あやかさんが触っても、棘が刺さったりしないね

「お風呂上がったよ……山彦くん……?」

お風呂から上がった彩花がセミロングの髪をタオルでターバン巻きにして部屋に戻ってみると、山彦が神妙な顔で座っていた。大きな瞳をきらきらさせながらも真面目な顔で、両方の手を顔の両脇にかざしている。何をしているんだろう……と思って彩花は首を傾げて暫く見つめていると、大きな瞳をむふっ……と優しく細めたり、眉間に皺を寄せてムッとしたりしていた。

「やまひこくん?」

首を傾げて山彦の顔を覗き込んでみると、山彦がハッとした表情になって我に返り、次の瞬間パアア……と愛らしい笑顔になった。

「あやかさん!」

「どうしたの、ぼーっとして」

「ちょっとSPNスピリットネットワークで調べものしてたんだ」

「ふうん……お風呂上がったよ」

「うん」

頭を拭きながら山彦にお風呂を促すと、突然、もふっと山彦が抱きついてきた。山彦の背の高さは彩花より少し高いくらいだ。ちょうどいい具合に彩花の耳元に吐息が触れて、ひゃ……!と肩を竦めると、山彦が抱きついたままぐるりと回り込んで彩花の唇に自分の唇を重ねた。

「ん……」

「お風呂上がりのあやかさん、柔らかいね」

「ちょ……」

「お風呂いってきます!」

山彦はすぐに唇を離してくすくすと笑った。彩花が「ちょっと!」と怒る前に、お風呂場へと消えて行く。彩花は確認するように、手でふにふにと唇を押さえながら山彦の後ろ姿を見送った。

元サボテンの精霊だという山彦が彩花の家に押し掛けて……もとい、彩花の家で人間になってから、数ヶ月が経った。住んでいる部屋はもともと彩花の部屋だったが、それなりの手続きをして引き続き同居……同棲している。山彦はSaHOから紹介された卸売業者で普通にサラリーマンとして働いていて、お給料は彩花と同じくらい。2人して慎ましい堅実な生活を送っていた。

山彦は最初に宣言した通り、彩花に無理矢理迫る事は無かった。だが、スキンシップは過度だ。一緒に暮らし始めた(というか、追い出す訳にもいかないし)その日から、気を緩めると唇を重ねて、外に出るときは指を絡め、DVDを見ているときは寄り添って、一緒の寝台でぎゅっと抱き締められて眠っている。

もちろん、やめてと抗ったが、「でも……僕、あやかさんと……」としょんぼりされると強く怒る事も出来ず、さらによくないことに、山彦とのスキンシップはとても心地が良かった。彩花は決してイチャイチャしたがるタイプではないのに。

そういう訳で、強く抗えない……むしろ気持ちよくて思わず身を寄せてしまうような触れ合いは常の事で、先ほどのようなキスも日常になってしまっている。まるで恋人同士のようでむず痒い。

それにしても、先程はSPNに接続して何を調べていたのだろう。山彦は時々あんな風に真面目な顔をして何かと交信していることがある。サボテンの精霊のような人ではない者が利用するネットワーク形式のツールで、分からないことがあったら検索して情報を収集するらしい。仕事帰りに彩花と待ち合わせしたときなど、外でも時々真顔になっている時がある。どこでも受信できるのかと聞いたら、スマホもそうでしょ?と不思議そうに言われた。

山彦が待ち合わせ場所でそんな風に真面目な顔をしている時は、大概、デート先のお店を検索してくれているみたいで、人外にもお馴染みのお店に連れて行ってくれる。ちなみに人外馴染みの店には、本当に人間とは異なる姿のお客さんがいて最初は腰を抜かすほど驚いた。SaHOの職員が置いていった『人と精霊の暮らしのしおり』にも書いてあったが、この世には本当に人ではないものが存在するのだと認めざるを得ない。

SPNは、そういった人外の仲間達が使うというが、一体どのような情報が出回っているのやら。SNSなどもあったりするのだろうか。それに一体何を検索していたのだろう。首を傾げながら部屋をざっと片付けていると、ゴミ箱の中に何かを発見した。

「なんだろ、これ」

お風呂から上がったばっかりでお行儀が悪いと思いつつ、指でつまんで引っ張りだしてみる。くしゃんと伸びたそれは薄いフィルムか何かで、よくよく見るとコンドームだった。もう一度覗き込んでみると、当たり前だが封の切られたパッケージも捨てられている。当たり前だが使用済み……使用済み……?

「あーやかさん!」

「うわああ!!」

急に山彦に抱きつかれて、彩花はつまんでいたコンドームをぽとりと落とした。抱きつかれたまま振り向くと、きょとんと彩花を覗き込む山彦と視線が絡む。

咄嗟に何も言えず、山彦とゴミ箱のコンドームとを交互に見つめていると、山彦の視線もコンドーム(使用済み)へと移った。

何故か分からないが、「しまった、見つかった」と彩花の方が慌ててしまう。

「えっと、あの」

「あー……」

山彦が少し声を落として、少しばかりしゅんとした声で言う。

「あの、燃えるゴミって聞いてたから、捨てたんだけど、ダメだった?」

「へ?」

「コンドーム」

「あ、いや、多分大丈夫と思う」

「よかった!」

ちがう。そういうことではない。

2人の間に流れる盛大な論点のずれに彩花が動きを止めていると、山彦が少し照れたように俯いた。

「練習してて……」

「えっ?」

「使い方、あの……練習してたんだ、コンドームを花……ペニスに装着する方法! ……さっき。その、あの、彩花さんがお風呂に入ってる間に」

「あ、ああそう」

もじもじと山彦が顔を赤らめる。論点は正常に戻ったが、山彦のとてもとても正直な告白に当然怒る理由もなく、まったく意味の無い肩透かしを食らった気分だ。

実は彩花の部屋には山彦と共に買ってきたコンドームが置いてある。山彦が人間になってからすぐ後、コンビニに行った時に買ったのだ。もちろん彩花が積極的に買ったわけではなく、山彦が買い物かごにいれた。

それから使う機会は無く、山彦用に空けた引き出しに大切にしまってある様子なのは知っていたが、それをいざという時のために備えて練習に使ったらしい。

サボテンだったころ、夢で山彦は何度も彩花と抱き合っている。しかしその時はいつも着けておらず、中でたっぷりと吐き出していた。もちろん、それが夢の中でだから出来ることだと山彦にも分かっている。

だが現実ではどうだろうか。山彦は人に化けているわけではなく、完全に人間になっている。彩花との間に人間の営みが成立するのは喜ばしいが、そのための準備や作法もまた、人間に従わなければならないはずだ。

「夢では使った事無かったし……でも、いざって時に使えなかったらダメでしょ。ちゃんとペニスに着けられるようにならないと……」

「ま、まあ、そだね。あと、そんな、はっきり言わなくて……」

「あ! 今つけてみよっか!? うまく出来てるかどうか見て……」

「いやっ、いやいやいやいや、大丈夫!大丈夫だから!!」

「そう……?」

しょんぼりと声を落として彩花を見ると、何故か顔を赤くしておろおろとしていた。

そんな彩花を見て、今度は胸がきゅんとする。サボテンの時には無かった心臓は、人間となった今、山彦の心の動きに合わせて小さく縮こまったり、とくとくと鼓動したりする。

頬を染めた女の人ってすごく可愛い……そう思うのは、相手が彩花だからだろうか。山彦は人間になっていろんな女の人を見たけれど、彩花みたいな綺麗な声の人はいないし、彩花みたいにはにかんだ表情が可愛い女性もいない。彩花の黒目のくっきりした大きな瞳と、あまり量は多くないけど長くてくるんとした睫毛、さらさらで綺麗な髪に、色味が強くて薄い唇を持っている人もいなかった。ずっと見ていたい。

思わず抱き締めたくなるくらい綺麗な、山彦の命の恩人だ。そう思うと、居ても立っても居られず、彩花の身体にぎゅっと腕を回す。

「わああ!」

「あやかさん、大好き」

「ちょっと、ちょ、山彦くん」

「あやかさんは、あの、……僕のこと、ちょっとでも好き?」

「あのね、山彦くん、ちょっと……」

すり……と頬を摺り寄せてくる山彦の背中をぺちぺちと叩きながら、彩花が近所迷惑にならない程度に声をあげた。

「とりあえず服着て」

一枚も服着てなかった。

****

明日は休日だから少しくらい夜更かししても平気だ。そんな時の2人の定番はお笑いのDVDを見ることで、見終わった後、これはどういう意味なのと聞いてきたり、あれはなんで面白いのかと本気で不思議がる山彦とおしゃべりを楽しみ、似たような感想をSPNで検索しては人外の見解を報告してもらっては笑う時間を楽しんだ。

そうして、ひとしきり笑ったあと、寝台の中にぬくぬくと横になる。

最初は抵抗のあった同衾も今は抵抗感が無くなって、山彦の身体に抱き寄せられないと安心できないほどだ。

ならば山彦はどうなのだろう。

「山彦くん、もう寝た?」

「ん……? どうしたの、あやかさん、眠れない?」

山彦は、どうなのだろう。そう思うと、急に彩花は胸が痛くなった。まるで自分だけが旨味を享受しているみたいで不安になる。ぎゅ、と山彦の身体に抱きついて手を回すと、山彦の手が背中を撫でてくれる。

最初は確かに困ったけれど、今では山彦がいなくなったら……と想像するととても怖くて、その気持ちから目を逸らしてはいけない気がした。彩花が山彦に応えきれていないだけで、山彦は充分に彩花に気持ちを伝えてくれている。山彦にお預けを強いているのは彩花のほうだ。

「山彦くん、あの……」

「あやかさん?」

「あの、あー……あの、ね、私も……」

彩花がまだ最後の踏ん切りが付かず、もごもごと声を落とすと、山彦が布団のなかでふふ……と笑った。ひそひそと秘密を打ち明けるように耳元で囁く。

「あのね、ぼくあやかさんのこと」

「待って!」

彩花が何かを言おうとした山彦の唇を両手で塞いだ。ふが、と口を塞がれて、山彦が大きな瞳をぱちぱちと瞬かせる。彩花は、すう……と息を吸い込んだ。

「好きだから、山彦くんのこと」

「えっ」

「おやすみ」

「え、ちょと、ちょっとまって、あやかさん、うわああ。あやかさん!!」

「もう、ちょっと静かにして」

「だって、だって、僕」

好きだからと言ってすぐさま山彦に背を向けた彩花を、山彦は思い切り後ろから抱き締めた。いつもと同じ山彦の胸板のはずなのに、心臓の音が忙しなく伝わってくる。

「あやかさん」

「うん」

恥ずかしくて丸まっていると、首筋に唇の感触を感じた。山彦の吐息と、少し開いた唇の動きを感じる。小さな声で何度か彩花を呼んで、後ろから彩花の肩に額を押し付けてくる。

「僕、あやかさんのこと好きだよ」

「うん」

「あやかさんも?」

彩花はぎゅっと目を閉じる。山彦の身体が彩花をこちらに向かせようと奮闘していた。彩花さんも? と聞かれたら、答えは1つしか無い。

「うん……好き」

とうとう山彦の方を向かされて、彩花は自分の顔が真っ赤になったのを感じながら、こくりと小さく頷いた。ほう……と山彦の溜め息が聞こえて、唇が重なる。

山彦の手が彩花の顎を辿り、頬を包み込む。

無邪気で可愛らしいところがあるくせに、長くて硬い指は確かに頼もしい男のものだ。

****

山彦が彩花にキスするとき、いつもなら彩花のために総動員した理性で、重ねた唇を離していた。しかし今日はどうしても離す事が出来ない。いつもは遠慮がちな受け応えしかしない彩花の舌が、積極的に山彦に答えようとしていて堪えきれない。

舌を絡ませると彩花のそれが追いかけてくるようにピタリと触れる。手の平を触れ合わせたように舌を重ね合わせて、ダンスを踊るようにぬるりと動かした。粘液を含んだ触れ合いに、下半身がぞくぞくと熱くなる。

ずっとずっと触れたかった。サボテンの頃からずっと。だが、山彦がサボテンだった時に触れると彩花の肌に傷がつく。だから怖くて怖くて仕方がなかった。

人間になったらその心配がなくて嬉しくて、いつもいつも彩花に触れてしまう。それはとても幸せで心地のいい瞬間だった。だが最初は自分から触れられる事が嬉しくて、それだけでよかったのに、山彦はどんどん贅沢になった。彩花の奥に触れたい。……夢であれだけ触れていた場所に、今この身体で、本当の意味合いで触れ合いたい。そんな気持ちをずっと抱えていた。

そして今日、いつもほんの少しの隔たりを感じていた彩花が、今、山彦の事を好きだと言ってくれた。それだけで舞い上がって、身体の中心が硬くなってキリキリする。

もう我慢しなくてもいいのだろうか。だけど彩花にこんな風に応えられたら、我慢なんてできないかもしれない。

「あやかさん、やわらか……やっぱりやわらかい」

深い口付けを、ちゅ、ちゅ……と軽く啄む口付けに変えて、彩花の頬と顎、首筋に顔を下ろしていく。首筋に少し歯を立てると、彩花が小さく声をあげて、それを聞いて嬉しくなった。夢と同じ場所が彩花は弱い。

薄いタンクトップごしに彩花の胸に触れる。ほんの少し力をいれただけで、とろりと柔らかな膨らみに指が沈む。柔らかいのに不思議な弾力があって、他の何にも例えられない触り心地だ。そのまま少し指をずらすと、触れた感覚が少し変わる。同時に彩花の身体が大げさなほどびくりと震えた。触れた部分を指先で少し擦ると、すぐに引っかかりが大きくなった。顔をさらに下ろして、布越しにそれを咥える。

「ん……っ……」

咥えたまま、歯を立てずにぎゅっと唇に力を入れる。途端に彩花の小さい声がこぼれた。そのまま服越しに幾度か舌で舐めて、たまらずタンクトップをまくりあげる。

「ゃっ、あ……」

「ここ、も、……あやかさん、好きだよ、ね。きっと」

今度は直接、赤みを帯びた胸の頂を口に含む。少し大きめに、ただし歯は立てずに唇を触れ合わせ、そこに舌を押し付けた。ねたりと舐めて、何度か往復する。その度に、ぷるぷると愛らしい弾力が舌に楽しい。その度に山彦の身体の下で彩花の身体が震え、いつのまにか背中に回されていた手指にきゅっと力が入って、感じていることを知らせてくれる。

舐めていない方の胸に指を滑らせ、既に硬くなっていた頂を弾く。途端に「あ」と彩花が仰け反り、手の甲で唇を押さえた。声があふれないようにしているのだ。この部屋は防音設備が整っているわけではないから、大きな声はすぐに隣の部屋に響いてしまう。夢の中と同じくたくさん声を聞きたいけど、今は我慢する彩花の顔を見ていようと視線をあげた。

彩花の瞳と視線が絡み合う。

灯りを消していても窓から差し込む月の光で、彩花の瞳が潤んでいるのがはっきりと分かる。唇に押し付けていた手の甲を掴んでそっと外させると、しっとりと濡れた唇がそこにあった。

そのまま身体全体を重ねるように、唇を触れ合わせる。何度か角度を変えて唇を味わいながら、下半身を探り、彩花のショートパンツを下着ごと脱がせてしまった。2人とも何も身に着けていない状態になって、互いの肌を重ね合わせる。しばらくの間、裸の感触を楽しんで、山彦は彩花の深い場所へと指を伸ばした。

「……んっ……」

触れた途端に彩花の喉がこくりと鳴った。指に感じたのはとろりとしたとろみで、そのとろみに触れただけで山彦は興奮に息が荒くなる。

「も、だめ……あやかさん……」

「や、まひこくん?」

山彦は彩花の秘部から指を離し、がばりと身体を起こした。軽くなった重みに彩花がこてんと首を傾げて、山彦を見上げる。山彦はちゅ、と彩花に口付けて、何も身に着けていない身体のままいそいそと寝台をおりた。

彩花がシーツで身体を包んで起き上がると、山彦が戻ってくる。片方の手にコンドームの箱を持っていた。

「あやかさん、ちょっと待っててね」

キリッ……とした表情で山彦は寝台に座り、ごそごそと何か始めた。もちろん彩花には山彦が何をしようとしているのか分かったので、いよいよ本格的に身体を起こし、山彦の手もとを覗き込む。

普通なら付けるところを見られるのは嫌がるだろうに、山彦は覗き込んできた彩花に力強く頷いた。

「ちゃんと練習したから。ほら」

裏表を確認してから、先の部分を指で軽く押さえる。もちろん装着元はしっかりとした硬度を保ったままだ。先端にぺたりと乗せて、ゴムを丁寧に下ろしていく。ぴたりとゴムと性器ペニスが密着した。

「ほらね!」

「う、うん……」

瞳を輝かせる山彦に思わず彩花が頷くと、ふふっ……と甘い笑顔を浮かべた。彩花の身体を隠しているシーツを奪い取って横に退け、優しく抱き締めて押し倒す。

彩花の胸の膨らみに山彦の引き締まった胸板が触れ、硬い腰が柔らかな太ももの間に割り込んだ。

「ね、あやかさん……ごめんよ」

「やまひこくん……?」

ぬちゃ……と音がして、他の身体の箇所とは全く違う質感が彩花の中心に触れる。

「も、我慢できない……つぎ、するときは、ちゃんといっぱいあやかさんのいいところに触るから、いま、はっ……」

「あっ……ん……ぅ」

「挿れ、させて、ひとつにな、なりたい、我慢できない」

ぬちゃりぬちゃりと襞を掻き分け、覚えのある質感が彩花の身体の中に押し入ってくる。……そう、覚えのある質感、だが、記憶にあるよりももっともっと温かくて、もっと存在感のあるものだ。

「あっ……あっ、あやかさ……っ」

「んっ、やまひこ……」

あまりがっついたりしないように……と山彦はちゃんと考えていたのだ。ただでさえ丁寧な愛撫を省略してしまうほど堪えきれなかったのだ。だからこそ、挿入するときはゆっくりと、優しく、出来るだけ彩花に負担を感じさせないようにと進めるつもりだった。それなのに、夢で何度も味わったはずの彩花の膣内なかは、夢とは比べ物にならないほど柔らかくてきつかった。

「きつ、あやかさん……もっ」

「あ、……やまひこ、くん、奥……すすんで、い、から……あっ……んぅ」

半分くらいまでは、山彦もがんばってじわじわと進んでいた。だが、半分を過ぎたところで軽く力を込めたとき、彩花の中が急にくつくつと締めつけてくる。

独特のぬめりと柔らかさに吸い付かれたように引き込まれ、山彦も思わず「くう」と声を出して、彩花を強く抱き締めて腰を思い切り叩き付けた。

「ひ、あっ……!」

「は……あやかさん……きもちい、奥……すごいびくびくしてる」

彩花に引っ張り込まれるように奥まで一気に貫けば、彩花の子宮の入り口にまで到達する。ぐ、ぐ……と擦り付けるように腰を揺らすと、最奥の襞にぴたりと形が嵌り隙間など感じないほどに密着した。

少し引き抜いて、吸い寄せられるように奥を突く。

その度に喉から小さな鳴き声が溢れてしまう彩花が、両手で自分の唇を覆っている。

「あやかさん……」

「ん……」

山彦は彩花の両手を退けて、身体を下ろして唇を塞いだ。舌を絡め合って唾液を交換すると、つながりあった箇所にダイレクトに愉悦が響く。好きだと思う度に中心が熱くなり、背中を引っ掻く指と時々止まってしまう舌を感じ取る度に、彩花の気持ちが伝わる気がする。

唇を離して、彩花の腰にすがりつくように抱え直した。

「……や、まひこくん……っ」

彩花が声をこぼさないように山彦の肩や首筋に唇を付ける。

ぞくぞくする。

彩花の身体のどこが山彦に触れても、柔らかくて気持ちよくて温かくて至福だ。

膣内なかはぬくぬくと山彦に纏わり付いて、そんなに激しく動かしていないのに、もう限界だった。

「は……あっ、あやかさん……僕、も、う……ごめん、イキそ……で」

「い、よ、いいよ。気持ちよくなって、動かして……あっ」

苦しげに……でも声をひそひそと潜めたまま、2人はお互いの限界を囁き合った。きゅっと抱き合ったまま、山彦は腰を動かし始める。彩花の足が山彦の身体を挟み、離れないでと訴えている。

「……くっ、う」

「……んっ」

山彦が限界を感じて細やかに動かすと、唐突に何かが解放された快楽に襲われる。荒く息を吐きながら彩花の顔を見下ろすと、放心したように山彦を見つめていた。

「あやかさん……」

「うん……」

根元を抑えながら慎重に自分を彩花の身体から抜く。もっともっと入っていたいけれど、つかの間戻ってきた理性のおかげで人間の男と同じ後始末の余裕を与えた。

あらかじめ調べていた通り、コンドームの口をしばって穴が開いてないか確認した後、ティッシュに包んで……少し悩んで、ゴミ箱にそっと入れた。ここまでの一連の作業。……人間の男はどうやってスマートに始末しているのだろう。もうちょっとスマートにする方法を検索せねばならぬと山彦は決心した。

何枚か綴りになっていたコンドームをもう一つ、ぴりりとちぎって寝台の脇に置く。

「あやかさん。だいすき」

「ん。わたし、……もっ、きゃっ!?」

うふふ、と山彦が笑って、くったりしている彩花の耳にかぷりと噛み付く。先ほどは初めて味わう彩花の身体があまりに気持ちよくて急いてしまったけれど、次はきっともう少しがんばることができると思う。夢の中で彩花と快楽を共有したように、これからは人間の身体で人間の彩花と、夢ではないこの現の世界でたくさん抱き合いたい。

こんなに綺麗な彩花の身体を、一度味わうだけではもったいなかった。

****

声を抑えてひそやかに抱き合う時間は一晩中続いた。2人して時々うとうとして、目が覚めるとどちらからともなく身体に触れ合って、つながりあって果てる。ゆるゆると数度それを繰り返して、明け方近くなってようやく落ち着いた眠りについた。疲れた身体を山彦に抱き締めてもらっていると、心身がどちらも満たされる気がした。

「あやかさ、あやかさぁん」

「山彦くん?」

頭の上でむにゃむにゃとつぶやく山彦の声が聞こえて、彩花は小さく笑った。腕から上半身だけ抜け出して傍らに置いてあったペットボトルの蓋をあける。すっかり温くなってしまったけれど、常温の水は喉を優しく潤した。

「あやかさん、こっちきて」

山彦が彩花の腰にぎゅっと抱きついた。ペットボトルの水を置くともう一度寝台に潜り込んで、山彦の腕の中にすっぽりと収まる。もぞもぞと居心地のいい場所を探して落ち着くと、やわやわと山彦の背中を撫でてやった。

くすぐったそうに笑う吐息が聞こえて、幸せな心地になる。

「あやかさんが触っても、棘が刺さったりしないね」

「そうね」

「もっと触って」

僕も触るから。そう言って、山彦が彩花の背中に手を滑らせる。滑らかな人の肌、交わり合うことの出来る身体。大好きな人。そうした存在が腕にいる幸せを噛み締めていると、ううん……と彩花が溜め息を吐いた。

「そういえば……」

「ん?」

「サボテン、部屋から無くなっちゃって寂しいし、また何か植物買って来ようかな。今度はもうちょっといいやつ」

それを聞いた山彦が驚いて目を丸くする。

「ダメ!」

「えっ」

「あやかさんには僕がいるでしょう。だからダメ!」

「でも、山彦くんと他の植物は違うんじゃないの?」

全ての植物に山彦のような精霊が宿っているわけではない……と聞いたような気がする。実をいうと、サボテンを育てたのはとても楽しかったので、またちょっとしたグリーンを買いたいと思っていたのだ。だが、山彦は力一杯頭を振った。

「もし、もし買うなら僕を連れて行って! 僕がダメって言った奴はダメ!」

「そ、そうなの?」

「そう!」

分かった? と聞き分けの無い子供に諭すような口調で、……しかも非常に真面目な顔で山彦が彩花を見つめている。確かに、また精霊が現れるのは困るし、恋人は山彦だけで充分だ。

「分かった? あやかさん!」

「……分かった。今度買いに行こうよ」

「うーん……あんまり気が進まない」

むう……とむくれた声を楽しく聞きながら、彩花はふああと欠伸をした。まあ、山彦が嫌だというなら植物は後回しにしてもいいか。

「あやかさん、今日は家具屋さんに行くんでしょう?」

「うん。……一緒に見よ」

「楽しみ」

そう言って、山彦が彩花の背中に抱きついてくる。今日は休みの日だから、もう少しだけ寝過ごして……それから一緒に買い物に行く約束をしているのだ。もうお互いを恋人同士と宣言する気持ちに躊躇いが無くなって、見える風景も変わる気がする。

元サボテンの精霊と人間の恋人同士は、こうして今日も甘い休日を過ごしている。


【人間 受粉 コンドーム】

約2000件(0.5秒)

・元植物ですが人間と受粉行動をする場合にコンドームは必要……
・人間になって形が変わってしまった方必読! 着け方から外し……
・人間と植物、受粉の時に知っておきたい10の心得まとめ
……