広い寝台の上で結菜は目を覚ました。
自分の部屋ではない部屋と、自分の香りではない香りは、ジーノの寝台の上だ。
「ん、ジーノ……」
だがジーノはいない。いつもならば必ず目が覚めたら結菜のそばにいて、結菜の身体を抱き締めているはずの男はどこにもいなかった。
広い寝台に1人は少し寂しい。もそもそと結菜は起き上がると、傍らに置いてあった水差しからマグカップに水を注いで飲み、改めてきょろきょろと部屋の中を見渡した。
「ジーノ?」
ジーノに見方を教えてもらった時計を見てみると、時間はまだ朝早いようだ。いつもなら絶対寝ているだろう時間である。
寝台をぺたぺたと触ってみると結菜のいたところ以外は冷たくなっている。ジーノはいつからいなかったのだろう。全然分からなかった。
しかし全然分からなかったといえば……。
「あれ、私、もしかして……」
もしかして途中で寝てた?
唐突に重大なことに気が付いた結菜は、起こした身体を再びぼふんと寝台に沈めた。うんと考えたが、どうにも昨日の夜の記憶が途切れている。ジーノと一緒に冊子を見ていたが途中で眠くなり、ジーノに眠いかと聞かれた覚えが確かにあった。折角会えた日なのに眠るなんてもったいない、以前も召喚された時に眠ってしまっていたし、ジーノに呆れられるのも嫌で、眠くないと訴えたのだ。
だが、ジーノが激しくなく抱き寄せる手は、ふかふかの毛布よりも心地が良くて、おまけに触る手もいつもみたいに激しくなくて、まるでマッサージされてるみたいに気持ちよくなったのだ。
で、途中で寝たと。
「うっそ……」
セックスの途中で寝るとか……男のジーノはどう思っただろう。しかし違うのだ。断じて違うのだ。したくないとか、気持ちよくなかったとか、そういうので寝てしまったのではなくて、ジーノの腕があんまり気持ちいいから……。
「ジーノ……どこだろ」
もう一度ありもしないジーノの姿を探す。こちらの世界に来たとき以外はいつも1人寝のはずなのに、今1人にされるのは我慢できないくらい寂しい。
もしかして、途中で寝てしまった結菜に呆れてしまったのだろうか。飽きちゃったとか、よくなかったとか……。
寝起きだからだろうか。思考がどんどん負の方向に偏ってしまうのは、結菜らしくはなかった。しかし、寝る前に見た冊子の内容まで頭に浮かんできてしまい、もしかして本当にトレーニングしたりした方がいいのだろうかと本気で悩む。
おまけにここまで悩んでいても、まだジーノは戻ってこない。……ということは、ちょっと席を立ったとかでもなさそうだ。クマノヌイグルミを上掛の中に引き込んでぎゅっと抱き締め、息を潜めて外の気配を伺ってみたりもしたが、足音の1つも聞こえない。
……と、思っていたのだが。
パタンパタンと誰かが扉の外を歩いている。それはちゃんと部屋の前で停まり、ノックをすることなくがちゃりと扉を開けた。
ジーノだ。
灰色の髪がちらりと見えて、なぜか結菜は慌てて目を閉じた。起きてうじうじ悩んでいたなんて、知られたくない。
「ユイナ……」
ささやくような声が近付いて、ぎしりと寝台の片方が沈む。温かな吐息が近付いて、横向きの結菜の頬にその囁きが口づけた。そのままこちょこちょと唇が耳元や頬をくすぐっていたが、やがてそっと上掛を捲った気配がして、結菜の隣にジーノが潜り込んできた。
「またクマノヌイグルミですか、邪魔です」
むすっとした声が聞こえて、結菜の抱えていたクマノヌイグルミが引っ張り出された。結菜がおとなしく腕を緩めると、失ったふかふかの体積のかわりにジーノの身体が滑り込んでくる。
コトンと何か音が聞こえた後、結菜の身体に腕が回った。
結菜はなんだか泣きたくなる。
さっきまでつまらないことを考えていたのが馬鹿みたいだ。
ジーノの吐息が規則正しいものになる前に、結菜はジーノの服を掴んでぐいぐいと頭を押し付けた。
「起こしてしまいましたか?」
「ちがう。起きてた」
「ユイナ?」
甘えてくる結菜を不思議に思う風な声が聞こえたが、ジーノはもちろん咎める事無く結菜の頭を撫でてくれる。
「どうかしましたか?」
「どうもしない」
言いながらも、結菜はぐいぐい押してくるのを止めない。何か言いたい事がある気配を感じ取ったのか、ジーノの長い指がうなじをくすぐって無言の問いかけをした。いつまでもそこをくすぐるものだから、結菜も根負けしてぼそぼそと言葉を紡ぐ。
「どこ行ってたの?」
「ん?」
「起きたらジーノ、いなかったから」
それを聞いたジーノが、心地よく細まっていた瞳をほんの僅かに見開いた。表情が無いと言われがちだが、結菜といるときだけは僅かに、本当に僅かだが表情が動く。それは目元だったり口元だったり様々だが、ジーノ自身はもちろん気が付いていない。
結菜はジーノの腕の中でその灰色の瞳を見上げた。硝子の向こうのジーノの瞳は、じいっと結菜を見つめていて、表情は読めなくてもいつもなぜか安心できるのだ。でも、今は少しだけ不安だった。呆れられてたりしたらどうしよう。そんな思いがむずむずと沸き上がって、またジーノの胸に潜り込んでしまう。
「ユイナ」
「ジーノ、呆れてない?」
「何をですか?」
「その、途中で」
「途中で?」
「ね、寝ちゃって、て」
それを聞いたジーノの吐息が、ふっと結菜の髪を揺らした。ジーノの手が結菜の頬を探り当て、潜り込んでしまった顔をこちらに向けさせる。
相変わらず表情を見せない顔で結菜を見返し、少し首を傾げていた。
「呆れていません。呆れる要素が見当たりませんし」
「ほんとに?」
「ええ。むしろ、眠いユイナに無理矢理挿れた私が呆れられたかと思いました」
「い、挿れたって……!」
「気付いていませんでしたか?」
本人にとっては真面目に事実だけを言っているに過ぎないのだろう、 ジーノは時々とてもあけすけだ。そんなジーノに結菜は顔を熱くして「いや、なんとなく覚えてました……」と消え入りそうな声で言う。
「そうですか、それはよかった」
瞼に唇を寄せてきたジーノの様子は、どうやら呆れていないようだ。もちろん結菜自身もジーノのことを呆れていない。ほっと安心して、今度こそ甘える気分でジーノに抱きついた。
「ジーノ、それじゃあどこ行ってたの?」
「……」
今度は珍しく言葉に詰まったようだ。何をしていたのかいよいよ怪しく、ジーノの顔を覗き込む。
言葉に詰まったかと思ったが、相変わらずの無表情だ。結菜が言葉を待っていると、ちゅ、ちゅ……と頬から耳元に吸い付いてきた。そして口元が耳元に到着した時に、囁かれる。
「作っていました」
「あ、え、な、何を」
耳に感じる呼気に結菜が肩を震わせていると、ジーノがサイドテーブルに腕を伸ばした。
ただ結菜の質問には答えてくれずに、戻した腕に何かを持ったまま抱き寄せている身体をまさぐり始める。
「ん、ちょっとジーノ……?」
「これを」
「あ」
急に腰のまるみに沿って、何かが押し付けられた。微妙な硬度で一瞬ジーノの身体の一部かと思ったが、それとは違ってあまり生々しい感じはしないし、少し小さい。
もちろん思い当たる物体は1つある。その思い当たる物体の名前を口にしようと少し身体を離すと、向き合ったジーノの手が結菜の正面に素早く陣取る。
もう片方のジーノの手が結菜を引き寄せて抱えると、近付いた距離に任せて、その物体が結菜の足と足の間を擦った。
「ジーノ、や」
「今度は形を直しました」
「ジーノ、ま、まって」
「ユイナの持ってきたあの紙にあったように、色も変えてみたのです。一晩かかりましたが、我ながら良い出来かと思います」
く……と、それほど強くはなく押し付けられた。下着の上から裂け目に沿って、ゆっくりと動かされる。されている感触よりもされている行為に胸がどきどきと脈打ち、抵抗するようにジーノの胸を押した。
「ジーノ、や、だ」
「ユイナ、試してみても?」
ジーノはおとなしく道具を離して、顔を真っ赤にしている結菜を覗き込んだ。真っ直ぐな灰色の瞳はいつもよりも熱く見えて、このまま見ていると逆らえないと思って思わず背中を向ける。
けれど分かっている、どうしたって逃れられないはずだ。ジーノは黙り込んだ結菜を後ろから抱き締めて、ため息を吐くように囁いた。
「貴女に試してみたい。……ユイナ、痛かったら、すぐに止めますから」
「や」
「ユイナ……恥ずかしいのですか? 顔が赤い」
恥ずかしいのに決まっている。んぅーと喉からうなり声を発して、結菜は枕に顔を埋めた。恥ずかしいのは当たり前、当たり前なのだが……。しかし心のどこかで、それ以上の「期待」もあって、それが分かるからこそ恥ずかしい。その証拠に、ジーノの声が耳元の空気を震わせるだけで下腹から何かが、痛いほどにこみ上げてくる。恥ずかしいけれど触れる手が恋しく、道具なんて使わないで欲しいのに、それをジーノが期待するならば……と思ってしまうのだ。
だがまだ身体の力の抜けない結菜をなだめるように、ジーノの唇がうなじを這い始めた。時折ぺろりと柔らかい舌が濡らし、軽く歯が立てられて、その度に結菜の身体が反応する。
「恥ずかしいなら、恥ずかしくないようにしましょうか?」
「……っえ」
どういう意味か、問う前にジーノの手が結菜の顔を覆った。思わず目を閉じるとふわふわしていた視界が完全に閉ざされて、ジーノの香りが近くなる。
「ちょっと、ジー、ノ」
ジーノの手だけかと思ったら、さらに何か布のようなものが目に当てられた。「目を閉じて」と言われて何かが頭の後ろに回されて、きゅ……と軽く締め付けられる。
目隠しだ、と思った時には遅い。ジーノは素早く結菜に覆い被さると、着ているノースリーブのワンピースをたくし上げた。夜の部屋着用にと持ってきたもので、心許ないそれは頭から抜かれてしまう。
素肌にジーノの着ている服がかさりと触れて、自分だけが裸だとさらに恥ずかしくなる。
「これだと恥ずかしくないでしょう、ユイナ」
「や、だ」
「これならば、私が貴女のどこを見ているのか、どこに触れるのか、貴女には分からない」
ねっとりとした熱い息が首筋に掛かったかと思うと、そのまま耳をしゃぶられる。抵抗しようとしたのか、背中に回そうとしたのか、自分でもよく分からず彷徨った片方の手は指同士を絡めて寝台に押し付けられた。結菜のもう片方の手はジーノの髪の毛を弱々しく引っ張り、ジーノの片方の手はそれを気にせずに道具を持ったまま下半身へと下ろされる。
つう……とジーノの指が太ももをなぞったが、肝心のところには触れずにそのまま上に戻ってきて、結菜の胸に触れ始める。
脇腹からこねるように胸の片方を揉まれて、ジーノの手が弾力を楽しんでいる。その間もずっと唇は結菜の耳や首筋を味わっていて、少しずつ結菜の身体から力が抜けていった。
「ユイナ、可愛い。こんなにして」
どこがどんな風になっているのか、結菜が理解する前にジーノの髪が肌をくすぐって、どうやら唇が胸に吸い付いた。
「んっ、……あ」
急な刺激に結菜の身体がぴくりと反応する。舐める舌の引っかかりから、自分の胸がもっと欲しいとでもいうようにツンと硬くなっているのが分かった。しびれるような細い刺激が、水が流れていくように下半身へと広がっていく。自分の身体はこんな風に反応するものだっただろうか。以前のことなんて思い出せないほど、ジーノの動きばかりを考える。
下着に指が掛かり、両脇を結んでいる紐が解かれる。
「やだぁ」
「ええ。でも少し我慢してくださいユイナ。これが入るくらいまで」
見えないからだろうか。ジーノの手が次にどこに触れようとするのか想像がつかず、いつも以上に素肌を這う感触を探ってしまう。ジーノの指や唇の動きに神経が集中してしまい、身体の奥が、覚えた快楽を先回りして捉える。
もう何も纏っていない結菜の足と足の間に、ジーノの指が届いた。秘所の小さく膨れた箇所を、くにゅ……と軽く指で押されて、くるくると撫でられた。
「んん……」
「ああ、濡れてきている」
見えなくてもジーノの指が感じられて、言われなくても分かった。もじもじと足を閉じようとするが指は退かずに、一度ぬるりと入り込む。途端に結菜が甘い声をあげた。足を閉じていたからか、腰が締まって余計に感覚が際立つ。
「入れてみますよ、ユイナ」
「や、あ、待っ、て」
「では、触れるだけ」
ジーノの指と体温が離れて、すぐに戻ってきた。何が始まるかは分かっている。けれど視界が塞がれているのは不安で、いやいやを繰り返した。
「ユイナ」
「ん、つめた!」
だが結菜の懇願に反して、急にひやりとしたものが足の付け根に触れた。結菜の開きかけた足がパタンと閉じると、その「何か」はすぐに離されて、ふうむ……とジーノが唸る。
「冷たかったのですね。……確かに、人肌程度の方がいい」
「ジーノ……」
「これでいいでしょう」
「ふ……あ!」
しばらくしてから、今度は少し温かくなったものが当てられる。ぬる、ぬる……と裂け目に沿って上下し、挿入しないまま幾度かそれが繰り返された。ジーノの舌でもなければ指でもない、ジーノ自身でもない、その道具が上下する度に結菜の腰が浮き上がって揺れてしまう。
「ジーノ、見えない、やだ」
「ユイナ、でも恥ずかしくないでしょう」
「は、ずかしいよぅ……」
淡々とした声が意地悪に聞こえる。結菜が手を伸ばすとジーノの体温が近付いてきて、しがみつくように引き寄せる。応じるようにジーノの片方の手は結菜の背中に回ってくれたが、もう片方の手は道具を持ったまま、結菜を刺激するのを止めない。
く……とジーノの腕の力と向きが変わって、じわじわと何かが身体の奥に入り込んだ。
「んっ」
「入りました」
ゆっくりと入ってきたそれに膣内をずるりと擦られて、すぐに引き抜かれる。「大きさは大丈夫でしたね」という声が聞こえて、浅い箇所を幾度か撫でるように出入りした。
「では、これを」
「なに」
何するのか分からないまま結菜はおろおろと頭を振ったが、ジーノの身体ごと押さえつけられている。今度は先ほど挿入されたものよりもっと細い何かが、ちょうど結菜の秘部の上、小さな蕾のような部分に当てられた。
それが、急に細やかな振動を始める。
「あ、あああ!! やぁ!」
一度ジーノに指で刺激されていたその部分はすぐに反応して、無理矢理引き上げられるような容赦の無い愉悦が這い上った。この感覚には覚えがある。最初にジーノと会った時、使われたバイブの機能の1つだ。小さな突起が振動して、鋭くて強い刺激を与えられた、あの時と同じようにあっという間に登り詰めさせられる。
「い、やぁ、無理……!」
「ユイナ、やはりこれは刺激が強いようですね……あとでもう少し弱くして試しましょう」
それ以上はジーノも虐める気がなかったらしく、すぐに退いた。軽くなった体重に、はふ……と結菜がため息を吐くと、温かいジーノの身体に包み込まれたのを感じた。抱き締められたようだ。
あんなことをされて恥ずかしいのに、ジーノにこんな風にされると安心してしまう。結菜は目隠しを取る事も忘れて、懸命にジーノにすがりついた。
「ジーノ」
「はい」
「もう、や」
「……ダメです」
「え?」
「もう、少しだけ」
道具を試させて欲しいという意味にはとても聞こえないほど、甘い声で囁かれてしまった。それだけでほわりと身体の力が抜けてしまい、その隙を見計らったようにジーノの腕が結菜の足の片方を開かせる。
「あ、」
足と足の間に身体を割り込ませ、互いの上半身は密着したまま、ジーノの手が潜り込んできた。
「あ、あ」
くつくつと中に入ってくる何か。それはジーノが作った「バイブ」を模したものだ。王様に献上するための試作品のはずで、それがいつもはジーノと繋がる部分にぬるりと挿入される。
ジーノが入ってくるときはいつもきつくて自分の襞が押し返すのが分かるが、それはあまりにもするんと入り込んだ。握っているジーノの指と小さな突起が結菜の足の付け根に触れて、これがバイブが一番奥まで入った状態だと分かる。
分かった途端、うねうねと中で動き始めた。
「……は、う」
「ユイナ……腰が」
まるでしている時のように、結菜の腰が揺らぎ始める。そのうねうねとした動きは、ちょうどジーノの指が結菜の中を探るときの動きによく似ている。だが、それよりは太くて一定の、機械的な刺激だ。いつもは触れてくれる結菜の好い場所に、それは触れてくれない。
「あ、ん、ジーノ……やだ、これ……い、や」
「嫌? 」
ならばと、うねりはそのままに、ゆっくりと抽送を始めた。弱々しく膣内をさすりながら引き抜かれ、花芽を擦っては奥へと戻って行く。しかし、それはやはり決定的な部分にはまったく触れてくれない。
「や、だ……って」
「こんなに濡らしているのに?」
「ちが、の」
引き抜く度に愛液でねとねとになったそれを見て、ジーノは言っているのだろう。だが違う。刺激が強すぎて嫌なのではない。羞恥で嫌と言っているわけではない。
「ジーノぉ……」
結菜がジーノの腰を引き寄せるように掴む。近くなった結菜の顔がジーノの頬に触れ、触れるままに唇を寄せた。
「ユイナ、どうしました。何が嫌なのですか?」
「や、ジーノ、が」
「ユイナ?」
「足りな、の」
「足りない?」
ジーノが問うている間も、結菜の中でバイブはうにゅんと動いている。確かにそれは結菜の身体に愉悦をもたらしているのだが、ジーノの指のように自在には動かないし、ジーノの知っている場所とはほんの僅かにずれた場所に触れてくるし、そして、ジーノがいつも届いている場所には到底届かなかった。
つまり全然足りない。
目の前にはジーノがいる。ジーノの体温も匂いも声も何もかもそばにあるのに、全然満たされない。欲しくてたまらない。
「ジーノ、が」
「私が?」
「ジーノ、が、足りない、の、欲しいよぅ……」
ジーノ、ジーノ……と懇願する言葉は喘ぐ吐息に変わり始めた。最初はあった抵抗も、あっという間に意味を為さなくなっている。それほど激しく攻めたわけではないのに……。
結菜の愛らしい言葉に、ジーノの理性が一気に振り切れる。
「……ユイナっ」
ぬるりと結菜からバイブが引き抜かれ、ジーノが身体を外した。微かな衣擦れの音がして、すぐに男の身体が戻ってくる。結菜の身体にジーノの肌が直接触れる。ジーノが服を脱いだのだろう。
「私も貴女が足りない」
「ジーノ……はや、く」
「は……ユイナ」
先端が結菜に触れて軽く粘ついた音をたて、それは一気に、ぐ……と入ってきた。結菜の蜜が押し出されて溢れ、触れ合ったジーノの身体にそれが移る。
「あ、あつ、い……」
「ええ、そうですね、やはりここに入るのは……私だけがいい、ユイナ」
少し引き抜くと、結合部にまとわりついた蜜液がねちゃりと音を立てた。引き抜いた分を奥に戻すと、結菜の仰け反った喉が震えて、小さく愛らしい声があがる。
ジーノはきつめに結菜を抱いて、押し付けるように腰を動かし始めた。結菜もその呼吸に合わせて腰を揺らす。
ぎ、ぎ……とその度に寝台のスプリングが音を立て、2人の息もそれに合わせて熱を帯びて吐き出される。しばらくは喘ぐ声すらも出せずに、互いの呼吸音と寝台がきしむ音だけが聞こえた。縛り付けられたようにぴったりと重なり合った2人の身体が、決して激しい動きではなく、しかし重く深い動きを続けている。
どれだけの間そうしていただろうか。
結菜がぷるりと身体を震わせて、ジーノの眉間に少しだけ皺が寄った。それを1度、2度繰り返した後、ジーノと結菜は繋がったまま身体を起こす。
ジーノが結菜の目隠しを取ってくれた。急いたような灰色の視線にぶつかって、思わず結菜の方から唇を寄せる。
「ふ……ユイ、ナ」
「んん……」
結菜は吐息でジーノの呼びかけに答えて、絡めていた舌をもう一度離して再び舐め合った。ジーノの首に腕を回して、欲しい気持ちを身体で伝える。
何が欲しいのかとか、どうして欲しいのかとか、そんな意地悪なことをジーノは聞かない。ジーノは少しだけ腰を引くと、まだ繋がり合っているすぐ上の、敏感な蕾をくにゅりと指で押した。
途端に、きゅんと締め付けられた。はふ、……と唇を外した結菜が、潤んだ瞳でジーノを見上げている。
堪らなかった。
結菜を悦ばせたくて、感じさせたくて、それ以上に自分を欲して欲しいとジーノの胸が騒ぐ。
ジーノは傍らに置いてあったバイブを掴むと、小さな突起を振動させ始めた。
「ユイナ……」
そして先ほどまで指で押していた場所に、それを軽く当てる。途端に結菜が悲鳴のような嬌声を上げてジーノの肩をぎゅっと掴んだ。
「あああ!!……や、だめ、それ……あ、あ!」
「は、あ……くっ、ユイナ、これは」
細かな愉悦に何度も襲われた結菜は、ぷるぷると頭を振ってジーノに身体を預けてきた。びくびくと何度も腰が震えて、小刻みにジーノに押し付けられる。ジーノを締め付けている内奥は、吸い付いて奥へ引っ張り込むように、柔らかくきつく脈動していた。
これはいけない。一気に持っていかれてしまう。
ジーノはバイブを放り出すと、互いの身体だけで感じ合う事を選んだ。互いに向き合って座った姿勢のまま、ジーノの鎖骨に額を預ける結菜の頭を抱え、激しく動かし始める。
柔らかくて温かい場所がきつくジーノを咥え込んでいて、なんと表現すればいいのか分からない。頭がおかしくなりそうだ。
「はげし、ジーノ……!」
「ユイナ、ああ……貴女は」
ジーノの動きに合わせて結菜の身体が弾むように揺れる。触れ合った胸の柔らかさも揺れていて、その揺れがジーノの肌にも伝わってくる。
繋がり合っている部分はほんの僅かなはずなのに、身体の全てが飲み込まれ、重なり合っているようだとジーノは思う。単に自身の欲が擦られているからだけではない。結菜の愉悦が伝わってくるからこそ、己が心地よくなるのが堪らなく愛おしい。
「や、ん、ジーノ、も、う、だめぇ……」
「ええ、私も……っ、ユイナ」
一番奥で重なり合った気がして、一際結菜の膣内がひくついた。ジーノもまたそこへと己を吐き出して、結菜とジーノの液を混ぜるようにぐちゃぐちゃと動く。
ひとしきりそうやって吐精の余韻を味わって、結菜の身体を抱き締める腕の力を緩めた。もぞもぞと身じろぎをした結菜がジーノに擦り寄ってくる感触を楽しむためだ。
案の定、ジーノの肌に頬を寄せてきた結菜の背中を抱えてやって、2人寝台に転がった。動いた拍子にずるりと抜けてしまい、その埋め合わせをするように互いに互いの身体に甘える。
「ジーノ、すき」
「ユイナ?」
「やっぱりすき、ジーノ」
初めて聞いたかもしれない言葉だった。
自分の手が強引であったことも、最初があんな風であったことも、ジーノは正しく理解している。今でこそ、ジーノとジーノの召喚を受け入れてくれる結菜だが、全て己の独りよがりなのではないかという懸念は心の奥に常にあった。
その不安が内省と感謝へ変わっていく。
「私も好きですよ、ユイナ、誰よりも愛しています」
ジーノもまたそれを口にすると、結菜が瞳を丸くして、何故だか顔を真っ赤にした。
「じ、ジーノ、ストレートすぎ!」
「ストレーとスギ?」
「いやなんか、ちが、ちがう。正直ってこと」
「それなら貴女もストレー? ではありませんか。いつもそうであると嬉しいのですが」
「日本人は慎み深いの」
「なら、今の言葉を大事に覚えておきましょう」
そう言って、ジーノは結菜の心地よい身体を抱き締めた。どんな寝台よりも温かく安らいで、それなのに強い独占欲や滅茶苦茶にしたいという支配欲が湧く、世にも不思議な場所だ。
ジーノがそんな思いを抱く女は、結菜ただ1人だろう。こんな風に己を反応させる女は他にいない。
そのたった1人を、ジーノは心いくまで腕に閉じ込めた。
****
バイブを綺麗に洗ったジーノは、それを持って結菜の隣に潜り込んだ。今度は何かするつもりはなく、昨晩2人して冊子を見たときのような気軽さで、作った試作品を眺める。
「つまり、少し小さかったと、そういうわけですか?」
「そんなはっきり言わないで!」
「貴女の身体を傷つけたくなくて、以前のものよりも小さくしました。それがよかったようですね」
「よ、よかったって……」
「貴女が私を欲しいと言ってくれたでしょう?」
「それは……! だって」
寝台の中で朝寝坊を楽しみながらの反省会である。主に、出来る限り冷静にと思っていたにも関わらず、ちっとも冷静ではいられなかったジーノの。
そうは言ってもジーノは充分冷静だったと結菜は思っているが。
「だって……? 何ですか」
「だって」
顔を真っ赤にした結菜は、何かしらモゴモゴと言いながら上掛けに潜り込んだ。
「だって、全然、物足りなかったから……」
「もう少し大きい方がよかったということですか?」
「違う、やだ!」
がばっと顔を上げて、結菜が力一杯頭を振った。少し首を傾げたジーノの眼鏡の奥が心持ち柔らかな眼差しになったのを感じる。口元は相変わらずにこりともしないまま、長い指が結菜の髪に伸びてきて一房掬う。
「何が嫌なのですか?」
クマノヌイグルミを引き寄せようと転がった結菜を捕まえて、冷静な声で質問をする。無表情だから何を考えているか分からないなんて嘘だ。無表情だからこそ、嘘偽りを感じない。
だから結菜も嘘を言う気になれない。
「ジーノのが一番好い。……一番満たされるの」
「ああ」
お互いの匂いにふわりと包み込まれる。気持ちいいな……とうっとりしていると、ジーノが真面目な声でこう言った。
「そうですね。私も貴女の中が一番満たされる。……すっかり私の形になって」
「は?」
「貴女の中は、私の形になっていますよ。時々動かせないほど」
「う、うそ、そういうものなの?」
「ええ、そういうものです。もう一度試しますか?」
「だ、ってさっき、したとこ!」
むう……と見上げた結菜に向かって、ジーノが、そうですね……と、小さく笑った。
その表情を見て、わあ……と結菜が目を見張る。胸がきゅんと鳴った気がした。
心臓が小さくなったように感じて、それなのにドキドキする。そんな持て余し気味の鼓動を抱えて、ジーノの腕に潜り込んだ。
「どうかしたのですか?」と、ジーノが結菜のつむじに額を載せてくる。何でもないと慌てて否定すると、ほう、と熱い息を感じた。
「ジーノ?」
「ユイナ、少し眠いですね……昨夜は一晩中それを作っていて……」
ああふ、……と感じたのは、どうやらジーノの欠伸のようだ。当たり前だけど、ジーノも欠伸なんてするんだと嬉しくなって、くふりと笑う。
「じゃあ、二度寝しよう」
「ええ、ユイナ……」
鼓動を重ねていると、互いにすぐに眠気に誘われる。くすぐったいその感覚に、安心すると同時に胸が締め付けられるようにも感じられた。
珍しいジーノの笑顔も欠伸もすぐに消えてしまったが、結菜の甘く狭くなった心はなかなか元には戻らなかった。