それなり女と魔法使いの玩具

003.試させて

結菜がこの世界に「バイブ」とやらと共に来た理由をジーノなりに解釈した結果が、これだ。

そもそも結菜は異世界の人間であるはずなのに、最初からジーノと言葉を交わすことができた。恐らく、バイブという道具の使い方を教授するためだ。道具を呼び出しただけで、その使い方も効果も分からないのであれば全く意味が無い。想像だけで国王に渡し、快楽を感じない使い方をして王妃と仲違いしてしまっては、王家の存亡に関わる。これをどのように使えば、使われた相手がどうなるのか。それを確認する作業は、もっとも重要なものに思えた。

そして、それを的確に教えてくれる相手はこの道具と共にやってきた……つまり、この道具の使い方を知っているだろう結菜しか居ない。

「ユイナ」

「ちょ、……ちょっと待って、あっ……」

拒絶する間もなく、ジーノの顔が結菜の首筋に降りてきた。うなじから耳元にかけて、ずる……と濡れた何かが這う。それがジーノの舌なのだと思うと、その瞬間、ぞくぞく……と背を何かが走るような感触に襲われる。

「いきなり使うわけにはいきませんからね」

そう耳元で囁いて、今度は囁いた呼気ごと耳元をかり……と噛んだ。甘い痛みを感じた途端、ぺろりと舐められ、舌が一瞬耳の中を這う。

「んあ……っ……!」

結菜が懸命にジーノの身体を押し返す。だが、細く思えたジーノの身体は全く離れない。ジーノはバイブを寝台の傍らに置き、本格的に結菜に覆いかぶさった。結菜が着ていたカットソーの下から手を入れて、胸の膨らみをたどる。腹を爪と指先でなぞる動きに結菜が必死で堪えるが、それが大きく胸の柔らかさを捕らえ、下着ごと揉み初めると、喉の奥から、うく……と甘い声をこぼしてしまう。

「これは……下着の類ですか」

ジーノがカットソーを大きく捲くり、無理やり結菜の両手から抜く。まじまじと結菜の下着を眺めて、肩紐を下ろす。前に止め具が付いていないということは、後ろについているのか……と判断し、寝台と背中の間に手を入れて探り当てた。小さな止め具らしきものを掴むと、くい……と引いて、容易く外してしまう。

支えを失った結菜の胸が、ふるん……と暴かれる。

上半身から下着を取り払ったジーノは、相変わらず無表情で結菜の首筋に手を沿え、ゆっくりと下ろした。下ろしていく途中、結菜の胸の段差を感じ、いまだ柔らかな頂に戯れるように触れる。何故か為す術もなくそれを見守っていた結菜が、ジーノがそこに手を触れた瞬間、「あ」と声を上げて顔を逸らした。

何をぼんやりしている。これ以上は無理だ。

結菜とて女だ。これからジーノが何をしようとしているのかは分かる。しかし、結菜は初めてではない。3年前までは普通に男と愛しあい、身体を重ねていたのだ。こうした男の手の感覚を知っている。そして、それが久しぶりに与えられることの危機感を同時に感じていた。抵抗もせずにジーノの手の動きを見ていたのが、何よりの証拠だ。

あわててジーノの腕を掴もうとする。だが、それはやすやすと押さえつけられ頭の上にひとつにまとめられた。

「……や、やだ……お願い、やめてっ……」

「……元の世界に戻りたいのでしょう? ……申し訳ないが、私もこれの効果を確かめなければ貴女を解放することはできない」

「……え?」

ジーノの片方の手が脇腹から胸の膨らみを撫ぜる。

「……少し静かにしてください」

顔が降りてきて、ちゅ……と肌に吸い付いた。胸に触れる顔の体温と、零れ落ちるジーノの髪の感触。徐々に大胆になっていく男の行為に、こくりと喉を鳴らして結菜は黙り込んだ。いつの間にかジーノの手は外されていて、抵抗できるはずなのに金縛りにでもかかったように動けない。これに耐えれば元の世界に戻してもらえるのだろうか。淡い期待が胸に刺さり、その瞬間、それ以上の強烈な感触に襲われる。

「……あっ……はあ……ん」

ジーノの唇が結菜の胸の片方の中心に触れたのだ。じゅる、じゅる……とわざと大きな音を立てて舌が這いまわり、硬くなってきた先端を捉えて弾くようにぺろりぺろりと嬲られる。離れたかと思うと唇で咥え、咥えて尖らせたまま舌で押さえつける。もう片方の胸はジーノの手が捉え、指先でかりかりと引っ掻く。

「硬くなっている。……感じているのですか?」

「ん……、ちがっ……も……や、だ……」

「ええ、嫌ではなさそうですね」

淡々とした声で告げるジーノの言葉に、羞恥で結菜の顔が染まる。手でジーノの肩を押すが、弱弱しくて無駄な抵抗だ。初めて会う見知らぬ男にこんな風に触られて感じてしまうなど、自分はなんて浅ましいのか……そう思うが、上がる声をどうしても止められない。自分は元の世界に戻るからこれに耐えているのだ……と言い聞かせ、感じているのは久しぶりだからと言い訳をする。

男の細い節ばった手が下腹をたどり、フレアスカートの中に入り込んだ。ぎくりと身を竦めると、なだめるように手のひらがぴたりと太腿に張り付いて撫でる。手は優しいが、容赦が無い。親指が下着に掛かったかと思うと、それがするりと下ろされた。少し下ろしたところで、顕わになった茂みを掻き分け裂け目に指を這わす。

明らかに、ぬるりとしたぬめりを感じた。

「私の手ではどうかと思いましたが……貴女は随分と感じているようだ」

「や、言わな、……いで……」

「試せそうですね」

「い、いや……」

「試させて」

今までの冷静な声が一瞬熱っぽくなったような気がして、あ……と結菜の力が抜ける。ジーノは結菜の下着を完全に抜き去り、スカートも外した。とうとう何も身に付けない姿に剥いて、ジーノは結菜の隣にクッションに身を沈めるように座る。片側から結菜の背中に手を回し、もう片方の手でバイブを持った。

「あ、や、やだ……」

道具を使うなど、初めてのことだ。何が起こるか想像が付かず、ぶんぶんと結菜が頭を振る。だが、そうした結菜の訴えを無視して、ジーノが結菜の秘められた箇所にバイブの先端を宛がった。

少し力を入れると、つぷ……と音がして、やすやすと入り込む。

「……んっ……」

声を堪える結菜を見下ろしながら、少しずつ挿入を深くする。手首をひねるように角度を変えると、きゅ……と結菜が目を閉じた。少し引き抜き、深く挿れる。仰け反った結菜の喉がこくりと動き、桃色の唇が空気を求めて少し開く。淑やかで……それでいて扇情的な表情だ。ゆっくりとそれを抽送すると、こぷ、くぷ……といやらしい音を立て始める。引き抜いたところを見てみると、結菜から分泌される粘液でぬらぬらと光っていて、溢れるそれは寝台も濡らしていた。

スイッチを入れてみる。

「ああ……あ……! いや……あ、あ、あ、……」

閉じていた瞳が開き、結菜が身をよじる。結菜の蜜壷の中で、うねうねと何かがうごめいているのだ。何か……というのは言わずとも知れず、無機質な道具が結菜の中を掻き乱している。それは今まで結菜が感じたことの無い大きな波で、自分の内壁がこんな風に感じるのだという感覚が結菜に刻みつけられる。くゆ、うゆ……と中でうごめくそれを、ジーノがゆっくりと抽送していて、時折、ぐるりと角度を変えられる。その度に、出したことのない甘い嬌声で喉が鳴り、すがりつくものを求めてジーノの服にしがみつく。

「いいですね、ユイナ……ほら、もっと啼いて」

「や、やだっ……いや、いや……あ……も、う、」

「一度イっておきますか?」

中をかき回す様に抽送され、ぐるぐるとうごめく「それ」に翻弄され、側面の弱いところを発見されて、その箇所が道具で突かれる。否応なしに追い詰められ、結菜の腰がぐい……と持ち上がって、次の瞬間かくんと落ちた。

達してしまった。

道具相手に。

「……あ……は、あ……はあ……」

あまりの醜態にしがみついていたジーノの服からずるりと手を離す。それを見て、ジーノは結菜を支えていた片方の腕で身体を抱き寄せ、耳元にちゅう……と口付けた。

「まだ終わりではありませんよ」

「え……」

「奥まで挿れると、ここに触れるのですね」

先ほどまで抽送しながら、そのことに気付いたのだ。一度先端まで引き抜くと、もう一つのスイッチを入れた。

「や、やだっ……それ無理……もっ……!」

腹に響くような振動音が聞こえ始める。ジーノは相変わらず眉ひとつ動かさずに、じわりじわりとそれを挿入した。二股に分かれた小さいほうの突起が、つ……と、結菜の秘所の蕾に触れる。その瞬間びりびりと電気が走ったような強い刺激が身体を襲う。

「あ……っ……やあああああ……っ!」

僅かに触れただけなのに、一気に果てまで連れて行かれる。強すぎる快楽はいっそ苦しく、逃れたくて必死でジーノの手を押さえた。だがジーノはまだ満足していないようだ。

「……刺激が、強すぎたのでしょうか」

しかしどう弱めるのかが分からず、少しずらしたところに振動が触れるように位置を変える。強すぎた刺激がゆるくなったが、今度は焦らすように結菜を襲う。逃そうと思って身体をよじると、膣内なかでうねる塊が側面に当たり、離そうと思って腰を引くと振動が秘所の膨らみにぶつかり、強い刺激に襲われる。身体をどちらかに寄せることもできず、何度も何度も断続的な愉悦に襲われ、息も絶え絶えにジーノにすがる。

もはや数え切っていない、何度目かの波がやってくる。
その予兆を受け止めて、ジーノが振動のスイッチを切った。

唐突に痺れが消えたが、こぽ……と水音がして、抽送とうねりが強くなる。

「や、……あ、……また、……っいや、あああ……」

ぎゅう……とジーノの抱き締める腕が強くなる。ジーノは大きく反れた結菜の背を逃さないように拘束をきつくし、一度、ぐつ……とねじ込むと、抽動を徐々に緩めた。

「ジーノ、ジ、ノ、お願い、も……やだ、やだあ……」

結菜の喉がひくっ……と鳴って、涙が零れる。それを眺めるジーノの無表情の瞳がふっと細くなった。

「申し訳ありません、……つい、無理をさせすぎました」

くすん……と涙を零す結菜の身体を抱き寄せたまま、ゆっくりと結菜の中から無機質の塊を取り出した。ちゅぷといやらしい音を立ててそれが出てくると、結菜の液が纏わり付いて糸を引いている。異世界からの道具を枕元に置くと、ジーノは身体を起こし、起き上がれないほどになっている結菜に上掛けを掛けてやった。

「身体を拭くものと飲み物を持って来ましょう。少し休んでいなさい」

感情を感じさせない静かな声の奥に慈しむような色を滲ませ、うつ伏せになって瞳を閉じている結菜の黒い髪をそっと払った。寝台を離れようと足を下ろしたとき、結菜の手がジーノを掴む。小さく首を傾げてジーノが振り向くと、結菜が黒い瞳を潤ませて、唇を震わせていた。何かを懇願するように、あふ……と息を吐く。

「ユイナ……?」

「ジ、ノ、……待って」

「どうしたのですか」

「おかし、い……の。我慢、で、できない……。おねがい……」

「何を……」

「モノじゃないの、が、欲しい、の。ホンモノ、が……」

一瞬意味が分からず……だが、すぐに理解する。ジーノの無表情の瞳が僅かに見開かれ、ぽかんと口が開いた。じりじりとした沈黙の中、眼鏡の奥のジーノの眼に熱が籠もる。