宿屋の寝台はそれほど広いわけではない。もちろん、他の部屋に比べジオリールの部屋のそれは幾分広いが、それでもジオリールが乗ると小さく見える。その寝台の上で衣擦れの音を響かせながら、荒々しい吐息が混じりあっていた。
既に2人とも服は着ておらず上掛けも掛けずに、ジオリールはシリルエテルの身体を組敷いていた。上に乗っているジオリールの背中も胸も二の腕も、鎧のような硬い筋肉が覆っている。そこにはところどころ太い傷が走り、戦士としての身体を余すところ無くシリルエテルに見せ付けていた。戦を重ねてきた重い身体でシリルエテルの滑らかな肌を抱き込み、柔らかな胸に顔を埋めてそこに舌を這わせている音が聞こえる。
「……あっ……は……」
シリルエテルの背が逸れて身体が逃げようとする。だが、ジオリールの腕が回されている状態ではピクリとも逃げられず、受け止める感覚は全てシリルエテルを這った。一度唇を離し、再び胸の片方に吸い着く。くちゅ……と大げさな音をたて、舌で大きく転がして、弾くように何度も往復した。そうかと思うと動いていた舌が胸の柔らかさに沈み込み、浮いてきたところをきつく吸い上げる。その度にシリルエテルから小さな声が零れる。先ほどからずっとジオリールはもどかしいほど胸ばかりを攻め立てて、抱き締める腕を決してゆるめようとしない。
「シリルエテル、こっちを見ろ」
その言葉に思わずシリルエテルがジオリールを見下ろした。そこで、見せ付けるようにシリルエテルの胸の頂を赤い舌でぬらぬらと舐めるジオリールと目が合う。「は……」と吐息と共に頬を真っ赤に染め、思わず羞恥に顔を逸らすと、その様子にジオリールは、くっく……と喉の奥で笑って、胸からやっと唇を離した。
「そういうあんたの顔も悪かねえな」
「も……う……そんなふ、に……」
「ああ? どんな風だ。言ってみろ」
再び真っ赤な顔を背ける。しとやかで落ち着いた風の女が、こうした初心な様子を見せると苛めたくなる。ジオリールはそのまま顔を下げると、シリルエテルの足を開かせた。
「ちょっと……ジオリール、なに……をっ……!」
「濡れてるか、確認するんだよ」
じゅる……と音を立てて、濡れ溢れている箇所に口付ける。先ほど胸を激しく攻め立てたように、蜜を溢れさせているそこを舐め上げた。裂け目に舌を挿し入れて蜜を掬い取るように動かし、花弁を一枚一枚丁寧にめくりあげる。さらに少し上にある、ぷくりと膨れて赤くなっている蕾を舌で包み込み、そのまま唇で挟みこんだ。
「や……やめ、そんな、と……」
「止めるわけねえだろ」
「で、も……こわ……ああああっ!」
舌でしゃぶりながら、ぐつ……と指を入れる。楽に奥まで入り込むが、相変わらず狭い。今にも達しそうなほど、内奥はひくひくと脈打っていて、まだまだこれからだというのにジオリールは興奮する。指をねっとりと動かしながら、一度きつく吸い上げると、シリルエテルが嬌声を上げた。同時に奥が解けるのを指に感じる。小さく達してしまったようだ。片方の指は入れたまま口元を拭うと、ジオリールはシリルエテルの首筋に唇を寄せ、背に手を回した。
「……はっ……あ……も、う、」
シリルエテルが捉われた感覚に怯えるように、ジオリールを見上げた。
安心させるようにシリルエテルの髪に口付けるが、ジオリールの指は抜かれず、容赦なく中をまさぐっている。シリルエテルの表情を見ながら、ジオリールが手首を捻るようにして指の角度を変えた。相変わらず身体は密着させたまま、その箇所で指を折る。その途端、シリルエテルの身体を襲う愉悦が大きくなる。喉が痛むほどの快楽が全身を駆け巡り、今まで出した事のないほどの甘い声が上がってしまった。その感覚に、シリルエテルはすがるものを求めるように、思わずジオリールの腕をぎゅうと掴む。
「シリルエテル、いいから、一度イッちまえ……っ」
「……あ…………ジオリール……待って、や……」
「……分かってんだ、ここだろうが」
怯えたように首を振るシリルエテルをがっしりと拘束して、先ほど反応を見せた箇所を2本の指で柔らかく擦るように攻め立てた。随分濡れていたがさらに溢れる。きゅ……と明らかに中が収縮したのを、ジオリールの指が感じ取った瞬間、シリルエテルが切なげな声を上げた。
「あ……いや……やあっ……!」
仰け反った首筋に思わず吸い付き、じゅるりと音を立てて嬲っていると、シリルエテルの身体から力が抜ける。達したようだ。緊張が解け、はあ……と何度も息を吐く身体を愛しく抱き締める。肌を撫でるように手を腰のくびれに回すと、ぐ……とジオリールの下半身に押し付けた。別の生き物がそこにあるかのように硬く熱い。足と足の間にそれが触れ、先を待つ液がシリルエテルのものと混じりあった。
「シリルエテル……」
男が、まるで愛する女にするように、柔肌に優しく唇を這わせていく。がらがらと低い声であるのに、慈しみのこもった音でシリルエテルの名前が呼ばれた。誰からも、もちろん前の夫からもこんな風に呼ばれたことなど無い。その低音が耳朶に注がれるだけで、シリルエテルの身体がぞわりと揺れる。
先ほどまで意地の悪いことばかりを言っていた表情は、なぜか今は切羽詰ったようなものになり、気遣わしげに自分を見下ろしている。その表情を見て、シリルエテルが微笑んで見せた。その表情を見たジオリールが、シリルエテルの足を大きく広げ、太腿を抱える。開かれたそこへ、ぐ……ぐ……と少しずつ、ジオリールのものが入り始めた。先ほどまでの行為で十分に濡れているのに、物理的な意味合いで軋み合う。やはりきつい。それでもシリルエテルは堪えた。苦しいが、自分に触れるのを止めてほしくなかった。
「い、き……を吐け、シリルエテル……」
「あ……」
言われた通り、はあ……と息を吐くと、再びジオリールがじくじくと奥へと進む。一度引き抜き、もう一度ゆっくりと。何度かそれを繰り返し、繰り返す度に挿入は深くなった。少しずつ進む挿入によってシリルエテルの膣内がジオリールの形に変わっていくのがはっきりと分かる。それは、軋むだけではない別の感覚を押し広げていった。
今まで味わったことのないその感覚に戸惑って視線を移ろわせると、自分を見下ろすジオリールと眼が合った。真剣な眼差しをしていて息が詰まる。
「ジオリール……?」
やはりシリルエテルの内奥のきつさはまだまだジオリールに馴染んでいないようだ。……それだけではない。恐らく、シリルエテルは今だジオリールに完全に身を任せてはいないのだろう。ジオリールは自身を宛がったときに、僅かにシリルエテルの身体に緊張が走るのを感じた。だが、もはやそれを気遣うだけの余裕がジオリールには無い。
「シリルエテル……動くぞ……」
「は……い……っ……ああっ」
シリルエテルの頬に口付けを落とすと、大きく腰を近づけ、最奥を感じ取る。
どれほど指や舌でシリルエテルの身体を溶かしても、妻という義務感だけでは自分の身体と大きさは負担になるに違いない。それでも、今この瞬間はシリルエテルの従順さをジオリールは利用する。
ぎし……と寝台が大きく軋み始めた。
刻む呼吸は荒々しく、ジオリールにとってさほどの運動量ではないはずなのに、興奮と刺激で身体が燃えるように熱い。シリルエテルの肌も汗ばみ、揺さぶる度にやわらかな胸もとろんと上下する。抉るように腰を動かし、シリルエテルが感じたであろうところに角度を持たせる。
「ん……あ……っ」
シリルエテルが苦しげな息を吐く。隙間無く埋められ、膣内の敏感な箇所を攻め立てられると、今までにない規模の波を感じ、自分がどうなるのか分からないという恐怖が先に立ってどうしても身構えてしまう。
「……力を抜け……どれだけ搾り取るつもりだ……っ」
「…………や……っ」
ジオリールが恐ろしく色気のある声でシリルエテルに囁いた。細い背に腕を回し、身体を起こす。ジオリールに対面して座らされる格好になったシリルエテルに、さらに深くジオリールのものが突き刺さる。そんなはずないのに、喉まで届いているのではないかと思うほど深いところにジオリールの先端を感じ、苦しげに息を吐いた。だがそのような状態であっても、腰を持ち上げて引き抜かれるときにはっきりと甘い感覚が走り、落として突かれるとジオリールの熱を感じる。どうしても身体に力が入ってしまい、苦しさはまだ残っているが、それ以上に濃厚な感覚に襲われた。怖い。そう思って、シリルエテルがジオリールの逞しい大きな身体にしがみつく。まるで求められているように感じて、それを抱きとめながら、揺さぶる力が大きくなった。妻だから? 夫婦だから? 今はそんなことは頭から消えうせる。
「関係ねえ……。お前が…………!」
欲しいだけだ。
ジオリールが苦しげに吼え、どくん……と、繋がった部分が疼く。
「あっ…………ジオ、ジオリール……」
吐き出された白濁が染み渡り、しかし、それだけでは足りない……とでも言う風に、ジオリールはシリルエテルの身体をつなげたまま寝台に倒す。馬乗りになり、冷めやらぬ興奮を叩きつけるように、萎えない己で激しく抽送を繰り返した。吐いた精が潤滑剤になって、先ほどよりもいくらか滑らかに動く。何度かそうやって動かして、溢れる液に互いの下半身を濡らして、ジオリールが出ていき、代わりに太い腕がシリルエテルの身体を包み込んだ。しばらくの間そうして、荒い息を整える。
「シリルエテル……大丈夫か?」
「……は、い」
「怖くねぇか」
「え……?」
「いやだっつって、逃げようとしてただろうが」
思わずシリルエテルはジオリールを見上げる。男の行為は乱暴に見えて丁寧だった。熱く求められているような感覚も、濃密だったがひどく優しいと感じられる手も、少なくとも前の夫しか知らないシリルエテルにとっては、初めての愉悦だった。だから、羞恥と戸惑いの方が先に立つ。それでも、逃げるはずなどないのだ。自分は妻なのだから。
……そう思って、胸がつきりと痛む。
自分が妻でなくなれば、ジオリールはこのように優しく触れることも、自分を求めることも無くなるのだろうか。
もし怖いとすれば、そちらの方かもしれなかった。シリルエテルは急に不安になって、……だがその不安や恐怖が分不相応に感じられて、知られたくなくて、思わずジオリールの身体に頬を寄せた。せめて、自分は逃げていないのだということは伝えておきたかった。
「……あんな風、なの、は」
「ん?……何だ?」
顔を赤くして、ジオリールの首筋に頭を埋める。思わずその肩に腕をまわして、ジオリールは聞き返す。
「あ……、その……あんな風な感じは……あまり経験が無くて、自分が自分でなくなるような気が……それで……こわ、い……」
「………………」
「ジオリール……?」
自分を抱く腕が強張ったような気がした。肌と肌が直接触れているから、そうした機微が直接伝わるようだ。不安に思ったシリルエテルが身動ぎをした。頭がもそもそと動いてどうやら、ジオリールを見上げようとしている。だが、それをジオリールは許さずに、回す腕をきつくしてシリルエテルの顔を自分の胸板に押し付けた。
「ああ、……くそっ」
この女は……自分がどれほどジオリールを煽る言葉を吐いているのか分かっているのだろうか。本来、愛情のある男から与えられる何もかもを、シリルエテルは知らない。処女ではないというだけで、男という生き物は初めてなのだ。……そう言っているのと同じだった。ジオリールは長くため息を吐き、シリルエテルの身体をうつ伏せにひっくり返す。手加減しようと思っていたのに出来そうに無い。シリルエテルが知らない、男という生き物の何もかもを残らず刻み付け、自分だけのものにしてしまいたい。そんな凶暴な欲望が、ジオリールに沸き上がった。少なくとも夫である自分には、それが許される。
「あ、の……」
「今度は逃げるんじゃねえぞ……?」
かぷりと耳を噛み、低い声で囁いた。そうして押さえ込んで、シリルエテルの背中に再び唇を這わせていく。