モニタを見つめている彼の机の上に、美しい秘書がそっとコーヒーを置いて下がる。そのコーヒーのカップを手にして、彼は笑みを少し深くした。
「まず1つは最初から手に入っている。もう一つも見つかっている。だが、完全にこの手にするには…邪魔な者もあるな」
彼が端末を操作すると、画面から一つのIDだけが残された。そのIDが示す世界こそが、彼の目的の世界だ。そして世界を構築しているシステムは、彼の手中にある。
社長は手にしたコーヒーに口をつけた。喉に流し込んだ苦い液体にうっすらと笑みを浮かべる。
「早く戻っておいでなさい、私の女王」
戦闘の様子から、プレイヤー達は既にエクスの世界での意識の使い方はものにしているようだ。筋は悪くない。フィードバックの掌握は簡単にできるだろう。すでに、痛みなどのフィードバックについては停止しているのだから、あとは応用するだけなのだ。
しかも、あれらにはすでに仲間意識が構築されつつある。大切に大切に育むといい。強固な絆は壊す時の反動も大きく、絶大なパワーを生み出すことが出来る。それこそが、システム上では計算出来ない素晴らしい力だ。
優秀なプレイヤーだ。見込んだ経歴のことだけはある。
「テストの終わりは、充分な情報が収集できたら…」
社長はそれほど装飾の無い、だがしっかりとした造りの机の引き出しを開けた。そこにはたくさんの書類やファイリングした資料に混じって、一枚の写真が入っている。その写真を手に取った。
瞳を細めて写真を眺めながら、次に打つ手のことを、考え始めた。