傭兵将軍の嫁取り

006.情交

いずれ、妻になる女だとは分かっている。だが正式に婚姻の誓いを交わすまでは待てなかった。そもそもそのような誓いなど、ジオリールという男には不要だ。たった今自分のものにしなければ明日はどうなるか分からないという、戦士の本能がジオリールを動かした。

深い愛情や絶対的な義務感など無くとも、身体を強く求め合うことが男と女にはある。ここで互いを離してはいけないという焦りと、ここで関係を持てば繋ぎ留める枷になるだろうという打算と、ここから恐らく愛情になるのだろうという僅かな予感が、躊躇いを捨てさせた。

「……っ、う……ん」

抵抗しない身体を感じ取って、ジオリールはシリルエテルの頭を抱き寄せた。深くなっていく口付けに、シリルエテルが色めいた声を零す。その声に誘われるようにシリルエテルの口腔内を探ると、すぐに濡れた舌が見つかる。自分のそれよりも柔らかく華奢なぬくもりを荒々しく絡めとって、舐めるように吸い上げた。

角度を変えて唇を動かし、重ねあった隙間から唾液が零れる。零れたそれを舐め取るように、ジオリールが唇を離して頬に滑らせる。シリルエテルの顔にざらりと感じるのは、ジオリールの髭の心地だろう。ジオリールの唇が触れる箇所全てに吸い付くように音を立てながら動き、頬を撫で、耳を食んだ。その度に、ぴくんとシリルエテルの身体が反応する。

さらにジオリールの頭が首筋に降りてきて時折歯を立てた。首筋から耳に掛けてが弱いのか、シリルエテルが感覚を逃すように首を振る。籠もる呼吸音に煽られて、ジオリールはシリルエテルの手首を押さえた。強引にシリルエテルの足と足の間に身体を置く。

「シリルエテル」

「……ジ、オリール、様」

「様はいらねえ」

「ジオリール……」

「ああ。そうだ、それでいい」

胸の膨らみに手を這わせる。旅装を解くには面倒で服越しに楽しむだけだったが、その柔らかさを感じるには十分だ。中の様子を想像すると、いっそ引き裂いて直接触れてやろうかと思うほどだ。その衝動を堪えて、ジオリールはシリルエテルの下半身へと手を伸ばす。

ドレスではなく細身の下服もまた色気のないものではあるが、ジオリールは留め具を器用に外すとその中に手を入れた。

剣を握り分厚くなった手の皮膚が、シリルエテルの下半身の肌に直接触れた。その感触にシリルエテルは声を堪えるだけで精一杯だ。無論、シリルエテルとて未経験の女というわけではない。……が、前の夫と義務的な関係を持っただけで、それももう何年も前の話である。その時に与えられた行為はただの行為で、少なくともこんな風な感覚をシリルエテルに与えるものではなかった。相手が異なるだけで、こんなにも感じる感覚が変わるものなのだろうか。ジオリールの唇がシリルエテルを這い、その手が何かを求めて探っているだけで下腹が疼き、その疼きが喉の方へと駆け上がる。

「……あっ……ん……」

不意に、シリルエテルの身体がぴくりと逸れた。ジオリールの太い指先が秘裂に触れたのだ。指に触れた箇所を掻き分けて、そこにあるぬるりとした感触を確かめる。まだそれほどではない。だがやわやわと揉んでいると、浸み出すように指を濡らし始めた。ジオリールはそのぬめりを少し掻き出し、綻びかけた花芽のような膨らみに塗りつける。その刺激に、シリルエテルから再び声が上がった。

「……や……っ」

「は……可愛い声出すんじゃねえよ、手加減出来なくなるだろうが……」

ジオリールは、戸惑いがちな控えめな声と逃げを打とうとしてしまう反応を味わいながら、シリルエテルの身体はまだ浅いのではないかと考える。もしシリルエテルの相手が夫だけで、他に情人を迎えていないのならば、少なくとも5年。恐らくはそれ以上、彼女は男を受け入れていないことになる。

ジオリールの心中に、シリルエテルの前の夫にたいする奇妙な嫉妬と、それを一欠けらも思い出させないようにしてやりたいという、雄の欲望のようなものが沸きあがった。それに昼間に見ているシリルエテルの冷静な顔と、ジオリールの眼の前で熱い吐息と小さな嬌声を上げている表情の差異が、男の下半身を凶暴に煽る。

一度指を離すと、シリルエテルの下服に手を掛けて下着ごと膝の辺りまで下ろす。外気に晒された羞恥に、シリルエテルがぎゅ……と目を瞑って顔を背けた。その顔を追いかけて唇を重ね、再び指を持っていく。

指に触れた箇所は柔らかくなってきている。さらにその柔らかさが確認できるほどに濡らすと、く……と指を深く中に沈めた。

「……あうっ…………」

ジオリールの指は太く、その形がはっきりと分かるほどシリルエテルの中が絡み付いた。入り口を押し広げるようにジオリールの指がぐるりと動き、一度引いて奥まで沈み込む。奥まで行ったところで指が曲げられ、内壁が擦られた。中でジオリールの指がどのように動いているかがはっきりと分かるほど、その形に合わせて内側がぴたりと吸い付く。動く度にシリルエテルから吐息が溢れ、啼き声になってジオリールを誘っていた。

「……狭いな」

指の1本でかなりきつい。元々の狭さもあるだろうが、やはり経験が少ないのだろう。かなり解いてやらなければジオリールのものは入りそうにない。

ゆっくりとした指での抽送を続けていると、引き抜く度に水音が高くなっていく。やがて指が2本に増やされ、音も動きも激しくなった。ジオリールが指を動かす度に、シリルエテルの身体の奥から疼きと蜜液が溢れてくる。疼きは快楽となってシリルエテルを高めていくが、それを完全に受け入れるのが怖くて身体が逃げる。だがその度にジオリールの抱く腕の力が強くなり、逃げ切れずにますます高鳴った。

仰け反ったシリルエテルの首筋に思わず吸い付き、じゅるりと音を立てて嬲っていると、挿れているジオリールの指に直接脈動が感じられた。時折、ふる……と震え、その度に怯えたようにジオリールにしがみつく。達するのを我慢しているのか、それとも、それを受け止める風にまだ身体が慣れていないのか。ジオリールはシリルエテルの身体を片方の腕に支えて、中がひくつく様子を味わっていたが、十分に溢れた蜜液と共に音を立てて指を抜いた。

シリルエテルの片方の靴を乱暴に抜き、中途半端に脱げかかった下服をやはり片方だけ脱がせた。シリルエテルの背中を岩に預けるとそれは丁度いい高さだ。ジオリールも前を開き、痛い程に張り詰めている己を取り出して、目の前の太腿を両腕に抱えて自分の肩に掛ける。羞恥にシリルエテルがおろおろと瞳を逸らしたが、それを追い詰めるようにジオリールが囁いた。

「少し痛いかもしれねぇ。……無理なら、言え」

言われてシリルエテルは、潤んだ瞳でジオリールを見上げた。子供のように頭を振る。ちらりと見えたジオリールの欲望は男の体躯に見合うだけのもので、確かにそれが受け入れられるかどうか怖い。だが、途中で止めるつもりはシリルエテルには無い。ジオリールとて、そうだろう。

「大丈夫、ですから」

「……」

「ジオ……リール……」

シリルエテルがジオリールをそっと呼ぶ。それに導かれるようにシリルエテルの腰を引き寄せ、己の硬い先端を触れ合わせ、力を込めた。

「は……っ……う……」

「……き、ついな」

太腿を抱えて、ぐ……と距離を詰める。ジオリールがこれまでどんな女にも感じたことの無いきつさだ。それでもゆっくりと動かすと先が入り込み、入り口が段差に絡まり、それらを少しずつ押し分けて深まっていく。

「あ、ああ……」

ジオリールがシリルエテルを見下ろすと、やはり随分と苦しそうな表情をしている。当然だ。無理やり押し広げられた内壁は過剰に擦れ、筋肉も軋んでいるはずだ。それでも、ジオリールにはこれまでになく心地よかった。痛いほどに締め付けられているのに、触れる感触は柔らかくて蕩けるようだ。奥の奥まで突き進み、自分を全てこの蕩ける膣内なかに沈めればどれほどのものなのか……想像するだけで、獣のように女の身体を貪り尽くしそうだった。

だが……これ以上はシリルエテルの身体にはきついだろう。理性の最後の一線を保ったまま、ジオリールは半分程埋めたところでゆっくりと抽送を始める。

そうしていると、シリルエテルの手が伸びて結合している部分にそっと触れた。

「ま、だ……」

「シリルエテル……?」

「まだ、ぜん、ぶ、はっ……」

「だが、これ以上は……」

慣れてないうちは無理だ、そう言う前にシリルエテルの手がジオリールの腰に伸びる。掴んで、自分に引き寄せようとした。

「……っ……待てっ……」

く……と僅かに動き、予想外の感触にジオリールから思わず声が出る。シリルエテルとて、ジオリールを無理やり受け入れることが自分の負担になることは分かっている。だが、ここで退くつもりはなかった。ジオリールは男で、戦士だ。中途半端な行為で満足するはずが無い。

夫になる男は何の見返りも求めずにシリルエテルに伯爵夫人の資格を与え、妻として守るという。それならば、ジオリールが求めるものに答えるのは妻としての自分の義務だとも思えた。

「おねが、い」

は……と息を付いて、ジオリールはシリルエテルを見下ろした。見た目通りのか弱い女ではないことは知れている。まだ、それほど自分に情があるわけでもあるまい。それでも、退かないだろう女の意思を感じ取ってジオリールはシリルエテルの腰を掴んだ。

シリルエテルの負担になると理性で分かっていても、本能はそれを許さない。シリルエテルの懇願がジオリールにとって都合がよすぎることも分かっている。だが、一度決めればもう止めることは出来なかった。掴んだ腰を引き寄せながら、ぐ……と押し付ける。ずくりと少し中に進むと、そこの感触はジオリールの理性を奪うに容易い。

「ああっ……!」

身体が割れるように軋んで、思わずシリルエテルが声を上げた。残っている理性の糸をかき集め、かろうじて進むのを堪える。

「シリルエテル、力を抜け……つらいだろうがっ」

「だいじょ、ぶ、です」

大丈夫ではないだろう。それなのに、微かに笑うシリルエテルのいじらしさに、どうしようもないほどの愛しさが沸く。それは同時にシリルエテルの全てを食らいたい欲望に直結した。様々な感情を抜きにして、たった今のこの女が欲しい。

岩に押し倒したシリルエテルの背中に手を回して抱き締める。両足がふらふらしないようにジオリールが抱え、それごとシリルエテルの身体も抱いて一気に自分を進めた。

「うっ……あ……」

「…………くっ……締め付けやがって、くそっ……」

互いの付け根がぶつかり合い、ジオリールが最奥まで入ったことが分かった。ジオリールの先端は無論奥まで届いた。恐らくシリルエテルの子宮の入り口にぴたりと密着しているのだろう、吸い付かれそうな感覚が恐ろしく心地がいい。

しかし、ジオリールの下では、苦しげに息を吐きながらシリルエテルの身体が震えていた。「大丈夫か」とは聞かず、そのまま一気に抽送を始める。大きな抜き挿しは、姿勢からいっても……そして締め付けからいっても出来ない。

だが、互いの身体が揺れるだけでジオリールは搾り取られる。ジオリールは近づいたシリルエテルの顔に口付けた。そのまま首筋と耳元に舌を這わせ、下半身の動きとは全く異なる優しい仕草で唇を咥え、柔らかに甘噛みする。その感触を受け取ったのか、シリルエテルの奥からまた溢れた。徐々にそのぬめりがジオリールの動きを助け、シリルエテルを楽にしているようだった。

「シリルエテルっ……出すぞ……っ」

動きが激しくなり、岩でシリルエテルの身体が傷まないようにジオリールが腕で支える。そのまま2度3度腰を打ちつけると、シリルエテルの中に熱が注ぎ込まれた。

「あ…………はぁ……」

シリルエテルの腕がジオリールに抱き付いてきた。吐き出した余韻に意識を持っていかれそうになっていたジオリールは、シリルエテルに抱き寄せられるように体重を掛ける。互いに息を吐き、静かにシリルエテルの頬に口付けを落とした。

このまま挿れておきたい衝動と戦って、己をゆっくりと引き抜いた。ジオリールのものを受け入れるだけでも負担だっただろうに、外で……しかも不自然な格好で抱いてしまった身体をようやく解放する。岩の上から引き寄せ、横抱きにして地面に降ろした。ジオリールは自分のマントを外してその上にシリルエテルを座らせると、マントの半分を下半身に掛けてやる。岩に凭れておけ……と命じて自分も服を調え、綺麗な布を川の水に浸した。

「ジオリール……?」

「冷てぇが、我慢しろ」

「んっ……!」

先ほどまでジオリールを飲みこんでいた部分に、水で濡らした布を充てる。シリルエテルは冷たさと羞恥に身をよじるが、ジオリールは細い背中に腕を回して、逃げを封じた。

「我慢しろといっただろうが」

「自分で……」

「いいから、おとなしくしてろ」

混じりあった体液を拭き取り、ひりつきを沈めるために冷やす。綺麗にそこを拭って、服を引き上げてやった。疲れたのだろう、シリルエテルが抵抗したのは最初だけで、後はずっとジオリールに身を任せている。服を調え終わると、ジオリールはシリルエテルの身体を自分の太腿の上に乗せ、逞しい胸板に凭れさせる。今は鎧を着ていないので体温が感じられて心地よく、疲れもあってシリルエテルは緊張を解いた。腕の中で力が解けるのを感じ、ジオリールはシリルエテルの細やかで長い髪を撫でる。

「悪い、無理させちまったな」

「いえ、いいえ……」

ジオリールの大きなごつりとした手が、そっと髪に触れている。その感触はシリルエテルに安心感を与えるのには十分で、あまり甘えてはいけないと思いつつも頬を寄せた。身体の疲れもあるが、もう少しこのままで居たかった。

「どうする、戻るか? 」

シリルエテルが物言いたげにジオリールを見上げる。その黒い瞳と自分を頼ってきた重みに、ジオリールは思わず瞳を柔らかくした。もう一度頭を撫でて、その重みを自分の肩口に引き寄せる。

「……いや、やっぱりここにいるか。少し眠んな」

「ジオリール……」

「ん?」

「戻らなくても……よいのですか?」

「ああ。俺がどうにかしてやるから、今は休め」

ジオリールがその体躯に似合わぬ優しい動きでシリルエテルの頬に唇を滑らせると、それを受けたシリルエテルが睡魔に誘われるように静かに目を閉じた。やがて規則正しい呼吸音が聞こえて、自分の腕の中で眠り始めたことを知る。

「参ったねえ……」

惚れそうな女は明日死ぬ前に抱いておけ……とは、養父の言葉だったか。

確かに興味を惹かれていたのは事実だ。しかし無理やり与えられた妻を愛する自信は無かった。それでも抱けば情は沸くだろうという期待もあった。結果はどうだ。情を乗り越え愛しさすら感じる。これが抱いた瞬間の一時的な感情だとしても。

もういい歳の自分に愛やら恋やらなどという湿った感情などがあるとは思えなかったが、シリルエテルが自分のものであるという野生の獣のような荒々しい独占欲と、大事にしてやりたいという庇護欲はごまかしようがない。今はそれを頼りに抱く。だが、これだけははっきりしていた。

「お前は俺のもんだ、シリルエテル」

そうつぶやいて、ジオリールも目を閉じた。