、それがすべてダンテの感覚になる。しらゆきの柔肌に沈みこめば、ぬめりも体温も生々しく理解した。しらゆきはその本心がどうあれ、ダンテが与える触手の愛撫に濡れている。
その蜜に任せてふたたび1本を潜り込ませ、花弁を1枚1枚めくり嬲りながら、2本目が隙間へと入ってくる。びくびくと触手を揺すって中を犯すと、内壁の脈動が感じられた。
しらゆきの秘部を2本の触手が、ぐちゃぐちゃとかき混ぜた。中をやさしく擦ると、ぎちりと締まって行き場を失った粘液が零れ出る。
「ああ、すごく、いい。濡れて柔らかいのに、きつそうだ」
「き、つい……?」
「そう。僕のこれが、ここに入るよ」
ようやくダンテの言葉に反応を見せたしらゆきに、一際大きくて醜悪な形をした1本を見せる。それは赤黒く、男の欲望そのものの形をしていた。しらゆきはもちろん見たことが無く、それが何の形を示すものかも分からない。しかし異彩を放つそれに怯えると同時に、羞恥や、そして何故か胸の奥がザワザワと騒ぐ心地を覚える。
言葉を失ったしらゆきの様子に、ダンテが薄く笑った。
「挿れるよ。君のここは、すごく濡れてる」
もう一度言って、すでに秘所に入っていた2本の触手を交互に動かした。内部をずるずると擦られて、しらゆきは思わずひくりと喉を鳴らす。
「……んぅ……そ、んなの、む、り。入ら、ないよ……」
「大丈夫。ゆっくりしてあげる。人間の時と太さはさほど変わらないし、役割もね」
「や、く、わり?」
「そう。しらゆきのここに早く子供が出来るように、何度も何度も可愛がってあげる」
しらゆきが、驚きの表情を浮かべる。
それを見たダンテは何故か苦しげに顔を歪めたが、頭を振ってしらゆきを腕と触手で抱え直した。
「しらゆき、僕のものになって」
両足に巻き付いている2本が、しらゆきの足を大きく開かせた。秘められていたはずの箇所はしとどに濡れていて、ひくひくと蜜を零している様を見せ付ける。
先程の触手は娘の割り開かれた花弁にぬるりと押し付けられた。そうして、じんわりと入り込む。
「っい……た!」
「……は、あ、きつ……すぐに出てしまいそうだ」
まるで身体を割かれるような痛みに、しらゆきは悲鳴すら上げられない。ぷるぷると震えて腕にしがみつく様子に、ダンテ自身も歓喜の意味で震える。
しらゆきの足を大きく開かせて、ダンテの両手はしらゆきの頭を優しく梳き始めた。時折触手がしらゆきの腰を持ち上げると、繋がる部分がよく見える。その有様を見つめながら、ゆっくりゆっくり、処女の入口を広げていく。長い触手がしらゆきの中をじわじわと広げて、ようやく子宮の入口を見つけた頃には、しらゆきの身体から鳥肌は消えていた。
試しに少しだけ引き抜いてみる。
「ひ、あ」
少しの血が混じっていたが、それ以上に濡れていることに安堵する。まだ蜜壺の中は渇いておらず蕩けたままだ。全ての触手を総動員してしらゆきを愛撫していたからか、その声が現す色も甘くなっていく。
破瓜の瞬間の痛みだけは免れなかったが、それを過ぎてしまえば与えるものは快楽であればあるほどいい。ダンテは魔力を込めてしらゆきの身体から痛みを退かせると、触手を動かし始めた。
しらゆきの背中から覗きこみ、触手を抽送する様を眺める。時々触手の1本を下ろして喘ぐしらゆきの唇を優しく拭い、胸から触手を退かせて指でじっくりと可愛がる。
胸から退かされた触手は抽送を繰り返す箇所へと伸ばされ、足を開かれ剥き出しになってしまっている赤い花芽をくすぐり始めた。
「や、……やあ、いやあ……や、だぁ」
「嫌がってもダメ。止めてあげない」
「も、なに、これ……あっ」
じゅく、じゅく……といやらしい音を立てて、しらゆきの身体をダンテの触手が出入りする。徐々に動きが速くなり、ぞくぞくと互いの背に這い登る感覚に先に観念したのはダンテの方だった。
「く、う……しらゆきっ……ああ!」
しらゆきの膣内で腹も背も抉るように動かし、最奥をこつこつと突き上げた。途端に、ダンテの感覚が弾けて落ちる。どくりとしらゆきの中に魔物の精が吐かれて、いつまでもいつまでもそれが続いた。
触手がしらゆきに巻き付いて、まるで触手の中に埋もれるように閉じ込められた。身体の中にはどくりどくりと何かを吐き続けている触手が残っている。
「っ…んん……」
力は入らないのに、感覚だけは鋭敏になっているようだった。出される度に奥が熱くなり、それがむずむずと身体に広がるような心地がする。
「ダンテ……」
「しらゆき、しらゆき……」
ひどく虐められたはずなのに、しらゆきはダンテの声が泣きそうなことに気が付いた。どうしてダンテは泣いているのだろう。しらゆきには分からなくて、先ほどまでの恐怖が薄れていく。どうして泣いているのと聞きたかったがそれを伝える術もなく、何故だかとても眠くなって、しらゆきは静かに目を閉じた。
「僕……」
そうして腕の中でぐったりとしたしらゆきを見て、ダンテは呆然とする。自分はしらゆきの心の準備も出来ていないのに魔物の姿を見せて、おびえて身体が動かないのをいい事に陵辱した。
最低だ。
「嫌われた」
完全に嫌われた……。
がくりと肩を落とした。でも、もう後戻り出来ない。嫌われようがどうしようが、しらゆきを手放すことなどできやしないし、抱いた心地を覚えてしまった後で禁欲など無理だ。しらゆきに対する自分の衝動は、自分が一番よく知っている。これまで耐えることが出来た方が奇跡的なのだ。
もう嫌われてしまった。
それならばいっそ、堕ちるところまで堕ちてしまおうか。
そう思う自分の黒い感情とは裏腹に、ダンテの腕と7本の触手は、しらゆきの身体を優しく包みこんだ。