それなり女と魔法使いの眼鏡

003.私のユイナ

いくらストイックな魔法使いといえど、ジーノは男だ。そして自分の身体の下には愛しい結菜。その結菜の、戸惑っていた表情が、不意に熱くなった様子を見逃さなかった。道具を試すのは結菜の気が向かないようだったし、それは後回しでも構わない。自分もまずは結菜に思い切り触れたかった。味わって、解けて、溺れたい。

そう思って結菜に身を沈める。

結菜の身体中を這っていた指が下腹へと下りて行き、足と足の間を確認するようにうごめいて、やがて、ぐ……と入り込んだ。指を引き抜くとついてくる蜜が、挿れるとくちゅりと音を立てて溢れる。動かしながら結菜を見ると、その動きに合わせて呼吸を乱していた。

「ユイナ、聞こえますか?」

「や……」

「こんなに音を立てて」

意地悪くささやいてみると、頬を染めて泣きそうな顔になる。羞恥と混乱と……快楽の間でゆらゆらと揺れる表情は、ジーノの中の雄を嫌というほど刺激した。自分は女に対してこんなに意地の悪い楽しみを覚える男だっただろうか。もっと啼かせてみたくて、もっと甘い声を聞いてみたくて、わざと結菜の羞恥を煽る。

「すぐに2本目が入りましたよ、ほら、ユイナ」

「……も、……意地悪ばっかり言うの、や、やめて」

「3本目も……入りそうです、……っ」

ジーノの声が乱れた。かぷ……と結菜がジーノの首筋に噛み付いたのだ。もちろん痛いわけが無く、唐突に触れた感触にうろたえてしまったのだ。少し身体を離して結菜を見下ろすと、「ううー……」とくぐもった声を上げて、涙目で自分を見上げていた。その様子に愛しさを覚えて、背中に手を回し、増やした指を中で動かす。

「……あっ……う……」

「いいですよ、イッても。……何度でも。こうして一緒にいてあげますから」

そういって、抱き寄せる片方の手に力を入れ、動かしている指が結菜の感じるところを引っかいた。途端に嬌声を上げて、結菜の身体が跳ねる。

結菜の奥を指で味わい、濡れた感触を舌で味わい、その度に幾度も果てる結菜が可愛くて仕方が無い。

ひくりと身体を揺らす結菜の吐息がジーノの耳元をくすぐる。時々、悪戯を仕掛けるように結菜が舌で触れてくるから、ジーノはもう我慢が出来なかった。

落ちてきた時、結菜はほぼ裸だった。あちらの世界のものなのだろう。繊細な柄と細工の美しい下着を身につけていた。あれはどんな風に仕立てているものなのか、仕立て屋辺りに研究させれば面白そうな造りのものだったが、布地が少なすぎるような気もする。端的に言うと、非常に男心を誘う格好だった。好いた女のこうした姿を見せられて、どうにかならない方がおかしいのだ。

ギシ……と音を立てて、寝台が大きく揺れる。

結菜はジーノの上に座らされ、後ろから貫かれた。柔らかなクッションに背を預ける形で少し上半身を起こし、つながりあっている箇所がはっきりと結菜の視界に入ってしまう。

「……んっ。あ……ジーノ……っ!」

「あいかわらず、締め付ける……っ」

「別に何もしてなっ……あっ」

ぐ……と後ろからジーノが強く突き上げると結菜の身体が揺れて背が反れる。かくんと自分に体重を預けてきた、その重みを受け止めて後ろから腹に手を回し、激しく腰を動かす。

「や、やぁ……」

「ユイナ……」

突くたびに結菜の声が上がるのが愛おしく、何度も何度も攻め立てた。足を広げさせ、つながっている箇所に後ろから手を伸ばす。ふくりと小さく膨れた敏感な場所、そこに指を這わせてなぞると、さらに高い声が上がった。

「……んっ……ジーノ、それ……だめ。や……」

「感じますか?」

「……う、ん……。も……う、」

「また、イキそう?」

「……やだ、いや……っ」

「ユイナ……っ、しかし、私も、もう……」

ぶんぶんと頭を振って、結菜がためらう。しかし結菜の膣内なかはすでにドロドロで、熱く厚く粘膜が絡み付いている。挿れているジーノの欲も、はち切れんばかりで限界に近い。ジーノが高まる己を我慢するように結菜の名前を呼ぶと、不意に首を捻って振り向いた。

「ユイナ……?」

「ん……」

ちゅ……と結菜がジーノの唇に自分の唇を寄せる。何をしようとしているかを知ったジーノの、つながりあっている下半身の欲望がさらにぐつりと硬くなった。好いた女から、ただ口付けを求められることが、これほど愉悦を伴うとは油断していた。ジーノは求められるままに唇を重ね合わせ、躊躇いなく舌を絡め入れる。

くぐもった吐息をしばらく聞かせ、結菜が……は……と唇を離した。

「ジーノ、も、一緒に……」

おねがい。

「……ユイナ……」

結菜のお願いに、ジーノが一度その身体をぎゅう……と抱き締める。目眩を覚えるほどに脳が沸き立ち、結菜のことしか感じられない。ジーノはつなげたまま、結菜の身体を転がして下にした。後ろから身体を密着させて、大きく腰を穿つ。

結菜の一番奥にジーノの熱が届き、ジーノの欲望を結菜がきつく締め上げる。

その感触に、身を投げ出す。

「……は、あ、……貴女という人は……くっ」

「……あっ、あああ、ジーノ、ジーノ……」

「ユ、イナ……っ……!」

結菜の中がきゅうときつく締まり、吸い付いて、次の瞬間ふかりと柔らかくなった。果てる結菜をジーノが追いかけ、搾り取られるように中で吐き出す。吐き出す脈動に合わせてジーノが腰を動かすと、その余韻に結菜が両脇に付いているジーノの片方の手をぎゅ……と握った。

重ねられた手にジーノも自分の手を絡める。

「……ユイナ……私はやはり貴女を手放せない。……もう……貴女は私の側に居なさい」

「ジーノ…………?」

「ユイナ……私のユイナ」

達した名残に溺れる中、結菜はジーノの言葉が聞き取れずに思わず首をかしげて身体を寄せる。……だがジーノは答えずに、結菜の身体を優しく抱き留めた。

異世界に住まう、愛しい自分の女。一生離さずにいるには、どうするのが一番よい方法だろう。

魔法使いはゆっくりゆっくり、策を練って結菜を囲む。

****

「……これは貴女の世界の下着の類ですか?」

「え、う、うん」

「しかしこれはどれほど見ても、見事な刺繍と、細工ですね」

結菜を自分の腕の上に寝かせて、ジーノは結菜の下着(ブラの方)をまじまじと眺めている。前回はバイブ、今回は下着の細工に興味を持ったようだ。今日の結菜の下着は水色。別に合コンだからというわけではないが、一応何が起こるかわからないのでちょっと高めのブランド下着を身に付けているのは、最低限のたしなみというものである。

それにしても、こうして自分の目の前で下着(しつこいようだがブラの方)を広げて眺められると落ち着かない。……というよりも、ジーノが危ない人のように見えてくる。相変わらず真顔で眺めているのだ。

「もう、あんまり見ないでよ返して」

「ちょっと待ってください」

結菜が手を延ばしてジーノから下着を取ろうとすると、片方の腕で結菜は身体を丸ごと拘束された。それほど強そうにも見えないのに、やはり男だからか。ぐ……と抱き締められると、動けない。そのままぐるんとひっくり返され、結菜の上にジーノの身体が押さえつけるように乗る。

「ちょ、重い」

「ユイナが暴れるからでしょう」

「暴れてないし。私の下着だし。返して……うあん」

ジーノは、ちゅ……と結菜の耳元に口付けると、結菜を下にしたまま再び下着を観察する。

艶を抑えた水色の布地に薄い茶色のレースの縁取り。全体を美しい花の模様を刺繍であしらっていて、花の色は白。ひとつひとつの花びらを、同じやはり薄い茶色で縁取っていて意匠が非常に細やかだ。これほどの細工を下着に使うとは非常に贅沢だ。結菜はあちらの世界の貴族か何かなのだろうか。

しかも。

「ユイナ、これは何ですか?」

「え」

ジーノがもぞもぞとパッドの裏から何かを取り出した。

それを見た途端、かあ……と結菜の頬が赤く染まる。……何か、羞恥を煽るようなものだったらしい。

「や、それは……ちょっと、それ、待って返してもうあああああああ」

暴れる結菜を無視して、ジーノはそれを取り出し、ふにふにと指で揉んでみた。弾力は柔らかい。中にとろみのある液体か何かが入っているようだ。……入っていた場所と身に付けたときの位置関係、そしてこの揉んだときの手触りから察するに。

ジーノはあくまでも無表情で結菜を眺める。

「……ユイナ……」

結菜の顔は赤く染まったままだ。ジーノが手に取ったのは、下着に付いていたジェルパッドだ。下から押し上げるような、バストアップ効果がある。ジェルが入っているためさわり心地が本物に近く、形も自然。脇から寄せ、下から押し上げてトップにボリュームを持たせ自然な谷間を作る今日の下着は、柄も可愛いしお気に入りのものだ。ジェルパッドはそのバストアップ効果を如何なく発揮するための付属品で、無くてはならない大切なアイテムである。それをさっきまで結菜の身体を堪能していた男が、じっくりと観察している。

「……ちょ、いいじゃない別に、寄せて持ち上げるのは女の夢なのよ、返してよ高いんだからこのタイプ、ジーノ、もう何なのよ!」

「……別に私は何も言っていませんよ」

「顔で言ってる……!」

うにー……と結菜はジーノのほっぺたを引っ張った。無表情の口元が、ふにい……と歪むが別段それを気に留める風でもなく、結菜の手をそっとどかせる。

「なるほど、寄せて持ち上げるものですか。これはこれで興味深い」

「なるほどじゃない!」

ジーノは暴れる結菜に圧し掛かるのを止めて、後ろから回りこんで、きゅ……と腕の中に抱き込んだ。腕を回して胸に触れると、途端に、うぁん……と声を上げて、結菜の身体が反応する。

「しかし、なぜ、触り心地まで再現する必要が?」

ジーノは結菜の実物とパッドと交互に触りながら弾力を確認している。

「だ、て、全然ち、違ったら付け心地よくないじゃない。……ジーノ、変な風にさわ、……んっ……」

「ああ、付け心地。……付けている状態で触り心地を楽しむためかと思いました」

ふ……と息を吐いて、本格的に胸を触り始める。ジーノは結菜の耳元をぺろりと舐めて呼気を吹きかけながら、掠れた声でささやく。

「ユイナ、別に私は大きさなど気にしませんよ?」

「大きさって言った。今ジーノ、大きさって言った!!」

ふにふにと胸を揉むと、手のひらに吸い付いて形を変える。胸がやたら大きいよりは、結菜くらいの大きさのほうがジーノは好みだ。丁度よい弾力と形が、実に心地よい。

「……この位の方が、私の手には丁度いいですし、それに……」

「あ……っ」

ぴくん……と結菜の声が甘くなる。ジーノの指が、意地悪く結菜の胸の切っ先を引っかいた。

「感度がいい」

「……ちょ、っと、もう、さっき散々……!」

「ユイナ、……次会えるのはいつですか?」

ジーノは戯れるのを止めて、結菜の耳元に唇を寄せる。

「……は、え……?、次?」

「ええ」

もちろん、このままずっと居てもらってもかまわない。むしろそうしてしまいたいくらいだが、異世界に閉じ込めて心を閉ざされるのは本意ではない。出来れば結菜が自ら進んで、ジーノの手元に留まって欲しい。それでこそ、本当に結菜がジーノのものになるのだ。

「今日が土曜の朝、だから…………一週間後の今頃……かな?」

「イッシュウカン?」

金曜日の夜に落ちて、一晩過ごして今は朝だ。時間の流れは向こうと変わらない様子だったから、一週間後が次の土日になるだろう。仕事が休みの結菜は、予定も何も入れていない。早ければ金曜日の夜に会えるはずだ。

「7日……あ、やっぱり6日間後……の、私がこっちに来たくらいの時間なら……多分……」

「……では、今はいつまで、一緒にいられますか?」

「あ、したの……夜までは……」

きゅ……と結菜がジーノの腕を掴む。背中に触れているジーノの裸の胸は温かくて、髪に感じる吐息が心地よくて、離れるのがなんだか心細くなる。

……こうして期間を区切ると、途端にその瞬間がリアルに感じられた。さっきだって会える時間を心の中で計算して、土曜日の朝……ではなく金曜日の夜……と言ってしまったのだ。結菜はため息を吐く。いつ会える? いつまで一緒にいられる? その質問に一生懸命計算して答えてしまう。この胸が痛む切ない感覚を何と呼ぶか、結菜は知っている。

自分を掴む結菜の力を感じたジーノも、また腕の力を強くした。

「……分かりました」

では、それまでは。

……結菜の全てはジーノのもの。

****

こうして、結菜は7日ごとに異世界のジーノと共に過ごすようになった。なってしまった。

以後、インテリ眼鏡の魔法使いは、着実に結菜包囲網を狭めていくのである。

その手管は道具だけにあらず。ある時は、リュチアーノ王国で流行の甘味処に結菜と共に現れたところ、たまたま居合わせた甘いもの好きの騎士団長に発見されて驚愕され、それをそ知らぬ顔で無視したり。またある時は、男が絶対に入らなさそうな愛らしい小物ばかり置いてある店に結菜を連れて堂々と訪ね、無表情で品物を選んでいるところを同僚の魔法使いに発見されて、翌日には国王の耳に入っていたり。

……あるいは、ジーノが結菜の世界に足を踏み入れたり。

そんな風に過ごしながら、いずれ結菜はリュチアーノの住人になるのだが、今はまだこれから……といった2人だった。

ジーノは再び結菜を堪能した後、風呂などを一緒に楽しみながら結菜の身体を愛でている。

「後で、試作品も試してみましょう」

「やっぱりそっちか!」

じたばたと暴れる愛しい女の首筋に顔を埋めて香りを楽しむ。この時ジーノの無表情を知る者が見れば、それこそ天変地異の前触れかと思う程の……とろけるような笑みを浮かべていたのだが……幸いなことに、誰も知らない。