かちゃかちゃと食器の音をたてながら、葉月が洗いものをしている。シンプルなエプロンを付けていて、背中が無防備だ。しかしエプロンというのは何故これほどまでに男心をそそるのだろう。世の中には裸にフリルの白エプロン…というプレイもあるそうだが、それはあくまでもプレイの域だ。それはそれでいいとして、日常の中のエプロン…そしてそれを身に着けている作業中の背中というのは、唐突に抱きしめたらどんな反応を示すのか見てみたい、という誘惑に駆られる。こんな誘惑は自分と葉月との間だけのものなのだろうか。まあいい、別にどっちでもいい。ぎゅうってしたい。したいったらしたい。
八尾は冷蔵庫にビールを取りに行くフリをしながら、その肩をそっと抱く。
「葉月。」
「高司さん?」
洗いものは終わりかけていたのか、葉月がタオルで手を拭きながら背後の八尾を振り返ろうとした。振り返った葉月の唇に、優しく自分の唇で触れる。
「もう、冷蔵庫に用事があるんでしょう?」
触れた瞬間はそっと目を閉じるくせに、離れると困ったような恨めしげな顔で見上げてくるのだ。出会ったときは遠慮がちで控えめだった表情は、今は照れたり笑ったり…豊かになってきて目が離せない。その背中に重なるように後ろから抱き付く。
「や、ちょっと…!」
「洗いものは終わっただろう?」
「お、終わりました、けどっ…」
「葉月…」
ちゅう…と後ろから耳元を舐め上げてみる。あふ…と葉月の喉から息が零れ、びくびくと喉がそれる。その喉に指を這わせ、耳元に触れていた唇を下ろして、かぷりと喉の肌を食んだ。ラフなブラウスごしに、葉月の柔らかな胸を手にする。やわやわと揉みながら、少し硬くなった部分を探す。服越しだからもどかしい。がさがさとブラウスの下から手を入れて、下着を少しずらして求めるものに指で触れる。
「少し硬くなってきている。葉月…してほしい…?」
「ちが、う。…こんなとこでっ…まだ、」
「でも、我慢出来ない。」
片方の手をスカートの中に入れてたくし上げる。柔らかな腰のラインも揉んで、少しだけ下着を下げた。掻き分けるように押し広げると、そこは少し濡れ始めている。花弁をめくるようになぞると少しずつ潤み始め、指をゆっくりと挿れてみると、最初はきつかったが徐々に指の動きを受け入れる。
徐々に濡れていく様は八尾を誘う。葉月の荒い息に煽られながら指だけで侵略し、十分に濡れたところで指を折りまげ、葉月が感じるところに一瞬だけ触れる。
「んっ…あ…あ…も、高司さっ…」
「こんなにして…。」
八尾も自分のものを取り出して、屹立したそれを裂け目に添わせるように動かした。ぬるぬると溢れてきた葉月の蜜液を入り口に擦りつけ、すべりをよくして力を入れる。先端が葉月の入り口の花弁に押し入った。柔らかいそこに硬いものを押し付けると、一枚一枚に絡み付き押し広げながら入っていく。抱きしめる腕をきつくすると、2人の身体が近づく。その心地よさに、思わず八尾も声を出す。
「くっ…う…」
「っつ…あああん…」
近づいた距離に、自然と奥まで入っていく。柔らかな胸を後ろから手繰り寄せて時折ひっかきながら、後ろは抽送を始める。その締め付けと蕩ける感覚に八尾も我を忘れたように葉月の身体をまさぐる。2人の息は荒々しく、刻むように零れた。
内奥を掻き分けるような粘着質な音が響き、身体中が最後の感覚を求めて高鳴っていく。
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「って、高司さん、たーかーしさんっ!」
はっ…とソファの上で目が覚める。気が付くと、八尾は葉月を後ろから抱きしめソファに倒れこんでいた。
「はっ、葉月! どうしたんだ、これは!」
「DVD見てたら寝ちゃって、急に抱きしめてきたんでしょう!」
「夢オチかああああ!」
「何の話ですかっ!」
がっくりと八尾がうなだれ、抱きしめている葉月の肩に体重を掛けた。憧れの新婚シチュエーション、やっと実現したと思ったのにまさか夢だったとは…。魔王の情欲は魔力を伴い、夢も現実味を帯びたものになることがあるが、今のはかなりリアルだった。挿入したときの掻き分ける感触、胸の柔らかさ、濡れた具合、葉月の吐息、…全てが生々しくて夢だとは思えないほど…。
何かに気づいたように、がばりと八尾が顔を上げる。
「葉月?」
葉月の顔が赤い。
「葉月、もしかして。」
「もう、早く起きてください。お風呂沸かしますから。」
「待て。葉月…」
葉月が照れたように視線を逸らす。
魔王の魔力を伴い、現実を帯びた夢…というのは、側近くで眠っている者や近しい者にも影響を及ぼす。DVDを見ながら先に眠ってしまったのは…確か、葉月ではなかっただろうか。うとうとと自分に心地よく体重を掛けてくる葉月が可愛くて、こっそりその体温を堪能していたら自分もうとうととしてしまったのだ。
「葉月、葉月も…」
「たかしさんー、ほら、どいてください。」
「ダメだ。どかない。」
「ちょっと…!」
「顔が赤い。…葉月、葉月も夢を見たのか?」
「夢なんて、見てな…」
「嘘だろう。」
葉月を後ろから抱いたまま、八尾は身体を起こした。自分の腿に座らせて、夢でしたように後ろから首に指を這わせて、ちゅ…と肌に吸い付く。身体に残るリアルな熱情は、全然冷めずにむしろ熱い。
「たかしさ…」
「葉月、こっちを向くんだ。」
つ…と喉を這っていた指が葉月の顎をたどり、くい…と八尾の方を向かせた。そのまま、唇が重なる。八尾が唇を舐めていると、応じるように葉月が少し口を開く。ぬるりと入ってくる舌は優しくて、離れる度に葉月が濡れた瞳で八尾を見上げる。眼鏡越しの八尾の瞳も上気していて、それを見ているだけでも葉月の胸がうずうずと疼いた。
先に眠ってしまったのは葉月のほうだ。
八尾の隣と肌の体温は安心する。DVDはまったりとした恋愛映画で、そんなつもりは無かったけれど途中でうとうとと眠ってしまって夢を見た。夢の中で洗いものをしていた葉月は、八尾に突然後ろから抱き付かれてそのまま悪戯されたのだ。変に生々しく、まだ胸がドキドキしている。
…と、そんな風に夢のことを思い出して油断していた。八尾がいつのまにか葉月の服が剥がそうと奮闘している。ブラウスの前がはだけ、下着を少し下にずらされて、ふるん…と白い胸が露になった。後ろから八尾の長い指が、す…と胸の膨らみを撫で上げる。途中でつんと上を向いた頂を親指がかすめ、その感触に背がぞくりとした。たぽたぽ…と両脇から胸を掴み、指で切っ先を摘むと「は…」と葉月の声が上がる。後ろから葉月の首筋に吸い付きながら、執拗に胸を触っている。
「夢も見ていない、何もしていないのにこんな風になる…?」
「…も、そんなさわりかた、し、しないでっ…」
「…葉月…柔らかくて、心地いい…」
「高司さんっ…あっ…」
八尾は聞いていない。甘い声で葉月の名前を呼んでいる。やがて腿の裏に手を入れて持ち上げると、そのまま腕に葉月の足を引っ掛けて後ろから足と足の間に触れ始めた。下着の上から裂け目に指を添わせてなぞり、時折沈み込ませ、きゅ…と膨らんだ箇所を摘む。葉月の身体が大きく跳ねて、あがる声が色づいた。とくんと身体の奥が熱くなり、下着の上からなのに蜜が溢れてくるのがはっきりと感じられる。
「直接触れようか。」
「待って、だめ…」
だが、葉月の許可を得ずに八尾は下着を横にずらした。そこは少し胸に触れただけにしては過ぎるほどにとろりと溢れていて、入り口を広げるように2本の指を横から差し入れると、くちくちとすぐに水音を立て始めた。「ん…ん…」と葉月が声を上げるのを我慢している。ここは2人きりだから、声など我慢しなくてもかまわないのに。だが、そんな風に我慢する葉月を見るのも楽しい。八尾は2本の指を根元まで挿れた。親指で蕾のように膨らんだ箇所を押さえつけてこね回し、中で指を交互に折り曲げる。その度に葉月から体液が溢れ、八尾はそれをしつこくかき混ぜる。
はあはあと葉月の呼吸が苦しげにあがる。八尾も疲れではなく、興奮で息が荒くなる。乱れる葉月を見るのはそれだけで熱くなった。がくがくと震えながら、達するのを我慢している葉月の姿は艶かしい。
「葉月、俺のも触って…」
「え、…あ…」
後ろから自分の胸板に体重を掛けさせ、少し身体をずらす。八尾がぎちぎちに張り詰めた己の中心を取り出すと、恐る恐る葉月がそれに触れた。もうすでに大きく硬く、びくびくと脈動している。先端に触れると、先を待ち焦がれる液がぬるりと葉月の指を助けた。握りこんでゆっくりと律動させてみると、葉月を抱く腕が強くなる。きゅ…と胸を揉んでいる指が繊細になり、葉月に入っている指が増やされて、下腹を揉みこむよう動かしながらかき回される。
「は…あ…」
重なる息はどちらのものか分からない。もうどちらもぬるぬると濡れていて、恥ずかしいという気持ちも薄れていく。
「高司…さ、気持ちい、い…?」
「ああ…でも、もう我慢できない。」
蜜を滴らせた指を抜くと、八尾は少し葉月の身体を前に倒した。倒れそうになる腰を抱えながら自分の身体も浮かせ、そのまま後ろから突き刺す。どろどろに溶けていたそこは何の引っかかりも無く八尾を受け入れ、貫いたまま葉月を抱えてソファに座りなおす。葉月の身体を自分に引き寄せ、入れたまま葉月の太腿を後ろから抱え上げる。最初から激しい抽送が始まった。つながっている箇所がよく見えて、八尾が動くたびにそこからは音を立てて葉月の液が溢れてくる。
「見える? 葉月。」
「…お、奥っ…あたって、あっ…」
「見て…葉月、色っぽい。すご、く、…俺のを締め付けて…」
くい…と胸に触れると、かあ…と葉月の耳が羞恥で熱くなる。
「恥ずかし…いっ…あんまり見な、で…」
「恥ずかしくない。…ほら、っ…また締め付け、て…ど、うして?」
つながった箇所を戯れに触れるときゅうと中が締まって、柔らかいのに動けないほどだ。それでも後ろから太腿ごと抱きしめるように抱え、腕の力で持ち上げて落とす。何度も繰り返される激しい動きに、ぎしぎしとソファが軋んだ。
「あ、…た、かし、さっ…を…」
「ああ…」
「…き、からっ…」
「葉月…?」
「す、きなの…だから…あっ、ふ…」
どうして…と聞かれると、いつも葉月の答えは決まっているのだ。八尾の手からは逃れられない。相手が好きな男だから、だから感じる。だから心地いい。途切れ途切れにそう言うと、葉月の中がまたきつくなる。中が締まったのか、入っているものが大きくなったのか。
相手が好きな男だからなど、そんな風に言われたら落ちない男は居ないだろう。
八尾は葉月の身体を浮かせると、自分の方に向かせた。再びぎっちりと葉月の中に埋めて、そして、抱きしめる。舌を絡めて、唇を重ねる。激しい感情のままに、動かしながらそのままぴったりとふさぐ。
「ん、んんっ…ふ…う…」
上も下も激しく繋いで、どちらからもとろりと液が溢れる。葉月が夢中で八尾に抱き付いてきて、それを八尾が夢中で抱きしめ返した。きつくきつく抱き合ったまま、抽動が激しくなっていく。心臓が興奮に高鳴り、八尾の動きに合わせて、葉月の下腹からうねるように愉悦が湧き上がった。ひくひくと動く内奥が葉月の感じている様を八尾に伝えて、それに搾り取られるように八尾の感覚も這い登る。
唇を離した。
「葉月…俺の…っ 葉月、葉月…」
「あっ…あっ…高司さ…っ、も、そんなっ…」
八尾の指と葉月の指が触れ合って、つながれる。八尾がきつく葉月の背を抱きしめてひときわ大きく中を抉った。その動きに合わせて、奥で八尾の精が解放される。欲望のままに白濁を吐き出し、それは長い時間続いた。いつまでもつながりあったまま余韻を拾っていると、こぽこぽと混ざった液が零れる。2人同時に達したばかりの中は脈打っていて、温かくて離れられない。
「葉月…本当に…ずっとこうしていたい。」
「ん…」
八尾の服に葉月がしがみついた。自分に身体を寄せて甘える可愛い妻を抱いて、…今日が金曜日の夜でよかった…と八尾は思う。今夜は眠れなさそうだ。