後日談あるいは小話

魔界で散歩のお約束。

泉の端に、男と女が絡まり合うように座っている。

ぽたり…と黒い髪の先から雫が垂れ、目の前の男の首筋にそれが落ちる。互いに少し開いた唇から、は…と荒い息が吐かれるのは、この先を期待する情欲のせいだ。

「葉月。」

自分の膝をまたぐように乗せた黒い髪の女の名を、男が呼ぶ。葉月と呼ばれた女が伏せた睫を遠慮がちに上げると、持ち上がった唇に男の唇が重なった。女の身体は濡れていて、男が口付けを重ねながら頬に手を触れると濡れた感触が手に伝う。

男が名残惜しく唇をはがして身体を離すと、ノースリーブの真っ白なワンピースが女の曲線に、ひたりと纏わり付いている様子がよく見えた。肩口あたりの長さの髪も水が落ちていて、開いた首筋に張り付き、滑ったしずくが鎖骨を通って胸の谷間へと消えていく。濡れ髪の香がむせ返るように濃く、その髪を掻き分けて耳を食むと女の身体が寒さではなく震えた。

濡れたワンピースの生地は、下着のラインも映している。その下の下着の色も同じ白。透け感のある薄いレース地で、肩紐の無いタイプだ。薄く心もとない素材なので、身体の曲線を見せ付けるのに邪魔にはならなかった。

「…高司さ…」

女が男を咎める前に逞しい手が後ろに回り、下着の止め具に手を掛ける。薄い布でさえぎられているそれは、まさぐればすぐにぷつんと外れた。服の中に直接手を入れて引くと、下着はすぐに取り去られてしまう。

男が感嘆の息を吐き、女の身体にゆっくりと手を這わせた。男の手に添って濡れた女の服がぺたりと透けて、胸の形も肌の色も露にする。その様は、直接目にするよりもひどく淫靡で男を欲情させるには十分だ。

女の二の腕を掴んで、男の顔が柔らかな胸に埋まった。ちゅ…と音を立てると、その途端に女の身体がびくんと跳ねる。ぞくぞくとした愉悦に女の身体が緊張する。男が布越しに女の胸を口に含み、屹立した形を吸い上げて楽しんでいるのだ。もう片方の胸は、ぺたぺたと水を滴らせながら男の大きな手が捏ねている。直接触れられるよりも卑猥で、纏わり付くような感触は触れている方も触れられている方も、息を荒くした。

女の胸に触れている男の大きな手が、互いの下半身の間に入り込んだ。かち…と金属の音が響いたのは、ズボンのベルトを外した音だろうか。女の太ももにも、スカートの部分が張り付いている。男の上にまたぐように座らされているからか大胆にたくし上げられていて、男の手は易々とそこに重なった。指は這うように濡れたスカートの中に入っていく。

「あ…っ」

小さな愛らしい声を上げて、女の身体がぴくりと反応した。下着も水で濡れてしまっている。男の手がそれを確認し、中にゆっくりと指を入れた。す…と表面をなぞっただけで、男は知りたいことを得る。その場所は、水とは別のぬるりとした液で濡れていた。

「葉月?」

濡れている。

掠れるような甘い声で意地悪くそう囁くと、いやいやをするように女が首を振る。その度に雫が零れ落ちた。男の片方の腕が女の背を抱き、羞恥に染まる肌を慰める。

「葉月、寒くはないか…?」

「寒い…って、い、言ったらやめて、くれるんですか…?」

はあ…と肩で息をしているのは、下腹から胸の辺りまで切ない感覚が走るからだ。女の応えに男が少し目を丸くして、困ったような顔をして笑った。

「やめられない。」

男が上着を脱いで女の背中を包んだ。そのまま抱き寄せて、女を地面にひっくりかえす。柔らかな草の香りと水の香りがいっそう濃くなったのを感じながら、男が女に馬乗りになった。

「ああ…っ!」

女の太腿を抱えると、ぐ…と男の腰が動く。ぬち…といやらしい音がして、男の猛りが女の身体を貫いた。身体の中がいっぱいにされる感覚を堪えて、女が男の背にしがみつく。その動きに答えるように男が女の身体を強く抱きしめ、抉るように腰を穿ち始めた。

くつ、くつ…と男の動きがリズムを刻む。その度に、2人の呼吸音も乱れる。男が腰を叩きつけると、それに合わせて女の身体が揺れて堪えるような嬌声が上がった。

「あっ…う…」

「葉月…はづき、ああ…きつ、いな…。」

「高司、さ、んっ…」

男が女の両足を持ち上げて、さらに深くつながった。そのまま両足を抱きしめるようにして、今度はゆっくりと引き抜きゆっくりと挿入する。男の猛りの先端が入り口を捲る様子がはっきりと分かるほど引き抜き、それを押し広げるように奥へと抽送する。深く挿れたときはつながりあった部分が触れ合い、男がもっとも奥まで入っていることが知れた。その度に、互いに震えるような吐息を零す。

男の目に触れる女の身体は、いまだに濡れている。白い濡れた布に透けた胸は男が動く度にたぷんと揺れて、肌の色が随分と官能的だ。男が思わず手を伸ばすと、近づいた身体に女が再び抱き付いた。

「た、かしさん…」

「ん、どうした、葉月…」

「ぎゅってして…」

「ああ…」

「おねが、い。」

愛らしいお願いに、男のものがさらに張り詰めたようだ。ぎちり…と動かすと、たまらず男の喉からくぐもった声が零れる。男は女の足を自分の腰に絡みつかせると、細い背と地面の間に手を差し入れて、ぎゅう…と抱きしめた。背に回した手の片方を女の黒髪に埋めて、唇を首元に寄せる。愛しげに吸い付いていると、女の顔が動いて口付けをねだった。

「葉月…葉月、そんな風にされると、」

互いを求めるまま濃密な口付けをかわしながら、男の動きが激しくなった。女もそれに合わせて、男にすがりつく。

時折角度を変えるのは、男が女の胎内をよく知っているからだ。女の感じる場所を焦らすように攻め、追いかけてきたところをまた攻める。だが、それは同時に男も攻めた。ぬらぬらと纏わり付く女の内奥の柔らかさときつさは、男の余裕などやすやすと奪い去る。

「くっ…はっ、葉月っ……」

「あっ…あっ…たかしさ、…ル…ルチ、フェロ…も、うっ…」

「わかって、る…来いっ、葉月…」

女の声が男の本性の名を呼んだのが、止めになった。男が女の身体を食い尽くすように動き、とうとう女が追い詰められた。がくん…と女の背が反れる。鈴の鳴るような嬌声を上げて男の髪に指を埋め、下半身はひくひくと揺れている。男がその揺れに合わせて、ぐ…と何度か腰を打ち付ける。その度に、はあ…と荒く息を吐き、合間に女の名前を呼んだ。

やがて2人の身体の揺さぶりが収まると、ぬるりと男が女から出て行く。「は…う」…と蕩けるような声は、出て行く感覚に女が感じて思わず零れたものだろう。まだ情欲は完全には収まりきっていなかったが、2人は互いに交わりあった余韻に心地よく身をゆだねた。

男の手が女の身体をいたわるようにゆっくりと撫でている。

「…葉月、風邪を引いてしまうな。」

「…う、ん…大丈夫です。」

「部屋に戻ろう。…こんなところで、濡れたお前を抱いてしまった、すまない。」

ふる…と女が男の腕の中で、恥ずかしそうに頭を振る。

「ああ。でも葉月、可愛かった。大胆で。…綺麗で。」

「そ…な、風にいわないで…。」

「どうして。」

くす…と笑って、腕の中の女に小さく口付けを落とすと、男の背からバサリと2対の翼と1対の羽が姿を現した。3対の羽が、2人の身体を包み込むように折りたたまれると、一瞬の後に2人の姿が消える。
後に残ったのは小さな、美しい泉だけ。

****

30分ほど前。

魔界の王ルチーフェロとその妃、葉月は、共に魔王の庭を歩いていた。綺麗な泉があって涼むことができますよ…と、宰相シャイターンから散歩を勧められたのだ。足元には三つ首の犬がお供していて、ハッハと尻尾を振りながら楽しげに葉月とルチーフェロを見上げている。

「綺麗な場所。…魔界って、もっと怖いところだと思っていたのに。」

「…魔王の庭は美しくしている。人間から妃を迎えたり、客人があったり…ということもあるからな。」

「お妃?」

「ああ、先代にも側室があった。」

「そくしつ…。」

老いた後は妃を置かず、静かに晩年を過ごしていた孤独な先代魔王に付き添い、共に最期を迎えたのは人間の側室だ。葉月の住まう界と同じ界から迎えられた者ではないが、同種の人間だった。僅かの間だがルチーフェロも見たことがあり、彼女の言動は若かった魔王に大きな影響を与えている。すなわち、人間とはか弱い生き物であり魔力の少ない存在であり、何よりも感情の機微が豊かだ…ということだ。

声の沈んだ葉月に、ルチーフェロが慌てたように言い募った。

「葉月! 俺の妃はお前だけだ。」

「高司さん」

「ルチーフェロと呼んでくれ。」

いまだ慣れないのか、葉月は魔王が魔王である姿を取っていても、人間のときの呼び名で呼ぶ。ルチーフェロが葉月の両手を取って、柔らかな紅い眼差しで見下ろした。葉月はノースリーブの手触りのよい白いワンピースを着ている。装飾はあまりなく、胸元とスカートの裾に生成りの糸で刺繍がしてあるだけだった。シンプルな装いは、葉月によく似っている。肩に透けるほどに薄いショールを掛けていて、それがふわふわと風に揺れた。

「約束だ。葉月。」

「約束…?」

「ああ、お前だけを…。」

首を傾げている葉月の髪をそっと手の甲で撫で、ルチーフェロは愛する伴侶の顔に唇を寄せる。互いに目を閉じて、吐息を感じて、唇が重なる。少し離れて、…今度は深く重ねようとルチーフェロの腕が強く葉月を引き寄せた。

ワフンっ

犬のヘッヘというはしゃいだ鳴き声が3匹分聞こえたかと思うと、葉月の肩に掛けていたショールがするりと解けた。足元に居た三つ首犬の右端が、ぱくんと葉月のショールを咥えている。それを左端が追いかけようとして、右に走る。それをさせまいと右端がさらに右に走る。ショールで目隠しされた状態になった真ん中が、パニックになって後ずさる。三つの首に一つの身体の犬が、めいめいそのような攻防を始めたのだ。真っ黒のジャーマンシェパードの顔に似た三つ首の体躯は、葉月の知るどんな犬よりも大きく、それらが葉月のショールを争ってじゃれている姿は、泉の方へと転がっていった。

「おい、ケルベルス。やめろ。」

ルチーフェロの注意で、三つ首の犬はぴたりと動きを止めたが遅かった。注意されるのと同時にドボンと音がして、ケルベルスは泉の中でお座りをすることになってしまったのだ。左端と右端がショールを咥え、真ん中は纏わりついてくる布に、ぷるぷると頭を振り、困ったようにぐう…と唸っている。

「まったく、お前ら…」

ルチーフェロがため息をつくとケルベルスの右端と左端は、しょんぼりと耳を落とした。だが、近付いてくる気配に尻尾だけは素直にふさふさと振っている。その度に泉の表面の水を弾いて、音がする。

だが、一番最初にケルベルスの元にたどり着いたのは葉月だ。いつの間にかスカートをたくし上げてケルベルスの側に来ていた。いよいよケルベルスの尻尾が元気に揺れ、くうくうと甘えたような声を上げて右端と左端が撫でて…と頭を高く上げる。

葉月が笑って、ケルベルスの右端と左端を交互に撫でてやった。ルチーフェロもズボンが濡れてしまうのも構わずに側にやってきて、ケルベルスからショールを取り上げる。

「これは葉月のだ。お前らのではないぞ。ケルベルス。」

するりと三つ首からショールが除かれ、真ん中の視界が晴れた。撫でてもらえなかった真ん中は、目の前の葉月にはしゃいで、ワウン!と大きな声を上げる。撫でて!…の声と態度が一際大きくなり、葉月にじゃれつこうと前足が上がった。

「きゃ…」

「葉月!」

ケルベルスの姿はジャーマンシェパードのようだが、大きさはそれよりもさらに一回り大きい。立ち上がると葉月など余裕で追い越す身体の高さだ。それが、撫でてーーーー! と葉月に圧し掛かった。

パシャン。

葉月が泉にしりもちをつく。それほど深くは無かったが、ぐい…と真ん中に頭を押し付けられてそのまま一気に倒された。泉の底に足がすべり、一瞬身体が水に浸かってしまう。すぐに上半身がルチーフェロに支えられたが、全身がずぶ濡れだ。

「葉月、大丈夫か?」

「ん、大丈夫、ちょっとびっくりしましたけど…。」

葉月は半身を水に漬けたまま、きゅ…とルチーフェロに抱きしめられた。葉月を倒してしまったケルベルスも、心配そうに覗き込んでいる。

「ケルベルス…。」

魔王の声が低くなり、ケルベルスをじろりと睨みつける。…その気配に押されたケルベルスが、くうん…と鳴いて尻尾も耳も元気を失くしてしまった。だが、ルチーフェロがケルベルスを責める前に、葉月の手の平を頬に感じる。

「ルチーフェロ。」

頬の感触にルチーフェロが葉月を見下ろすと、葉月が困ったような顔で魔王を見上げていた。

「怒らないであげてください。反省しているみたい。」

「葉月。」

「お願い。」

まったく…こんな時だけ名前を呼ぶなんて卑怯だと思いながら、ルチーフェロは深くため息を付くと、「分かった」…と頷き、葉月の頭を撫でた。

「すっかり濡れてしまったな。」

「高司さんも。」

くす…と葉月が笑ったから、ルチーフェロは先ほどまでの怒りをすっかり忘れてしまった。遊んだ子供のように水に濡れてしまって、妙に気分が浮つく。くすくすといつまでも笑っている葉月の身体には、水に濡れた白いワンピースが纏わり付いていた。崩れたスカートの半分はまくれ上がっていて、水に沈んでいるからか無防備な太ももがいつもより余計に白く見える。ひたりと鎖骨や胸に纏わり付いている布は濡れて透けていて、白い布越しに肌の色が柔らかく覗いていた。

こくりと魔王の喉が鳴る。

「葉月…」

「高司さん?」

ルチーフェロが葉月に顔を寄せる。触れるか触れ合わないかのところまで唇が近付き、しん…と沈黙が降りた。吐息を感じて、吸い込まれるように口付ける。それはすぐに離れたが、次の瞬間、魔王は食べるように葉月の唇を奪った。抗うように上がった腕をルチーフェロが掴み、さらに深く唇を重ねる。やがて舌がいやらしく絡まりあう音が響き始め、魔王の動きが大胆になっていく。ケルベルスはショールを咥えてどこかに行ってしまったようだ。

美しい泉の中で、魔王とその妃が、2人きり。

****

さらにその2時間程前。

魔界の宰相シャイターンは、ご自慢の口髭をさわさわと調えながら侍女頭のグレーモリーに命じた。

「今日は葉月様とルチーフェロ様に泉の周りの散歩を勧めようと思うておるのだ。」

「はい。シャイターン様。」

「何らかのアクシデントが起こるやも知れぬゆえ、準備しておかねばならんな。」

「はい。心得ましてございます。」

グレーモリーがにんまりと笑み、丁寧な一礼を施す。その笑みを見やり、シャイターンもまた満足げに頷いた。

「すぐに、湯浴みができるよう、準備しておくようにの。」

「はい。お庭歩きはお身体も汚れるかもしれませんし…、そう、水に落ちても危ないですわ。」

「そうだの。水辺は風が心地よいから、お召し物にも気を使わねば。」

「でしたら、肩をお出しになったワンピースなどいかがでしょう。装飾の少ない、真っ白なものを。」

「ほうほう。実に似合いそうだのう! そうだ。供にケルベルスが居れば、楽しかろうな。」

「では、薄い布のショールをお肩にお掛け致しましょう。風に揺れてそれはお美しいかと。」

「それがよい。ケルベルスはそういった揺れるものと葉月様が大好きだから、いたずらをせぬよう、よーくよく言い聞かせておかねばな。」

「ええ。お妃様を泉に落とす…などということがあっても困りますもの。」

「早速、ルチーフェロ様と葉月様にお話してこよう。」

「では、私は準備をしておきますわ。」

グレーモリーが再び一礼をして、シャイターンの執務室を出て行く。シャイターンは白い眉の下の穏やかな瞳をいっそう細めて、手に持つ杖に体重を掛けた。そうしてまだまだひよっこの若い魔王と、その魔王が連れて来た愛らしい妃のことを思い浮かべる。ケルベルスは葉月のことを気に入っていて、葉月もまた犬が好きなのかあの三つ首と仲がよい。それにケルベルスはああ見えて、大変に仕付けが行き届いている。きっと、よい働きをするだろう。それにしても、泉の側ともなれば開放的になって水遊びなどしてしまうかもしれない。だがはしゃぎすぎて、白い衣装が水に濡れてしまったら大変だ。そこまで思って、瞳を僅かに見開く。黄色い瞳に縦長の瞳孔が、きゅ…と縮み、実に楽しそうに…

腹黒く笑った。

****

そして一時間後。

魔王の自室に設えた浴室で、ルチーフェロは葉月の愛しい身体を後ろから抱き寄せて、温かい湯に浸かっている。自分の足と足の間に葉月の身体を置き、その細い背中を自分の胸板に凭れさせて、耳の上や瞳の側に時々唇を寄せながら幸福を味わう。湯の中でほどよく温まった裸の肌に触れることの、なんと心地よいことだろうか。

「寒くないか葉月。」

「寒くないです。むしろ暑くなってきたんですけど…。」

「冷たい飲み物ならあるぞ。」

「お風呂上りでいいです…。」

ルチーフェロはちゃぷん…と湯音を立てて、葉月の髪をゆっくり梳いた。激情は落ち着いたが、こうして裸を抱いていると今度はゆっくりと愛し合いたくなる。

「葉月…もう一回し…」

「もう、高司さん、さっきしたじゃないですか…!」

葉月が真っ赤な顔でルチーフェロを振り向き、近付いてくる顔をぎゅううううと離した。

「むぐう、…だが、葉月もあんなに激しく…」

「だから、それはそれ、これはこれですってば!」

葉月にだって、たまには気分が盛り上がったり楽しい気持ちになったりすることがあるのだ。じたばたと暴れる葉月の身体を優しく押さえて、ルチーフェロが耳元に吸い付いた。

「分かった分かった。じゃあ、寝台で冷たい飲み物を飲もう。それだけならいいだろう。」

「ほんとうにそれだけですか…?」

耳元を走る感覚にふるりと肩を震わせた葉月が、恨めしげに身体を離した。顔を紅くして困惑している姿はどう見たって可愛らしいし、湯の中で魔王の欲望はすでに次を待ちわびて、葉月の腰の辺りで自己主張している。寝台に連れて行って、それだけですむか…といわれれば、そんな自信があるわけなかった。

「それは分からない。」

ちゅる…と長い舌が一瞬耳の中をすべり、その瞬間、葉月が「…ああぅ…」と色っぽい声を聞かせる。こんな声を出す妃のことを、魔王が何もせずに放っておくはずがないのだ。