岩のように大きな体躯の男が、寝台の上で荒い息と共に細い女の身体を揺らしている。女は従順で逃げることなど考えていないが、男はまるで逃げられることを恐れるように後ろから抱いて自由を奪い、隙間無く身体を重ね合わせて貫いた箇所を突き上げる。
既に何度も吐いた名残で、寝台も女の太腿もべったりと濡れている。それでも男は女から出ようとしなかったし、女はそれを受け入れていた。
「ジオリ、ル……ま、た……私、もうっ……」
「は……イケよ、何度でもイケっ……!」
「いや……ジオ……あなた、も、一緒に……っ」
男が引きつける腰の動きを一気に高めた。
「……いいぜ、来いよ……ほらっ…………!」
女が一際甘く啼く。これが幾度目なのか、数えることはとうに止めた。
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エノラートが用意した署名の場と祝いの席で宴は大いに盛り上がり、2人の婚姻は傭兵達に祝福されてとうとう揺るぎ無いものになった。シリルエテルも傭兵達の中でしっかりと立ち位置を確保するだろうし、スフィルもこれ以上は何も言わないだろう。
常とは異なる着飾ったシリルエテルを見たのは、その席でのことだ。
抱く手を途中で止められたまま、シリルエテルに思う存分触れたいと思っているときに見せられたその静かな佇まいは、表面的な印象とは全く異なり、ジオリールの情欲を奮い起こした。
相当冷やかされたが、男達は酒が入れば酔いに夢中だ。ジオリールはどれほども飲まない内にシリルエテルの手を引き、さっさと城内へと引き上げた。酒ではなく、シリルエテルに酔うためだ。半ば抱えるように廊下を抜け、ジオリールに与えられた部屋の方へと連れ込む。
扉を閉めて鍵を掛け、その場で激しく唇を貪った。
あわてた様にシリルエテルがジオリールの名を呼ぶが、声も許さないほど唇をふさいだ。生意気なことにジオリールの身体を引き離そうとしていたが、その程度の抵抗ではジオリールの身体はびくともしない。腰を深く抱き、首筋を支える。舌を割りいれ、開いた唇を食べるように軽く噛み付いた。絡まりあった女の舌を甘い吐息ごと強く吸い上げ、裏も表も舐め上げていると、とろりと唾液が糸を引き始める。それを舐め取るために、今度は舌が首筋をすべる。それまで沈黙で蹂躙していたジオリールが、耳元を軽く咥えてため息を吐くようにシリルエテルの名を呼んだ。
「シリルエテル」
「……あ……」
低い潰れた声がぞくんとシリルエテルの身体を押し、力が抜けて膝から崩れそうになった。ジオリールがさっさとそれを抱えて寝台に乗せてしまう。シリルエテルを抱き寄せるように背に手を回し、ぷつぷつと留め具を外していった。布が千切れなかったのが不思議なくらいだ。すべての留め具が外れたところでドレスをするりと引き剥がして、乱暴に床に落とす。せっかくの衣装なのに……などと考える余裕は無い。
白く高級なレースで縁取ったビスチェと、あえて膨らみを持たせていないペチコートは、このような時でなければ実に眺めがよかっただろう。だが今は邪魔なだけだ。脱がすのももどかしく、着せたままシリルエテルの足を大きく開かせて靴を脱がせた。
「……や、待って、…………っあ」
「いや、少しも待てねえ……シリルエテル」
ジオリールがペチコートの中に腕を入れた。慌しかった動きが急にやさしくねっとりとしたものになり、ジオリールの薄い青い瞳が一気に妖しい熱を帯びた。ペチコートの奥で手をゆっくりと動かしながら、舌でシリルエテルの唇を舐めると、あふ……とシリルエテルの唇も開き、音高く舌が絡まりあう。
くちくちと粘着を伴った音を響かせながらペチコートの中の手が動くと、不意に、シリルエテルがきゅ……と瞳を閉じて身体を震わせる。その中でいったい何が行われていたのやら、手を抜く時は下着も一緒に取り去ってしまった。
ジオリールは自分の服もゆるめた。すべて脱ぐのは面倒で、外でするように前だけをくつろげて己を取り出す。すでに痛いほどに張り詰めていた。
シリルエテルの太腿を抱えて腰がベッドの縁のぎりぎりの位置になるまで引きつけて、立ったまま女の秘部に己の先端を押し付けた。確認するように、何度も滑らせる。早急なことは分かっていたが、それでもぬらりと濡れていた。その感触だけでも濃密で、脳の奥がしびれるようだ。
「…………は……随分、濡れてるじゃねえか……」
どれほども経っていないのにシリルエテルがこれほどに濡らしているのかと、考えるだけで下腹が疼く。焦らすように先端を少し挿れて外すと、離れる度に小さな音がして、解けたそこから糸を引く。抱えている太腿から腰までを撫でさすると、これまでになくシリルエテルの身体が柔らかい。
ああ……とため息を吐く。シリルエテルがジオリールの手に身体を強張らせることなく、緊張を解き、身を委ねている。
そう思うと、止められない。
何の遠慮も無くぐつりと押し進めると、やはり軋む感覚は無かった。身体が柔らかく解けていて、それなのに、きゅう……と、粘膜がまとわりつく。きついのに、やわらかい。
ジオリールはゆっくりと、止めること無く奥まで挿入した。進む感触に、はあ……とシリルエテルが息を吐き、熱に揺れる瞳でジオリールを見上げる。
「……ああ……ジオリール、……奥……に……」
「そうだな、すぐに全部入っちまった……悪ぃが……最初から動くぞ」
先端が出そうなほど一気に引き抜き、シリルエテルの弱いところに角度を持たせて一気に突く。「はう」……とシリルエテルの声が響き、塊に押し出された粘液がとぷりと太腿を濡らした。そのままジオリールは激しく抽送を始め、ギシギシと寝台が音を刻む。
これまでに抱いたどんなときよりも、シリルエテルの内奥が絡み付いてくる。肌を打ちつける音が派手に響き、ジオリールが身体を倒した。シリルエテルの身体をきつく抱き締める。く……と腰を動かすと、嬌声のような甘い息を吐いてシリルエテルの身体が仰け反った。曲げられた足がジオリールの動きに合わせて揺れ、それをさらに抱えて深く深く繋がる。揺らすたびに内膜が解け、解けるたびにきつく締まって、熱い蜜が絡まった。
奥の柔肉へ引き込まれるような感覚に目が眩む。
シリルエテルの膣内が達するときのように脈打ち、その心地にジオリールが感嘆する。シリルエテルがジオリール自身で、奥で、愉悦を味わっているのだと知れた。
「ど、した、シリルっ、……俺ので、感じてんのか……っ」
「ん、あっ……ジ、オリール……それ、だめ、……だ、めぇ……」
男の動きに追い詰められてシリルエテルの内奥が締まり、ジオリールから何かを奪い去ろうとする。持って行けばいい、何度でも、どれほどでも。ジオリールが獣のように身体を打ち付け、その中にごぽりと精を吐き出した。
「不味いな、止められなくなっちまう……」
「ジオリール……」
「ああ、シリル……」
シリルエテルが呼ぶと、自分の名前が美しい呪い語になってしまったようだ。その声に引き寄せられるように身体を近づけ、しばらくの間は止まらぬ白濁をシリルエテルの中に注ぎ込んだ。やがてゆっくりとシリルエテルの中から引き出すと、その身体を完全に寝台に乗せてやって自分も登る。くったりと弛緩してしまった身体は、初めてジオリール自身を中に埋めて達した身体だ。その時の様子に自分でも驚くほどの満足感と愛おしさを覚え、次がもう待ちきれなかった。抵抗出来ないシリルエテルの下着に手を掛けて、ジオリールは慌しくそれを剥いでいく。
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何がこうも駆り立てたのか。もう全く若くない年齢だというのに、……いや恐らくこの年齢だからこそ、ジオリールはシリルエテルに溺れた。今は柔らかなクッションを背もたれにして身体を沈め、裸で眠っているシリルエテルを後ろから抱いて上掛けに包まっている。ようやく心も手に入れたような気がして、ずっとこのまま溺れていようかと、そんなことも考えた。
「シリル……」
「……ん……ジオ……?」
心地よい感触にたまらずジオリールが名前を呼ぶと、眠っていたシリルエテルがゆっくりと瞳を開いた。
シリルエテルの背中に張りつめたような筋肉が触れている。意識を失う前までは激しく自分を貫いて、これまでにシリルエテルが感じたことの無いほどの愉悦を刻み込んだ大きな身体は、今はシリルエテルの褥になって彼女に安心感を与えている。自分を抱える温かで大きな手にそっと頬を寄せて、自分を覗きこむ薄い青い瞳に思わず微笑む。
「シリルエテル。大丈夫か」
シリルエテルが頬をほんのり染めて、恥ずかしげにジオリールの首筋に顔を埋めようとした。追いかけるように、ジオリールの顔がシリルエテルに重なる。抱える腕に力を込めると、シリルエテルの身体がジオリールの方を向き、少し顔をずらすとすぐに唇が触れ合った。ちゅ、ちゅ……とついばむようにジオリールの唇が動き、上唇を咥え、下唇を舐める。最初は小鳥のような口付けだ。だが徐々に音が大きくなり、動きが大胆になっていく。
「んふ……あ、はぁ……」
シリルエテルの息が上がっていく。ジオリールの態度は荒々しいが、指も唇も、ジオリール自身の何もかもシリルエテルに愛しげに触れていた。
最初にジオリールに抱かれたとき、シリルエテルは自分が知る男という生き物とは全く異なる様子に慄き、身を竦めてしまったのだ。そのような心持で受け入れたジオリールの揺らす激しさや、奥を抉る軋みにますます身体が強張り、そんな自分に気付かれたくなくて、抱く手を止めてほしくなくて、必死でジオリールを受け入れていた。だが、今夜は全く違った。シリルエテルはこの日、恐らく初めてジオリールを心から信用して身を任せた。ジオリールの与える手に、溺れるように身を浸したのだ。
そうすると世界が全く異なった。男に身を任せた瞬間、とろけるような激しい愉悦に溺れる。それを受け取り、ジオリールにも同じだけのものを返したいと大きな身体に腕を回すと、シリルエテルの腰も背中も自然にジオリールを追いかけ、それがまたジオリールから愉悦を引き出した。互いに求め合うことのこれ以上無い感覚を、シリルエテルは初めて知った。
いつのまにかジオリールの舌がシリルエテルの耳を舐め回し、後ろから胸の柔らかさをなぞっている。
たぷたぷと両脇から捏ね、硬くごわついたジオリールの親指が頂を弾くように何度も往復する。
「柔らかいのに、ここは硬くなってきてるじゃねえか……シリル」
「んん……っ」
は……と息を吐く。目覚めたばかりのゆるまった身体を愛でられると抵抗できず、それなのにさっきまで愛し合っていた余韻がまだまだ身体に残っていて、憎らしいくらいすぐに火がついてしまう。
気が付けばシリルエテルの腰のあたりに、ジオリールの欲望が滾るように自己主張していた。ジオリールが確かめるようにそれを上下させる。
「そのまま動かすんじゃねえぞ……」
シリルエテルの耳元で言うと、ジオリールが己に手を沿えてシリルエテルの秘所をなぞり始めた。シリルエテルの腰を少し浮かせて先を入り口にぴたりと付け、力を入れると沈み込む。ジオリールが吐いた精とシリルエテルの液が混ざり合ってすべりを助けた。
ゆっくりと入っていく感覚を楽しみ、きつい入り口を味わい、……やがて入るだけ入り込ませるとジオリールはあまり動かさずに、再びシリルエテルの胸の膨らみを愛で始めた。
「……は、あ、……ジオ、リール……」
「さわり心地がいいな、お前ぇのは」
触れているのは胸なのに、屹立したところを指で挟まれ膨らみを揺さぶられると下半身が疼く。ジオリールに埋められている膣内がきゅ……と締まり、すでに熱く押し広げられている内奥に響いて、焦れるような悦が沸きあがる。もどかしくて、もぞりと腰が動いてしまい、それを許さぬようにジオリールの片腕がきつくシリルエテルの腰を抱いた。
「ほら、動かすなと言ってるだろうが」
「や……ジオ、おねが、い……」
「ダメだ」
じゅる……とシリルエテルの首筋にしゃぶりつきながら耳元で低い声を聞かせると、それすらもシリルエテルの下腹に響いた。内壁がとくとくと脈打ってジオリールの欲望の塊に僅かに擦れ、膣内が甘く痺れる。胸に触れられているだけなのに達してしまいそうで、そのギリギリのもどかしさにシリルエテルが息を詰める。
ジオリールの指がシリルエテルの肌をなぞる。その度に繋がっている部分の奥がひくひくと動いた。埋めている己の熱に絡み付いてくる粘膜の動き、これが何の前兆かをジオリールは知っている。
くつん……と少しだけ腰を突き上げた。
その途端、「あ」と声を上げ、びくっ……とシリルエテルの身体が揺れて、一気に奥が吸い付いた。それほど動かしていないのに強烈な刺激で、「ぐう……」とジオリールが喉からくぐもった声を上げる。きゅう、と奥がジオリールを誘い、それに合わせて耳朶の裏の首筋を甘く噛むと、魚が跳ねるようにシリルエテルの背中が逸れて腰が震えた。
「っあ……ああっ…………!」
シリルエテルが愛らしい嬌声を上げて身体をよじり、荒い息を吐きながら体重をジオリールにくったりと預けた。挿入しているとはいえ、胸に触れただけで達したシリルエテルの乱れた様子に興奮を覚えて抱き締め、ニヤリとジオリールが笑う。
「すげえな、……胸に触っていただけなのによ」
「ジ、オ、……意地悪、いわな、いで」
「ああ? お前ぇが悪い。可愛い声をあげるからな」
「……お、お願い……私、もう……っ」
「俺もだ。……俺も、我慢できねえ……」
ジオリールは挿れたまま身体を起こし、シリルエテルを四つんばいにさせて後ろからかぶさった。一時も間を置かずに、激しい抽送を始める。
「あ、あ、あ……」
「シリル……シリルエテルっ……」
シリルエテルの身体が前に倒れ込み、それを抱きすくめる。身体をぴたりと重ね合わせ、揺らし、肌を打ちつける。肩口に唇が触れ、ジオリールはその白く細い首筋をかぷりと咥えた。そのまま吸い上げるように、耳まで舐め上げていく。その間も下半身は激しく動いていた。体温も刺激も何もかもが身体を熱くして、埋められたものがあまりに隙間無く、2人の境目がどこにあるのかが分からなくなるほどだ。
荒々しいジオリールが耳元で聞かせる余裕の無い切なげな吐息に、シリルエテルの身体が満たされる。
たおやかなシリルエテルが思わず零してしまう甘く狂おしい啼き声に、ジオリールの身体が熱くなる。
愛の言葉など交わしはしないのに、触れる身体が互いを愛していることを知っている。