何度も何度も強い快楽と絶頂を与えられ、結菜の…女の身体というのは、こんな風に愉悦を感じるものなのだと激しく思い知らされた。普通の男とそれなりにしてきたセックスとは全く異なる刺激で、全く異なる世界だ。友人はこれで「開発しろ」と言っていたが、まさにそれは「開発」だ。
だが、何度達しても、どれほど強く感じても、…決定的に足りないものがあった。
悦を知ってしまった身体、苦しいほど高められた今の結菜に足りない状態はつらくて苦しかった。
それは、あのような無機質な道具ではなくて、本物の男の身体だ。肌を合わせる温もりと、抱き締められる強い腕と、つながって揺らされる愉悦と、粘膜同士が絡まりあう瞬間だ。それが欲しくて、しかたがない。
先ほどまで自分を苛んでいた見知らぬ男にこんなことを頼むなど、どうかしていると結菜の頭の一部は理解している。それでも頼むほか無かった。身体に残る熱情の残滓は、どうしたって逃すことが出来なくて気が狂いそうだ。
「…ジー、ノ…」
懇願する。ひゃくっ…と喉をしゃくりあげ、手が白くなるほどジーノの服を掴む。静かに結菜を見下ろしていたジーノが、再び寝台に上った。ギシリと寝台が軋む音がして、ジーノが再び馬乗りになる。
「…ユイナ…手を離して」
「ジーノ…」
「分かっています。服を脱がせて」
ハッ…とした表情で結菜がジーノの服から手を離した。もどかしげに青灰色のコートを脱ぎ、引きちぎるようにシャツを脱ぎ、下着ごと一気に下穿きも下ろす。ずるんと姿を現したジーノの欲望は、平静に見える無表情とは裏腹に、いっそ攻撃的ともいえるほどぎちぎちに起ち上がっていた。
「ユイナ…」
ジーノがかちゃりと眼鏡を外す。馬乗りになった身体を結菜の上に重ね、一瞬だけ首筋に口付ける。すぐに身体を起こして、結菜の太腿を抱えた。膝を腕に掛けるように両手を付き、ゆっくりと狙いを定める。
「…随分堪え性のない…」
堪え性の無いのは…結菜なのか、ジーノなのか。主語の無い言葉を苦しげに吐いて、ジーノは己の先端を結菜に擦りつける。当然のように、そこはもうどろどろになっていた。
く…と力を入れる。
「…は、あ…ユイナ…」
先端がぬめりに包まれる。たったそれだけでジーノの意識を奪った。
堪え切れずに、一気に奥まで押し込む。
「んっ…ああああっ…!」
「ユ、イナ…ああ…なんて…」
2人の秘部が触れ合い、互いが奥まで繋がりあう。ジーノが腰を動かし始めた。
「はっ…あっ…ジ、ノ、ジーノ…ジーノ…っ…」
結菜がすがりつくようにジーノの背に腕を回す。ジーノもまた身体を下ろし、結菜に重なるようにその身体を抱き締めた。抱き締めたまま動かしていると、結菜の足がジーノの腰に絡まる。結菜の苦しいほどの悦に足りなかったものが埋められる。
無機質な物ではなく、生で感じる温かな身体。ジーノの熱い塊で一杯にされてぬくぬくと奥を擦られる感触は、先ほどまで結菜に挿れられていたものとは全く異なる質感で、見知らぬ男のものなのに温かくて、狂おしいほど求めてしまう。愛する人のように何度も名前を呼んで、汗ばんだ身体を求めて抱き締めれば、男もまたそれに呼応するように抱く腕を強くし、攻める角度を甘くする。
「ユイナ…、吸い付いて…そんな、に、締め付けないでください…くっ、う」
無表情だったはずのジーノが熱の籠もった瞳で、うっとりと結菜を眺めていた。眼鏡を外した素のままの瞳は、髪と同じ濃い灰色。鋼のような色は冷たい金属のものではなく、打ちたての熱さを持っている。ジーノは腰を動かしながら結菜の艶やかな黒髪に指を入れ、結菜の耳元に唇を這わせ、すう…と首筋をなぞり、顎に触れた。
「…ユイナ…」
顎に止めていた唇が動いて、す…と横にずれた。2人の唇が重なり合い、激しく繋がり始める。
「んっ…んっ…」
零れ落ちる声を受け止めるように、幾度も角度を変えて口付けが続けられた。その間も抽送は激しく、ねちねちといやらしい水音と肌を打ちつける音が重なる。時折、大きく引き抜き、がつんと奥まで突き上げられる。引き抜くときは柔らかな襞がジーノを追いかけるように纏わり付き、奥を突くとたっぷりと濡れた粘膜がきつくジーノを迎え入れる。先ほど道具を使って攻めたとき、結菜が過敏に反応した箇所に腰の角度を向けると、途端に、ひくりひくりと脈動を感じる。
「…ジーノ、もう…わた、し…だ、め…」
「ああ…私も…もうっ…く、は…」
ジーノが獣のような激しさで結菜を追い詰める。かくん、かくんと揺れる結菜が嬌声を上げて、ジーノに腰を押し付けた。それを追いかけるように、ジーノもひときわ大きく腰を穿つ。もうひとつ心臓でもあるかのように中がどくどくと脈打ち、熱い白濁がその中に解放された。
「ユイナ、ユイナ…」
果てた余韻に、ジーノが結菜の身体を抱き締めた。結菜の額に自分の額を合わせ、鼻の頭と唇を、ちろりと舐めて僅かに笑む。は、は…と肩で息を吐きながら、どうしてこの男は自分をこんな風に見つめるのだろう…と不思議に思う。結菜は静かに目を閉じた。
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道具を使って結菜の身体を攻めたときから、自分が何をしているかは理解していた。見知らぬ世界に連れて来られ、見知らぬ男に性に使う道具を試されるなど…女にとってはどれほど無理難題か…というのも分かっている。だが、ジーノとて切羽詰っていたし、研究者として見知らぬ世界の見知らぬ道具は興味深かった。激しく抵抗されたら止めようと思っていたのは言い訳で、思いがけず乱れた女の姿にジーノも興奮する。
自分自身、女に淡白な方だ。だから、女に対してこれほど夢中に道具を試し、感じさせたことに悦びを感じ、その悦を与えているのが自分の身体ではなくただの道具だということに苛立ち、そうした自分に激しく動揺した。ふいに触れた女の…結菜の髪の手触りは、まるで蕩けるようで離しがたく、直接…身体で結菜を確かめ、味わいたいという欲望が沸く。
だが、その一線を越えてはいけない。道具だからまだマシ…というわけでは決して無いが、見知らぬ男に犯されるなど耐えがたいに違いない。
だからこそ、「ジーノが欲しい」と懇願されたときには、あまりに自分に都合のいい幻想かと疑ったほどだ。
しかし、都合のいい幻想でかまわない。この女を…結菜を、たった今のこの瞬間だけでも得られるならば。そう思うと、止められなかった。
「ユイナ…」
ジーノは腕の中で眠っている結菜の頬に唇を寄せる。
結局、1度きりでは足りずに何度も結菜と身体を繋げあった。それこそ愛し合っている男と女なのではないかと互いが錯覚するほど、甘く熱い、とけるような時間を味わったのだ。何度も中に吐き出してしまったから、後で孕まぬようにする薬を調合し、飲まさなければならない。それに…。
「…参りましたね…。貴女を手放したくなくなった」
だが、結菜はこちらの世界の人間ではない。道具の使い方、効果も嫌というほど分かったし、後はあれを模したものを作成して調整すれば国王に献上できるだろう。召喚の目的は果たし、結菜も元の世界に戻してやらなければならない。分かっているのに、手放せない。
「さて…どうしましょうか」
言いながらも、ジーノの心は決まった。
「まずは標本を作って、魔力で動かす調整をして、再度試してみなければなりませんね」
ゆっくりと、蕩ける手触りの黒髪を梳く。
「必要な工夫を凝らして、標本で同様の効果を得ることが出来てから…陛下への献上品を作りましょう」
「ん…う」
「ユイナ…?」
「うふん…」
ジーノの体温が心地よいのか、結菜がほんのりと顔をほころばせて胸元に擦り寄ってくる。その様子を見ながら、ジーノは無表情の口元を少しばかり緩めた。
「ユイナ…もうこうなったら、貴女を逃がしませんよ…?」
眼鏡のインテリ魔法使いに、結菜が捕らえられた瞬間だった。
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これからしばらくした後、リュチアーノ王国の国王へ、王家付きの魔法使いジノヴィヴァロージャワシリー・フルメルより、秘密の献上品が贈られた。その献上品に国王は大いに満足し、…さらにその1年後、待望の第一王子が誕生したという。国王は愛する妃との間に3人の王子と2人の姫を設け、国王家族は王族の家族でありながら大変に睦まじく、国王の機嫌も麗しく、臣下もまた穏やかで、内政は安定した。
また、この魔法使いジノヴィヴァロージャワシリー・フルメルには、リュチアーノ王国の民にしては地味な名前の1人の妻があったというが、正確な記録は残されていない。