カランコローン!
「おめでとうございます! 温泉旅館ペア宿泊券です!!」
「ああん?」
日本古来より、くじ引きなるものに一等賞が出た時に鳴らすという特別な鐘の音が鳴り響いた。
夕方を少し過ぎた平日の商店街には、帰宅途中のサラリーマンや、大学生風の若者、制服を着た高校生に買い物帰りのOLや、買い物忘れの主婦など、年代も性別も多種多様な人たちが歩いている。彼らは歩く道すがら、商店街の中央に設置されたくじ引きコーナーに佇む男に視線を送った。
男は大柄で、服を着ていても筋肉質な様子がよく分かる。ジャケットは着ているが無造作に腕まくりをしてどこか気だるげに着こなし、細身のネクタイは面倒臭げに緩められていた。仕事帰りのサラリーマンにも見えないが、さりとていかがわしい職業のものにも思えず、不思議な雰囲気を纏っている。
だが、声をかけづらいとか、そういう風には見えないらしい。くじ引き待ちで男の後ろに並んでいたおじさんは「よう、兄ちゃんよくやったなあ!」などと肩を叩き、その後ろに並んでいたおばさんは「あらまあ! 本当に一等賞って入っていたのね!」などと好き勝手なことを言っている。
それもまあ、致し方のないことで、ハロウィンの催しものとして商店街で行われていたくじ引きは、休日二日間とハロウィンの当日、そしてハロウィンの翌日の今日、ずっと行われていたにもかかわらず、一等賞の温泉旅館を誰も当てていなかったのだ。
男は困ったように頭をガシガシと掻いていたが、宿泊券の入った熨斗袋を見つめ、やがて受け取った。
「ちょっとした土産のつもりだったのに、とんでもねえもんがおまけにくっついちまったな」
男は片方の手に持った和菓子屋の袋に、温泉旅館の熨斗袋を突っ込んだ。
****
「よーう、八丈、お前水希の嬢ちゃんと温泉行くんだって?」
「なんで知ってるんだよ」
「秦野が通りすがりに見たんだってよ、カランカラーンって鐘が鳴ったから振り向いたら見知った顔がいたんですよー!ってな」
「あの狐小僧……」
「んで温泉かあ? なんだ、刑部の爺にでも案内してもらうか?」
「刑部の爺がいるところは遠すぎるだろ。近場だ近場」
週末、仕事を終わらせた八丈は事務所に帰ってきて早々、不機嫌な声で答える羽目になった。事務所の奥ではシックなスリーピースのスーツを着こなした長い白ひげの老紳士……貴船が、二人の会話を聞いて小さく笑い、日本茶を啜っている。
事務所の応接セットでは袈裟を着た中年和尚が新聞を読んでいる。八丈をからかったのはこの和尚の声だ。ちなみに和尚にはちゃんと自分がお勤めする寺があるので、この事務所に出入りするのは単に遊びに来ているだけだ。
そんな貴船や和尚が八丈をやんやと構う話題は、先日商店街のくじ引きで当てた温泉旅館の宿泊券だった。
八丈は人に化けて地上に顕現したあとは、水希の恋人……伴侶として人としての生活を送っている。そうして人の世の金を稼ぐため、貴船の仕事を手伝っているのだ。貴船の仕事……とは、この辺り一帯の妖怪や精霊たちの元締めのことである。元締めというと一見堅気の仕事には聞こえないが、要はうっかり人間になってしまった精霊たちに仕事を斡旋してやったり、人間の世に出てきたはいいがうまく馴染めず、悪さをしてしまう妖怪をなだめたりとか……やはり堅気とは言えない仕事だった。
何十年か、何百年かに一度、気まぐれに姿を現しても、結局は酒を飲んで少しの間街をうろうろするだけだった八丈には、人間どもの暮らしを知ってはいるものの慣れているわけではない。その最たるものの一つが、先日のハロウィンとやらで、あの日は東西を問わず妖怪やら不思議やらがなぜか日本に集まった。さらに神とされるものが一箇所に集まって慰安の会合を開いているため、そうでない場所の妖の力が強くなる。それらの始末をつけるために、八丈や貴船は大忙しだったのだ。
しかも神無月最後の日は真の姿を現しても人間にバレないという噂が昨今、流れつつあって、とくに神気や妖気の強いこの辺りは居心地がいいのか、奇妙なものたちがよく集まっていた。商店街を歩いていた仮装の何人かには本物が混じっていたはずだ。大体が良きものか、単に好奇心があるものばかりなのだが、中には悪さをするものもある。つまりは、そういうものを懲らしめたり、それら同士の喧嘩を仲介するのが仕事なのだが、これがなかなか骨の折れるのだった。神通力だけでどうにかしてしまっていいものではない。何しろここは人間の住まう界なのだから、ある程度は人間のルールに従わねばならない。
そういうわけだから、せっかくの「ハロウィン」だというのに仕事が忙しく、水希との時間を持てていなかった。
ハロウィンが終わった翌日のことである。八丈は一緒に暮らしている水希に甘いものの一つでも土産に買って帰ろうと立ち寄った和菓子屋で、一回分のくじ引き券をもらった。せっかくなので引いてみたら、温泉旅館を当ててしまったのだ。
水希に言うと、やたら嬉しそうにはしゃいで、早速予定を空けて予約を入れていた。八丈とて、愛しい嫁と二人きりで温泉を楽しむのが、楽しみでないはずがない。
想像すると頬が緩む。
「そういうわけだから、貴船、俺は三日ほど休ませてもらうぞ」
「おや、三日ですか? なるほど。ごゆっくり」
「いいなあ、儂も行きたい。土産買ってこいよ八丈、土産!」
「うるせえな、なんの義理でお前に土産買ってこなきゃならねえんだよ鶴」
「あの温泉旅館には何やらオリジナルのおまんじゅうというものが有名らしいですよ、ちょっとした人気商品だそうです」
和尚と憎まれ口を叩いていると、にこやかな貴船が合いの手を入れる。貴船のアドバイスに和尚が「そりゃいいな、俺は饅頭がいい、まんじゅう」と同調し、八丈はため息を吐いた。
****
「八丈さん見て! お部屋にお風呂がついてる!」
「ああ? 一緒に入るか?」
「えっ」
「お部屋の内湯はずっとお湯を張っておりますから、いつでもお入りください」
部屋を案内してくれた仲居さんが、テラスの露天を覗いている水希と八丈に声をかけた。
旅館に泊まる経験もしょっちゅうあるわけではないけれど、ジャグジーと露天の二種類の内湯が付いている部屋に泊まる経験ももちろん初めてだ。二人が案内された部屋は、旅館の中でも少しばかりいいクラスの部屋のようだった。
八丈を連れて部屋を探検していた水希が和室の奥の扉を開けると、高さの低い和風のベッドが二つ置かれていた。モアモアモア……と色々な想像をして思わず顔を赤くすると、お茶を淹れてくれている仲居さんが「そちらは寝室です」と分かりきった案内をしてくれる。
真っ白なベッドに変にドキドキしてしまった水希は、おとなしく部屋の探検を切り上げて、八丈と共に座ることにした。無論、仲居さんは顔を赤くした水希にも飄々とした八丈にも動じることなく、淹れたお茶を勧めてくれる。
「内風呂もよろしいですが、当館には自慢の大浴場と家族風呂がありますよ」
「家族風呂」
「ええ。空いていたら自由にお入りいただけます」
唐突な家族風呂への言及に大人しくなった水希を見た八丈が、座卓の影から腰に手を回して顔を寄せる。水希は慌てて「ちょっと」などと言いながら顔を押しやった。
八丈は正式に籍を入れたわけではないが、水希と同じ姓を名乗っている。当然、二人は夫婦だと思われている様子で、仲居さんは無口な八丈と朗らかな水希をニコニコと微笑ましいものを見るかのような瞳を向けていた。
「お饅頭もどうぞ。当館オリジナルのお湯まんじゅうです」
なんでもこの旅館の二代目の女将さんが家族のために作っていたおまんじゅうだそうで、お客様に出したら大変好評だったことから、宿泊客のためのお茶菓子として作られるようになったのだそうだ。お湯まんじゅうというからには温泉で茹でたとか、温泉成分が少し入っているかとかそういういわれがあるのかと思ったが、どうやらそういうことはないようで、一口大の小さくて素朴なおまんじゅうだった。
一口食べると薄くてもっちりとした皮の歯触りと、上品なこしあんの甘さが口の中に広がる。お茶も大変に良い香りで、おまんじゅうと一緒にいただくと、口の中に広がった甘さがほのかな苦みと共に消える。畳の匂いと心地の良い秋晴れの日差しは、いかにも「旅館に来ました」みたいでいい気分だ。
一通りお風呂の案内と食事の時間を案内した仲居さんが部屋から出て行くと、八丈が早速水希の身体を抱き寄せた。
そのまま我慢できなかった風に唇を触れ合わせてくる。キスだけなら……と、水希も抗わず、八丈の唇に身を委ねる。その気配に舌が唇を割って入り、ゆっくりと歯列をなぞり始めた。
ちろりと舌が触れ合う。
水希を支える八丈の腕の力が強くなった。グッと引き寄せられて、さらに口腔内の奥を探られる。実は、ハロウィンの前後は八丈が忙しくて、あまり満足に触れ合っていなかった。寝台は一つだから夜は抱き合って眠っていたけれど、交わりは持っていない。
「ん……は、八丈さん?」
「ん?」
そのまま八丈の手が水希の服を弄り、座布団の上にそっと押し倒される。声を出そうとする前にしっかりと唇が塞がれ、こじ開けるように舌がなぞった。八丈の手はいつも強引で、そして優しくて、抗うことを許さない。
それでも口付けの合間になんとか言葉を紡いでみる。
「あの……?」
「どうした」
「えっと、手、手が」
「ああ」
八丈の手は水希の服の中に入り、肌を直接触れていた。そのまま這い上るように肌を撫で、下着の中身を引っ掻いた。唐突なその感触に、「あ」と水希の身体が跳ね上がる。気を許されたと思ったのか、その反応を伺った八丈が、水希を跨ぐように覆いかぶさった。
「ま、待って!!」
「なんで」
「だって、お風呂、入りたいし」
「一緒に入るか?」
「え、いま?」
「今入りたいのか」
柔らかい生地のスカートは簡単に肌の触れ合いを許したが、足と足の間を下着越しにスリスリと触れるだけでそれ以上の悪戯はしない。もちろんそれは、八丈が優しさゆえに止めているわけではなく、意地悪ゆえに焦らしている風な動きだ。
狙いは的確で、下着越しでも水希の感じる部分をクチュクチュと確実に押し潰し、こね回している。見上げると八丈の金の瞳は興奮するように水希を見つめていて、思わずぎゅっとすがりつく。
「お、お風呂……」
「結構強情だな」
八丈が片方の腕で水希を抱き起こしながら、もう片方の手は未だスカートの中だ。そんな風に触れられると水希だって八丈が欲しくなってくる。
「少し触らせろ、ずっと満足にやってねえだろ」
「あっ……っい」
「痛いか?」
「違う、……んっ」
「ああ、『いい』か」
意地悪そうな笑みを浮かべた八丈が、起こした水希の身体に器用に触れながら後ろから耳元を食む。そのまま下着の中に手を入れた。
八丈の太い指が、何かを探すように水希の足の間を進む。もちろん探していたもの……触れて欲しい場所はすぐに探り当てられて、指先を曲げてゆっくりとそこをなぞっていく。
濡れているのが分かった。
引っかかりもなく、滑らかに指が奥に入っていく。
「は、っん」
「濡れてるな。久しぶりだからか?」
「ん、だって……」
「ん?」
「こういうとこ、初めて、あっ、初めてくるから……」
「そうだな」
そう言って八丈の唇をねだると、吸い込まれるように重なり合う。背中を支える強い腕、擦り寄る太い首筋に水希が触れると、秘部の奥を引っ掻いている指が、突起を掠めてグッと奥に入った。
「ああ……っ!」
仰け反る水希の背中を支えて、指がくつくつと動き始める。細やかな水音が聞こえ始め、和室の中にはいつのまにか二人の荒い息だけが響いている。
「やだ、やっ、待って、八丈さっ、ん」
「どうした? 水希、いくか?」
「違っ、う、やだ、やあ」
八丈が、ふっと優しく瞳を細めて指の動きを止めた。そろりと指が抜かれ、下着から手が離れ、身体が離れようと……しなかった。
「は、八丈さん?」
「風呂に入るんだろ」
八丈は水希の服を遠慮なく脱がし始め、あっという間に裸に剥かれて押し倒された。裸に羞恥を覚える間も無く、水希の足に八丈の体重をかけたまま、八丈もまた勢いよく服を脱ぐ。
南向きの和室は、テラス側の窓から入る陽の光で隅々まで明るく暖かく照らされていて心地がいい。八丈の身体を見上げると、筋肉質の肌の所々に、黒い鱗が浮き上がっていた。
触れようと思って手を伸ばすと、ぐっと掴まれて身体を起こされた。
抱きしめられ、胸の膨らみが八丈の硬い筋肉に潰される。
「いつも、お前とこうしてるのに」
「え……?」
「何度でも、ただ、抱きたくなる」
言いながら横抱きにすると、立ち上がった。すごい力。重いでしょうと言うのだが、必ず「羽根のように軽い」と答える。そんな訳ないと思うが、八丈は部屋の中で水希を運ぶ用事があると、必ずこうするのだった。部屋の中で水希を運ぶ用事があるのかと言うと、これが案外あるらしく、例えばソファから寝室に移動するときとか、寝室からお風呂に移動するときなどがそれに当たる。
明るい和室を横切ってテラスに出ると、そこにはヒノキで出来た浴槽に無色透明なお湯が張られていた。部屋は旅館の五階に位置していて、一番高いその場所は、当然のことながら他のどこからも見えない位置にある。八丈は水希を横抱きにしたまま、露天の脇にあるシャワーで湯を出してそれを浴びてから、浴槽に身体を沈めた。
「あったかい……」
「ああ、いい湯だ」
水希の身体は横抱きにされたまま、八丈の太ももに乗せられて湯に浸かる。透明の湯は二人の身体の何もかもを曝け出していて恥ずかしいが、適温の湯船は身体の全てを解きほぐしていくようで心地がいい。思わず、ふ……と力を抜くと、八丈が満足そうで優しげな眼差しで水希を見下ろしていた。
金色にも見える琥珀色の瞳に、黒い瞳孔。蛇のそれは何度見ても不思議で、そして何度見ても見惚れてしまう。陽の光の下でギラリと水希を見据えるその瞳に手を伸ばすと、眩しげに細くなった。頬をするりと撫でると、首をひねって水希の指先を舐めて、咥える。
八丈の腕が、水希の身体に絡みつくように回された。
まるで蛇が巻き付くように、両手で水希の身体を抱え込む。八丈にそのように裸の肌を抱き寄せられると、人の皮膚とは明らかに異なる、つるりとしたような、あるいはザラリとしたような質感を感じることがある。興奮すると浮き出る、それは黒蛇が本性の八丈の鱗だ。肌の所々に刺青のように浮かぶ艶やかで細やかな黒い鱗は、湯に濡れてさらに黒く美しく光っていた。
頬を撫でる手を少し下ろして、首筋に浮かぶ鱗に触れる。
「お前は、それが好きだな」
確かに水希は八丈の時々浮き上がる黒い鱗に触れるのが好きだ。
「だって、すごく綺麗だから……」
お湯が温かくて心地がいいからか、素直にそのように口にすると、八丈が苦笑したようだった。
「あんまり誘うな」
「誘ってる?」
「ああ」
八丈の顔が下りてきて、何度目かの口付けを交わす。一度、二度。三度目に唇が重なった時、水希は思わず八丈の首に腕を回して引き寄せた。巻きついている腕の力も強くなって、人の身体に抱きしめられているはずなのに、蛇がぐるりと巻きついているようにも思えた。そんなふうに考えるのは、八丈が黒蛇だと知っているからだろうか。実際に黒蛇になったところを見たことがあるわけではないのに、水希は八丈が確かに水希を絡め取る蛇なのだと知っている。
伸ばしている手が湯の中で水希の肌を撫で、足の間の秘部を捉えた。指は入れずに敏感な花芽をぎゅっと押さえて円を描くように捏ね始める。
「ん……」
口腔内を舐め回す長い舌と、下腹部に響く指先に、頭の奥が痺れるように溶けていく。湯の温度もあるのかもしれない。もっと欲しくなって水希の方から舌を絡めると、堪えきれないように八丈が湯から上がって、水希の身体を湯船の縁に浅く座らせた。
「八丈さ、ん……っ!」
足がぐっと開かれて、そこに八丈の頭が潜り込んだ。羞恥を認識する前に八丈の手に力が入り、足を閉じられなくなってしまう。
太ももを開いている指がさらに力を持って、濡れている箇所をぐっと押し広げられる。やだという前にグチュリと音を立てて吸い付かれた。たとえ聞こえないとしても、外だからあまり大きな声をあげるのはためらわれる。水希は咄嗟に口元を手で押さえて悲鳴を堪えた。
おとなしい水希に気を良くしたのか、ゆっくりと八丈の舌がそこを嬲りはじめた。恐る恐る八丈の口元を覗き込んでみると、チロチロと舌先が真珠のように腫れた粒を揺らしていて、恥ずかしさに目を逸らそうとした瞬間、八丈の瞳が水希を捉えた。
瞳だけで笑んで、今度はかぶりつくように深く唇をあてがう。今まで表面をなぞっていただけの舌が、ぐっと奥に進んで、膣中を舌が這った。秘唇を捲る親指が花芯を強く擦り、舌は濡れた蜜を味わうように動かされる。それほど深い部分に触れられているわけではないのに、子宮の向こうが疼くようだ。
水希の身体をよく知っている八丈の舌も、指先も、あっという間に水希を高みに昇らせる。
「あ、あ……だめ、八丈さ、ん、いや」
「いやじゃねえだろ、いけよ」
「いやあ」
「ほら、来いよ、水希」
一際強く吸い付かれて、水希の身体の奥から何かが這い上るような感覚に襲われた。倒れ込みそうになった背中を湯から上がった八丈が掬い上げる。今度は八丈が風呂の縁に座って、水希を向かい合わせに膝に乗せた。
少し腰を持ち上げ、下ろされる。八丈のものは上に向かって凶悪な様相でそそり立ち、水希の溶かされ濡れた柔い襞に飲み込まれていく。内側をゴリゴリと擦られる感触に、八丈の熱の硬さを知った。いつも受け入れて慣れていいものなのに、挿入される感覚は初めて繋がった時のように重くてきつい。先端を飲み込み押し広げられる感触、段差のある部分が内壁を擦り、狭い粘膜をぐちぐちと進んでいく感覚。八丈にしか触れられない場所を八丈だけに触れられている、他に何も例えることのできないこの感覚は、うっかり追い掛けると強い快楽に襲われる。
「おい、我慢、するなよ……!」
挿入されただけで達してしまうなんて恥ずかしくて、強い絶頂感を我慢していると、不意に八丈が腰を動かし突き上げた。
「……っひ、あ! だ、ダメそんな、今、されると……!」
「分かってる、いいんだろ? いっちまえよ」
「やだ、やぁ、ま、た」
「水希っ……ああ、くそっ」
八丈を迎え入れたまま、まだ幾分も経っていないのに、達した身体がヒクヒクと収縮する。向かい合わせの八丈を抱き締めると、八丈の腕もまた、水希の身体を抱きしめた。八丈の息も荒く、堪え切れないように水希の喉元を舌で嬲る。
繋がりあった部分が激しく動かされ始めた。バシャバシャと水音が鳴り、湯面が波立つ。
掴んだ腰が前後に揺らされ、届かないはずの子宮の向こうを抉られ、くすぐられている感じがする。駆け上がりそうになると力が緩められ、少し休むとまた登らされ、しかし今度はそう簡単にいかせてはくれなくて、絶え間ない緩急にただ甘い声を上げるしかなかった。
「は、あ、みずき……ああ……いいな、とても」
八丈の太い声がひどく掠れている。喉に絡みつくような掠れ声が八丈の興奮を水希に伝える。その声が下腹部に響いて、また膣奥が収縮したのを感じた。
く、と八丈が唸り、腰を掴む腕が強くなった。いつも余裕のある八丈が、余裕のなくなる瞬間が水希はとても好きだ。もっとも、そんな声が聞こえる時にはもう水希にだって余裕はなくて、ただお互いが繋がり合う心地よさを享受するだけになってしまっているのだが。
それでも八丈の声を拾うと、それだけで身体は本能のように反応する。
一際大きく、そして奥を力強く突かれる。さらに大きく引き抜かれた時、身体の奥から愉悦が無理やり引き出されるような心地がした。
息が止まるような快楽に、思わず八丈の背中を抱きしめる。八丈の喉がそれと分かるほど、大きくゴクリと動き、達した膣内に白濁が吐き出された。久しぶりだからか、そして、蛇だからか、吐精は長く続く。
「あ……は、あ」
どくどくと白濁を吐き出すリアルな感触が下腹に響いている。その間、ずっと八丈は水希の身体を抱き寄せていた。人間とのセックスは避妊具を使うが、八丈は水希にそれを使わない。いつも「孕ませない」と言っているが、人間と黒蛇だから水希の窺い知れないものがあるのだろう。
八丈が少し動かすと、結合部から互いの液が溢れ出して粘ついているのが分かる。それでも八丈は水希の中から外に出ず、中をかき混ぜるように小刻みに動いていた。
「は、八丈さん……?」
「ああ、外に出たくねえな」
「んっ……」
「だが、水希の身体が冷えちまうか……」
仕方がないと、八丈は挿入したまま水希を抱えて立ち上がった。「うわ!」と驚いた声をあげて我に返るものの、当然おろしてはもらえず、それよりもまだ挿入っているのに水希を抱えている八丈の腕力と、シチュエーションに驚いて、怖くてしがみつくほか無い。
「あ、あ、八丈さ、八丈さん、ちょっと!」
「ああ?」
「な、お、おも、まだ、入って」
「出たくないんだよ……。安心しろ、落としゃしねえから」
「で、出たく無いって、落とさないって、あ、ぅん」
湯船から出る時、歩く時、ゴトゴトと身体が揺れるたびに挿入されている箇所が疼く。部屋の中に入って、エアコンによってちょうどよい具合に調整された温度に肌が触れ、初めて自分の肌が冷えていることに気がついた。
「ちょっと強くしがみついておけよ」
「えっ、あ!」
「んっ……ほら、あんまり動かすな」
「う、動いてな、い、」
よいしょと抱え直されて、再びゴツリと中が押し上げられた。八丈が片方の手でバスタオルを取り上げたようだ。それをバサリと無造作に水希の体にかけると、もう一度両手で抱え直され、その刺激で膣内が収縮する。
もう際限がなくて、それなのに身体は愉悦を追いかけてしまう。
どこに連れて行かれるのかと思えば、寝室の奥、置かれているベッドの一つに、繋がりあったままゆっくりと押し倒された。ベッドの上で、今度は正常位の格好でギシギシと動き始める。
膣内に満たされているものが、また大きく硬くなったようだった。
「は、八丈さん……また、」
「ああ、全然おさまらねえな」
「うそぉ……」
「水希も濡れてるだろ、奥が」
だって、受け入れているだけで身体の全てが気持ちいい。
そして潤んだような八丈の琥珀色の瞳で見つめられ、掠れた声で囁かれるだけで、心の奥底が気持ちいい。
グチュグチュと揺らされると、今度は正面から普通に抱き合い、体重をかけられていることに愛しみが増す。少し足を抱えられ、ゆっくりとした一定のリズムで身体を揺さぶり合った。時々八丈が揺らすのを止め、子宮を押し上げるように奥に進んで小刻みに動かす。見えないはずなのに、まるで見えているように入り口を撫で、少し手前に引いて水希の最も感じる部分にさらに押し付ける。
八丈さん、八丈さんと何度も名前を呼ぶと、首筋を甘噛みされ、耳元に囁かれる。
水希、好きだ。お前が。
そんな風に囁かれると、身体はもう高みに昇り、そして落ちるしかない。